カプリへ
翌朝、もう一度ブリタニック・ホテルの屋上からナポリ湾の光景を堪能し、チェックアウト。 タクシーで港へ下りた。 くねくねとした坂を下りマリッシマ駅の前を通ると港はすぐだ。 昨晩のレストランの近くである。 カプリへの船は頻繁に出ているので問題はない。 1時間もかからずに我々はカプリ島に上陸する。 マリーナ・グランデの港の前には、カフェ・レストランや土産物屋が並び、リゾート観光地の風情。 オープンカーのタクシーも客を待っているが、先ずはやはりフニコラーレで上るのが一番。 多少の行列を待つが、程なく乗り込み、ケーブルカーは出発した。 港が下の方へ小さく離れてゆき、レモンの木々の間を上れば、5分ほどでカプリの中心街に到着する。
ウンベルト1世広場、と言ってもイタリアの町で大きな広場は大体ウンベルト1世広場である。 ホテルはここから少し歩かねばならない。 車は通行できない細い道なので、タクシーは利用できず、荷物の多い人はゴルフ場のカートというか、倉庫のフォークリフトのような乗り物に荷物を積んでもらい、自分は歩いていくことになる。 荷物はキャスター・バッグをひとりひとつだけなので、自分たちで転がしていくことにした。 多少の上り下りもあるが、フィレンツェの石畳の道をこのバッグを転がして30分歩いたことに比べれば楽なものだ。 予約したヴィラ・ブルネッラはトラガラ通りを辿って中心部からかなり離れた場所にあった。 道に面した最上階がレストランで、レセプションはマイナス1階になる。 まだ午前中なので部屋の準備は出来ておらず、荷物だけをレセプションに預けて散策に出る。
ホテルの前のトラガラ通りをさらに進むと、数分ほどでトラガラの展望台へ着く。 高台から望む海とファラリョーニというふたつの岩がこの展望台の見せ場だ。 船で到着したのとは反対のこちら側が外海になる。 展望台を後にきた道を戻り昼食をとることにする。 ホテルのレストランはディナーにとっておくことにして、昼は軽く途中のカフェでとることにした。 島の名を冠したインサラータ・カプレーゼはまあまあの味で、昨晩のナポリのレストランの方が美味かった。 それでも、ポモドーロ、モツァレラ、ルッコラのハーモニーはたまらない。
食後にホテルでチェックイン。 レセプションから更に下るとプールがあり、客室棟はもっと下ったところにある。 広い庭に面した平屋建てのメゾネット形式の客室棟は、プライヴァシーと開放感を両立させた贅沢なもの。 但し客室からは庭が見えるだけで、海や向かいのソラーロ山は臨めない。 暫くゆっくりした後は食前の散歩。 ウンベルト1世広場まで歩き広場のカフェでビールを飲みジェラートを食す。 土産物屋を冷やかしながらホテルに戻るころには外はまだ明るいものの食事をとれる時間になった。 このホテルの夕食は、その奇跡的な味の海の幸リングィーネによって今回の旅の食事では最も印象に残ることになる。 材料としてはありふれたフルッティ・ディ・マーレだが、その全てが出汁のアルタード・ステーツに達しており、食べ終わるまでの数分間、こちらの意識も飛びまくりであった。 この、味のためには恥も外聞も失わせるような邪悪なパワーこそイタリアめしの醍醐味だ。 ハイになれてこそイタめし。 (それが私にトスカナ料理をいまいち好きにさせなかった偏見だろうか・・・) そして、翌日もそのホテルのダイニングでディナーをとった私たちは、いよいよそこが真のイタめし屋だと悟ることになるのであった。