1.税務調査の現場
最近、法人税の税務調査において、役員の私的な支出が役員賞与として指摘されるケースをよく目にします。接待交際費等の経費の支出や車両等の固定資産購入のための支出の中に役員の私的なものが混ざっている場合、役員賞与として課税の対象になってきます。
なぜ、税務署が役員賞与の課税に力を入れるのかといいますと、法人税と源泉所得税とで二重に課税ができるからです。法人税では、役員賞与が原則損金にならないため、法人税を課税できる一方で、その賞与を受けたとされる役員にも源泉所得税が課税されるのです。
特に中小企業の場合は、支出の決定に経営者が強い影響力を持っていることが多いので、支出の事業関連性を説明できるようにしておくことが大切になってきます。
また、源泉所得税は黒字でも赤字でも関係なく課税されるので、赤字だからと安心はできません。
2.なぜ役員賞与は損金にならないのか
上記のような私的な経費の支出等だけでなく、役員に文字通りの賞与を支給した場合も原則損金になりません。
では、なぜ役員賞与は損金にならないのでしょうか。建前は、損金にできる役員給与を職務執行対価に相当する金額に制限し、役員賞与による恣意的な利益操作を排除することで、適正な課税を実現することらしいのです。計画以上の業績を上げた役員に報償を与えることは、極めて経済的合理性のあることだし、受け取る側で課税されれば、それで十分適正な課税が実現されると思うのですが、課税当局は、そのような報償は職務執行対価に相応しくなく、そのような行為は利益操作でけしからないからペナルティを課すべきと考えているようです。
納税者からすれば、法人税を納める代わりに所得税を納めているように思えても、課税当局のお気に召さない行為には、担税力に関係なく、二重に法人税も所得税も課税される恐ろしい現実があります。
3.役員賞与の例外
例外的に損金にできる役員賞与があります。使用人兼務役員の使用人部分の賞与、事前確定届出給与に該当するする賞与、利益連動給与です。ただし、利益連動給与は同族会社には認められていませんので、ここでは触れないことにします。
使用人兼務役員の賞与は、認められれば、節税にも受給者のモチベーション向上にもなりますので、上手に活用したいものです。ただし、使用人兼務役員になれるかどうかの判定や、損金にできる金額の範囲は、非常に難しい判断が必要なので要注意です。
事前確定届出給与の規定においては、毎月の役員給与の他に賞与月に支給する給与も事前の届出を前提に認められています。しかし、この規定は、挑んではいけない引っかけ問題と思ってください。そもそも賞与とは業績に対する報償であり、将来の正確な業績など分かるはずもないのに、事前届出が前提となっています。つまり毎月の決まった給与の支払い方の違いだけで、賞与が認められているような錯覚に陥ってしまうのです。業績が悪化して予定の賞与の一部しか支払えなくなった場合には、支給額の全額が損金にならなくなるという落とし穴が待ち受けています。また、この規定の適用を受けるためには、対象者以外の役員の各人毎の給与の状況を記載した明細書の提出までも義務づけられています。負担多くして利益なしの規定です。
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