そして文化祭

別にO陰の文化祭はチケットなんぞなくても入れたのだ。

その女子校は進学率では有名どころで、

サンデー毎日に毎年名前を載せるほど東大合格者も多かった。

それに反比例するように、かわいいコ指数は巷では低かった。

でもご丁寧に3枚入ってたということは、3人で来い、ということだったのだろう。

しかし顔がよく思いだせん。

でも声がかわいかったから、ちょっと期待しよう。

さて、問題は誰を連れていくか、だ。

候補に上がったのは、FTだった。

しかし。

「え〜、その日、K泉の文化祭の日じゃん。おれ、そっちいきたいなー」

「O陰なんてブスばっかりじゃん」

実に的を射た、標準的私立男子校生の率直な意見だ。

しかたない。

「じゃあ、これやるからさー」

取引だ。

「お、すげー。女学館のチケットじゃん」

そう。プラチナチケットとも呼ばれた、T京女学館の文化祭チケットである。

ホスト活動の結果だった。切り札のようなものだ。

大貧民でいう、ジョーカー。“2”のスリーカード。

ポーカーでいうファイブカード。

ラーメンでいうチャーシュー。

なんにせよ、これで話は決まった。

「でも、向こうが連れてくる友達の女のコがダメだったら、槍で刺し殺すからな」

Fはにこやかにそういった。

 

O陰文化祭当日。

約束の時間(11時)に校門に行くと、一人の女のコが立っていた。

なるほど。

おれの記憶力もぜんぜん当てにならないな。

電話の声くらいで、過剰な期待はするもんじゃーない、ということか。

酸欠状態がいけないのだ。

と、まあ、過去の自分を恨んでもしかたない。

でも、人によって価値観は違うものだ。Tはおれにこう耳打ちしたのである。

「めちゃくちゃかわいいじゃん」本気か?T。

確かに、「ぶさいく」ではないけれど。

さしあげようか?

もし本人同士に異存がなければ。

その後、お昼を食べることになった。

向こうも2人友達を連れてくるという。

果たして、連れてこられた友達は、水戸泉1人を含む、3人だった。

しかし、人数が多ければ質をカバーできるというものではない。

ましてや、目方が多ければいいというものでもないのだ。

当時、男子校にいってたおれらは、「女のコは顔じゃないよ、性格だよ」といえるまでには

大人になってなかったし、一番初めに顔の評価から始まるという、

実におこちゃまな少年でもあった。

つまり、平たくいうと、おれは磔にされたあと、ロンギヌスの槍で突き刺されることになったのだ。

 

彼ら二人はさらに厳しい時間を強いられることになる。

どうやらそのYさん、「味方」を連れてきたらしく、座る位置、話の展開からして、

おれとYさんを孤立させるように仕向けられていたらしい。

つまり、彼ら二人は、おれのために、水戸泉等3人をいやいやながらも

相手しなくちゃいけないハメになったといえる。

ただ、けっこうかわいい女のコも時々様子を見にきたりしてたから、

カワイクナイ女のコばかりというわけでもなかったのだ。

Yさんが、おれの移り気対策にあえてそういうのを選んできたと考えるのは、考え過ぎだろうか。

 

しかし、そういう向こうの思惑もあってか、話が弾まない。

なぜか責任を感じていっしょうけんめいに話すのだが、空回り。

あほみたいだった。しかもテンション低かったし。

そういうわけで、永遠に続くかと思われた一時間のお昼だった。

言うまでもないが、そのお昼、メシを食べただけでFTは桜陰をあとにし、K泉に向かったのであった。

残されたおれは、ひとりでなすすべもなく、

「3時に校門」という、与えられた約束を果たしに時間をつぶすのみだった。

 

暗黙の了解、というものでもないが、紹介で来てるんだし、

ここで新たに女のコに声をかけるわけにもいかない。ましてや一人身だ。

というわけで、ホールに行って、演劇やらオーケストラで時間をつぶすことにした。

しばらくそこの気持ちいい椅子でウトウトしてたら3時だった。

帰り道、アイスクリーム屋さんに寄った。

おれは神経使ってローな気分だったけど、彼女はうれしそうだった。

やっぱり会話は調子にのってるときでないと、マシンガンにはなれない。

自分のペースでなく会話するのは疲れるものだ。

へんに気を使っちゃうし。

こんなおれといても楽しいのだろうか。
そんなふうにも思ってしまう。

別に、こうしてみると悪いコでもないし、悪い顔でもない。

けど、おれとは合わないのかな〜。

そんな風にぼんやりと考えていた。

 

そして後日・・・

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