大陸命第千三百七十四号〜第千三百八十号 

大陸命とは天皇の陸軍に対する統帥命令。大本営で立案され、参謀総長から天皇に上奏され、天皇の裁可を受けた後、各指揮官に伝達される。

昭和20年8月9日、ソ連は日本に宣戦布告し参戦した。ここに示す大陸命は、ソ連参戦以降、8月14日に大詔渙発までのもの。



(旧字を新字に変え、カタカナをひらがなに変えた)


大陸命第千三百七十四号
  命 令

一 「ソ」連は対日宣戦を布告し九日零時以降日「ソ」及満「ソ」国境方面諸所に於て戦闘行動を開始せるも未た其規模大ならす
二 大本営は国境方面所在の兵力を以て敵の進攻を破砕しつつ速に全面的対「ソ」作戦の発動を準備せんとす
三 第十七方面軍は関東軍の戦闘序列に入るへし隷属転移の時機は八月十日六時とす
四 関東軍総司令官は差当り国境方面所在の兵力を以て敵の進攻を破砕しつつ速に全面的対「ソ」作戦の発動を準備すへし
右作戦の為準拠すへき要綱左の如し
  左記
関東軍は主作戦を対「ソ」作戦に指向し皇土朝鮮を保衛する如く作戦す
此の間南鮮方面に於ては最少限の兵力を以て米軍の来攻に備ふ
五 支那派遣軍総司令官は速に一部の兵力及軍需品を南満方面に転用し得る如く準備すると共に「ソ」軍の来攻に方りては所在の兵力を以て之を撃砕すへし
六 関東軍と支那派遣軍間の作戦地境左の如し
  左記
山海関―大城子―「タリ」湖東端―「ユクジル」廟(線上は支那派遣軍に含む)
七 関東軍総司令官は新に支那派遣軍の作戦地域に編入せられたる地域に在る部隊を支那派遣軍総司令官の指揮下に入らしむへし
八 細項に関しては参謀総長をして指示せしむ

     昭和二十年八月九日
奉勅伝宣 参謀総長梅津美治郎

 関東軍総司令官 山田乙三殿
 支那派遣軍総司令官 岡村寧次殿
 第十七方面軍司令官 上月良夫殿

       注)関連:大陸指第2536号


大陸命第千三百七十五号
  命 令
一 「ソ」連は対日宣戦を布告し九日零時以降日「ソ」及満「ソ」国境方面諸所に於て戦闘行動を開始せるも未た其規模大ならす
二 大本営は国境方面所在の兵力を以て敵の進攻を破砕しつつ速に全面的対「ソ」作戦の発動を準備せんとす
三 第五方面軍司令官は現任務を遂行すると共に差当り国境方面所在兵力を以て敵の進攻を破砕しつつ速に全面的対「ソ」作戦の発動を準備すへし
細項に関しては参謀総長をして指示せしむ

     昭和二十年八月九日
奉勅伝宣 参謀総長梅津美治郎

 第五方面軍司令官 樋口季一郎殿


大陸命第千三百七十六号
  命 令
一 「ソ」連邦の参戦に件ふ大本営の本土方面に於ける企図故の如し
二 第一総軍司令官、第二総軍司令官及航空総軍司令官は現任務を続行すへし
三 細項に関しては参謀総長をして指示せしむ

     昭和二十年八月九日
奉勅伝宣 参謀総長梅津美治郎

 第一総軍司令官 杉山元殿
 第二総軍司令官 畑俊六殿
 航空総軍司令官 河辺正三殿

       注)関連:大陸指第2535号



大陸命第千三百七十七号
  命 令

一 別紙の部隊を第八飛行師団編合より除き航空総軍戦闘序列(直轄)に編入す
二 隷属転移の時機は夫々台湾最終飛行場出発の時とす
三 細項に関しては参謀総長をして指示せしむ

     昭和二十年八月十日
奉勅伝宣参謀総長 梅津美治郎

 航空総軍司令官 河辺正三殿
 第十方面軍司令官 安藤利吉殿

(別紙 省略)


大陸命第千三百七十八号
  命 令

一 大本営の企図は対米主作戦の完遂を期すると共に「ソ」連邦の非望破砕の為新二全面的作戦を開始して「ソ」軍を撃破し以て国体を護持し皇土を保衛するに在り
二 関東軍総司令官は主作戦を対「ソ」作戦に指向し来攻する敵を随所に撃破して朝鮮を保衛すへし
三 細項に関しては参謀総長をして指示せしむ

     昭和二十年八月十日
奉勅伝宣参謀総長、梅津美治郎

 関東軍総司令官 山田乙三殿

       注)関連:大陸指第二五三九号




大陸命第千三百七十九号
  命 令

一 大本営の企図は対米主作戦の完遂を期すると共に「ソ」連邦の非望破砕の為新に全面的作戦を開始して「ソ」軍を撃破し以て国体を護持し皇土を保衛するに在り
二 第五方面軍司令官は現任務を続行すると共に大陸命第千三百二十六号別紙「対米作戦中「ソ」国の参戦せる場合に於ける北東方面対「ソ」作戦計画要領」に準拠し対「ソ」作戦を遂行すへし
三 細項に関しては参謀総長をして指示せしむ

   昭和二十年八月十日
奉勅伝宣参謀総長 梅津美治郎

 第五方面軍司令官 樋口季一郎殿


大陸命第千三百八十号
  命 令
一 大本営の企図は対米主作戦の完遂を期すると共に「ソ」連邦の非望破砕の為新に全面的作戦を開始して「ソ」軍を撃破し以て国体を護持し皇土を保衛するに在り
二 支那派遣軍総司令官は来攻する敵を随所に撃破して対「ソ」米支持久を図り帝国本土に於ける全軍の作戦に寄与すへし
任務達成の為の準拠すへき要綱左の如し
 1 積極的に関東軍の南満、北鮮に於ける作戦を容易ならしむるを主眼とし作戦を律す
 2 一部兵力、軍需品を成るへく速に満鮮方面に転用す
 3 前各号の作戦に関しては所要に応し関東軍総司令官、南方軍総司令官、航空総軍司令官、第十方面軍司令官及支那方面艦隊司令長官と協同し且相互協議し一部の部隊を他軍作戦地域に派遣し且相互に指揮関係を律することを得
三 細項に関しては参謀総長をして指示せしむ

     昭和二十年八月十四日
奉勅伝宣 参謀総長梅津美治郎

 支那派遣軍総司令官 岡村寧次殿
 関東軍総司令官 山田乙三殿
 南方軍総司令官伯爵 寺内寿一殿
 航空総軍司令官 河辺正三殿
 第十方面軍司令官 安藤利吉殿

       注)関連:大陸指第二五四二号


出典:「大本営陸軍部」 大陸命・大陸指 総集成 第10巻 昭和20年
    森松俊夫/監修 エムティ出版 (1994)


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