「100カラットの恋」3






 結局、海馬の帰国と共に克也は日本に向かうことになった。
 随分急な話でもあるが、親族が引き取るというのだから反対する者はいなかった。
 「元気でね」と声を掛けられるのに「おじさんもおばさんも、ありがとう」と克也は言うしかなかった。仲の良かった友達にも急いで別れを告げた。
 「また、いつかね」という別れの言葉は決まり文句のようだと思った。本当に逢えるのか克也には全く予測できなかったがそれでもいつか逢いたいと思った。
 克也が明るい表情を取り戻して話すようになったため、両親の友人や近所に住む知人は迎えに来た青年に全て任せる事を良しとした。
 住んでいた家自体は借家だったし、家具類も元から揃っていたタイプのものだったから……そういう住み替えタイプの家が多いのだ……両親の持ち物は決して多くはなかった。元々海外を転々としていたため、引っ越し慣れていたせいだろうか。荷物を増やさない事に長けていたのかもしれない。
 それでも大切なものや本や貴重品などは後で日本に送ってもらうことになった。
 克也がその手で持ってきたものとえいば、母親が大切にしていた家族の写真や形見代わりの指輪や父親の時計や数冊の本くらいだ。父親は読書が趣味だったせいか、かなりの本があった。そのどれも処分することができなくて、全て送ってもらう事になっている。克也が持ってきた来た本はその中でも一番思い出深い本だ。学校の課題で星を観察する際に一緒に見てくれた時説明するため蔵書から出してきてくれた星座の本。それ以来克也は夜空を見る事が好きになった。それから建築の本。世界の文化遺産が載っているという写真が豊富に付いたもので、克也が行った国で見た建物を父親がやはり詳しく説明しながら自分が行った時の逸話をふまえて話してくれた。
 克也にとっては忘れられない思い出の詰まった本だった。
 時計は父親の早くになくした親が残した唯一の形見だそうだ。
 母親の誕生石が付いた指輪は父からの贈り物らしい。大切に大切にしていた。また、母親が大切にしていた指輪は実はもう一つあり、母親が自分の母親から譲り受けたものらしい。母親は娘に自分の指輪等のアクセサリーを譲る習慣がある。だから代々母から娘へ受け継がれていく宝石は年月を感じさせる代物だ。アンティーク調のデザインで鈍く光る銀色の輪に年代物の洋酒色に輝くトパーズ。母親は何かパーティがあるとそれをしていた。
 
 
 海馬に連れられて来た海馬邸の門の前で克也は驚愕のためぽかんと口を開けた。
 門が開いて踏み込んだ海馬邸を見た時は、これまた驚いた。瞳を大きく開いてその屋敷を見上げてしまった程だ。
「ここ?」
「そうだ」
「……」
 克也の質問に海馬は頷く。
 克也が圧倒されていることなど、彼には些細な事のようだ。付いてこいといわんばかりに堂々と歩いて行く後ろを克也は慌てて追った。
 そこは家というにはおこがましい程の大きな大きな屋敷だった。それも豪邸と呼ばれる類のものだ。玄関から中に入ると吹き抜けの広間になっている。床は大理石だろうか磨かれてぴかぴかと光っていた。広間の左右には螺旋状になった階段があって2階へ続いている。そして広間の両側には克也が見たこともない執事やメイドが並んでお帰りなさいませ、と腰を折る。
 克也は圧倒されっぱなしだった。
 ここはどこだろう、という疑問が脳裏を過ぎる。
 自分はひょっとしてとんでもない場所に迷い込んだのではないだろうか。
 場違いも甚だしい。
 その時は子供だったから知識が乏しく、見たこともない立派な屋敷にお城かホテルかと思った程だ。
 海馬に先へ促されると、壮年の男性が立っていた。優しそうな表情を浮かべて克也の顔を見ると相好を崩す。
「克也?」
 名前を呼んで嬉しそうに克也を両手で抱きしめた。
「克也の母親の美砂は私の姪っ子だ。……よく似ているな」
 抱き込んだ克也を少し離し、顔を覗き込んで懐かしそうに目を細める。
 はじめて見る、祖父の兄。
 海馬の父親だ。
 顔の骨格や瞳の鋭さが似ていると思う。そして写真で見た祖父とは雰囲気が似通って見えた。最も写真の祖父は彼よりもっと若いのだが。
 その克也からすれば、祖父の兄である男性は海馬剛一郎という。亡くなった実の祖父は海馬剛二郎で、剛三郎という弟もいたらしいが、まだ若い内に病気でなくなったとのことだ。
「おじいさん?」
 上目使いで小首を傾げる克也に剛一郎は微笑する。
 克也にしてみれば、おじいさんとしか呼べなかった。が、それは祖父と同じようなものであるからある意味正しい。もちろん剛一郎も喜んだ。
「ああ、これから私が克也の祖父だ。よければ、おじいさんと呼んでくれるか?」
「はい」
 克也はおずおずと頷いた。
 触れた事はないが、間違いなく血の繋がった親類だった。
 剛一郎はもう一度克也をぎゅっと抱きしめた。
 彼からすれば、克也は忘れ形見なのだ。自分の弟とその妻、姪夫婦を一度に失って克也はたった一人残された子供だった。
 これからは何不自由なく暮らして欲しいと彼は思った。
 剛一郎が腕を放すと、その隣にいる少年が前に進み出てにこりと笑った。
「はじめまして」
 手が差し出される。克也も慌ててその手を握るとぎゅっと握り返された。手はとても暖かい。
「俺はモクバ。よろしくな」
 人好きのする顔だった。
「俺は城之内克也。よろしく」
 おずおずと自己紹介すると、ああと笑顔を返される。それに克也は安堵した。
 海馬瀬人の弟モクバは克也より2つ上だった。中学生のモクバは克也より少し大きい程度だった。小学生の克也にしてみれば中学生は十分に大人な部類だがモクバがそれ程大きくないせいか親近感が沸いた。
 モクバは一見兄である瀬人とはあまり似ていない真っ黒い髪に大きな黒色の瞳という日本人特有の容姿だった。しかし、黒色に見える瞳が実は蒼みを帯びている事を後で知った。どうやら蒼い瞳は海馬家の血筋のようだった。父である剛一郎もそうなのだ。祖父である剛二郎もそうだったというから、随分強固な遺伝子らしい。
 剛一郎が語った内容によると、昔から資産家であったため海外へ行った時に知り合った女性を妻に迎えるという、当時にしてみれば剛毅な人間がいたらしい。
 その剛毅さがこれまた血筋なのか祖父剛二郎は国際結婚だ。
 どうやら好きになったら、たかが国籍くらい隔てる物にはならないのが血筋らしい。
 こうして海馬邸へ克也は引き取られた。
 
 
 すぐにわかった事だが海馬という名前は資産家として有名な家柄だった。屋敷も執事やメイドといった人種が存在するような世界で、最初は慣れなかった。
 広すぎる家は確かに多くの人の手が入らないと管理できないだろう程無駄に大きかった。庭でさえ庭師が毎日丹精込めて手入れしないと、雑草の餌食になるらしい。
 実は相当なお嬢様として育った母親が、自分達家族と普通に暮らしていた事に驚く。
 克也が暮らすのは剛一郎が主の海馬邸だが、克也の本当の祖父母が住んでいた母親の実家の海馬邸がそこから車で20分程の場所にあった。
 日本に来た次の日に、克也はそこに連れて行かれた。
 そちらの海馬邸も見るからに、豪邸である。
 敷地面積は変わらないと思われたし、高くて長い門に囲まれた邸宅は相当な富豪が住まう屋敷に見えた。
 外観は同じ洋館風だが外壁がレンガ色っぽく緑の蔦が巻き付いている事から年月を感じさせた。内装はゴシック建築と日本文化が融合したような造りだ。一言で言えば欧州とアジアが混じった感じと言えばいいだろうか。
 母親が暮らしていた屋敷は自分が記憶もない小さな頃に過ごした事があるという。思い出せないが、母親の部屋に案内されると自然に涙がこぼれてきた。
 今でもそのままに残されているという母親の私室は綺麗に掃除されていた。
 部屋には使い込まれた机と椅子、丸テーブルにソファ、真ん中に位置するグランドピアノ。作りつけの本棚。今は白いレースが降ろされた天蓋付きベッド。
 母親がどんな生活をしていたのかよくわかる。
 南向きにある両開きの窓からは庭がよく見えた。庭も相当広く緑溢れるほどだが、窓からは樹木が多く見えた。その窓からは見えないが温室があったり薔薇でできた庭園がある。
 真正面には母親が生まれた時に植えられたという、桜の木。
 季節柄桜花を見ることはできないが今では大きく育っている。
 春にはそこで家族揃って花見をしたのだそうだ。
「……」
 一粒涙がこぼれた。頬を伝って床に落ちる。
 悲しいのとは違う。懐かしいのとも違う。
 赤ちゃんの自分もそこで花見をしたり、家族と笑っていたはずなのに、記憶にはなくて。
 2歳なんて覚えていなくて当然なのだけれど。
 それが口惜しい。
 切ないのだろうか。思い出の欠片に触れて、覚えていない記憶が勝手に喜んでいるのだろうか。
「克也」
 一緒に付いて屋敷を案内してくれた海馬が後ろから小さな身体を抱きしめた。
「海馬」
 克也は首だけ後ろを振り返り海馬を見上げた。自分を見下ろしている蒼い瞳は優しい色をしていた。
「美砂の木だけでなく、お前の木もある」
「……俺の?」
「ああ。お前が生まれた時も、桜の木を植えたのだぞ」
「……」
「美砂の桜花の横にある、まだ細い木だ。それでも春になれば並んで花を付けるだろう」
「……俺の、もあるんだ。俺の場所もあるんだ」
「そりゃ、あるだろう。ここは美砂の家でお前の家でもあるんだから」
「そうなんだ」
 大きく育った桜木の横にまだ細い桜木がある。
 克也が生まれて植えたのなら10年くらいのはずだ。
 それが、とても嬉しい。
 ちゃんと、ここは俺の家なんだ。
 別に豪邸に意味はなくて。ただ、自分の場所がちゃんとあった事が嬉しかった。

 
 その後、結局逢えなかった祖父母のお墓にもお参りに行った。
 海馬家代々の墓らしく立派なものだった。
 飛行機事故のため遺体は絶望的だったらしく、埋葬できていないらしい。遺品が納められていると克也は聞いた。子供に伝える内容にしては酷であるが今更であるし、克也には知る権利がある。海馬はそういう所を子供扱いしなかった。
 両親の墓は海の向こうに、祖父母の墓には遺体の欠片もない。
 実際の所、海馬剛二郎が亡くなった事によって会社に与える影響は大きかった。手続きや手配に追われていた。葬儀自体は数日前簡単に済んだ事になっていたが、会社にとっての影響が多大にあるのは明白で、今まだ花が届けられたりお悔やみがあったりと屋敷も海馬家も忙しかった。
 克也が案内された時も務めるメイド達が忙しそうに働いていた。屋敷の玄関広間には届けられた白い花々が所狭しと置いてあったし、喪服の人間がうろうろしていた。
 克也に対して皆一様に同情的な目を向けていたけれど、それは居心地の悪いものではなかった。きっちりと仕事をこなしながらも、残された子供に気を使ってくれていた。
 最も彼らからすれば、直系に当たる唯一の主なのだ。
 例え子供であろうと、現時点では剛一郎の指示で動いていても、彼らの主は克也に他ならなかった。なにせ、克也は知らないことだがここにも唯一の孫である克也の写真が置かれていて、剛二郎と妻がいつも楽しげに見ていたのだ。
 その場にいなくても、孫が可愛くて仕方がないと誰の目にも明らかだった。
 娘である美砂も両親に溺愛されていたし、使用人達にも愛されていた。克也の記憶になくとも美砂によく似た可愛い小さな子供の頃の克也を古くから務める使用人や執事は知っていた。
 暖かく迎えられた屋敷に、しかし克也は住まなかった。
 本来なら克也の住む場所、唯一屋敷に住む権利を有する直系であるのだが、子供一人保護者もなく住むことは教育も倫理上も問題だった。
 それに保護者に当たる海馬が許さなかった。
 残された血の繋がった家族、一つの場所で一緒に住もうと。
 克也が住まなくとも、屋敷にいつでも来られるように手入れや管理だけはするようにして。古参の使用人や執事はそのままで。
 いつでも克也が戻って来てもいいように。ひょっこり墓参りや顔を出してもいいように。
 大人になって住んでもいいように。
 大切に今も守られている。
 
 
 克也は自身のために用意された部屋で毛布にくるまり、窓を開けた。冷え込んだ夜の空気は肌に刺さるようだが、その切れるような冷たさが心地良い。夜色に染めらた暗色のはずの空気だが、色に全く関係なく濁ったモノが何も含んでいないように澄んでいる。
 とても純度の高いもの。
 夜はそういったイメージがある。
 父親と一緒に見た夜空のせいか、夜のイメージは優しい。
 今宵の闇には雲はなく空いっぱいに見渡せる程星が輝いている。
 でも、日本で見る星空は違う。
 父親と見た景色と違う。場所が違えば見える星座も違うものだ。
 夜の色も位置する星座も何もかも違うと実感して、初めてここに来て寂しいと感じた。
 今まで暮らした遙か海の彼方が、ひどく懐かしい。
 数日前までいた場所が、もう届かないくらい過去に思える。
 優しい人たちなのに。
 母の実家の海馬邸からこちらの海馬邸へ帰宅して、新しい家族で食事をした。自分を気遣ってなのか、皆が話を振ってくれて。
 新しい生活に慣れたら、学校へ行こうという話題になった。
 結局、モクバの通っている学園の小等部がいいだろうと決まった。そこならば安心らしい。海外からの留学生や帰国子女もいて転校生など珍しくないから大丈夫だぜ、とモクバが請け負った。
 克也もそれならば、と頷いた。
 自分ではどうしたらいいかさっぱりわからないのだから、任せるしかない。
 剛一郎もそれがいいと笑っていた。
 それにしても、と克也は食事の時密かに当惑した事を思い出す。
 「おじいさん」と呼んでくれと剛一郎は言った。克也からすれば、祖父の兄であるから「おじいさん」が妥当である。が、克也の2つ上のモクバは剛一郎の歴とした息子であり「父さん」と呼ぶのだ。遅くに出来て母親が命と引き替えに生んだ子供のモクバと母親が若くして生んだ克也は、モクバからしても従姉の子供という立場にありながら、生憎兄弟のような近さだ。実際の兄である瀬人よりずっとそれらしい。
 同じくらいの子供が、お父さんとおじさんと呼ぶ、なんとも違和感を克也は感じた。それは仕方のないことだけれど。
 せめて「おじいさん」ではなく「おじさん」にするべきだろうか。
 子供のくせに、克也は悩んだ。本人の剛一郎は全く気にも止めていないのに。
 知らずにため息が漏れて、息が白く染まる。
 毛布を被っていても、寒さがしんしんと染み渡る。暖められていた部屋もいつの間にか冷気に満ちている。
 克也はそっと手を伸ばした。
 掴めないものを知っていて掴むような、そんな諦めた行動をする事に意味がある。
 亡くしたものは戻ってこない。
 もう、二度と父親とは夜空を眺める事もない。
 飽きるまで夜空を見上げている二人に微笑みながら、暖かいお茶をいれてくれる母親もいない。
 ぽっかりと空いた心の一部。
 埋まることはないだろう。
 それとも、時間が経てば忘れてしまって埋まるのだろうか。
 視界が滲んだ。
 我知らず、ぽろりと涙がこぼれていた。
 克也はそれを拭わずに、空を見上げることで我慢した。
 ずっと泣いてばかりいる自分。今日の昼間だって泣いてしまった。いい加減涙だって枯れてもいいだろうに、どうしてこんなにこぼれるのだろうか。
 すると、キイと静かな部屋に扉を開ける音がした。
 びくりと身体を振るわせて、恐る恐る克也は振り向いた。そこには海馬が立っていた。
 真っ直ぐに自分を見つめている蒼い瞳があった。闇夜に浮かぶ月の僅かな光でその透明な蒼さが輝いていた。
「どうした?」
「……」
 克也は何も言えず、見つめ返した。
 どうした、と聞かれても克也の方がどうしてここに来たのかと聞きたかった。おやすみなさいと挨拶して別れてから随分時間が経っていた。皆寝静まっただろうと克也は思っていたのだ。
 けれど、パジャマ姿の克也と違って海馬はまだ昼間の格好だった。
 寝静まった静寂の中、一人で仕事をしていたのかもしれない。
 海馬はすでに成人し立派な社会人で、病にふせっている父の代行として社長の仕事をしているらしい。
「克也」
 海馬は滑らかに靴音も立てず部屋を横切り克也の前で足を止めた。そして、小さな身体を毛布事抱きしめた。
「冷えすぎだな」
 腕の中、身じろぎする克也を両手でしっかりと体温を分け与えるように包む。
「窓を開けてもいいが、風邪を引いては意味がないぞ?」
 克也は顔を上げて頭上にある海馬を見上げた。
 決して咎めない。
 涙を流していたことなど一目でばれてしまっただろうに、何も言わない。
 海馬のさりげない優しさが心地良い。
 克也はぎゅっと海馬の腰に抱きついた。洋服越しに暖かい体温が伝わってくる。
 可哀想にって言われるのは嫌だ。
 心配してくれているとわかっているのに、明らかな同情を向けられる視線が辛い。
 気使いや優しさが反対に作用して心を痛め付ける。
 まだ治っていない傷口が痛みを訴えている。
 人からの好意が痛くて溜まらない時があるのだと知った。
 放っておいて欲しいと思っている訳じゃないのに、お願いだから今だけ一人にしておいて。相反する複雑な気持ちが渦巻いて息苦しくて。
 でも、海馬の優しさはそのまま身体に染み込んでくるようだ。
「……うん」
 克也は小さく頷く。
「もう遅い。明日も忙しいから寝ろ」
 そう言って克也を片手で抱きしめたまま窓を閉めた。
「モクバが帰って来たら買い物だし、その前にもやることはたくさんあるぞ」
 食事の際に、明日は買い物へ行こうと決まっていた。必用な物を買いに行くぞ、という海馬の言に頷くしかない克也だったが、モクバが一緒に行きたいから学校から帰って来るまで待っていてと兄に訴えたのだ。
 それは了承されて、結局3人で買い物へ行くことになった。
 午前中には克也に関しての様々な手続きがあるらしい。
 弁護士を通して話を聞くように今から言われている。書類がたくさんあり克也も説明を受けながら署名捺印しなくてはならないと聞いている。
 その当時はわからなかったけれど、後に理解した。
 克也の立場は相当重要で微妙だったのだ。
「うん」
 海馬に抱えられて克也はベッドに降ろされる。ぎゅっと掴んだ上着を離したくなくて縋るように上目使いで見上げると、海馬は苦笑して自分もベッドに乗り上がり克也を抱きしめた。そして、布団を引っ張り上げて、薄く笑う。
「寝ろ」
 克也は安心して目を閉じた。すぐに眠りに付いて久しぶりに熟睡した。しばらく一緒に海馬は居てくれた。
 
 
 



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