「星に願いを 3章 1」





 夏休みが始まり十日ほど経った頃、いよいよ八月に入ろうかという夏の暑い日のことだ。この日、新一は家にいた。快斗は朝から自動車学校へと行っている。夏休みに入ってから集中的に講義受けストレートで単元分車に乗っているせいで、いよいよ免許が取れるところまで来た。明日には試験を受けて晴れて免許を取得し、家にある車が乗れるようになるだろう。
 新一も快斗のように自動車学校へと行くつもりだったのだが、なかなか時間が取れなくて後回しになっている。やはり申し込もうと思った日に、事件が起こって現場に急行したのがまずかったのか、幸先が悪かった。
 事件を解決して、さて、夏休みを満喫しようと思っても邪魔が入る。
 事件は決して邪魔ではないが、こう続くと呪われているのかと疑いたくなる。また、実家から呼び出しがあり赴いた日もあった。
 偶には顔を見せるようにって言ったでしょと、母親から愚痴をこぼされた。
 それどころではない日々が続いているのだと理解はされないようで、旦那様を優先するのは仕方ないけど親も忘れないでねと拗ねられる始末だ。
 誰が、旦那だ……。
 否、快斗は大事な共犯者でありパートナーであるが、旦那と言われても反応に困るのだ。全否定する訳にもいかず、口ごもることしかできないが。
 そして、一日実家で過ごした。
 やれ、新居での生活はどうなのか、快斗とは上手くやっているのか、と聞かれた。
 母である有希子は、楽しげにそんなことを息子に聞いて満足したようだ。が、父親はそうでもなかった。特別その場では問うことはなかったが、後で意味深に囁かれた。
「で、本当に、夫婦なのかね?」
 そんな事を真顔で聞くな。
 絶対面白がっていることは間違いない。自分がせっぱ詰まってこの話を受けたことを知っているくせに、何を言い出すのか。
 その点、この境遇を共に歩むに快斗は申し分ないパートナーであるが。
 新一は思わず父親である優作を睨んでしまった。
「ふざけているのか?親父……」
 地の底から響くような低い声で、新一は応戦する。これは、一種、戦いのようなものだ。口で負ける訳にもいかない。
 決して、そんな訳あるかーーーーっと叫んではいけないのだ。
 我慢だ、我慢。
 新一はぐっと沸き上がる怒りを懸命に堪えた。
「ふざけてなんて、いないよ。素朴な疑問だ」
 いけしゃあしゃあとそんな事を言う父親に新一は忍耐を強いられた。
「放っておけ、くそ親父」
 奥歯を噛みしめて言い放つと新一はその場を後にした。背後から、いい返事期待しているよと、声がかけられたが、無視をした。
 
 午後から祖父である一成まで顔を出して、新一と楽しそうに話した。快斗のことを多少は聞くがそればかりではなく、最近の事件のことや将来のことなど普通の会話であったことは救いだ。
 その辺、あれほど強固に周りを埋めて逃げられない状態にして結婚を受けさせたというのに、一成は現時点では嫌な爺ではなかった。
 昔から孫である新一を溺愛する祖父に変わりがなく、新一は不思議な気分になる。
 夕方、美味しいものでも食べようと誘われて新一は困った。
 家で快斗がご飯を作って待っているかもしれないのに、自分だけ勝手に外食なんてできない。遅くなるなら連絡をしなくてはならないし、今まで共に暮らして新一は快斗が待っているのに外食をしたこはない。事件に追われ警察で出前を食べたことはあるが、それ以外は真っ直ぐ帰った。
 そんな、自分の意識の変化に驚いた。
 誰かが待っていてくれるから、帰るんだ。ご飯を一緒に食べるのだ。
 昔は、特に思うこともなく、蘭や園子とご飯を食べることがあった。家で夕食が待っているから遠慮するなんてなかった。
 本当に、驚きである。
 そして、自分は家族と一緒に食事に行きたくない。快斗が待っているから帰りたい。そう告げていいのだろうか、ここで。
 揶揄されることはわかりきっていたが、それでも、言わずにはいられなかった。
「帰るよ。快斗がご飯作って待っていてくれるかもしれないから」
 そうはっきりと告げたら、母親は目をぱちくりと瞬き笑顔になって「旦那様を大事にしていて何よりね」と言い、父親はにやりと人の悪い笑みを浮かべた。祖父など、どう表現していいかわからない表情を浮かべて、目を細めて小さな微笑を浮かべた。
 さんざん揶揄されるかと思ったら、案外簡単に受け止められ「帰りなさい」と言われた。
 またな、と言って帰宅するとやはりご飯を作って快斗が待っていてくれた。何かあったらメールするようにしているから、連絡がない限り家でご飯を食べると決まっている。
 なんだか、とても嬉しかった。
 こうして、自分も快斗を待っていられたらいいのにと思った。
 
 
 そして、やっと今日は普段できていない家事などをすると心に決めていた。快斗を朝送り出してから食器などの洗い物をして、洗濯をする。シーツやタオルなどを先に洗って、その後洋服や下着を洗う。全自動であるから、簡単だか物によってはネットに入れて洗うため、少々気を使う。
 夏は突然な雨が降ることがあるから、洗濯物は室内に干す。
 本当は外で太陽の下干したいが、自分が絶対に家にいられるという保証がないから、仕方がない。
 
 リビングやダイニングなど先に掃除機をかけて、風呂を洗う。トイレを掃除する。そして、また廊下や洗面所など掃除機をかけつつ掃除する。
 そこで一端昼御飯にして休憩を取る。
 今日は、炒飯だ。残った白ご飯があったため、卵とハムときゃべつとネギなど入れて炒める。ス−プは簡単にインスタント。昨日から付けてあるきゅうりと白菜のあっさり付けを小皿に盛り、ついでに冷蔵庫にストックされているひじきの煮物を取り出せば、立派な昼食が出来上がった。
 我ながらに手際がよくなったなと感心する。
 家ではこんなことをする気も機会もなかった。ここに越してきてから、料理をするように心がけるようになった。少しでも上達したいと思った。
 快斗を手伝っている間に、多少は上手くなっていると思いたい。
 そして、出来上がったご飯を一人で食べる。やはり、一人で食べるご飯は二人で食べるより味気ない。
 ついでに簡単だからと最初に快斗から習ったコンポートを作る。りんごなら、何でもいいよと言われたのでちょうど家からもらった「ふじ」である。
 材料はワインと水と砂糖と蜂蜜。八つ切りにしたりんご。
 鍋に入れて、沸騰させてから落としぶたをして弱火で20分ほど煮る。しばらく味を馴染ませて荒熱を取り冷蔵庫で冷やす。
 これなら、新一でもレシピを見ずに作ることができるようになった。本当に簡単で美味しくできる一品だ。教えておいてもらって良かった。
 そして、レシピ通りリンゴを煮ている間に洗いものを終えてお茶を飲み……その間に20分くらいになる……火を止めて、いったん置いておく。後で冷めたらタッパに入れて冷蔵庫に冷やすつもりだ。
 
 それだけ済ませておいてから、午後は客間の掃除に移った。
 頻繁にはできない場所であるから、こういう時にやっておこうと新一は決めて取りかかる。
 家具は埃除けに一応白い布を被せてあるが、それでも部屋に塵は積もる。窓を開けて掃除機をかける。暑いが喚起しないと埃が舞うから仕方ない。拭き掃除もして適度に水なども出してみる。使わないとどこか故障しいるかわからないから、確認である。同様にテレビも付けてみる。
 一通り点検して、もう一部屋同じことを繰り返す。一部屋でやることが多いから、時間がかかる。それでも、慣れてきたせいで特別考えなくても手が勝手に動くようになる。
 そうなると、手は動かしながら頭では別のことを考える。
 今日は自分が夕食を作るつもりだ。
 さて、なにを作ろうかと頭を巡らす。細々と掃除をしつつ頭の中は夕食のメニューでいっぱいだ。主婦は冷蔵庫の中身でメニューを決めるというが、新一はそこまで至っていないため、自分ができるメニューの中から決めることになる。
 昨日とは重ならないように、それでもって材料のあるもので。
 冷蔵庫の中はとても充実している。いつも買い物に行ける訳ではないので、食材はまとめて買ってあるのだ。冷凍庫の中もたくさんの食材が眠っている。解凍すれば新一でも使えるものがある。肉でも魚でも、なんでも材料は選びたい放題だ。
 うーん、どうしよう。何にしようか。
 新一は悩んだ。
 つらつらと考えている間に、掃除が終わった。掃除機を片づけて手を洗いエプロンを外して新一はソファに座った。手には薄い料理の本が握られている。
 通常は部屋の角にある、低い棚の上に数冊置かれているのだが、その中から新一が見るために持ってきたのだ。
 それ以外にも、新一が悩んだ時見るのが、快斗がどこからか切り抜いたレシピが冷蔵庫の扉にマグネットで止められているものだ。
 簡単であるせいか、新一にもわかりやすい。ただ、臨機応変に作らないとならないけれど。そのさじ加減が難しいと新一は思う。
 ぱらぱらとページをめくりつつ、だいたいメニューを決めて冷蔵庫の中をもう一度確認する。そして、再びやる気でエプロンを腰に結び、夕食の下拵えに取りかかる。
 時間的に、夕食を作るには早いけれど、新一は快斗ほど手際よくできないから、早めに進めるに越したことはない。
 それでも、包丁を握り新一的にはがんばった。そして、大分下拵えも進み、しばらく経った後。
 携帯が鳴った。メロディはボレロだ。着信音で誰だかわかる。
「……」
 一瞬、出ることを拒否したくなった。こんなことは生まれて初めてだ。
 厄日なのか?それともやはり呪われているのか?
 折角今日は家事の日だと心に決めて実行に移していたのに。残すは夕食だけだったのに。
 新一は、心中でため息を付いて、仕方なく電話に出た。
「もしもし?」
『ああ、工藤君かい。今、いいかね?』
「はい、構いませんが。事件ですか?」
『ああ、そうなんだよ。休み中に悪いね』
「いいえ。仕方ありませんよ」
『それでだね、殺人事件が起きて少々厄介なんだよ。皆アリバイがあるというかないというか、不確定で。どう考えてもその中にいるはずなんだ、犯人が』
「なるほど。わかりました。伺いましょう」
『すまんね。高木君を迎えにやるから。今は家かね?』
「はい。そうです」
『新居だよね』
「……そうですね」
『ああ、一応、確認だから。実家かもしれないからね。では、よろしく』
 目暮は余計なことを言ってしまったとありありとわかる声音で誤魔化すと通話を切った。
 最初に引っ越しましたと報告した時、その理由を聞いた目暮は目を見開き顎が落ちるのではないかと思うほど口を開けて間抜けな顔を作った。探偵を続ける新一は居場所が変わる場合、目暮や知人の警察官に知らせておかなければならなかったから、仕方なく打ち明けたのだ。その時の騒動を思い出して、新一は眉を寄せ通話の切れた携帯を一度見つめると、大きな吐息を落とし着替えるために二階へと上がった。
 今日は動きやすいようにTシャツにジーンズ姿だ。それにエプロンを引っかけている。現場にこのような姿で行く訳にはいかないから、白いシャツにスラックスと薄手の上着を羽織ることにする。
 そして、携帯をポケットに入れる前に、メールを打つ。
 刑事の高木が迎えに来るまで今少し時間があるだろう。その間に快斗にメールを打っておこうと新一は手早くボタンを押して文字を書く。
 謝って、今日やったことを書き、遅くなるかどうかわからないことを告げる。
 ああ、本当に、ついてない。
 新一は家から出た。
 
 
 


 現場である。
 高木刑事の迎えで現場まで来た新一は目暮警部に挨拶をした。すまないね、頼むよという申し訳なさそうな言葉に、わかりましたと返した新一だが、今日は早く終わらせて帰りたいのが本音だ。しかし、そう簡単にいかないのが現実である。
 新一はまず関係者から話を聞いて、現場をもう一度隈無く観察する。鑑識や側にいる刑事に話を聞いて、矛盾点がないか、気になる点がないか思考する。
 
 アリバイが皆しっかりしているようでいてしていない。
 殺されたのは、この家の主人。容疑者は妻とお手伝いと来客の二人の合計四人。
 第一発見者は奥さん。
 買い物に出ていて、帰ってきて血を流して倒れている夫を発見して通報。妻が留守をしている間家にいたのは、お手伝いと来客二名だけだ。主人と談笑している途中でお手伝いは契約の時間になり帰宅している。来客二名はその後、主人に見送られて家を辞している。
 空白の時間、妻が帰って来るまで誰かが主人を殺した。
 物取りや怨恨など考えられるが、この四人はアリバイがあるようでいてない。誰もが殺人が可能である。
 妻が帰宅して殺害することもできるし、来客が話の最中に殺すことも可能。お手伝いが一端戻ってきて殺すことも可能。来客自体もちょくちょくやってくる馴染みで家の事情もよく知っている。
 凶器も出てきていない。
 傷口から鋭いナイフのようなもので殺害されたとわかっている。
 新一は思考しながら、現場を歩く。
 
 奥から玄関に戻って来ると脇にスーパーの袋が、放置されている。
 買い物から帰って奥さんが置いたままにしたのだろう。倒れている夫に仰天して、そのまま買い物のことなど頭からなくなったのだろう。
 ……ん?
 袋の中に入っているのは、玉葱にじゃがいも、人参などの野菜とシーチキンの缶詰。スナック菓子とせんべいなど焼いた菓子。みりんとドレッシングなどの調味料。
 野菜はあるが、すぐに冷蔵庫や冷凍庫に入れなければならない生ものはない。このまま置いておいても問題ないものばかりだ。
 おかしくないか?
 普通、肉とか魚とか卵とか買わないだろうか。牛乳とかオレンジュースとか飲み物もない。ペットボトルなど重いものもない。パンもない。ご飯が主食で買わないということもあるだろうが、食生活がわからないとちょっと判断できないだろう。
 それにしても、まるで、放置してもいいものばかりを選んでいるようだ。
 夏場はいろいろなものが早く痛む。賞味期限も短いものが多い。
 新一はキッチンへ行き冷蔵庫の扉を開けて中を覗いてみた。思った通りだ。
 生ものがほとんどない。パックに入った豚肉が少しだけ。他の肉も魚もない。
 牛乳は入っているが、卵も数個並んでいるだけ。
 ジャムやマーガリンやマヨネーズ、ケチャップ、調味料などなど通常入っているものが収まっている。
 パンを食べない訳ではなさそうだ。食パンは、半斤ビニールに入っているものがテーブルの隅のかごに入っている。他にもバナナとりんご。
 今日から旅行に行く予定があるなら納得もするが、まるでしばらく調理などできないことを前提とした印象を受ける。
 奥さんねえ……。
 新一は聞いた話を思い出す。どこか不審な点はなかったか。
 冷凍庫も開けてみる。冷凍庫には冷蔵庫とは違いたくさん食材が入っていた。これは別に問題はない。鶏肉の固まりや海老や、冷凍食品が結構雑多に入っている。奥さんは几帳面そうに見えたし、部屋も片付いていて綺麗なのに、冷凍庫だけ意外だなという印象を受ける。
 そういえば、洗濯物は干してないな。外のベランダにもなかったし。買い物に出かけている前に取り入れたとか?
 今日は、まあいい天気で自分のような予定が立たない人間でなかったら外に洗濯物は干すだろう。
 それにしても、気付く部分が増えて喜ぶべきなのだろう、多分。今まですぐに家事的な部分を気にしたことはなかった。
 
 新一はもう一度話を聞きに戻った。
 
 
 
 やっと、終わった。
 結局、犯人は奥さんだった。もう一度話を聞き矛盾点を洗い直し証拠を見つけて説明した。奥さんの行動がおかしいと感じたことは、ただの印象に過ぎないと言ってしまえば証拠にもならないから、それを見つけなければならなかった。
 しかし、凶器のナイフを買っておいた鶏肉の固まりの中に入れて巻き込み冷凍庫に移しておき、時間が経てば経つほど凶器が見つかりにくくなると思ったっていう考えはどうなんだ?確かに冷凍庫の中身をすべて解凍して中身を確認するかと聞かれれば、新一もなんともコメントし難い。主婦の考えることは、あまりに身近過ぎて常識を外している時がある。
 ああ、気が疲れた。身体ではなく精神の方が疲れる。早く終わらせたいという気持ちがあるせいだろう。焦ってもいけない。でも、考え過ぎてもいけない。探偵としては、どうかと思わないでもないが、それでも今日の自分は家事で一日を終える予定だったのだ。少しくらい個人的に早く終わりたいと思っても罰は当たらないだろう。
 ポケットからマナーモードにしてあった携帯取り出して見るとメールが来ている。案の定、快斗からだ。新一はすぐに読んでメールを返した。
 これから帰る、と。現時刻は夜の九時過ぎである。事件で出かけた割に早い方だ。
 
 
 
「おかえり」
「ただいまー」
 出迎えてもらうと、本当に嬉しい。ご飯の匂いがリビングに入ると漂ってきて食欲をそそる。外は夜でも暑いが室内はとても涼しい。
「今日は早かったな」
 もちろん、事件の要請で出かけたにしては、という意味である。
「うん。思ったより早く片付いた。よかったよ。……ごめん、夕食作ろうと思って途中だったんだけど、大丈夫だったか?」
 準備が途中で任せなければならなかった新一は、心配していた。
「平気平気。下拵えがしてあるもので作ったから、簡単だったし。新一随分上手くなった」
「そうか?」
「そうだよ」
 会話しながら、新一は上着を脱いでソファに掛けると椅子に座る。すでにテーブルの上には料理が乗っている。それに目を細めて喜ぶと。
「いただきます」
 新一は手をあわせてから、箸を付ける。
「うん、いただきます」
 快斗もまだ食べていなかったようで、一緒に手をあわせてから食べ始めた。
 あまり遅いと先に食べるが、ある一定までは快斗は食べないで待っている。その目安の時間が九時だ。それまでに連絡があれば待っているし、そうでなければ先に食べることにしている。
 夏場らしく、具たっぷりの冷やしうどん。大根と厚揚げの煮物。出汁巻き卵。豆腐ステーキの茸あんかけ。きゅうりと白菜の一夜漬け。さっぱりとしたメニューである。
「ああ、美味しい」
 夏は毎年食欲が薄くなる新一であるが、今年はよく食べる。
 それは、料理が美味しいからと快斗と一緒に食べるからであろう。そして、自分も料理に参加して作るからだ。自分だけのために作る料理は味気ない。が、誰かのために作る料理は味や出来が気になるし、美味しいといってもらえれば嬉しいし自分も美味しく感じるのだ。食が進まない訳がない。
 自分で作った料理がこんなに美味しいなんて、初めて知った。
「なあ、車校はどうだった?明日には予定通り免許取れるか?」
 ご飯を食べながら、気になっていた話題を新一は振る。
「ああ、取れると思う。予定通り明日試験」
「そっかー。いよいよだな」
「そうだね。やっとあの車も動かせるな……」
 車庫に並んでいる高級車だが、動かすことができない現状はもの悲しいものがあった。
「そうだなー」
 しみじみと新一も同意する。
 身の丈にあっているとは思わないが、誰も運転免許をもっていない家庭にある車ほど不要なものもないだろう。あっても、それはただの飾りだ。コレクターではないのだから、全く意味はない。
「朝から試験?」
「昼には終わるよ」
 試験は短時間で終わるし、免許発行もその後すぐだよと快斗は笑った。
「だったら、早く寝ないとな!ああ、待たせてごめん。お風呂入って準備しないと」
 快斗なら軽く合格できるだろうが、万全の体勢で挑んで欲しい。寝不足でなど行かせられない。
「だな。でも、ご飯はゆっくりでいいよ。消化が悪くなるし、新一が作ってくれたりんごのコンポートがあるから、それも食べよう」
「……そうだった」
 つい、うっかり新一は忘れていた。自分が作って冷やしておいたコンポート、そろそろ味もしみただろう。
「ご飯食べ終わったら、デザートしながらお茶飲んで、ゆっくりした方が身体にも精神にもいいから」
「うん」
 快斗の誘いに新一は頷いた。反論などあるはずがない。
 


 新一は結局ご飯を味わって食べ、その後に出てきたコンポートがガラスの器に盛られカスタードクリームが掛かかり更に美味しくなっていたことに驚いた。快斗は本当に芸が細かい。

 横には中国茶まで添えられていて、大満足の夕食だった。
 



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