亜空間通信 

 

 

第三号 「生霊」

 

 飲み友だちのB子から電話を貰ったのは今年の2月始めのことだった。
美味しい和食の店がオープンしたので今晩一緒に食事でもどうか、とのことだった。前の週に給料が入ったばかりで多少なり懐が暖かった私は二つ返事で逢うことにした。
 その前に逢ったのは前年暮れの、行きつけの居酒屋の常連忘年会だったが、B子と逢うのはずいぶんと久しぶりのような気がした。

 盃を交わし、お互いの近況などを報告しあっていると、急にB子が「私、彼と別れたんだ。」と言った。B子の彼氏は年下の僧侶だった。

「もったいないことしたな〜。こう言っちゃあなんだけど、お坊さんは儲かる職業だし、食いッぱぐれはないと思うけどな〜。たしか実家の寺の副住職で、いずれは親父さんの後を継いで住職になるんだろ?」話題が話題だけに私が半分冗談めかして聞くと、

「彼の方は別れたくない、やり直そうって、今でも電話やメールがくるけど・・・いろいろあってね。」と寂しそうに笑った。

 2〜3軒ハシゴして別れ際、タクシーに乗り込むB子に「元気だせよ。酒の相手くらいいつでもしてやるから。」と励ますつもりで声をかけた。
「ありがと!また電話するわ。」とB子も笑顔で答えた。

 発進するタクシーを見送り、チラと時計を見てからまたB子の乗ったタクシーを見ると、なんと、いつの間にかB子の横に坊主頭の男が座っていてB子をじーっと見つめていた。「あれっ!?」と良く目をこらすと男の姿はもう無かった。
 胸騒ぎがしてB子の携帯に電話をかけたが、とうとうその日は電話が繋がることはなかった。

 翌日、B子が泣きながら電話をしてきた。
「昨日帰ってから、なんだか急に彼のことが思い出されて・・・、つらくて、つらくて・・・」

 私はゆうべ見た坊主頭の男の話と、あの後電話が繋がらなかったことはB子には言えなかった。

 私があの日見た坊主頭の男はB子に対する妄執でまとわりついていた僧侶の彼氏の生霊だったのだろうか? それとも酒に酔った私の目の錯覚だったのだろうか・・・。

 結局、B子は僧侶の彼とよりを戻すことは無く、この春に異動希望を出してM県のS市に転勤した。

 

 

第一号 念力発揮

第二号 北海道のお赤飯

 

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