「名探偵の恋人」2




 大きな門扉の前、無言の威嚇に圧倒されてインターフォンが押し辛い。
 高い塀に囲まれた、高級住宅街にあるとは思えないほどの広い土地に立つ豪奢な洋館。鬱蒼とした木々が館を守っていると同時に、初めての来訪者や道すがらの人々を威嚇する。

 ピンポーン。

 勇気をもって押したインターフォンが響くと自然に緊張してくる。宮本は背筋を伸ばして、返事を待った。

 「………はい。どちらさまですか?」

 聞き覚えのある、涼やかな声音が聞こえた。

 「あ、○○テレビの宮本と申します。突然すみません。失礼とは存じていますが、どうしてもお話ししたいことがありまして、少々お時間頂けませんでしょうか?」
 「○○テレビ?………取材ですか?」
 「どちらかというと、取材ではありません。突然来て取材をお願いするほど常識がない訳ではありませんから。本当に、少しだけお話を聞いて頂きたいだけなんです」
 「話?聞くだけ?」
 「はい」
 「………わかりました。お入り下さい」

 そして、カチリという音がすると門扉の鍵が解除される音がした。

 「ありがとうございます。それでは、失礼します」

 宮本はお礼をいって、扉を開けて敷地内に入った。玄関までの小道の脇には背が高く大きな木々が茂りプランターに植えられたシクラメンなどが咲いていた。歩いた先のこれまた重厚な扉の玄関。宮本と川瀬は、自然に顔を上に向けてきょろきょろと見ていた。
 そして、玄関の扉が開いた。

 「こんにちは」

 この屋敷の主である工藤新一が立っていた。

 「こんにちは、突然すみません」
 「こんちには、工藤君」

 二人は出迎えてくれた新一に頭を下げる。

 「あれ?………ひょっとして、お逢いしたことありますよね?」

 新一はその印象的な二人連れを見て、過去の記憶が蘇る。そう、つい最近の話だ。

 「覚えていて頂けましたか?」
 「もちろんですよ」

 新一は警戒心を解いた笑顔で頷く。

 「嬉しいわ。えっと、今まで名前を言うことがなかったんですが、私、川瀬直美といいます」

 川瀬はにっこりと微笑んで自己紹介をする。

 「川瀬さん?」
 「はい」

 川瀬はそれはそれは嬉しそうに頬をゆるめる。大好きな新一から名前を呼んでもらって大感激なのだ。

 「私は、宮本といいます」
 「宮本さんですね?川瀬さんの先輩なんですよね?」
 「まあ、そうですね」

 宮本は苦笑する。そんな川瀬と宮本を目を細めながら観察して、新一は微笑した。

 「どうぞ」

 そして室内へ促した。
 


 
 通されたリビングはこれまた広かった。
 飴色の優美な曲線が印象的なテーブルセット。L字型に配置された柔らかそうなソファ。大型のテレビに重厚な作りの食器棚。並べられた高級なティセットやグラスの数々。厚みのあるガラスの大きな窓からは風が入りレースのカーテンを揺らしていた。

 「そんなに緊張なさらないで下さい」

 新一は苦笑しながら、借りてきた猫のように居心地悪そうに座っている宮本に声をかける。

 「お茶も冷めないうちにどうぞ」
 「ああ、ありがとうございます」

 宮本は目の前に置かれたカップに手を伸ばして口を付ける。
 新一が用意した珈琲は美味しかった。宮本の隣で川瀬は珍しそうに部屋をきょろきょろと見回して、促された珈琲を飲む。彼女は宮本のような緊張は見られなかった。

 「美味しいです!」
 「そうですか?」
 「はい。工藤君は珈琲好きなんですよね〜。さすがです」
 「よくご存じですね?」
 「結構みんな知ってると思いますけど?」

 川瀬はきょとんとして、首を傾げる。
 新一の珈琲好きは警視庁や彼のファンには公認であった。いつだったか、かなり昔テレビでもそう言っていたことがある。もちろん彼が自主的に語った訳ではなく、父親優作について聞かれた時に父親と同じ珈琲党だとついでにように語ったのだ。

 「………そうなんですか?」
 「ええ。工藤君のことはみーんな興味がありますから。珈琲好きくらいは当然です」
 「………そうですか」

 本当は納得いかないのだが、川瀬ににっこりと当然のように言われると新一も頷く以外ない。少しだけ肩をすくめて宮本に視線を移す。

 「それで、お話とは何でしょう?」
 「はい。実は私どものテレビ局の企画で工藤さんを取り扱ったものが上がっています。企画タイトルは『平成のシャーロックホームズの事件簿〜日本警察の救世主〜工藤新一』。今まで工藤さんが関わった事件を特集するものですが………、世の常で何か目を引く特ダネ的なことを調査したり取材したりすることは当然予想されます。工藤さんが現在関わった事件に名前を出していないことも、マスコミに騒がれることを好まないことも存じています。過去の事件にしても特集されることは望まれないでしょう」
 「………ええ」
 「本当なら、その取材をしなくてはならない立場にあるのですが………、実はそれに力を入れる気はありません。今日は、現在そんな話が上がっていると、なるべく早く知って頂きたいと思って来ただけです。ですから、突然失礼かと思いましたがお邪魔させて頂きました」
 「………」

 真摯な宮本の言葉に新一は無言で見つめた。

 「………つまり、情報提供に来たって訳だね?」

 そこへ、この場にいない第三者の声が響いた。3人は視線をその声の主に向ける。

 「快斗」

 新一が名前を呼んだ。
 リビングの扉にもたれるように立っている人物は、目を細めて口角を上げた。
 背が高く、細身だが均等の取れた身体だと服の上からでもわかる。少しくせっ毛の髪に端正な顔を彩る紫暗の瞳は意志の強さを物語るように輝いている。纏う雰囲気が常人とはかけ離れた存在であると思わせた。
 そのまま彼はリビングを横切り新一の隣に座った。

 「快斗?」
 「ああ、さっき来たとこ。そしたらお話中だったからね、遠慮してた」

 新一に快斗と呼ばれた若者は新一を安心させるような微笑を浮かべてさらさらの髪をくしゃりと撫でる。新一はそれを自然に受けて、嬉しそうに微笑んだ。

 「そっか」
 「………昨日はよく眠れてない?クマがある」
 「少しだけだから。そんな顔するな」

 快斗が新一の頬に手を添えて眉をひそめるので、新一はその指を上から握って、大丈夫だと伝える。
 なぜか一瞬にして二人の世界が作り上げられているのを唖然と見つめる宮本と興味津々と顔に書いている川瀬は、無言で目の前の二人を見守った。というか、口など挟めるような雰囲気ではなかった。

 「ちゃんと睡眠取りなよ?」
 「わかってる」
 「新一のわかってるは、信用できないなあ」
 「………快斗!」

 新一は上目使いで快斗を見上げた。それにくすくすと微笑んで、心配なんだよと耳元に囁く。

 「新一、お客さんいいの?」

 新一は快斗に言われて、瞳を瞬き宮本に視線を戻した。

 「えっと、宮本さん?」

 呆然と見つめている宮本に我に返った新一が首を傾げながら呼んだ。

 「………は、はい」
 「さっきの話ですけど、わざわざ忠告に来て下さったんですか?」
 「………忠告、というか何といいましょうか。そういう企画が上がっているとだけ早めに知っておいてもらえれば、被害は少ないかな、と………」

 真意をどう告げてよいやら宮本は悩む。
 宮本が新一に逢いに来た理由は、情報提供にある。
 取材など全くするつもりはなく、早急に事実を知らせて彼に、彼の周りに対処してもらうためだ。本人よりもどちらかというと彼を守る人間に伝わって、この企画を潰すなら早いうちにしてもらえば被害がテレビ局側にも新一側にも少ないと思われた。

 「………懸命な判断だと思いますよ」

 そんな宮本に快斗が口を挟んだ。
 誰もそれを咎めることなどしない。自己紹介などしなくても新一と近しい間柄だとわかるのだから。

 「本人が一番わかっていないんですけど………。まあ、このことが知れれば、警視庁も黙っていないでしょう。すぐに公に則って対処すると思いますよ。それに、新一の側にいる者が彼を危険な目にも人目にも晒せさせませんよ」

 快斗は意味深なことを言って請け負う。

 「快斗………?」

 新一が横で快斗の様子を伺うように見つめてくる。

 「彼は早いうちに対処できるように来てくれたんだよ。まだ企画段階で進んでいないんだから、取りやめてもらうなら早い方がいいでしょ?」
 「そうだけど。………お前、何かするのか?」
 「………どう思う?」

 快斗は楽しそうに目を細める。その目は楽しげに煌めいているため、新一は答えを迷うことがない。

 「………やりそうだ」
 「よくわかってるね。じゃあ、そういうことだ」
 「………」

 止めるべきなのか、容認すべきなのか。
 テレビで特集など組まれることは遠慮したい。人目につかないようにしてるのだから、当然の反応だ。そのために力を貸してくれるのはありがたいと思う。が、問題はやり方というか、彼に遠慮の欠片がないことだろう。新一が関わることに、容赦がないのだ。

 (嬉しくない訳じゃないんだけどさあ………)

 新一は悩む。

 「あの、工藤君」

 新一が眉根を寄せていると、川瀬が徐に話しかけた。

 「はい、どうしました?川瀬さん」
 「彼が工藤君のきらきらの素ですか?」

 川瀬は自身が瞳をきらきらさせて、そんなことを聞いた。

 「………」

 (きらきらの、素???)

 前回の川瀬との会話を思い出した新一は途端に頬を染めた。
 川瀬は新一がきらきらしている、恋人がいるのではないか?と推測したのだった。そして、恋人は新一に愛を注いでいるとか、甲斐性抜群とかものすごい言葉でもって誉めていた。新一は脳裏に蘇る記憶に、自身で照れてしまった。

 「やっぱり、そうなんですよね?わー、実物に逢えて嬉しい!!!」

 川瀬は両手を組んで、うっとりと悲鳴めいた声を上げる。

 「何のこと?」

 快斗が新一に聞いてくるので、余計に新一は耳まで赤く染めた。

 「いいんだ、気にするな!別に何でもないから!」

 何でもないなど、到底思えない程のうろたえぶりである。理由が知りたい快斗は川瀬に視線を向けて、「どうしたんですか?」と聞いた。

 「あー、つまりですね。この間逢った時、工藤君が………」
 「言わないで下さい!!!川瀬さん!!!」

 新一が声を上げて止める。
 新一が絶対の存在である川瀬は黙った。そして、新一の可愛らしく頬を染めた顔と理由を知りたそうな快斗を交互に見つめて、結論を出す。

 「私の口からは言えません。大概予想は付くと思いますけど………。どうかいつまでも工藤君に愛情を注いできらきらさせて下さいね」

 満面の笑みで川瀬は答えた。
 確かに、新一に止められたように話してはいない。が、その言葉は言ったも同然だった。当人にわからない訳がなかった。

 「わかりました。任せて下さい」

 快斗はにっこりと上機嫌で微笑んだ。
 川瀬の言葉の意味を取り違えることなく受け取って、快斗は心の底から喜んだ。表面だけではない、本心からの快斗の笑みに川瀬も嬉しくなって安堵する。

 「はい!」

 こくりと川瀬は頷く。
 なぜだか、そこには友好的な雰囲気が漂った。
 新一は珍しい光景を見て内心驚愕する。
 快斗は新一に関する限り心が狭い。新一を殊更大切にするのに、新一に関わるというか近寄る人間を嫌う。虫けらみたいに毛嫌いして大阪の友人などはその最たるものだ。おかげで最近いいことがないらしい。東京にも来れない、とぼやいていた。
 唯一の例外は隣に住む博士と志保だけだ。
 
 (それが、どうだろう………?嬉しそうな顔しちゃって!)

 新一は快斗の馬鹿、と照れ隠しに悪態を付きながら、睨んでみせる。

 「どうしたの?そんなに可愛い顔して?」

 しかし、快斗の目から見たらどんな新一も可愛いで済まされる。もっとも睨む新一は誰が見ても凶悪に可愛かった。

 「………馬鹿」

 馬鹿としかいいようがない。
 新一は少々悔しくて快斗の服の裾をぎゅっと掴んだ。
 そこはかとなく甘い雰囲気が伝わってきて、そろそろお暇しようかと宮本と川瀬は顔を見合わせる。そして、お互いに頷いた。

 「工藤さん、それでは失礼します」
 「失礼します」

 立ち上がった二人に新一も顔を上げる。

 「いえ、こちらこそ、ありがとうございます」

 ぺこりと新一が頭を下げるので、二人とも手をふってとんでもない、と断る。
 玄関まで二人を見送りリビングに戻ってくると快斗が新しいお茶を入れていた。今度は紅茶の香りが室内に立ち上っている。

 「はい、どうぞ」
 「ありがとう」

 ソファに座りリラックスしながら紅茶を飲む。喉を通っていく暖かい温度が身体から力を抜き、ほっとする。そして、自分の横にある優しい快斗の顔を見つめて、今共にある幸せを噛みしめる。
 
 
 聖夜の奇跡、クリスマスの夜に両思いになった快斗。
 それまでは、仮初めの姿しか知らなかった。純白の衣装に身を包んだ華麗なマジックで警察を翻弄して宝石を盗む怜悧な存在、怪盗KID。白い衣装を脱いだ正体は自分と同じ年齢で隣町に住むマジックが得意な青年、黒羽快斗。
 それ以来、彼は工藤邸に顔を出すようになった。
 いつもいつも新一に会いに来る。
 今まで夜しか逢うことができなかった短い時間は朝から昼、夜まで一緒にいられて新一を幸福にした。隣にいてくれる、それだけで満ち足りた。
 探偵の恋人は怪盗だった。
 けれど、罪悪感などまるで感じなかった。
 自分は確かに探偵であるのだが、その前に一人の人間で。
 人だって好きになる。一緒にいたいと思う感情がある。それが例え人に避難されることでも全く構わなかった。
 探偵は犯罪者を捕まえるもの、相容れないもの、親しくなんてなれない。まして恋人など論外だろう。けれど、新一は快斗を選んだ。他人の価値観なんてどれほどの意味があるだろう。

 (快斗………?)

 新一は心の中で彼の名前をよぶ。
 その真実の名前をよべる幸せ。どれほど一緒にいても、慣れない感覚。

 「どうしたの?」

 新一の視線に快斗が伺うように瞳を覗き込む。

 「何でもない………」

 薄く微笑すると新一は快斗の肩にことりと頭を預けた。己の安心できる場所だ。
 快斗は新一の頭を撫でながら、漆黒の髪を何度も梳く。さわり心地のいい絹糸みたいな髪は快斗のお気に入りの一つだ。新一の身体で快斗が嫌いな場所など一つもないが、一番どこが好きかと聞かれたら、蒼い瞳だと答えるだろう。澄み渡るような曇りのない宝石は世の中の真実が見える希有なる至宝だが、快斗は自分を見つめる時が一等愛おしい。自分だけを映す瞳は、心をさえも自分のものだと自負できる。
 彼を手に入れてから、際限がない独占力と執着心。
 それまでは我慢できていたものが、全くできなくなっている………。我ながらに、なんとも笑える状態だ。けれど、妥協もできない上我慢するつもりもないからもてる力を使い新一を独占している。彼に近寄る虫けらを蹴散らして、ついでにどこかに捨てられたらどれだけいいか、と思ったりもする。一応、蹴散らすだけで自制心を保っているが………。
 何かあったら保証できないな、と自覚がある。

 「新一」

 愛おしい名前をよんで顎に手を添えて顔を上げさせる。煌めく蒼い瞳を認めて、優しく口付ける。そして、甘い唇と吐息をしばらく堪能した。
 




 「どうしたんだ〜〜〜?何が起こったんだ〜〜〜?誰か教えてくれ!!!」

 佐々木ディレクターの叫び声が部屋中に響き渡った。
 
 一言でいえば、春の特番の企画は中止である。
 その理由はいくつかあるが、一つ目は警視庁からの正式な通達である。
 工藤新一に関する報道の規制。
 未成年である民間人の無償の協力者にマスコミで騒ぎ立ててプライベートに踏み込むなど言語道断。絶対に、許さない、とのことである。
 これを無視すれば警視庁、警察官を敵に回すことになる。
 メッセージを伝えに来た警部は「夜道には気を付けて」と意味深な言葉を呟いた。
 恐怖であった。
 
 そして、テレビ局内にある工藤新一に関する資料、ビデオが忽然と消えた。
 今までちらりとでも映った貴重な映像一つ残らず、消滅した。これで特番どころか、何かあった時でも工藤新一の映像、写真一枚使えなくなってしまった。テレビ局としては大損害である。
 佐々木ディレクターはそのせいで、かなり立場が悪くなった。
 
 それどころか、テレビ局の上層部から圧力がかかった。
 佐々木が出した企画に賛成してくれていた人間は手のひらを返したように冷たくなった。一言、あれはなしだ、と会議で言われたのだ。
 順風満帆だった彼の人生はいきなり暗闇の海に放り出されたようなものだった。
 絶叫している佐々木を少しだけ同情的に見ている宮本と川瀬は顔を見合わせて吐息を付いた。
 
 
 「先輩〜、やっぱり思った通りですね」
 「まあな。思ったよりすごいけどな」

 宮本は怖い、怖いと身体を振るわせてみせた。顔は面白がっている。それでも心の3割くらいは佐々木が哀れで可哀想だとは思う。なぜなら知らなかったのだから。けれど、知らないのは言い訳にはならないのだ。

 「警視庁はわかりますけど、資料やビデオが消えたのは誰がやったんでしょうか?一応犯罪ですから、警察の人に言ったみたいですけど………きっと見つかりませんよね?」
 「だろうな。出てくるとは思えない。誰がやったかなんて考えるだけで恐ろしい。警察も本腰なんて入れる訳ないしなあ」

 一夜にして消えた工藤新一の資料。
 それができる人間のいかに少ないことか。

 「誰かなんて考えると、私は嬉しくなりますけど」

 川瀬はにっこりと瞳をきらきらさせて笑う。
 その表情から読みとれる思考、もとい妄想は限りなく正解に近い気がして宮本は眩暈を覚える。しかし川瀬は宮本の杞憂など気づきもしないで質問をする。

 「先輩、上層部はどうしていきなり態度を変えたんですか?」
 「………俺の予想では、何か弱みでも握られてるんじゃないか?」
 「弱みですか?」
 「ああ。女性関係とか、賄賂とか、あるだろ?胡散臭い、叩けば埃が出る身体だからなあ。それを散ら付かせられたら、言うことをきくしかない」
 「………なるほど〜。でもでも、それは誰が?」
 「………」
 「先輩?」
 「俺は死にたくないからなあ………。そんなことは口が裂けても言えない」
 
 (怖いだろーが。こんな誰が聞いているともしれない場所で)
 
 「誰でもいいんですけど、工藤君愛されてますよね」
 「そうだな、それは同感だ」

 川瀬のまとめの言葉に宮本は大きく頷いた。その一点に尽きるのだ。
 できるなら、今後あまり関わりあいたくないと宮本は思った。遠くで見ているだけでいい………。心からの望みだった。


 そして、佐々木ディレクターはその後スキャンダルに襲われて退社したらしい………。


                                                  END



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