「星に願いを 1章 3」






 いよいよ顔あわせの当日がやってきた。
 新一は、祖父一成に付き添われてあるホテルに来ていた。付き添いが祖父というところが今回のポイントだ。そう、普通なら両親であるはずなのだが、全ての黒幕というか元凶は互いの祖父同士に始まっているため、付き添いは祖父なのだ。
 新一が今日、顔をあわせる相手にも祖父が付いて来るはずである。そう新一は前もって聞いていた。
 さすがに、許嫁だから結婚しろとはいっても昔のように結婚式当日顔をあわせるなどという理不尽さも非常識さも持ち合わせていなかたらしい。それには心底新一は感謝した。
 顔あわせをしようと思うと一成から告げられ、新一は覚悟を一応決めた。
 自分の存在意義のために、多分、かなり何でも我慢できるとは思う。しかし、いくら何でも相手によりけりである。生理的に受け付けない相手だったら、どうしたらいいだろうと心配になる。所詮、男同士だ。友人付き合いができたらいいと思ったりした。友人同士とはいっても、仲良くなれる人間となれない人間がこの世の中には存在するのだ。
 新一は過去の経験からそれを身にしみて知っていた。
 
「今日の新一は綺麗だな。うん、よしよし」
 隣を歩く一成は、そんな馬鹿げた誉め言葉を投げてくる。
 あほか、と思ったが口には出さない。
 この祖父は、とんてもない孫バカなのだ。欲目でできているのだ。
「その洋服もよく似合っているし。デザインさせた甲斐があるというものだ」
 嬉しそうに相好を崩す一成に、新一はがくりと肩から力が抜けた。そう、今日新一が着ているスーツは一成がこの日のために誂えたものだ。わざわざイギリスから輸入した高級な布地を有名デザイナーにオーダーした。
 何のために着飾る必要がある?と本当は言いたかったがやぶ蛇になる気がして止めておいた。
 確かに、そのデザインスーツは新一によく似合った。新一の瞳にあわせたブルーの布地は糸にプラチナが織り込んであるらしく光によって美しく反射する。デザインも身体にそって滑らかな造りで余分な部分が何一つない。中に着ているシャツは白くシンプルだが、着心地は抜群に良かった。結んでいるのはユーロタイで、少し緩く遊んである。
 本人にあまり自覚はないが、一成が誉めるのも当然なのだ。
 元女優である母親譲りの美貌は、昔から輝かんばかりだった。最近では少し青年らしさが加わっているにも関わらず綺麗さに磨きが掛かっている。特に新一を印象深くするのはその蒼い瞳だ。二つとない至宝と一成が実は自慢していると新一は知らない。自慢された人々から……政治家や企業家など業界のトップに君臨する成功者……工藤御大の宝物と目されていると知らないのは新一にとって幸せなことに違いない。
 なぜなら、その美貌っぷりと後見者の大きさから密かに狙われていたからだ。
「では、行こうか」
 ホテルの長い廊下を歩いて、ある部屋の前まで来た新一はドアの向こうに待つ相手に、柄にもなく緊張した。一成が人の悪い笑みでもって新一を見るので、自分の緊張を知られたくなくて新一は一つ息を付くと平静を装って後ろを付いていった。
 
 
 
 許嫁との顔見せだ、と言われ連れてこられたのは都内にある有名なホテルだった。
 とうとうその運命の日がやってきた。
 来ては欲しくなかったけれど、避けられない日である。自分のこれからの運命を握る人間との対面だ。相手も、きっと嫌がっているだろう。今日という日が来なければよかったと思っているに違いない。誰が、喜ぶというのか。喜ぶのは、頭のネジが一本も二本も抜けている爺様達だけだ。日本を牛耳っているくせに、本当に馬鹿なのだから。自分が呆れたくなるのも道理だ。
 そんな本人には決して言えないことを快斗は考えていた。
 そうでもしないと、間が持たなかったのだ。
 もちろん、爺様が怖くて馬鹿なんだからと言えない訳ではない。馬鹿じゃないのか?くらい平気で言う。嫌味も不平もだ。
 言っても全く効果がないだけでなく、自分が口先だけでしか対抗できない男だと思われるのが嫌だった。口から出た言葉は己に跳ね返って来る。ひよっこと言われても未だ自分は反論する言葉を持たない。祖父からすれば、たかだか18年しか生きていない子供に過ぎない。
 
 快斗はホテルの一室で待っている。部屋を見合わしてみても、調度品が整えられたいい部屋だ。座り心地の良いソファに腰を下ろし、流麗な曲線でできた重厚な作りのテーブルの上にはお茶が用意されているため、二人はすでに口を付けていた。いい茶葉を使っているのだろう紅茶がポットとともに置かれている。
 相手を待っている間に、かなり飲んでいる。
 ただ、不味くはないが自分でいれるより少々味が落ちるの難点である。紅茶専門店ならともかく、こういったホテルの場合早く茶が出るように茶葉がブロークンタイプが多いだろうし、お茶をいれる人間は専門店のようにプロでもない。必然的に、及第点という味になる。
 快斗は内心ため息を付きながら、視線をまだ開かれないドアにやった。
 今日の快斗の服装は、漆黒のタキシードだ。重三郎からは奇術師の正装だからそれにしろと言われている。
 自分がマジシャンになることが反対のくせに、そんなことを言う。まったく、天の邪鬼な爺様なんだから困ったものだ。
 とはいえ、衣装的には慣れているから特別肩も凝らないから楽な方である。変に金のかかった衣装を着ろといわれなくてホッとしているくらいだ。
「そう、緊張せずとも、よいぞ」
「誰が……」
 快斗のなんとも言えない気分が現れた顔を見て、どこをどう勘違いしたのか、重三郎が楽しげに声をかけた。
「いやいや、やはり顔見せとは緊張するものだろうて。儂も婆さんの時はどきどきして心臓が口から出そうだったわい。おなごの気持ちはわからんもので、どうしていいかわからんかった。婆さんは美しかったしなあ。……快斗の場合は、手品の一つでもすれば、気が引けるのではないか?」
「あのなあ、爺ちゃん。相手は女子じゃないの。わかってるか?」
「そうはいうが、同じ人間ならそういった小手先に技があった方がアピールできるだろう?違うか?」
「アピールした方ががいいのか?」
 どうして男にアピールするんだ?必要なんてあるのか?
 甚だ疑問だ。
 快斗は祖父と会話していることが段々と疲れてくる。会話が噛み合わない。これは年齢のせいではなく、絶対相手の言い分を聞く気がない性格のせいだ。
「やはりだな、最初が肝心ではないか?折角だから、お前の実力を見せてみよ。こういう時に役立てんでどうするんだ?」
「……」
 反論する気も失せるというものだ。
 快斗がどう答えたものか、と悩んでいるとドアがノックされ開いた。



「あれ?」
「この間の?」
 扉が開かれ、果たしてそこにいたのは。
 部屋に入ってきた新一と部屋で待っていた快斗は、実は見せないが緊張の面もちで互いの姿を捕らえた。
 そして、顔を見合わせて二人はあっと驚く。
 まさか、この場で知った顔と出会うとは思いもしなかった。二人とも唖然として互いを見つめた。言葉も出ないとは、多分、こういうことを言うのだ。予想外、想像外の状況。相手に対して姿を思い描いていた訳ではないので、いざ映像が伴うと心底困惑した。なぜなら、1週間ほど前に自分たちは偶然出会っていたのだから。
「知り合いか?」
「これは、運命ぞ」
 祖父同士は、起こった事実に目を丸くしつつ大層楽しそうに親友の顔を見た。
 しかし、当事者の二人はおいおいとつっこみを入れたかった。確かに初対面ではないが、名前さえ知らないのだから。それなのに、爺共は勝手に挨拶しだした。
「カズちゃん」
「サブちゃん」
 そう呼び合い、孫を放っておいて互いの肩を手で叩き笑っている。
 
(カズちゃん?)
(サブちゃん?)
 
 新一と快斗の心の中は絶叫だった。
 一体、どこの誰が彼らをちゃん付けし、しかも「カズちゃん」「サブちゃん」などと呼べるのか。当然ながら、そんな親しい呼び方は初めて聞いた。
 あり得ない。普段の彼らを知っている身内からすれば、それが正しい認識だった。
 呆然と立ちつくす新一に、快斗がなんとも言えない顔で目線を投げる。それを受けた新一も微妙な顔をした。視線で会話しあっている内容は、この状況をいったいどうしたらいいのかということだ。そして、まさかこの場で彼の顔を見ることになるとは思わなかったという動揺もある。
「久しぶりだな」
「ああ。息災か?」
「もちろん」
「それは、何より」
 孫の気持ちなど我関せず、と爺達は上機嫌で挨拶を交わしている。その様子から、本当に仲の良い親友であることは理解できた。理解できたが、嬉しくもなんともない。置かれた状況は、最悪から脱していないのだから。
 しばらく楽しそうに近況を報告しあって満足したのか、爺達はやっと孫を振り返った。
「ああ、いつまで立ったままなんだ?新一。座りなさい」
 そう言って、一成は黒羽家が座る向かいのソファに腰を下ろした。新一はもう疲れてしまい言うがまま、大人しく一成の横に座る。
 一瞬、なんとも言えない沈黙が降りた。
 だが、もちろんそんな沈黙は関係がない爺共が話を進めた。
「今日という日を迎えられたことは、とても素晴らしいことだと思う。今までずっと我らは待ってきたのだから」
「そうだな。今日は我らにとって、有意義な1日となるだろう。まことに、喜ばしいことだ」
 一成と重三郎は、にやりと笑いあう。そうして、企んだような顔になると孫に視線を向けた。
「まずは、自己紹介といこうか。快斗」
 重三郎は横目に快斗をとらえ、視線で即した。快斗は内心の不満など綺麗に隠しにこやかな笑い顔を作ると口を開いた。
「黒羽快斗、江古田高校三年生。趣味はお菓子作りに甘いもの巡り。特にチョコレートは大好き。特技はマジックで、将来はマジシャン志望」
 シンプルである。シンプルであるからこそ、とても印象深い。
 事実、新一からすれば甘いものが得意であることは知っていた。チョコレートが大好きであると今わざと言ったことは、新一が渡したチョコが喜ばれたのだと理解できた。そして将来マジシャンになりたいと言ったことは、新一を安心させた。先日何か思うことがありそうだった彼の理由が、自分と同じものだったとは驚いたけれど。
 新一は一成の視線を横から感じ自分も口を開いた。
「工藤新一、帝丹高校三年生。趣味は読書。特技は推理。将来は探偵、多分な」
 快斗よりシンプルな自己紹介だった。
 けれども、新一が自分を語る時伝えたい事実はあまりに少ない。新一にとって、探偵であるという事実は、どんな事柄より重みがあった。そして、自分を形作る存在そのものなのだ。探偵である工藤新一。そうでない自分など、この世界に必要ない。
 一方、快斗は「探偵」という言葉に興味を引かれていた。
 「探偵」とは快斗にはあまりに縁遠い単語だ。
 新一は警察から要請されるほど探偵として活躍していたが、マスメディアには出さないことが前提であったため、一般には知られていなかった。その分警視庁内では知らない者がいないほど有名であるのだが。
 快斗でなくても、一般の人間に探偵は必要ない。まして、新一は若い。世の中で聞く私立探偵は浮気調査、素行調査などが多いのではないかと思われることからもある一定の年齢の人間を思い浮かべることがほとんどであろう。高校生が探偵と自分を称することができる、ということはそこに自負と成果がなければできないことだ。新一が出来もしないことを語るとは思えないし。
 快斗は、この場で質問してみるべきかと一瞬悩んだ。
 余計な発言は、この後の展開がどうなるか予測不可能だったからだ。
「新一は、警察からも頼りにされるくらい優秀な探偵なんだよ」
 一成が知らず快斗の問いに自慢そうに答えた。
「快斗のマジックの腕前もプロ並ぞ。見事なものだ」
 対する重三郎も孫を自慢した。
「なんて似合いなんだろうと思わないか?見たところ、快斗君は文句の付け所のないいい青年だ」
「そうだろう、そうだろう、儂もそう思う。新一君は、快斗には勿体ないくらいの美人だしな。三国一の美人とはこのことだ。全く果報者だわ」
「そうだとも。さすが、今まで待った甲斐があったものだ」
「儂らの今までの行いの賜だわ!」
「「……」」
 どうしてここで孫自慢から己自慢になるのか本人達には理解できない心情だ。自分達がもし口を挟んだらどう展開が転んで行くのか、妙に不安を感じる。
「誠に、これ以上ない縁談だ」
「やはりなあ、思った通りだ」
 このまま会話はどこへ行ってしまうのかと新一と快斗が不安を募らせていると、爺達は更に爆弾発言をかました。
「そうそう。すでに新居が用意してあるから」
「二人は、安心して暮らせばいい」
「「新居……!?」」
 二人の声が知らずに揃った。
 衝撃の言葉だ。いきなり、何を言い出すのだ、この爺共!と二人とも心中で叫んだ。
「それほど喜んでもらえると、用意した甲斐があるものだな」
「本当だ」
 声を立てて笑いあう爺共に、若者である当事者は二の句が継げない。
「……誰も、喜んでないって」
「新居を勝手に用意されて喜ぶ人間がどこにいる?」
 だが、爺共は若者の反論など聞いちゃいない。
「ああ、そう拗ねる必要はない。好きなようにリフォームしていいから。ファブリックはピンクがいいか?それともカントリーか?」
「新婚は、やはり甘い感じがいいのではないか?」
 ピンクな夢を見すぎの爺共である。自分達の若い頃は、さすがに実現できなかったことを次世代で果たそうと思っている節があると伺える。
「新一。そこの新居には素晴らしい蔵書が入った書庫が作ってあるぞ。おまえの大好きな分野の本が山のようにある」
「え?」
 一成の言葉に新一はぴくりと反応した。
「快斗。その新居には、部屋もたくさんあるし、倉庫もあるぞ。お前が実家では狭いとこぼしていたマジックの道具の研究もしたい放題で、生き物だって好きなだけ飼える。自分の鳩や兎を存分に育てたいと言っていたらしいじゃないか」
「……どうしてそれを」
 快斗は複雑そうに口元をひきつらせた。
 狸爺は、飴と鞭を使い分けている。さすが、この世界の重鎮だ。素敵な狸っぷりだ。
「……さてと、これからは若い者に任せようか」
「ああ。積もる話もあるだろうし。儂らは別室で茶でも飲もうぞ」
 見合い婆の口調でそんな定型文を口にすると、それはでは爺達は立ち上がった。
「ここにいてもいいが、このホテルの庭もティルームも世間で評判だそうだから、入ってみるのもよかろうて」
 そんな捨て台詞を吐いて、爺共は足取りも軽く部屋を後にした。
「「……」」
 そのいっそ清々しく憎らしい後ろ姿を見送り、新一と快斗は訳もなく無言で見つめ合った。疲れた色の見えるお互いの表情が、もの悲しい。
「ここでもう一度自己紹介も何だけど。俺は、黒羽快斗、18歳。将来はマジシャン志望で現在鍛錬中の身だ、知っていると思うけど」
「俺は、工藤新一、18歳。現在探偵をしていて警察に協力中。そして、これからもする予定。知らないだろうけど」
 先ほどした自己紹介とは少しだけ変えて本心を伝えあう。
「今更取り繕うのもあれだから、快斗って呼んで。それでもって、意見交換というか打開策を練ろう」
「賛成。快斗、俺も新一でいいから。俺たちの置かれた状況は限りなく悪い。相手があのクソジジイだからな」
 新一は大きく頷き同意した。現状の理解は絶対必要である。
「じゃあ、新一。まず俺の方から説明しようか」
 快斗は、まず父親から初めて許嫁がいることを知らされた話をして、その後爺様のところへと乗り込んで求めた回答によって、ここにいることを明かす。
 許嫁がいると言われ、結婚しないなら自分の夢であるマジシャンへの道を邪魔するということ。自分の後を継げとうるさいこと。結婚すれば、それも諦めるといったこと。
「……てな訳だ。それで、断れずにここに来た」
 快斗の説明に新一は何度も相づちを打ち、真剣に聞き入った。相手の状況はそのまま自分に起こったことなのだ。
「俺も同じようなものだな。父親から許嫁がいるって聞かされてジジイへと抗議に言ったら探偵をこれからもしたいなら受け入れろときた。断ったら警察からの要請や依頼も妨害するそうだ」
「問題は、あの人達に今現在の俺達では歯が立たないことだ」
 新一の説明を快斗も重々しく受け止め、認めたくない事実を口にした。
 己の力だけで、生きていく力くらいあるつもりだが、それは何の妨害もない場合だ。妨害くらい何様のものぞと言いたいが、そんな簡単な相手ではない。意気込みだけでどうにかなるものではないことを残念ながら知っていた。
 敵は、この日本、世界で力を揮うことができる御大。彼らがやると言ったら、最後だ。身内だからと甘やかさない。彼らは目的のためなら手段など選ばない。
 本気で、日本でもそのうち数年後にパートナー制度ができるかもしれない。
 わざわざ孫達を海外へとやる気はないと予測が付く。実現するまで海外でパートナー制度ができたことを理由に、まとめてしまうつまりなのではないだろうか。そんな事態が簡単に想像できてしまう。
 本当に、恐ろしい老人達だ。
「そうだな。それが紛れもない事実だ。今の俺達には全く太刀打ちできない。悔しいけど。つまり、ジジイが言うように結婚や新居での生活は避けられないってことだ。……まさか新居まで用意しているとは思わなかったけど。仕事が早すぎだ、老人のくせに……」
「……早いな、爺のくせに」
 ため息が落ちた。だが、快斗はすぐに上を向くと新一に真剣な顔で提案した。
 言いなりになる気はなくとも、今は反抗できない理由がある。
 新居で暮らしてもすぐに結婚できる訳ではない。もし、本気で外国に移住したり国籍を移したりしてパートナーにさせるつもりでもそれ相当の時間がかかる。
「あのさ、お互いにどうしても反抗できない理由があるだろ?家を出たとしても爺達はどこまでも追ってきて俺達の願いは叶わないだろう。だったら、ここは一旦結婚や同居にも同意しようと思う」
「うん、俺もそう思う。だって、ここで逆らっても何にもならないからだ。あいつらは、絶対に言うことを聞かせるつもりなら何でもする。俺達だけでなく他の人にも迷惑がかかるだろう。それくらい凶悪だ」
「だからさ、ひとまず結婚しよう。結婚とはいってもイギリスのパートナー制度みたいな気持ちでいればいいと思うんだ」
「あ、それ俺も思った!調べたんだ、この話が来てから。イギリスの『同性市民パートナー制度』は16歳以上の同性であれば友人同士でも登録が可能だ。異性同士の結婚とは異なる法的関係としている」
 他の国でも同性同士でのパートナー制度はあるし、その国によって違うこともある。養子を認めている国、認めていない国。外国人でも移民すれば認める国。法律というものは、その国によって、こんなに違うのだと改めて二人は思った。
「ああ。だから俺達にはぴったりかなと思うんだ」
「本当にな。パートナーっていうか運命共同体?そういう感じ」
「まさに、それだな!共犯者だ」
「共犯者な」
 二人はくすりと笑いあった。互いの間柄を表すのに上手い言葉だ。
「それにさ、ほとぼりが冷めるまでだ。あの凶悪な爺共が生きている間だけだ」
 パートナーになっても、あの凶悪な爺が生きている間だけである。いくらなんでも、百歳までは生きないだろう。よしんば百歳を越えても、あと20数年。未来のために我慢できない時間ではない。
 今回の原因である爺達がいなくなれば、さすがに両親達はそこまで躍起にはならないだろう。元々無理があるのだから。
「商談成立。これからよろしくな。新一」
「こっちこそ。相手が快斗で良かった」
 にやりと笑って二人は握手を交わす。これからの人生における運命共同体、共犯者の成立である。二人なら、爺共にも対抗することができるだろう。
 

 二人の未来は、多分明るい。
 
 




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