「Colors」1ー14







 午後の部が終わり、本日の合計が出ると。
 江古田から、白馬、和葉、本堂がやってきた。一緒に園子と蘭も帰ってきた。
 彼らはすでに閉会式を終えている。ほぼ僅差で、江古田が買った。その差、1点。
 帝丹もちょうど閉会式が終わったところだ。
 合流して、これから生徒会同士の試合が行われる。5年周期で変わる種目の今年はチェスだ。
 本部ではさすがにギャラリーが多すぎるので、四季会室へと移動する。
 
「さて。では始めましょうか」
 園子が仕切る。
「江古田から、どうぞ」
「僕が出ます」
 白馬が前に進み出る。
「帝丹からは私が」
 キッドが前に出た。双方が静かに視線をあわせ、やがて席に着いた。真ん中にあるチェス盤はずっと部屋に出しておいたものだ。作りもしっかりした代物だ。
 それぞれ同じ生徒会の面々は、代表者の後ろで試合を見守る。
 時間は一時間だ。本格的にやると決着が付かないため時間制限を最初から付けている。
 
 白馬が白、キッドが黒の駒と決め試合は始まった。
 駒を置く音だけが室内に響く。緊張感の中、二人は見守っている人間にはわからないが、頭の中をめいっぱい動かして考えているのだろう。
 
 新一も盤上を見ながら自身も考える。
 あの駒を動かして、ああすると?頭の中の組立は、盤の上でも同じように繰り広げられた。
 白馬もキッドもチェスは慣れたものだから、攻防が続いている。実力が拮抗していると、、見ている方も面白い。
 さて、どちらに軍配が上がるだろう?
 キッドを応援はしていても、冷静に頭脳ははじき出す。何かを考えると他のことが疎かになるのは新一の悪い癖だ。深く意識に奥に沈み、自分も駒を動かしている気になる。
 こつん、と置かれるクイーン。
 そこを攻めるビショップ。
 音が聞こえなくなる。
 駒の動きだけを目は追いかける。
 
 皆が、息を潜めて見つめる先。
 
「チェック・メイト」
 
 声が響いた。
 
 
 
 
 
「やったわよ!」
「ほんとーね」
 園子と蘭が感激で抱き合っている。これほど感情を霰にするのは珍しい。
「お疲れさま。最後の攻め方、よかったな」
 にこりと笑う新一にキッドも知らず肩に入っていた力を抜いて、新一を抱きしめた。
「新一が出れば勝てたと言われたくなかったですから。せっかく、私にと言ってもらったのに」
 キッドの意地を聞いて新一はよしよしと自分より上にある頭を撫でる。髪もくちゃくちゃと掻き回して、がんばたよなと労った。それに、ええと甘えるようにキッドは答えた。
「あー、いくらなんでもそれは酷いんじゃないですか?新一君」
 白馬が見せつけられて、情けない声で訴えた。
「でも、キッドが勝ったからな」
 至極当然と返されて白馬は、ふと思案した。
「なら、もし僕が勝っていたら、誉めてくれたんですか?」
「四季会としては、残念だけど。昔なじみとしてならな」
 新一の答えは簡潔だった。基本的に、幼なじみ、昔なじみには優しく甘い。
「それは、惜しいことをしましたね。来年はがんばります」
 くすくすと笑って白馬は宣言した。来年は彼らは3年生である。四季会は選挙ではないが、江古田は生徒会長と副会長は選挙のはずだ。
「……白馬って実はしつこかったんやな」
「白馬君、結構アレなんやな」
 服部と和葉の会話は幼なじみに通じるものがあった。
 紅子は楽しそうに笑うだけで、……でも来期も副会長をやっていそうで怖い……青子も嬉しそうにしているだけだ。
 園子と蘭は、あれまあと思いながら今更な展開なので、流すことにした。そして、力一杯欲求を宣言した。
「新一君。打ち上げしよ?ね、大宴会!」
 園子の宣言は、つまり工藤邸で酒盛りしようと言っていた。何かの折りに工藤邸に集まるのは常だった。
「そうね!やりましょう!」
 蘭も乗り気だった。
 心が高揚する日は、宴会に限る。高校生とは思えない思考回路をしていた。
「……いいけど。キッド、平気か?」
「ええ。そのくらい夕飯作れますよ」
 新一に聞かれてキッドは目元をゆるめて頷いた。
 
「いいですねえ。打ち上げ」
 羨ましいと白馬が言うと服部が哀れに思ったのか、白馬の肩を叩いた。
「俺らもやればいいだろう?負けてもさ、残念会で、お疲れさま会。なあ?」
 和葉を見て、服部は視線で訴えた。
「ああ、ええな!残念会。青子ちゃんも、紅子ちゃんも、本堂君もええやろ?」
 和葉は服部の意志を正しく受け取り他も誘う。
「いいよ」
「いいわよ」
「いいんじゃないですか?」
 是の答えに、服部はほらな!と笑って白馬の肩に腕を回して、
「なら、帰るわ!またな、工藤、キッド!」
 片手をあげて退出する。
「それでは、また!新一君」
 白馬もそれだけは口にして、服部に引きずられるようにして去っていった。紅子、青子、和葉、本堂は、口々に挨拶して後を追いかけた。
 その姿を見て新一は「あいつら仲がいいよな」と思った。それは正しい意見だが、白馬と服部は嬉しくないかもしれない。
 
 
「では、帰りましょう。今日は、打ち上げですよ」
「ああ」
「好きなもの作りますから。帰りにスーパー寄りましょうね」
 キッドの気遣いに新一は笑顔で頷いた。

 
 今日は皆で宴会だ。
 
 
 





                                              END





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