ルジマトフ&レニングラード国立バレエのソリストとサンクト・ペテルブルグのダンサーたち

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2009年7月23日(木)

ゆうぽうとホール

 

他のメンバーによる「華麗なるクラシック・バレエ・ハイライト」という公演名での全国巡演の中途で,ルジマトフが加わっての2日公演。2日目を鑑賞しました。

前年の「ルジマトフのすべて」も1月の「ミハイロフスキー・ガラ」も見逃したので,彼の舞台を見るのは2年ぶり。堪能しました。
他のメンバーについては,特に感銘を受けるほどではなかったですが,お気に入りバレリーナであるコシェレワの活躍は嬉しかったです。一方,スターダンサーズ・バレエ団時代の西島千博を知る者としては,彼が一種の「イロモノ」になってしまっていたのには軽いショックを受けましたが。

 

第1部

『白鳥の湖』よりグラン・アダージョ

音楽: P.チャイコフスキー   振付: M.プティパ, L,イワノフ

ヴィクトリア・クテポワ   ミハイル・ヴェンシコフ   サンクト・ペテルブルク・コンセルヴァトワール・バレエ

ルジマトフの現在の夫人だと聞くクテポワの踊りを見るのは初めてだったのですが,かねがね聞いていたとおり「容姿はよいが踊りはまだまだ」という感じ。大味というか,情感に欠けるというか,オデットに見えないというか。
一方のヴェンシコフは「これってアルブレヒトだっけ?」なジークフリート。恋に落ちていくというよりは,ナルシスティックに悩み苦しんでいるように見えて,何だか笑ってしまいましたよ。(ごめん)

コール・ドについてですが・・・以前「ルジマトフ シェイクスピアを踊る」という公演でこのカンパニーを見たことがあり,そのときの印象からかなりの危惧をもって公演に臨んだのですが,予想(というより覚悟)よりはずっとよかったです。
クテポワと同じ意味で,白鳥には見えなかったですが,「こんなコール・ドならいないほうがマシ」というほどでもなく。

 

『くるみ割り人形』よりパ・ド・ドゥ

音楽: P.チャイコフスキー   振付: M.プティパ

オレーシア・ガピエンコ   アンドレイ・ベーソフ

以前「ルジマトフ シェイクスピアを踊る」という公演で(以下同文)

特に,ガピエンコはよかったです。小柄・溌剌系の個性だと思いますが,元気がよすぎることは全くなく,どんな動きもコントロールが効いている。驚くような見事さではないですが,安心して楽しめる手堅いバレリーナでした。
ベーソフは,王子という雰囲気ではなく,ソロも頼りなかったですが,リフト・サポートがよかったので,まあ合格点なのではないでしょーか。

金平糖の衣裳は白かピンクだったと思います。男性は白基調で胸の辺りにV字に別の色が入っていた記憶が。

 

『海賊』よりパ・ド・トロワ

音楽: R.ドリゴ   振付: M.プティパ / V,チャブキアーニ

イリーナ・コシェレワ   西島千博   ミハイル・ヴェンシコフ

いやもー,抱腹絶倒。ぜんっぜん『海賊』になっとりませんがな。
ペレン/コルプの「お人形さん&奴隷商人」パ・ド・ドゥにもびっくりしましたが,今回のパ・ド・トロワは,それを上回るヘンテコさ。そうなった功績の第一は西島千博にありますが,ヴェンシコフも決して負けてはおりませんでしたよ。あっはっは。

まずはメドーラから話を始めなければなりませんが,コシェレワはもちろん尋常なメドーラでした。
優美な上半身とプリマの落ち着き,伸びやかな踊りと温い笑顔。「キラキラなお姫様」ではありませんが,そうですねー,「美しいギリシャ娘が聡明さと優しさで幸福を掴む」という感じかしらん? たいへん好ましかったです。
なお,彼女は,グラン・フェッテは苦手なのかもしれません。以前黒鳥を見たときは特に気にならなかったのですが,今回は「あらら,軸足がどんどん動いていくー」でありました。(残念)

で,西島千博のアリ。
終始満面の笑みでたいそう嬉しそうに踊っておりまして,(パ・ド・トロワでは珍しいが)パ・ド・ドゥではよく見る「元気溌剌と踊りまくる」系のアリに分類することもできそうなのですが・・・それには収まりきれない面妖で個性的な表現でした。
描写するのが難しいのですが・・・ええっと・・・「ボリショイのツィスカリーゼが踊るアリ」をイメージしていただいて,そこから「バレエ的な美しさ」を完全にマイナスしていただくと,概ねの感じは理解していただけるのではないか,と。

そして,ヴェンシコフのコンラッドですが,西島千博に負けず劣らず「世界一美しいのは僕」という風情。普通にはきれいな踊りだし,チャーミングでもありましたが,メドーラへの想いが全然見えませんでした。
うーむ,これではコンラッドではないですなー。(マラーホフ系)奴隷商人と言うべきでしょうなー。

メドーラとコンラッドの衣裳は,たぶんマールイのデフォルトだったと思います。アリは,金茶のハーレムパンツでヘアバンドと腕輪も金茶系。

 

『阿修羅』

音楽: 藤舎名生   振付:岩田守弘

ファルフ・ルジマトフ

すばらしかったです。
2年前の「ルジマトフのすべて」で見て以来だったのですが,今回もほぼ同じ感想を持ちました。(当時の感想はこちら

今回思ったことをメモすると・・・

前回見たときは,途中から「阿修羅」の文字が背景に現れたような気がします。で,盛り上げ効果を狙ってのことだろうと思いつつも,いきなり漢字が登場することにより,少々「ベタなので笑ってしまう」気分になってしまったのですよね。が,今回は最初から舞台上方にありまして,「個性的な舞台装置」と化しておりました。うん,こちらのほうがよいですよね。
「薄暗い」から始まり,情景に応じて色の変わる照明が印象的。(前回は気付かなかったのか? 改善されたのか?)

ルジマトフについては,筋肉増強したのかなー,と思いました。
今回の阿修羅は「研ぎ澄まされた肉体」というよりは,「質感ある仏像のような肉体」という感じでした。(友人が「運慶作の仏像みたい」と形容していて,膝を打ちました) 衣裳も仏像を思わせる首輪と腕輪で,より効果的だったと思います。

 

『ドン・キホーテ』よりグラン・パ・ド・ドゥ

音楽: L.ミンクス  振付: M.プティパ

オクサーナ・シェスタコワ   ミハイル・シヴァコフ   ナタリア・マキナ(ヴァリエーション)   サンクト・ペテルブルク・コンセルヴァトワール・バレエ

キトリは白いチュチュで髪に大輪の赤い花。バジルは白基調で控えめな金の飾り。スペイン風より結婚式らしさを重んじた衣裳で品がよく,上演全体としてもそんな感じを受けました。
ガラでの『ドンキ』については,私はもっとケレンのあるほうが好きですが(ソロに超絶技巧がないのはともかく,アダージオでの片手リフトくらいは見せてほしい),客観的にはよい上演だったと思います。

シェスタコワは見事。
プリマの貫禄で場を支配しておりましたし,扇の使い方,音楽の見せ方,客席とのコンタクトの取り方・・・すべて行き届いておりました。加えて,いかにも「ロシアのバレリーナ」的な優美さ。表情の作り方に作為が感じられて私の好みではありませんが,誉めなければ公正を欠くというものでしょう。

シヴァコフもよかったです。
いつもどおり「もうちょっと踊れるともっといいんだけどー」とは思いましたが,ソロもパートナリングも安定していて,ここまで登場したダンサー(ルジマトフを除く ←念のため)とは格が違う感じでした。
ただし,マッシュルームカットが持ち上がったみたいなヘアスタイルは,要改善だと思いますー。

マキナについては,特に強い印象はなく。
コール・ドは,16人だったでしょうか? 場を華やかにしてくれるので存在意義はあったと思いますが,衣裳が金色の釣鐘状チュチュだったため,少なからず違和感がありました。

 

第2部

『ディアナとアクティオン』

音楽:C.プーニ   振付: A.ワガノワ

オレーシア・ガピエンコ   アンドレイ・ベーソフ   サンクト・ペテルブルグ・コンセルヴァトワール・バレエ

コール・ドつきの上演は初めて見ました。
12人だったかな? の女性コール・ドは,デザインはディアナと似ているが装飾は皆無の白い衣裳。彼女に仕えるニンフたちということでしょうか。
アダージオで主役の周りに並んでポーズを見せるのが主な役割でしたが,主役2人のヴァリエーションの後に,コール・ドによる短い踊りもありました。

コール・ドの参加にパ・ド・ドゥの美しさをより高める効果があったとは思いませんが,このパ・ド・ドゥを見るときに忘れがちな,ディアナが(ギリシャ神話の世界で)非常に高位の女神であるという設定を思い起こさせるには効果があるかも?
舞台上に人がたくさんいるのは悪いことではありませんので,これはこれで結構だったと思います。

ガピエンコは,『くるみ』よりこちらのほうがより似合う感じ。軽やかでキレよい踊りでした。
なんとなく,90年代にルジマトフのパートナーとしてこのパ・ド・ドゥを踊っていたイリーナ・チスチャコワを思い出しましたが・・・そういえば,お顔立ちも似ていたかしらん。

ベーソフは,雰囲気的には王子よりはこちらのほうが似合っているように思いましたが,踊りはやはり頼りなく。
あと,衣裳がヘンでした。いや,アクティオンの衣裳というものは,そもそもビミョーなものではありますが,それにしても,赤いパンツはないだろうっ,赤はっっ。

 

『眠りの森の美女』よりグラン・パ・ド・ドゥ

音楽: P.チャイコフスキー   振付:M.プティパ

ヴィクトリア・クテポワ   ドミトリー・シャドルーヒン

クテポワはオデットよりオーロラのほうがずーっとよかったです。にこやかに踊っていて,初々しく愛らしいお姫様。
そういう風情はローズ・アダージオに適しているのであって,グラン・パ・ド・ドゥとしてはいかがなものか? とも思いますが,でも,間違いなくオーロラではありました。

シャドルーヒンがいっそう後退した髪に銀ラメを山ほどふって登場したのには意表を突かれましたが,さすがサポートは上手ですし,結婚式らしい幸福感の表出も申し分なく。
ただし,衣裳が・・・。銀系の簡素な上着なのですが,体型が如実にわかるというか,実際以上にお腹が太く見えるというか。(どちらなのだろう?) 全幕のときに着ているいつもの衣裳を選ばなかったのが不可解に思われました。

 

『ラ・シルフィード』よりパ・ド・ドゥ

音楽: H.ロヴェンショルド   振付: A.ブルノンヴィル

ユリア・ルンキナ   ミハイル・シヴァコフ

ルンキナというバレリーナは初めて見たわけですが,シルフィードは完全にミスキャストであるように思われました。
きちんと踊っているとは思うのですが,右手を左顎の前辺りに置く,あのシルフならではのポーズが全然愛らしくなく,蝶をつかまえたり,湧き水をすくったりというマイムも全然愛らしくなく・・・あのー,もしかしてミルタさんでしょーか? と。
おそらく顎が前に出ている立ち姿と「いかにもベテラン」なお顔立ちが災いしたのだと思います。

赤い上着に臙脂系のキルト,同じく臙脂系のハイソックスのシヴァコフは,衣裳もジェームズという役もよく似合っていました。若くて元気いっぱい,無鉄砲なほどに前だけ見ている青年という感じで,たいへんチャーミング。
踊りについては,「ロシアのダンサーが踊るブルノンヴィルはブルノンヴィルとは違う」の典型のように思われましたが,勢いからくる説得力は大いにありました。

 

『NEO BALLET〜牧神の午後』

音楽: C.ドビュッシー   振付: 西島千博

西島千博

都会の片隅。カウチだけの殺風景な部屋。孤立した青年。フランス窓からの光とそこから見える風景だけが彼にとっての外界。生きることの意味。自分が何を求めているか自分でもわからないことの苦しさ。
・・・例えば,そんな風なものを表現したかったのかなー,と思いました。(プログラムの作品解説を読むと少々違ったようですが)

表層的な表現だとは思いましたが,ジーンズに白いシャツの前をはだけた西島千博が演ずる煩悶し,苦悩する青春像には,確かに視覚的魅力がありました。
したがいまして,もう1回見たいとは全く思いませんが,自身の魅力を生かした振付であったとは思います。

とはいえ,最後のほうは意味不明。
暗転後に黒い下着1枚の姿になり,タオルを下半身に当てる辺りはニジンスキー由来の例の行為の暗示かと思うのですが,その後,舞台上2メートル程度に下げられていたバトンに片手でぶら下がり,ゆっくりと回転しながら作品が終わるというのは・・・はて,どういう意味が? まさか自殺したわけではないですよね?(謎)

 

『シェへラザード』よりアダージョ

音楽: N.リムスキー=コルサコフ   振付: M.フォーキン

イリーナ・コシュレワ   ファルフ・ルジマトフ

今回のゾベイダがコシェレワだと知ったのは,公演の数日前だったのですが,イメージがわかないまま見にいきました。良くも悪くも中庸を得たバレリーナで,高慢とか妖艶とか支配欲とか姦通とか,そういう言葉とは縁遠い感じですから。
舞台を見た結果は,「お,新鮮。こういうのもいいねえ♪」という感じ。彼女がゾベイダを踊ることにより,山ほど見てきたルジマトフの『シェヘラザード』に,新しい物語を見出すことができました。

どう新鮮だったかと言いますと・・・どこか生硬さを感じさせるゾベイダでした。固い蕾・・・は言い過ぎかもしれませんが,まだ花開いていない印象。

誤解されると困るのでここは力説しておきたいのですが,「硬くなっていた」という意味では決してありません。コシェレワの踊りにも表情にも,硬さは全く感じられませんでした。
むしろ,初役(←たぶん)とは思えない柔らかくしなやかな踊り。後ろにあるいは脇にと身体はきれいに反っていましたし,自らの両腕を絞るように上げる動きは滑らか。
ルジマトフとの初共演(←これも,たぶん)からくる緊張感もなかったと思います。萎縮することもなく,かといって背伸びしている感じもなく,素直に伸びやかに役を演じ,充分に蠱惑的だったと思います。
肌の色が濃く黒髪なので,ハーレム風の衣裳がよく似合っていました。

でも,後宮の女主人には見えなかったし,主人の留守に火遊びをする寵姫にも見えませんでした。では,何に見えたかというと・・・そうですねー,女官長の初めての恋?

ゾベイダがそんな風に見えたので,金の奴隷との力関係も普通の『シェヘラザード』とは違って見えました。
情事の主導権は完全に金の奴隷にある感じ。恋に酔うゾベイダに挑みかかり,征服する年上の男。
ルジマトフの金の奴隷は,どのシーンをとってもすばらしいのではありますが,あえて「こんなのほかのダンサーでは絶対見られないわ〜」を一つ挙げるなら,低い場所から切なげにゾベイダを見上げる姿だろうと思います。しかし,この日はそういう場面よりも,パートナーに寄り添ったり支えたりしながら踊る姿の力強さがより印象に残りました。

落ち着いて考えてみると,そういう金の奴隷であれば,別にルジマトフに見せてもらわなくてもいいのではないか? ほかのダンサーでも足りるんでは? という気がしないでもありません。
でも,ルジマトフの踊る『シェヘラザード』は格別のもの。やっぱり違うんですよね〜。全然違うんですよね〜。

うん。よい舞台だったと思いますし,この2人で全幕を踊ったらどうなるのかしら〜? と思わせてくれる舞台でもありました。

(2009.09.10)

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