緑濃い植物や色濃い花々が茂る庭園に、幼い少女と少年が向かい合うように座っていた。 ひらひらした白いワンピースを着た少女は未だ幼くとも将来を約束されたように可憐で愛らしい。対する少年も、凛々しさと愛らしさを十分に併せ持ち将来は少女の隣にあっても見劣りしないだろう容姿をしていた。 二人とも、四、五歳ほどだろうか。 まだ力無い子供でもすでに自我やあふれる感情は豊かに実る年齢だ。 二人は互いに楽しそうに笑いあい他愛ない会話を弾ませる。そのためこぼれるような高い笑い声が庭園に響いていた。 「ほら、できた!」 少女がさっきから小さな手で器用にせっせと編んできた花冠を掲げてみせ、少年の頭上に乗せる。少年の柔らかそうな癖のある髪の上に乗せた白い花で出来た冠に、少女は満足そうに笑った。 少年は頭上の花冠を手で確かめ照れたように、「ありがとう」と言いながら「でも」と笑い返して花冠を自分の上から丁寧に取ると代わりに少女の頭に乗せた。 「うん、やっぱりしーちゃんの方がにあう!」 少年は、きらきらと輝く長い黒髪と少女の白く愛らしい顔を眺めて頷いた。 「……そう?」 「そうだよ!ぼくのためにつくってくれたのはうれしいけど、しーちゃんの方がぜったい、かわいい!」 少年は力説した。その大仰な仕草に少女は小首を傾げ瞬くと、やがて美しく微笑んだ。その笑顔に見惚れ少年はある決心をして上着のポケットから一つの小箱を取り出す。 深い臙脂色をしたビロードの箱は一目で宝飾品が入っているとわかる代物だ。少年はそのふたを開け、中に収まっている指輪を指でつまみ出す。そして、少女の白く細い手を取ると左手の薬指にそっとはめる。儀式めいた厳かな心で望んだが、生憎うまくいかなかった。指輪がくるりと回るのだ。子供の小さく細い指では大人サイズはぶかぶかなのだ。少年はしかたなく少女の親指にはめ代えた。それでも大きいが、少年は些細な問題は無視をし、少女の瞳を真剣に見つめると息を吸ってから口を開いた。 「しーちゃん。ぼくとけっこんして!」 「けっこん?」 「うん。ぼく、しーちゃんがだいすきだ。だから、ぼくのおよめさんになって!」 少女は突然の言葉に驚き、少年を見つめてから己の親指にはまった指輪に視線をやった。青い宝石が付いた銀色の指輪。俗に言う婚約指輪だ。 「はじめてみたときから、しーちゃんをすきになったんだ。ひとめぼれなんだ!」 少年は熱心に訴える。 「きーちゃん」 「うん」 少女の己を呼ぶ声に、少年は緊張して待つ。 「ありがと。うれしい」 頬を染めてお礼を言う少女に少年の胸は高鳴る。うんと言ってもらえたらこんなに嬉しいことはない。一目見た時から惹かれずにはいられなかった少女だ。両親に連れてこられた場所で紹介された少女は少年が生きてきた短い中でこれほど胸をときめかせたことはないほど愛らしかった。その微笑む笑顔も美しい瞳も心地よい声も細い指も、すべてが少年を魅了した。 「でもね、きーちゃん。ひとつ、やくそく」 少女は回りそうな指輪を手で押さえつつ、少年を真っ直ぐ見つめる。 「やくそく?」 「うん」 「やくそくをまもったら、けっこんしてくれるの?」 「いいよ」 色好い返事に少年は舞い上がった。 「なら、ぜったいにまもるから!」 「きーちゃん。なら、・・・・・・・・・・・・・・・・・してね」 少女の声を突然の風が浚っていく。そして、長い黒髪とスカートを揺らすため少女は髪とスカートを押さえる。伏せた睫毛が白い顔に陰を作り風に乱れる髪とあいまって、美しい情景だった。少年はそれに再び見惚れてから、あわてて頷いた。 少年の耳にはちゃんと少女の言葉は届いていた。 「なら、やくそくはまもるよ!」 大きな声で宣言して、少年は少女をぎゅうと抱きしめ頬にキスをした。 |