『ロメオとジュリエット』(牧阿佐美バレヱ団)

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2008年8月23日(土)ソワレ・24日(日)マチネ

ゆうぽうとホール

 

音楽: S・プロコフィエフ

演出振付: アザーリ・M・プリセツキー, 牧阿佐美

美術: A・ワシリエフ    

 

  

 23日

 24日

ジュリエット 伊藤友季子 青山季可
ロメオ 逸見智彦 森田健太郎
キャピュレット夫人 田中祐子 坂西麻美
キャピュレット卿 本多実男
ジュリエットの乳母 諸星静子
ティボルト 菊地研
パリス 京當侑一籠
モンタギュー夫人 千葉るり子
モンタギュー卿 加茂哲也
マーキューシオ 清瀧千晴
ベンヴォーリオ 今勇也
ヴェローナの大公 京谷幸雄
ロレンツォ神父 保坂アントン慶
町の女(ソリスト) 奥田さやか  小橋美矢子  竹下陽子
道化 小松見帆
塚田渉  邵智羽  石田亮一  ラグワスレン・オトゴンニャム
森脇友有里
塚田渉  邵智羽  石田亮一  ラグワスレン・オトゴンニャム

 

「夏休みにお子さんと家族で舞台鑑賞する機会を提供する」というような趣旨と思われる「日生劇場国際ファミリーフェスティバル」の一環として行われた公演。
3日間に5公演というハードスケジュールで,マチネは11時,ソワレは3時開演。演奏はテープでした。

「日生劇場スペシャルカットバージョン・三谷恭三による解説付き」ということで,かなりの短縮版を予想していたのですが),寝室のパ・ド・ドゥをカットして2幕・3幕を通して上演し,ジュリエットの死(仮死)に最初に気づくのが友人たちではなく乳母に変更されていたほかは,ほぼ全編上演だったように思います。

こういうカットの仕方がよかったのかどうかは・・・うーむ,どうでしょうねえ? パ・ド・ドゥは踊らないのですが,ジュリエットのベッドの上で先に目覚めたロメオは夜明けを前に去っていく・・・という段取りは踏んでいるのでストーリーはきちんとつながるのですが,よりによって主役のパ・ド・ドゥを減らすのか? という疑問はあるわけです。(お子さん中心の客席への配慮(あんまり濃厚すぎるのはヤバい?)や,三十代半ばを過ぎて連投・3連投するロメオの体力面への配慮もあったのかもしれませんが)
明らかによろしくなかったのは,休憩を1回にしたこと。大人が見ていても3幕中盤で「長いなー」と感じましたから,お子さん方は集中力が続かないようでした。

というより,公演の趣旨からして『ロメオとジュリエット』という演目選定にそもそも問題があったような気がします。要するに,「小学生に『ロミジュリ』は早い」のではないだろうか? と。

周囲のお子さんたちの反応を見る限りでは,一番人気は,グラン・フェッテに側転や倒立前転などアクロバットもある道化の踊りで,皆さん身を乗り出して盛り上がる感じ。続く人気は,剣を持ち出しての刃傷沙汰の辺りで,集中してご覧になっていました。その次は,街の広場での皆が入り乱れて踊るところかな?
いずれ,バルコニー・パ・ド・ドゥやパリスとの結婚を強要されたジュリエットが苦悩する場面など・・・要するにドラマチックなシーンは人気がないようで,つまらなそうに背もたれによりかかったり,眠ったり,ごそごそ動いたり,ひそひそ話を始めたり・・・。(皆さんお行儀よく「ごそごそ」や「ひそひそ」をなさっていて,感心しました)
そういう意味では,寝室のパ・ド・ドゥを割愛したのは賢明な判断だったのかもしれませんが・・・全体の白眉とも言うべきバルコニー・シーンに興味のないような客層を相手にこの作品を上演するのは空しいんでは? と思いましたです。

三谷監督による解説は,滑舌も悪くなく,剣についてオリンピックでのフェンシングの銀メダル獲得の話題を使うなどの工夫もあり,主な出演者を幕前に立たせてどういう人物か説明してわかりやすさに配慮し・・・で,なかなかよかったと思いますが,この作品中の唯一最大の「説明しなけりゃ話がわからん」要素である「ジュリエットが飲んだのは仮死薬」という状況を説明しなかったのは大失敗だったと思われます。

 

主要な出演者は,昨年の公演と同じでした。そのときの感想はこちらですが・・・。

23日の伊藤さんは,初々しく可憐な中に芯の強さを感じさせるジュリエット。
開幕前に紹介されたときに「うわ〜,かわいい〜」という声が客席から出てくる愛らしい容姿は得難い強みですよね〜。十代の少女に無理なくはまるし,古典バレエと違ってテクニックの弱さが見えてこない作品ですし,この役は彼女にとても合っているのではないかなー?
印象としては,ほぼ前回と同じかな。初恋を知った少女がひたむきに恋に向かい,そのまま死に向かっていった悲劇でした。

逸見さんについても,印象は前回と同じ。ひたすらロマンチックでひたすら麗しいロメオでした。
今回思ったのですが,彼のロメオは,彼自身の最大の当たり役である『白鳥の湖』のジークフリートにたいそう似ていますね。メランコリックな青年が運命の女性と出会い,自分の愚かしさで恋を失いかけ,最後は恋に殉じて死んでいく・・・そういうロメオ。「血気盛んな青年」的なところが全くないので違和感がつきまとうのですが,「彼が踊ればこうなる」とは思いますので,文句を言うならダンサーではなくキャスティングした人に,ということでありましょう。
なお,踊りは不調。ちょっとウエイト増でしょうか???

 

24日のジュリエットは青山さんでしたが,去年の初役のときに比べて表現面が充実した感じを受けました。
乳母と戯れる辺りは実年齢相応(二十代半ば)に見えてしまい,どうにも無理がある印象でしたが,舞踏会以降は普通に似合っていましたし,パリスとの結婚を強要されてから服薬に至るシーンの緊迫感は立派。引き込まれました。
特に,ロレンツォ神父の僧院への往復でのベールの扱いには感心しました。絶望的な状況の中すがる思いで走るときにはベールを固く身体に巻きつけて。そして,希望を見出して戻るときは高くなびかせて。

森田さんは,昨年と違ってうまく身体を絞りきれなかったようでした。容姿的に説得力が足りない上に,踊りも重くミスも散見・・・ではあるのですが,演技はやはりうまい。
友人たちと戯れるときのやんちゃで若々しい感じの表出,ラブシーンでのキスによる表現,恋を得てのハイテンション,マキューシオの死への自責の念とだからこそのティボルトへの怒り,我に返ってキャピュレット夫人に許しを請い,ベンヴォーリオに舞台から連れ去られるまでの演技の緊迫感,眠るジュリエットを背に去ろうとして一瞬ためらう様子・・・。
若く思慮浅いからこその「疾走する青春」のロメオでした。

 

マキューシオは,中島哲也さんの怪我により,清瀧さんが急遽登場。どれくらい準備期間があったのかわかりませんが(もともとアンダーだったのかな?),剣を使ったシーンを含めて問題なく,落ち着いて見えました。
演技にはあまり個性が感じられず,マキューシオにしては「普通の人」っぽかったような。(ベンヴォーリオのほうが向いているかも) 踊りはやはりきれいですね〜。もっときれいだった小嶋マキューシオの残像が妨げになって堪能はできかねましたが,テクニックは問題ないし,端正だし,とにかく彼は有望ですわ。この公演のあとはボリショイ・バレエでの研修に向かうということですが,帰国後の舞台が楽しみです。(帰ってきてね〜)
あ,そうそう。1回だけある変則リフトは「もっと練習しましょう」でした。

菊地さんのティボルトはもちろんかっこよかったのですが,公演の趣旨に配慮してでしょうかね? 色気と尊大度がかなり抑え目。後者については,これも小嶋ティボルトの残像が・・・という問題なのかもしれませんが。
それにしても,さっさと彼にロメオを踊らせたらどうなのか? と「おっとっと」がかなりあったロメオ2人を見ながら思ってしまいましたよ。

今さんのベンヴォーリオは好演でしたが「こないだも2回も見たよなぁ。そのあとも1回見たしなぁ。今回も2回ともかぁ」というのが正直な感想。ほかの方も起用してくださいー。
京當さんは・・・うーむ,おそるべき無表情。パリスが何を考えているのかわかりませんがな。逸見パリスの場合は無表情が貴公子の冷血に見えるのですが,この方の場合は演技力の致命的な不足(ごめんねー)に見えましたです。

このバレエ団では道化の中心はプリマのための役だと認識していたのですが,今回はキューピットや赤頭巾を踊るダンサー3人が日替わりで登場。小松さんと森脇さんを見ましたが,2人とも普通によかったです。
男性は,お子さんの多い客席に合わせてでしょうか,サービス精神旺盛な舞台でしたが,そういう中では石田さんはちょっと・・・。テクニックを磨くか芸を身につけるか,どちらかするように。

24日のキャプュレット夫人の坂西さんがすてきでした〜。「貴婦人であるからこそ娘と疎遠なのであろうなぁ」と思わせてくれる,気品ある立ち姿♪
それから,マキューシオたちと絡む「町の女」3人の中の1人,竹下陽子さんがよかったです。たおやかでありながらキレある上半身の切り返しが好み。
男性では邵智羽さん。(魅力再発見?)  モンタギュー家の従者の不遜な表情と舞踏会の貴族でのノーブルな立ち姿。そして,道化で登場したときの成りきりふり。よいダンサーですよね〜。

 

日生劇場は照明設備に難があるのでしょうか? キャピュレット家の舞踏会の前後やロレンツォ神父の僧院など,幕前でのシーンで,暗くて見えにくい感があるのが残念でした。
装置はそのまま持ち込んでいたと思いますが,悪名高い「墓のせり上がり」はなし。今後は全編上演の際もやめてくれるよう,心から祈りますー。

(2008.08.31)

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