Falco tinnunclus perpallidus
シロハラチョウゲンボウ/チョウセンチョウゲンボウ

これまで,和名「チョウセンチョウゲンボウ」は見たことがなく,種F. tinnunclusの12亜種のどの亜種か分かりませんでした. (種,亜種についてよくわからない方はこちらを ご覧ください) 従って識別の方法が分からないままでした.長崎県の時津町に出ているとの情報で見に行きました.すぐに埋立地の枯草の上を停空飛行しているのを見つけ撮影しました. 一見してチョウゲンボウF. t. interstinctusとの違いは判らなかったので帰ってこれまで撮影したチョウゲンボウ(他の亜種との識別方法を知りませんので これまでに撮影したものは全てチョウゲンボウF. t. interstinctusとしています) と比較して違いを調べました.

写真1.時津で撮影した個体(ネズミを捕獲している) 2021年2月23日

写真2.上と同じ個体,尾羽上面に黒い筋が見えるので成鳥若鳥と思われる. 2021年2月23日

 上面は肩羽,雨覆の黒斑の模様,多寡.次列の模様など殆ど違いはありません(写真3).下面は違いがあります. 本個体は初列雨覆の縞模様が2本で他に薄く小さい斑,胸から腹にかけて白色で足の付け根は薄い茶色です. チョウゲンボウは初列雨覆の縞模様が3本で他にランダムな明瞭な斑が多くあり,胸,腹,足の付け根は一様な薄い茶色です(写真4).

写真3.チョウゲンボウとの比較(左が時津の個体)

写真4.チョウゲンボウとの比較(左が時津の個体)

写真1.の翼下面,胸をみて白でなく茶色だと思われる方が多いと思います.写真やビデオの動画を撮影するのが趣味の方々は ご存知ですが,光に色は付いていないのに,人が勝手に頭の中で色を作り出してみています.照射される光の色温度(スペクトル分布)の違いで 同じ物体の色が変わります.光の色温度が低いと赤味を帯びて見え,高いと青味を帯びて見えます.具体的に言えば白色は赤みを帯びた白色,青味を 帯びた白色となり,黄色は橙色,黄緑となります.写真機は人が見ているであろう色に変換して記録します.写真6に極端な例を示します. 写真1の被写体は上面は直射日光で照射されていますが,低空を飛んでいるので下面は 下の明るい茶色の枯草の反射光(色温度が低い)で照射され茶色味を帯びています.写真5は長崎の方からお借りしたものですが翼下面および脇腹は直射 日光で照らされていますので白色となっています.

写真5.違う角度で撮影した個体(長崎のバーダーから借用)

 ではこの個体の亜種名は何でしょうか.色は人によって違って見えますが,ヨーロッパの人たちは我々が赤っぽい白と感じている色を白と 感じています.ですから緯度の低い場所の直射日光(色温度が高い)で照射された白は青白く見えます.12亜種の中で亜種名perpallidusは「極端に青白い」という意味です. 名前を付けた人「A.H.Clark」はヨーロッパの人でしょう. 学名を訳すると「極端に青白いチョウゲンボウ」となります.従って亜種名はperpallidusと判断しました.「日本の野鳥650」はF. t. tnnunclusを チョウセンチョウゲンボウとしています.F. t. tnnunclusを手持ちの図鑑(*1)で見ると♂,♀共翼下面の風切羽と雨覆に明暗があり雨覆が明るく,風切が暗くなってコントラストが ついて見えます,interstinctusperpallidus両亜種とも初列風切と雨覆の明暗の差は認められません.また異亜種同名としてはいけませんので亜種名の和名を「シロハラチョウゲンボウ」としたらどうかと思います. 名は体を表すと言います.この名前にすると多くのバーダーがすぐに識別できるでしょう.表1.に亜種名と繁殖地,移動地を示します.

表1.種Falco tinnunculusの亜種
亜種名繁殖地/生息地移動地
tinnunculus北西アフリカ,ヨーロッパから東中央シベリア,
南西アジア,西パキスタン,西および中央ヒマラヤ
東アフリカ,南アジア,
北西南東アジア大陸
perpallidus東シベリア,朝鮮,北東中国東中国,南東アジア大陸
interstinctus
チョウゲンボウ
東ヒマラヤ,日本,中国(北東を除く),
南東ベトナム
北東インド,南中国,南東アジア大陸,
スマトラ,北ボルネオ,フィリピン
objurgatus南インド,スリランカ-
canariensisマデイラ諸島(ポルトガル),西カナリア諸島-
dacotiae東カナリア諸島-
neglectus北カーボベルデ諸島(アフリカ北西沖)-
alexandri南カーボベルデ諸島-
rupicolaeformisエジプト,南イエメン-
archeriソコトラ島(イエメン),ソマリア,北東ケニア-
rufescensセネガルおよびギニアからエチオピアおよび中央タンザニア-
rupicolusアンゴラ,南東コンゴおよび南タンザニアから南アフリカ-

写真6.違う色温度の光で照射されたマッターホルン

*1: Raptors of the World, J.F.-L. & D.A.Christie, 2001, Houghton Mifflin Company, Boston