大西洋宣言では領土不拡大の原則が宣言されているが、ソ連政府宣言では、この部分を留保しているとも取れる表現がなされている。この部分を太字で示した。

 1992年9月に作成された、日露間領土問題の歴史に関する共同作成資料集(日本国外務省、ロシア連邦外務省)の日本語版には、ロンドン同盟国会議における大西洋憲章への参加に関するソ連邦政府宣言の抜粋が掲載されているが、留保と見られる部分は、割愛されている。
 


ロンドン同盟国会議における大西洋憲章への参加に関するソ連邦政府宣言
(一九四一年九月二十四日)


 この会議は、ヨーロッパの多くの国を隷属させ、荒廃せしめたヒットラー・ドイツが並はずれた力と例を見ない残忍さでソ連邦に対し侵略戦争を行っている時に、ロンドンに於いて開催された。ヒットラー・ドイツの武装した輩が背信的にソ連邦に襲いかかり、ソ連邦の国境を侵犯した日から三ヵ月が過ぎた。この三ヵ月、ソ連国民とその勇敢な赤軍、海軍及び空軍部隊は、自由を愛する国民の社会的及び政治的成果を脅かし文化と文明の基盤そのものを脅かしている血に飢えた侵略者との闘いの重荷の殆んどすべてをその双肩に受けつつ、卑劣な敵と英雄的な戦いを行っている。
 ヒットラーのファシズムが民主主義諸国に対して強要したこの戦争で、ヨーロッパと全人類の今後何十年にわたる運命が決定される。ナチズムの圧制が平和な、自由を愛する国民の運命を脅かすことを許してはならない。
また、自らを最も優れた人種であるとうぬぼれ、公言している完全武装したヒットラーの侵略者集団が、勝手放題に町や村を破壊し、土地を荒廃せしめ、全世界をヒットラーの徒党の支配下に置くというたわけた理念の実現の為に、何千、何十万という平和な人々を死滅させるの
を許してはならない。
 ヒットラー・ドイツとその同盟国に対する戦争を余儀なくされた全ての国民と全ての国家の課題は、侵略者を早急にかつ決定的に粉砕し、この課題の完全な解決のため、全ての自分の力と資材を動員、供出し、この目的の遂行の為の最も効果的な手段と方法を決定することにあ
る。この課題が現在この会議に代表者を派遣した国家と政府を団結させている。
 また、我々諸国家の前には、人類の文化とは相容れない罪深い、血塗られたナチズムから我々諸国民と将来の世代を解放するために、国際関係の運営と戦後の平和体制の為の方途と手段を決定するという極めて重大な課題がある。
 ソ連邦は、この課題が成功裡に解決され、又、ヒットラー主義に対する完全かつ決定的な勝利の結果、正当、かつ自由を愛する諸国民の希望と理念に答えうる国際協力と友好関係の基盤が確立されるであろうことを深く信ずるものである。これらの努力目標が、ソ連邦の全ての
国民を勇気づけている。ソ連邦政府は、そのあらゆる活動と対外政策において、これらの努力目標を指針としている。
 ソ連邦は、その対外政策において、諸国民の主権尊重という崇高な原則を遂行してきたし、又、遂行している。ソ連邦は、その対外政策において、民族自決の原則を指針としてきたし、又、指針としている。ソ連邦の国家体制の基盤となっている、その国家政策の全体を通して、ソ連邦は、国家の主権と平等の承認を基礎とするとの原則に立脚している。
 ソ連邦は、この原則にたって国家の独立と自国の独立と自国領土の不可侵に対する各国民の権利と自国の経済的及び文化的繁栄を保障するために適当であり、且、必要と認める社会体制を確立し、そのような政治体制を選ぶ権利を擁護している。
 ソ連邦は、全ての自国の政策及び他国民とのあらゆる関係においてこれらの諸原則を指針としつつ、首尾一貫性と決意を持って、諸国民の主権のあらゆる侵害、侵略と侵略者、諸国民に自分の意志をおしつけて彼らを戦争にまき込もうとする侵略国のありとあらゆる試みに、常に反対してきた。ソ連邦は、これらの諸原則の勝利と平和と諸国民の安全に対する闘争の有効な手段の一つとして、侵略者に対する集団行動の必要性を弛みなく、断固として、主張してきたし、現在も主張している。
 ソ連邦は、自由を愛する諸国民を侵略者の側からのあらゆる危険から守るという課題の抜本的な、解決に努力するとともに、同時に、全面完全軍縮のための闘争を行ってきた。侵略者のいかなる攻撃にも十分に対応できる準備ができているソ連邦は、同時に侵略の犠牲となり祖国の独立のために闘っている諸国民に即時全面的支援を与える用意を整えて、自国の国境の保全と不可侵を尊重する全ての国家との平和的かつ善隣的な関係をもつために努力することを基盤としてその対外政策を、常に組立ててきたし、現在もそうしている。
 上記の諸原則に立脚し、かつ多くの行動と文書に反映されているソ連邦が常にたゆみなく実施している政策に基づいて、ソ連邦政府はルースベルト米国大統領とチャーチル英国首相の宣言の基本的原則、現在の国際情勢において極めて大ぎな意義を有している主要な諸原則に同意することを表明する。
 ソ連邦政府は、上記の諸原則を実際に適用するに当っては、夫々の国家の事情、必要性及び歴史的特殊性が必ず考量されるべきであることを念頭におきつつ、これらの諸原則の首尾一貫した実現は、ソ連邦政府及びソ連邦国民による最も熱烈な支持を得ることを右諸国家に保証する旨を声明することが必要であると考える。
 同時に、ソ連邦政府は、ヒットラーの侵略を粉砕しナチズムの圧制を絶滅する必要性を認めたすべての国民が現在、直面している基本的課題は、ヒットラー軍の重圧の下で坤吟している諸国民を完全にかつ可能な限り早急に解放するため、自由を愛する諸国民の全ての経済的、軍事的力を集結することにあることを特に強調することが必要であると考える。
 戦後全ての物資と食糧を正しく利用することを重視するソ連邦政府は、ヨーロッパの諸国民を血まみれのヒットラー体制の重圧から早急にかつ最終的に解放するとの観点から、全ての経済的資源と軍備を正しく配分することが今日の最重要かつ絶対的な課題であると考える。

  (1942年9月26日 イズベスチャ) (出展、ソ連条約集より訳出)



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