衆議院 外務委員会 - 12号  昭和22年10月06日

本日の会議に付した事件
 択捉島、国後島及び色丹諸島を日本領土に復帰の請願(坂東幸太郎君紹介)(第十五号)を審査のため、小委員選定。

○安東委員長 ただいまより会議を開きます。
 択捉島、国後島及び色丹諸島を日本領土に復帰の請願、文書表第十五号の審議をいたします。紹介議員坂東幸太郎君の御説明を求めます。


○坂東幸太郎君 日本国北海道選出衆議院議員の名において、連合国軍総司令官マツカーサー元師閣下に対し請願したのでありますが、ここに私より衆議院に請願の紹介をいたします。
 現在ソ連軍の占領しております千島諸島のうち、択捉島、国後島及び根室国の一部であります色丹諸島、その色丹諸島の名前は色丹、多樂、志発、水晶、エリ、アキユリの各島でありますが、これらは日本固有の附属諸小島であるにかかわらず、現在ソ連軍の占領下にあつて、北海道本島と一切の交通を遮断されておるために、地方の民衆が多大の困難を感じておる事情を申し述べてあるのであります。
 その内容を申し上げますと、現在ソ連軍の占領下にあります北海道色丹諸島は、行政的にすでに徳川時代から北海道本島の根室の一部をなしておりました。地理学的についても千島列島には含まれません。しかしてこれに接続する千島列島のうち択捉島、国後島は一八五四年、すなわち安政元年、日本国ロシヤ国通商条約により明確に日本領土であります。さらにこれを裏書する事実といたしましては、一八七五年、すなわち明治八年、樺太、千島交換条約があります。この条約にも択捉島以南の諸小島は交換の対象とはなつておらず、クリル群島十八島すなわちウルツプ島以北でありますが、この十八島をもつて樺太と交換することを規定してをおります。すなわち択捉島、国後島はこれが交換の対象でないことが明瞭であり、日本固有の領土なることを嚴然事実に示してあります。從つてこの二島は、ロシヤから譲り受けたるものでもなく、いわんやカイロ宣言の、いわゆる暴力及び貧欲に依り日本が略取した領土でもありません。ただクリル群島を譲り受け、以後この二島を併せ日本国において千島列島と総稱するに至つたものであります。択捉島、国後島には二百年以前より日本民族が居住して漁業を經營しております。すなわち明治維新を去ること百數十年前よりわが民族が居住し、異民族が居住した事実がなく、その伝統は実に歴然としておりまして、殊に北海道住民との間には血族の関係からいつても、経済上の関係からいつても、深くかつ古い結びがあるのであります。しかるに今これらの諸島は北海道本島とは完全に切り離されていて、その結果北海道北部の漁民は、かに、さけ、ます、たら等の最も重要な漁場であり、こんぶの採取場であるこれら諸島附近の水域を失つたのみならず、出漁する度に霧の深いこの水面でソ連軍占領下の諸島の水域に迷い入つて抑留されたりして、多大の不便を感じております。
 さらに日本漁業の三分の一は北海道において生産し、北海道における漁業精算の三分の一は根室、千島方面にあるのでありますから、これを失えば日本人の蛋白質源は深刻に不足を生ずるのであります。これらのことを考察するときは、まことに深憂にたえざるものがあります。
 終戦以来右諸島はソ連軍の占領下にあり、北海道本島民とこれらの島民との一切の交通は、鉄のカーテンをもつて隔絶されており、この地域の同朋がいかなる程度の民主的な自由を與えられておるのか判明いたしませんが、北海道本島においては、すでに米占領軍の理解ある指導のもとに、民主政治の発展漸く顕著なるものがあり、かかる情勢下に北海道島民の自由な意思によりその代表として選ばれ、国会に席をおくわれわれとしましては、わが親愛なる郷土、郷民の一部が、かかる鉄のカーテンの後ろに切り離されておる事態につき、かねがね憂悶を禁じ得なかつた次第であります。
 でありますから人類の福祉、繁榮と自由、平等を信条とせらるるところの各位にいきましては、十分にこれを審査せられ、この目的を達成するように特にお願いするのが、この請願の趣旨であります。何とぞ御採沢をお願い申し上げます。

(省略)

○和田委員
 ただいまの請願の扱いでありますが、北海道の島民があの島の日本への帰環を希望しておることは十分了解いたしますが、この領土の問題は非常にデリケートな関係にあるし、またわれわれとしては実はそうにいつた希望を述べるのもどうかという多少の遠慮もあるし、殊にこの請願の題目の、日本領土に復帰というような文字なども、はなはだ、適当じやないと考えます。私をして率直に言わしむるならば、実に領土はどこであつてもいいのです。われわれがその領土内にあるいろいろな資源なり、あるいは今御挙示になつた水産資源を利用できる態勢にあるならば、われわれとしてはあえて片々たる領土の帰環のごときは実は問題ではないのであります。しかもいろいろお話を伺いますと、色丹諸島と沢捉、国後は多少趣を異にしておる觀もありますから、これらの重要性に鑑みていま少しく檢討されるために、本委員会が特別の小委員会を設置されのことを私としては希望する次第であります。これを動議として提出いたします。

(省略)

○仲内委員
 動議を決する前に政府委員の方に伺いたい。こういつた領土問題に関する請願ですから、希望のある民意を反映するということは結構なことだと思うのでありますが、性質が今和田委員のおつしやるように、相当デリケートな問題ですから。もしこの請願を採沢した場合に政府当局としてはどういう扱いができるか。請願者から直接マツカーサー元師にも出ておるようなお話ですから、この委員会がとりあげた場合に、これをどういう形式で取扱うのか、もし御説明を願えるならば伺いたい。

(省略)

○萩原説明員
 領土の問題は御承知のように、ポツダム宣言によりまして、日本の主權は本州、四国、北海道及び連合国の決定する諸小島に限られることになつております。その限りにおきましては、日本といたしましてそういうことをすでに受諾いたしておるわけでありますが、從いまして、ただいま問題になつておりますような諸小島を連合国が決定するに際しまして、どういう方針で決定するのかわれわれにはわからないのであります。私どもとしては、この前芦田外務大臣の話も一部誤つて伝えられた点もありますが、正確には芦田外務大臣がそういう諸島を連合国において決定する際に、それぞれ島の歴史的、民族的、経済的事情を十分調査をした上において決定してもらうことを希望するという趣旨を申述べられたものと思つております。從いまして連合国側で決定する際に、この島はこういう事情にあつて、北海道の方方がこういう関係にあるのだから、自分たちとしてはこうしてほしいのだということを、すでに連合国司令部に請願されておるようでありまして、そういうことはもちろん適当に、自由に、自分たちとしてはこう考えるということを言われるアとは少しも差支えないと思いますし、その種の請願を連合国最高司令官においても、すでに二、三件受取つているようであります。政府といたしましては国会からこういう請願があれば、国会でこういう請願があつたそうであるということを、連合国司令部に伝えることはもちろんできると思いますが、それ以上国会でこういう決議があつたから、ぜひこうしてもらわなければならないということを、交渉する地位には現在ないと思います。

(省略)



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