「……そろそろ最終段階ね」 女は殊更嬉しそうに呟いた。女以外誰もいない場所でひっそりと。 室内は小さなランプの明かりだけ。 ゆらゆらと揺れる炎の影は女の長い髪を一層暗く見せる。本当は明るい色の髪だというのに、この空間の中では暗く染められたかのようだ。 女は部屋の中央を見つめて微笑した。 部屋の中央には大きく描かれた錬成陣があり、その真ん中にはヒトであったものがある。 ヒトであったっものなのか、ヒトでないものなのか、見ただけでは判断できない。が、目を覆いたくなるようなものであることは確かだ。 手なのか足なのか、定かではないが。 ヒトが持つ身体の一部らしきもののように、見えた。 異質な雰囲気が立ちこめた室内には、壁際にガラス戸棚があって薬品等が並んでいた。薬品だけでなく、様々な物質が瓶に詰められて所狭しと戸棚に納められていた。 それだけ見ると、女は研究者であるかもしれないし、医者であるかもしれないと思うだろう。けれど、女が毎夜しているおぞましいことを知る者があったなら、彼女を狂人と呼ぶだろう事は必至だ。ただ、現時点で誰もそのことを知らないけれど。 目を覆わんばかりの、成れの果て。 足下にある、物体。 女はそれを無感動に見下ろして、低いテーブルの上に乗った写真立てを見つめた。 映った写真はどこにでもいるような暖かい家族写真。 その写真を見て、女は一瞬どこか遠いところへ意識を飛ばして思い出をたぐり寄せた。 己にある一番大切で一番重要な記憶。 その記憶だけが自分を生かす。 女は己の指にはまっている赤い石の付いた指輪を見る。赤い石はランプの炎に鈍く光っていた。 どこか禍々しい輝きは不穏な色をしている。 血の色のような赤い石。 室内に立ちこめる匂いは紛うなき血の匂い。 「今回の実験は加減が難しいけれど、今度は必ず成功させるわ」 女が見下ろしたモノはある意味ヒトであって、決してヒトではなかった。 女が求めるものはまだこの手にできない。 でも、必ず手にしてみせる。 そのために、今まで様々な努力をしてきたのだから。 指にある赤い石が、自分のもとにあるのはそのためだ。 目的を達するためなら、何でもする。 例え、この手を血にどれだけ染めても。 人から断罪されても。 神に背いても。 罪なんて怖くない。 罰なんてどれだけ受けても構わない。 自分の叶えたい願いは一つだけだ。 たった一つの事を、実現させる力を己が持ち得ない事の歯がゆさ。 それなら、その力を手に入れるだけだ。 幸いにして素地はある。 だから、絶対に。 この手に掴む。 神なんてどこにもいないのだから。 奇跡なんて起こらない。 いない神に祈るなんて馬鹿げている。 祈る暇があったら、自分の力で叶えるまでだ。 |