故郷は地球

正門から裏門まで歩いて数分かかる。その間、三人の女の子に聞いてみた

「ところで、どこの学校? なんでおれのこと知ってるの?」

返ってきた答えは、某音楽高校、文化祭とのことだった。

…おれも有名になったもんだ。

そう勘違いした原因は、実は僕がその学校を知らなかっただけだった。

しかし文化祭で見たっていっても、なんで名前まで知ってるの?

その質問は本人にすればいいか。

あと数分も歩けば、

未来の彼女、そしてあるいは未来の嫁さん(←誇大妄想)

がそこに待ってるのだから。その数分間、僕はとても幸せだった。

明るい未来が待っていると確信しているときほど、心が晴れているときはない。

うきうきわくわくどきどきそわそわ

こんな気持ちは、文化祭シーズンが終わってからしばらく味わってないものだった。

だいたい女子校の文化祭行くときって、たいていそういう気分から始まって、

帰りにとぼとぼっていうのがお約束だった。

稀にそこの女のコと一緒にどっかに行くこともあったが。

さて。で、今回のケース。

 

いつもより長く感じられる坂道を登り、左に折れたらそこに裏門が見えるはずだ。

お、確かに人影が見える。

こっちのほうが人数が若干多いかな。

女のコが5人だった。

さっそくサイヤ人からもらった「カウンター」でパワーをチェックする。(笑)

なるほど、うち二人は平均より上だ。

特に、ポニーテールの女のコは僕のトラウマをくすぐるほどのかわいい女の子だ。

めっちゃいいかも(←歓喜)

そして残りの三人は惜しくも落選だった。(笑)

そのうちの一人にカウンタを合わせると、バツンッという音をさせてカウンタが故障した。

しかしそれはレベルが高すぎたからではなかった。

いや、別の意味でレベルが高すぎて耐えられなかったのだ。

なんでここにジャミラ(注)がおんねん?!

僕はその顔を見た瞬間、

「どこの星に漂流していたのですか? 水がなくて大変でしたか?」

と尋ねたかったが、ダンディでテンダーな男を演じる以上、我慢しなくてはいけなかった。

でもまあいい。

僕を好きなコっていうのは、そのポニーテールの女のコなのだから(←根拠なき自信)

しかし、今思えばそれは、迫る危機から身を守りたいというせめてもの防衛本能だったのかもしれない。

 

「あの〜、僕が●ですけど」

結局8人の女のコに囲まれて、全員に注目を浴びる。

もし僕がMなら興奮しまくったであろう。

それくらい緊張してしまったのだ。

普通そういうのはありえないからね。

僕の目線は知らず知らずにポニーテールの女のコに向かっていた。

「あの〜、…あたしとつきあってください」

“ブライト館長、右舷より相当数の敵艦隊、接近してます”

“索敵班なにをしていた?! 第一戦闘配置”

“こんなにミノフスキー粒子が濃くっちゃ何にも見えませんよ〜”

“泣きごとはいい、…弾幕薄いぞ、なにしてる?!”

思わずその横からの奇襲攻撃にたじろいでしまった。

なんでよりにもよってジャミラやねん?!

その瞬間、明るい未来も、楽しいデート計画もすべてはかなく塵と消えた…

人間、思いがけない状況に出食わすと正常なものごとの判断ができなくなる。

「あ、ごめん今彼女いるし」

と即答すればよかったのだ。

「あ、…いや、それはちょっとはやいかな…?」

思いきった発言ができなくなっていた僕だった。

その発言は暗黙のうちに「彼女がいない」ことを示すものだったのだ。

「じゃあ、友達からでも…」

この「から」がポイントだった。

しかし、「友達」でいることを否定するうまい言い訳が瞬間に見つかるはずもなかった。

「…はあ。」

クドイようだが、ここは裏門。そして駒場東大前を使ううちの生徒が下校している時間帯だ。

もちろん、部活の後輩も、学年の友達もいる。

そして、滅多に見られない女のコ8人の待ち伏せ。

そしてその輪のなかにいる僕。

みんながじろじろ見ていく。

これが、ポニーテールの女のコ相手なら、胸をはってそこで立ち話もしただろう。

しかし、僕を見てしゃべっているのは、悲しいことにジャミラだった。

僕がここで思ったのは、

「早く終わってよ…」(心の声)

というただそれだけだった。

痴漢にあっている女のコっていうのもこうなんだろうか。

「ああ、うん。友達なら…」

きっと、ジャミィは完璧なシミュレーションを繰り返して来たに違いない。

そして僕は今その手の上で転がされているのだ。

「じゃあ、電話番号教えてもらえますか?」

数年前の悲劇がここでも繰り返されるのか?>おれ

これもまた断りきれない展開になっていた。

そして催眠術にかかって反抗できない被験者のように、電話番号を教えてしまっていた。

しかし、ここで悪知恵がちょっとだけ働いた。

違う数字を言ってみよう。

「0000-00-00XXだよ」

最後の2ケタだけ、違うものだった。

よし。これでジャミィと会うことはないはずだ。

そしてジャミィは続けた。

「あの…これから時間ありますか?」

もうすでに、奇襲攻撃の余韻は去っていた。少しは脳内CPUのクロックも戻っていた。

「あ、ごめん。これから塾なんだ」

塾なんてなかった。

「じゃあ、明日とか、空いてますか?」

数年前の展開と同じだった。

「あ、電話してくれたらいいや。」

つながらないはずの電話番号を渡して、ひどいことを言う僕がいた。

「それじゃ、友達が待ってるから」

待っていなかった。

彼らには、「今から二人で渋谷でデートっていうことになるだろう」

と自慢しつつ、追い払ったのだ。

 

そして、丁寧にありがと、といって、池尻大橋の方に向かった。

彼女らは幸運なことに駒場東大前だったのだ。

ジャミィとはもうそれ以降、会うことも話すこともないと思われた。

 が、しかし…

to be continued…

注・棲星怪獣ジャミラ:[出身地]宇宙[身長]50メートル[体重]1万トン

    [備考]某国の宇宙飛行士が宇宙船の事故で水のない星に不時着し,その異常な環境で生活しているうち怪獣化したもの。熱にはビクともしないが,水には弱い。

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