■ セイラムの風〜From Etsuko #014--アメリカ大統領選挙
セイラムの風 目次
我が家の前のCottage Streetの晩秋の風景
我が家の前のCottage Streetの晩秋の風景。駐車中の車と比べると、通りの広さ、街路樹の大きさが分ると思います。
美しかった紅葉、黄葉も盛りを過ぎ、落ち葉が多くなりました。こんな長閑な風景がいつまでも楽しめる、政治・経済であって欲しいと願っています。
アメリカの北西に位置し、日本では北海道の稚内あたりに相当するセイラムでは、秋が一段と深まり、街路樹も家々の庭の木々も鮮やかな赤、黄に彩られてきました。

「10月はアメリカの特別な月です。10月には不思議なことが起こります。まず、沢山のかぼちゃが突然スーパーマーケットに現れ、その後すぐ、骸骨や白い幽霊、黒い魔女などで家々が飾られます」

これは丁度一年前に書いた、「セイラムの風」ハロウィーンの書き出しです。10月はサプライズ・オクトーバーとも呼ばれているようです。メジャーリーグ・ベース・ボールのプレイオフ、決勝戦、人気をベース・ボールと二分するアメリカン・フットボール(もちろん、アメリカではただフットボールと呼ばれます)の熾烈な戦い、そして月末にはハロウィーンでの仮装でのビックリなど、色々なサプライズがある月なのでそう呼ばれるのでしょう。

それらに、今年は大統領選挙が加わり、一段とサプライズの度合いが大きいのです。殆どの人は、今回の選挙は”Unusual”(今までとは大違い)と言っています。そのチャンスに居合わせられるのは、願ってもないことですので、しっかりと見ておきたいと思っています。オレゴンは人口も少なく、さらにセイラムは州都とは言えいわゆる大都市ではありませんので、選挙戦を直接肌に感じる機会は少ないのですが、その中で記憶に残っていることを書いてみます。

民主党候補第一次公式投票の用紙
Preliminary Nominate Ballot(民主党候補第一次公式投票)の用紙。鉛筆でマークを付けて郵便で返信します。
私達が最初に大統領選挙を身近に感じたのは、友人(アメリカ人)が、自分に送られてきた”Official Preliminary Nominating Ballot for The Democratic Party”(民主党候補者第一次公式投票。写真参照)を見せてくれた5月のことです。これは、大統領の他、上/下院議員、セイラム市長、など多岐にわたる民主党の候補者を選抜するための投票用紙で、その党に登録した人に送られてきます。大統領候補の欄には、Lyndon H. Larouch JR、John F. Kerry、Dennis J. Kucinichの三人の名前が書かれていて、自分の選ぶ候補の、矢印を鉛筆で結ぶマーク・シート方式になっています。この投票と党の全国大会での党代表候補の指名がどんな関係になっているか、よく分かりませんが、党代表の段階から国民の直接的関与が伺われます。この用紙は5月18日までに郵送されます。

私の記憶にまだ鮮やかに残っているのは、9月25日のことです。この日はブッシュ夫人のローラさんが我が校(Chemeketa Community College)にみえました。講演と視察とか。体育館であった講演はチケットが必要なので入れませんでしたが、入り口のところにいると、中の講演している声や、聴衆の歓声が聞こえ、少しその雰囲気を味わうことが出来ました。講演後、人のいなくなった中に入ってみると、むんむんとしていて、その熱気が実感できました。その後、何処か校内で出会えるかと期待したのですが、残念ながら夫人を見ることが出来ませんでした。窓の外からは中を見えなくした2台の車が、前後をパトカーに囲まれスーと通って行ったのが、そうだったのでしょうか。思ったほど警備は厳しくなく、でも青い背広にサングラスのシークレットサービスや、胸に星型のバッジを付けた私服のシェリフ、また、体育館の屋上には双眼鏡を持った警備員がおり、大物の訪問の大変さを思いました。これがブッシュ大統領やケリー候補本人ならもっと厳しいものがあるのでしょう。

ブッシュ支持のポスター
各支持者の家の庭には、このような応援のポスターを出している所もある。
ブッシュ支持のポスター。
ケリー支持のポスター
ケリー支持のポスター。
さて、共和党 ブッシュ、民主党 ケリーとそれぞれ党代表が決まって、11月2日の投票に向けた、長くて体力と金力にかかる選挙戦に入っているのですが、選挙の仕組み、なぜそうなっているのか、などアメリカ人の友人に聞いても、期待するような答えは返ってきません。200年以上も前の建国当時の方式をほとんどそのまま継続しているのですが、実態にそぐわなくなって、形式だけ形骸として残っていること。州ごとに仕組みが若干違うこと。などが、分かり難くしているのかも知れません。

知性的、政治的に必ずしも成熟していない一般の人の直接選挙で大統領を決めるのは、危険との当時の発想から、選挙人を一般の人が選び、選挙人が大統領を選ぶ間接選挙が、オリジナルの思想のように見えます。選挙人の人数、選び方も州で違っていて、大多数の州では、いわゆる”Winner takes All”すなわち、一票でも投票数が多かった候補が、その州の全ての選挙人、例えば、カリフォルニアの場合だと、55人(55票と言っていいと思います)を全部取ってしまいます。オレゴンは7人、テキサスは34人です。一部の州では、投票数(率)によって、例えば 5人と4人を分配しています。これらの選挙方式を変えなければならないとの動きもあります。前回のブッシュとゴアの戦いでも、フロリダの投票数を巡って、大もめにもめ、結局フロリダの投票人25人全部がBushに行ったので、全米での総得票数が50万票も少なかったのに、今のブッシュ政権があるのは記憶に新しいところです。

”No on Measure 36” のポスター
大統領候補ケリー、マリオン郡長官候補アンナ・ブラウン、”No on Measure 36”のポスターが近所の家の庭に一緒にあった。
日本では、街角に候補者の顔写真を並べた掲示板、各候補者のポスターが、あちこちに貼られ、選挙カーがやかましく走り回るのが、選挙風景ですが、この辺りの様子も結構違います。投票者には選挙に関するいろいろな情報 --大統領候補だけでなく上院・下院議員、市長候補者名、メジャー”measure”と呼ばれる争点(番号がついている)、投票の仕方などなど --数十ページにもなるパンフレットが送られて来ます。

街角、フリー・ウエイなどには2種類のポスターが立てられています。一つは、ケリーとかブッシュなどと書かれたものですが、文字だけですので(写真参照)、騒がしい感じは少ないです。他の一つが、日本とは全く違う種類のもので、数字の書いてあるもの(写真参照)、”YES on 36”(男性と女性間の結婚のみを有効とし法的に認める:これがmeasure 36の内容。これに賛成の意。)など争点になっている案件に対する賛否の表明とそれを支持する候補者への投票の呼びかけです。何を言っているのか殆ど分らない日本の候補者演説・パンフレットに比べると単純明快な面が、いいと思います。

農業・林業の州オレゴンらしいのは、34で、木材のバランスを大切にする案件で、これも沢山立てられています。投票者へのガイドにも争点が 候補者ごとに”YES”、”NO”で対比して書かれていますので良く分ります。「よろしくお願いします」だけで、政策、意志の表明の殆どない、騒がしいだけの日本の宣伝カーのようなのは、全くありません。

ここまでが、選挙の前日の11月1日までに書いた部分です。明日は投票日です。郵送された投票用紙が何万も行方不明になっているなど、いろいろと、すでに問題が出ていますので、結果が公式に認知されるには、数日かかる可能性を心配している人もかなりいます。東海岸、西海岸で3時間の時差がありますので、それが混乱を加速している部分も出てくるでしょう。さて、どうなるのでしょうか!!

オレゴンの地元紙”The Oregonian”の一面
アメリカ大統領選挙の翌々日 11月4日の、オレゴンの地元紙”The Oregonian”の一面。「ブッシュ 結束を呼びかける」との見出しで、読者は既に勝利を知っていることを前提にした、新聞ならでは見出しだと思います。
前日までに比べると静かだった選挙当日から一夜明けた、今日11月3日のセイラムは、濃い霧に街がすっぽりと包まれた中に、日本のものより二周りは大きい楓の真っ赤な葉が見事に浮かび出ていました。テレビをつけると、アメリカ地図の中ほどの大きなスペースをブッシュの勝利を示す赤色が占め、東海岸北部と西海岸がケリーの勝利を示す青と未確定の薄い色で塗られていました。未だ勝利は確定していないと言いながら、全体的にはブッシュの勝利の気配が濃厚な雰囲気です。朝、見かけた、登校途中のロー・スクール(法律大学院)の学生同士が、”Hi, Chris, we lost!!”(クリス、負けたね・・) と一人が呼びかけると、”Yeah, we lost.”(ああ、残念だが、そうだね)と他の一人。この人たちは、ケリーの当選を願っていたのでしょうが、朝の段階でケリーの敗北を認めていたのですね。私の周囲では、今回の投票結果に失望している人が多いと感じます。

ベトナム戦争の正否をめぐって争った1968年の大統領選以来、身近な課題たとえば、税金、同性結婚、堕胎などに加えて、初めて外交、安保政策など重要な課題が正面から論じられた今回の選挙は、ブッシュの再選でブッシュ政権の対イラク政策がなんとか信認されたことになると言えるのでしょう。しかし、イラク戦争を批判したケリーが接戦したことから、再選後も引き続きブッシュ政権の最大の懸案になるのは間違いないでしょう。ブッシュ政権が謙虚に、「国論が二分された」こと、さらには、アメリカの行動は、自国のみならず全世界に大きな影響を与えている責任をあらためて認識し、政策実行に反映してくれることを願っています。知性あるアメリカ人の多くもそう願っていると感じます。

今回の選挙で、私がうれしかったのは、やや混乱が予想された、投票、開票が予想とは違って、スムースにすすみ、全世界からの、崩れかかっているアメリカの信頼感をなんとか保て、世界情勢の安定にマイナスの働きをしなかったことです。選挙が終わってから、と言うことで停滞していた政治的、経済的ないろいろの活動が、世界の多くの人が望んでいる方向へと再始動してくれるのを願わずにはおられません。

2004/11/08-from etsuko
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