「生きるための絶対必要十分条件」



 快斗が長期でいない時や、もしもの時。緊急の時。
 それを想定して、新一のために工藤邸に用意したものがある。

 ポカリ。
 カロリーメイト。
 市販の冷凍食品。
 カップ麺。
 レトルトカレー。

 これは、今までもあったもの。
 追加したのは………。

 冷凍カレー。
 冷凍グラタン。
 冷凍ご飯。
 冷凍ピラフ。
 冷凍ホットケーキ。
 冷凍ピザ。

 等々、快斗が作った保存食。栄養価はばっちりだ。
 市販のものでも栄養が取れそうで新一が食べそうなものはもちろん常備する。
 最近のヒットは、ク○ール「スープパスタ」きのこクリームとあさりクリーム。
 湯を注いでかき混ぜるだけであるが、結構美味しいし主食と副食が取れる一品だ。
 たまたま快斗がいない土曜日に新一が食べて、ちょうどいいと言ったことで採用。小食の彼にはそれで量が良かったらしい。欲をいえば、パンとかいろいろ食べてほしいのだが………。

 「生ものは腐る可能性があるから、保存食には向かないしなあ………。果物はいつも置いてあるし、何か他にいるかな?」

 果物はりんごや季節のものがかごに盛られて置いてある。

 「長期保存できるのがいいんだけどな………」

 快斗は恒例になった保存食作りに取り組みながら考える。今日はおやつのホットケーキを多めに焼く。普通に食べるものは美味しさ重視で、保存用は小振りにしっかり焼いてあら熱を取って一枚ずつ保存用パック入れ空気を抜いてジップを締め、それをまとめてパックに入れるのだ。
 小麦粉と卵と牛乳等々をボールに入れてダマにならないように泡立て器で丁寧にかき混ぜる。
 カシャカシャという軽快な音がキッチンに響いている。

 「あ、今日はホットケーキ?」

 新一がひょっこりとキッチンに顔を出した。

 「そうだよ……。これから焼くから待っててね」
 「うん、今日は何を乗せようか?」
 「お勧めはハチミツだよ。レンゲはちみつは透明な金色で甘い。それからいちご、美味しいのもらったから。缶詰めなら黄桃やパイナップルもあるし、ジャムもあるよ?」
 「美味しそうだな………」

 新一は快斗の隣まで来てボールの中身を覗き込みながら、顔をほころばせる。

 「また、余分に焼いて冷凍しておくから食べていいからね?」
 「うん。快斗の作ったのだと冷凍しても美味しい」
 「そう?だったらいいけど。でも焼きたてが一番なんだよね………。いつも焼きたてを食べて欲しいけどそうもいかないしね」

 快斗は苦笑しながらそんなことを言う。新一はその言葉から、ふと気付いた。

 「また、どこか行くのか?」

 多分、近日中に長期でマジシャンとしての仕事が入っているか、KIDとしての仕事でどこかへ行くのだろう。

 「ああ。そうなんだ………。今度は一週間だけどね」
 「そっか。それはKIDの仕事か?」
 「そう。遠方だから準備に時間がかかるんだよね。ついでに田舎だし」

 電車やバスとか乗り継ぐかげで時間がかかるんだよ、と快斗は漏らす。

 「………気を付けて行って来い」
 「ありがとう」

 新一の心配そうな顔に快斗は安心させるように微笑む。

 「俺がいない間もちゃんと食べてね。くれぐれも不摂生しないでね」

 快斗は新一の瞳を見つめてお願いする。自分が帰ってきたら、新一の顔色が悪かったり痩せていたら、おちおち出張にも行けないのだ。

 「………食べるけど。一人で食べても美味しくない。快斗がいないと全然美味しくない。焼きたてだろうが、冷凍だろうが、快斗がいるから食べ物がお菓子が美味しいんだ………」

 どこか拗ねたように唇を尖らせてそんな可愛いことをいう新一に我慢ができず、快斗はいきなり手を伸ばして抱きしめた。こんな時が、溜まらなく愛おしい。両手でぎゅっと力を込めて、さらさらの黒髪に唇を落とす。
 快斗がいないと美味しくないという。
 一緒だから、美味しいのだという。

 「そんなに喜ばせないでよ」
 「別に、喜ばせてる訳じゃない」

 嬉しそうに快斗が新一を見つめるので新一は照れくさそうに頬を染めた。それがますます快斗を喜ばせているのだが新一にはわからなかった。

 「じゃあ、ずっと一緒に美味しいご飯食べようね」
 「うん」

 新一は笑顔で頷いた。一緒にいてくれるんだと思って安心して快斗に身体をもたせかける。
 しかし、この時新一は気付いていなかった。
 その快斗の台詞がまるでプロポーズのようであったことを。
 快斗は全くその意味に気付いていない新一に内心苦笑しながらその愛おしい身体を抱きしめた。





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