昭和26年02月05日  参議院外務委員会

○委員長(櫻内辰郎君) これより外務委員会を開会いたします。
 本日は本委員会の調査案件でありまする講和に関連する諸問題並びに国際情勢等に関する調査の一環といたしまして、千島及び歯舞諸島返還懇請同盟の代表者諸君から、その御意見を聽取することといたして御異議ございませんか。
   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○委員長(櫻内辰郎君) それではさよういたします。参考人の諸君には十分御意見をお述べ願いたいと存じますが、お一人の御発言は時間の都合で二十分間ぐらいといたし、あとで一括して質疑を行いたいと思います。それでは千島及び歯舞諸島返還懇請同盟の副会長根室町長岸田利雄君、同じく常務理事北海道大学教授高倉新一郎君、同じく常務理事北方漁業開発期成同盟会実行委員長森七郎君の諸君に順次発言を許します。岸田利雄君。

○参考人(岸田利雄君) 御挨拶かたがた陳情の要点について一言申述べさして頂きます。私は北海道の千島及び歯舞諸島返還懇請同盟の副会長をいたしております根室町長の岸田利雄でございます。
 私はこの千島及び歯舞諸島の復帰、この件につきましては、やむにやまれない気持をもちまして、一身を賭して本運動を続けているものでございます。先年、根室地方だけの北海道附属島嶼復帰懇請委員会の会長といたしまして上京しました際、参議院においては、当時外務委員長の野田俊作先生初め久保田先生、團先生にお会いし、又衆議院においては当時の外務委員長であられた岡崎先生にお目にかかり、懇請の趣旨を申上げ、更に是非現地の実情について御視察を頂き、国会において最も重要にお取上げを願うように懇願して参りました。幸い御高配によつて、昨年の夏参議院を代表して團先生御一行、又衆議院を代表いたしまして北澤先生、伊藤先生の御視察を賜わりましたことは、現地住民といたしまして、非常に有難く感謝感激しているものであります。今回は講和会議近しの朗報に接し、参議院外務委員会において、委員長櫻内先生初め、各先生御列席の下に現地の実情を具申陳情の機会をお與え下さいましたことにつき、衷心からお礼を申述べる次第でございます。私どもは占領下にあります国民といたしまして、俎上に乗せられた鯉同様の立場にありますことは重々承知しています。併しながら世界恒久平和のため、且つは又日本民族最低の生活保障のため、正しいと思う点については卑屈になつてはならんと考えまして、どこまでも誠心誠意を以て世界の御理解と御同情の下に本問題の目的達成に努めたいと思うものでございます。
 さて陳情申上げる順序といたしまして、今般上京代表者の所属する千島及び歯舞諸島返還懇請同盟の性格から申上げます。本同盟は北海道における国を思う人々の純然たる民間運動として、昨年十一月七日札幌市において結成発足したのでございます。この目的は近く開催せられる講和会議の際、現在ソ連の占領下にあります北海道の附属島嶼である千島及び歯舞諸島が我が国に返還せられることを熱望し、世界の同情の下にこれが目的を達せんとするものであります。この問題については、道内において終戦後間もなく歯舞諸島及び南千島復帰懇請、或いは樺太千島返還懇請、又は北方漁業の開発要請等の熱烈なる運動が続けられていたのであります。一方道議会においても、或いは市長会においても、町村会においても、それぞれ本問題が取上げられまして、関係方面へ陳情となり、或いは署名運動となつて活発に行われたのであります。然るに今回同志相会しまして、各種各様の運動範囲を統一して、千島全島及び歯舞諸島の復帰を懇請する線に意見の一致を見まして、更に従来の民間運動を一層強化するためには、全道的組織の結成が叫ばれ、本同盟が成立されたのであります。これによって四百万道民の輿論を結集し、相携えて所期の目的達成に邁進せんとして、この運動を続けておるのでございます。
 次に、返還懇請の事由につきまして、いささか申述べさして頂きたいと思うのでございます。終戦後ここに五年、幸い連合国の同情ある御指導と国民の努力によつて、戦後の混乱期から次第に新らしい日本の再建に向つて曙光が見え初めたことは、我々国民の喜びに堪えないところであります。この上は一日も早く講和会議が締結され、独立国として列国と共に、人類の平和と世界の進展のためにカを尽す日の来ることを祈つてやまないのであります。最近講和会議の問題はいろいろ論議せられておりますが、我々の最も関心を持つことの一つは、講和條約締結の際に、新らしい日本の国境が公正妥当なる線において確定せられることが最も重要なることでありまして、特に北海道民といたしましては、現在ソ連邦の占領下にある千島全島及び歯舞諸島が我が国に返還せられることを熱望してやまないものであります。つきましては、返覆懇請の根拠について二、三申上げます。
 第一には、歴史的、国際的見地から考えて見たいのであります。即ち歯舞諸島は根室国花咲半島の東北に連なる島々で、延長線上僅か三浬を隔てたるところの水昌島以下歯舞村に属して、地理的にも行政的にも千島列島とは全然別個のもので、北海道本土の一部をなしているものであります。次に、南部千島に属するところの色丹島、国後島、択捉島は全く日本固有の島で、三百年の昔から日本人の手によつて開発経営され、行政上には普通町村制が施かれ、かつて異民族の居住した事実はないのであります。故に安政元年の日露和親條約に基くところの国境線も択捉水道に置かれ、択捉以南の島々は我が国の領土であることは何人も認めるところであります。更に択捉以北の島々は、明治八年樺太クリル交換條約において、多年邦人の苦心経営して来た樺太を割愛する代償として、全く平和裡に我が国に讓渡されたもので、爾来漁業開発を継続して来たのであります。
 第二の点について申上げます。ポツダム宣言には、「日本国の主権は本州、北海道、九州及四国並に吾等の決定する諸小島に局限せらるべし」と明言され、且つ「カイロ宣言の條項は履行せらるべく」と附加されておりまして、そのカイロ宣言には、同盟国は自国のため何ら利得を欲求するものにあらず、又領土拡張の念を有するものにあらず、同盟国の目的は日本国より一九一四年の第一次世界戦争の開始以後において、日本国が奪取し、又は占領した一切の島嶼を剥奪すること、日本国は又暴力及び貪欲により略取したる他の地域より駆逐せらるべしとあります。私たちはポツダム宣言は忠実に履行せねばなりません。敗戦日本の国民は、この事実を明確に認識しておらなければなりません。併しながらポツダム宣言にも違反せず、又日本国固有の附属諸小島である歴史的事実及びこれを裏書するところの安政條約並びに明治條約によりましても、これらの諸島は、私たちの祖先が平和のうちに子孫のために苦心経営して現在に至つていることが明らかでありまして、決して祖先が盗取又は略取したものではなく、いわんや戦争によつて他国より割讓を受けたものでもないことは余りにも明らかな事実であります。
 第三には、敗戦の現状からであります。戦後本州、北海道、九州、四国の四つの島に国土は局限せられ、かてて加えて外地に居住せる同胞が帰還することにより、世界一の稠密なる人口を擁して、困難な生活と闘い、乏しい資源を極度に利用して経済の自立を図らんとしている我が国民にとつて、千島及び歯舞諸島の富源は、人口、食糧問題の関係においても極めて重要な連関を有しているのであります。殊に動物性蛋白栄養は主として水産物に仰がねばならない我が国の実体に照して痛切に感ずるものであります。又根室地方に引揚げております千鳥及び歯舞諸島の引揚者たちは、朝夕指呼の間に自分たちの郷土であり、祖先の墳墓の地である島影を眺め、茫然として海辺に立つ様相を見るとき、誠に同情に堪えないものがあるのであります。以上、過去の歴史と現実の状態より墾請事情の一端を申述べましたが、本同盟としては、これを契機といたしまして、道民運動より、更に全国民の運動に展開し、而して全世界の理解と同情によつてこの悲願の達成を希うものでございます。
 以上簡單でありまするが、一応懇請の趣旨と御挨拶を申上げる次第でございます。
(以下省略)



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