ロメオとジュリエット(牧阿佐美バレヱ団)

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2007年3月10日(土)

ゆうぽうと簡易保険ホール

 

音楽: S・プロコフィエフ

台本: マリウス・プティパ, イワン・フセヴォロジスキー

演出振付: アザーリ・プリセツキー, 牧阿佐美

美術: A・ワシリエフ     照明プランナー: 大島範行

指揮: デヴィッド・ガルフォース  管弦楽: 東京ニューシティ管弦楽団

 

  

 3月10日

 3月11日

ジュリエット 伊藤友季子 青山季可
ロメオ 逸見智彦 森田健太郎
キャピュレット夫人 田中祐子 坂西麻美
キャピュレット卿 本多実男
ジュリエットの乳母 諸星静子
ティボルト 菊地研
パリス 京當侑一籠
モンタギュー夫人 千葉るり子
モンタギュー卿 加茂哲也
マーキューシオ 小嶋直也 中島哲也
ベンヴォーリオ 今勇也
ヴェローナの大公 京谷幸雄
ロレンツォ神父 保坂アントン慶
町の女(ソリスト) 奥田さやか  小橋美矢子  竹下陽子 橋本尚美  吉岡まな美  笠井裕子
道化 佐藤朱実
塚田渉  邵智羽  中島哲也  清瀧千晴
橘るみ
塚田渉  徳永太一  邵智羽  清瀧千晴
ジュリエットの友達 吉岡まな美  笠井裕子  坂梨仁美  加藤裕美  海寳暁子  坂本春香 橋本尚美  奥田さやか  小橋美矢子  柄本奈美  竹下陽子  佐々木可奈子

『ロメオとジュリエット』にしてはドラマチックな盛り上がりに今一つ欠けていたと思いますが,小嶋さんがすてきなマーキューシオを見せてくれたので,私にとってはとてもよい舞台でした。

 

伊藤さんのジュリエットは,「幼さで突っ走る恋」という感じ。
折れそうに細い身体の印象もあって,可憐な10代半ばの少女に見える。そして,子どものまま恋をして,大人の女性にはならないで,幼い恋の一途さで死に向けてひた走った,という印象でした。
それはもしかするとダンサーの意図したことではなく,若くて初役だったからという要素が大きかったのかなー,とは思いますが,そういうジュリエットもよいですよね。

踊りは,女らしい柔らかさより中性的な清爽感が勝る感じ。その印象が「少女」感を強めていたのかもしれません。安定していましたし,伸びやかでしたし,プロポーションもいいし,とてもきれいに見えました。特に,アラベスクやアチチュードなどのポーズがきれいですね〜。

演技は,ロメオと踊るシーンで全般的に「もっと情感ほしいかな〜」という気はしましたけれど,パートナーの責任もあったかもしれません。登場シーンの「元気な女の子」はよかったし,3幕でパリスと踊りつつ拒絶感を表すシーンには「この激しさがあってこそ恋に殉じる結末に」という説得力がありました。そして,ラストシーン,束の間の再会のあとの絶望の演技は感動的。前方席だった効果もあったのかもしれませんが,引き込まれました。

 

逸見さんのロメオは,穏やかそうな貴公子。若々しさや情熱とは縁がなさそう。刃傷沙汰にも興味がなさそう。剣より詩集を友とするメランコリックな夢想家のロメオ・・・かな?
そう,「逸見王子ならでは」のロメオと言うべきでしょう。すてきでした。

ただ,(初役だから,という面はあるのかもしれませんが)演技にはかなり物足りないところがありました。1幕の冒頭でなにやらロマンチックな雰囲気で友人たちにからかわれるところと,昨夜の幸せに浸っているからぼーっとしている2幕の最初のほうが,同じように見えたのはいかがなものか,と。それから,マーキューシオの死を悲しんでいるのはわかりましたが,ティボルトに対する怒りは感じられず,その後の顛末に説得力が欠けていたような気も。見る前からわかっていたこととはいえ,愛は薄く見えますしねえ。

よかったのは,1幕の幕切れでバルコニーの下で1回くるりと身体を翻すところの色気とか,寝室のパ・ド・ドゥで眠るジュリエットを優しそうに見ているシーンの色気とか,墓場に駆け込んでマントを投げ捨てるときの色気とか,力尽きて倒れたときののけぞる首筋の色気とか・・・色気の話ばかりですが,そういうシーンの麗しさこそが彼の最大の美質なのでありましょう。

踊りは,いつもどおり? それとも少々不調?
今回は小嶋さんが同じ舞台の上にいたせいか,いつも以上に「爪先が・・・」とか「軸が・・・」とか言いたくなってしまいましたが,「きれいだわ〜」も多々ありましたし,懸念していたリフトも悪くなかったです。

 

小嶋さんのマーキューシオは,ノーブルで少々シニカル。
ちょっと斜に構えて世の出来事を楽しんでいるふうで,決して熱くならない。ロメオに対しては「仲良し」よりは距離がありそうだし,ティボルトについては見下している気配。ロメオ同様こちらも若々しさは感じられず,かなり大人に見えました。

舞台全体を見たときに,マーキューシオが「若者に見えなかった」,言い換えれば「ダンスールノーブル然としていた」のがよかったとは思えません。ベンヴォーリオは従者に格下げされ,ティボルトも「若い者が背伸びして頑張っとりますなー」に見え・・・少々違う話になってしまう。
最初にこの日の舞台は「盛り上がりに欠けた」と書いたわけですが,その原因の一つはこれでありましょう。(より大きな原因は,ジュリエットとロメオの間に「恋」がなく,せいぜい「お兄さんと妹みたいな仲良し」にしか見えなかったことだとは思いますが)

・・・と一応は書きますが,実際には「よかったとは思えません」なんて嘘です。
というか,舞台全体の話なんかこの際どうでもいいわけよ。

ええ,小嶋さんは,そりゃもうかっこよかったです〜♪♪
洗練された物腰,小柄なのをハンディに感じさせない存在感,「ピエロか?」の衣裳をそれなりに着こなせるプロポーション,そしてもちろん,爪先まで指先まで美しい踊り。

まあ,踊りに関しては,「彼にしては普通」程度だったかなー,とは思います。回転系は「垂直」という言葉を体現しているかのような端正さとコントロールでしたし,決闘シーンでの上半身はきれいに剣を使いながら下半身は踊っている動きの軽やかさは見事でしたが,跳躍系はもっとキレキレなのを期待していたし,着地音が聞こえたりしたので,うーむ,若干物足りなさが。(←贅沢)
それから,ロメオ・ベンヴォーリオと一緒に踊る場面のコンビネーションが全般によろしくなかったです。特にヒドイのが1回あって・・・キャピュレット家の舞踏会に潜入する前の踊りだったでしょうか・・・最後にピルエット数回してポーズを決めるところが揃わないのなんのって。あとの2人が揃っていたわけでもないので,いったいどなたが正しく踊っていたのか不明ですが,小嶋さんが早すぎたのは確かでしょうなー。

という点はあったわけですが,表現面ではとってもすてきなマーキューシオで,大いに満足しました。
一番すてきだったのは,剣を持つと,水を得た魚のように,おっそろしく楽しげになるところ。
落ち着き払った雰囲気を漂わせていた人が,1幕でも2幕でも,チャンバラを始めると俄然いきいきする。心底嬉しそうな笑顔になるし,動きはそれはもう軽やかで,幸福感が溢れている。見ながら,「もしかして,ちょっと性格異常者入っている?」なんて思っちゃった。(うふふ)

死んでいくシーンもすてきでした。
プライドが高くて絶対弱みを見せないマーキューシオ,という感じ。痛みが襲ってきても決して顔をしかめないで,目を大きく見開いて,その度に顔色が蒼ざめていく(ように見える)。段々死相が浮かび出てくる(ように見える)。全然かわいそうじゃなくて,すっげーかっこよかったです。

 

さて,ベンヴォーリオですが・・・今さんは,踊りは誉めにくいですが,演技はうまい。予想より「いい人そう」というか「ほわ〜」とした良家の子弟に見えたので,上手に役を作っていたのだと思います。
彼ってけっこう背が高いのね〜,というのが今回の発見。(小嶋さんよりかなり大きかったから,175センチ以上あるのかな? 実際より小柄に見えるのは顔が小さいからかしらん?)

菊地さんのティボルトは,予想通りたいへん似合っておりました。前回はマーキューシオを踊ったそうですし,ロメオもいけそうだし,芸域の広い方ですが,彼の「黒の色気」やふてぶてしい存在感(←誉め言葉です。念のため)は,やはりティボルトに一番向いていそうな気がします。
踊りはこの日は少々不調? それとも逸見さんの場合同様,小嶋さんが同じ舞台の上にいたからそう見えてしまうのかなぁ? 迫力とスピード感はよいのですが,少々安定に欠けて見えました。
あと,お顔が大きいのが目立ってしまうから,オールバックはやめたほうがよいのではないかなー? この版のティボルトはあのヘアスタイルがデフォルトなのでしょうが,彼なら前髪下ろしていたって,十分迫力は出ると思うんですけどー。

パリスは京當さんでしたが・・・悪くはないがよいとも言い難い。
プロポーションのノーブル度に立居振舞のノーブル度が追いついていないのではないかしらん? あまり貴公子らしく見えませんでした。まあ,衣裳がイマイチだったし(特に帽子はミョーだった),逸見さんが同じ舞台の上にいたからそう見えてしまった,ということもあるかもしれませんが。(今回はこういう話がやたらに多いですな)

キャピュレット夫人の田中さんは,期待どおり美しく存在感ある立居振舞。特に,客席に背中を向けて立ちながら,ジュリエットの訴えかけを拒絶する腕の動きが雄弁でした。
それから,ティボルトの死の場面。「悲しみ」より「怒り」が強く感じられ,「甥の死をなぜかほどに嘆く?」感があまりなかったのがよかったです。

本多さんのキャピュレット公は,けっこう弱気? ダンサーではなく演出がそうなのかもしれませんが・・・2幕の幕切れは妻をなんとか宥めようとしている雰囲気ですし,3幕でジュリエットにすがりつかれると,困惑しながら視線を妻のほうに向けて頼る。(この家では物事の決定権は妻のほうにあるらしい)

 

そういえば,キャピュレット公の帽子はヘンテコでした。ほかにも舞踏会の男性ダンサーの中の何人かが同じタイプの帽子でしたが,なんというか・・・「子どもがコックさんの帽子の絵を描いて赤く塗った」みたい。
私,この版はマーキューシオとベンヴォーリオだけ衣裳がヘンテコだったと記憶していたのですが,今回見てみたら,ほかの役もけっこうビミョーでありました。下半身の左右色違いがあっちにもこっちにもありますし,「へ?」な帽子も登場しますし,ロメオたちのマントが赤なのも「なんだかなー」でしたし。
女性のほうはマトモで,特にジュリエットの衣裳はすてきだと思うのですが,男性のほうは謎のセンスでありました。

装置はよいと思います。
キャピュレット家の城門? や僧院などに「書割」感はありましたが,舞台奥が2段構造になっている場面が多いのは,よい工夫だと思いました。特に,ロメオたち3人が高いところから舞踏会の様子を眺めてから降りてくるところや,マーキューシオを刺した後いったん立ち去ったティボルトが,今度は上手奥に現れ石段を降りてくるシーンなどは,この装置があってこそ効果的な演出ができたわけですから。
そうそう,美術というより照明の問題なのかな? 3幕の冒頭でロメオがカーテンを開けると既に白昼の明るさなのは,絶対ヘンだと思いますー。

演出の特徴としては・・・冒頭の乱闘シーンにはロメオは参加しないこと,舞踏会で輪になってパートナーを替えながら踊る中でジュリエットとロメオが出会うこと,ジュリエットがバルコニーの上でロメオへの想いをかなり長く踊り(独白し),ロメオもそれを見て(聞いて)から2人の踊りになること,マクミランがマンドリンダンスにしちゃったところは道化の踊りのままだが中心は女性プリマが踊ること,ロメオとティボルトの決闘は,倒れたロメオにとどめを刺そうとしたところへやっと下から繰り出した剣が刺さるという形,ベンヴォーリオに広場から連れ去られる直前にロメオと乳母が顔を合わせること,ジュリエットの葬儀を目撃したベンヴォーリオがロメオを呼びにいくと数分のうちに(笑)ロメオは追放先から戻ってくること,パリスは墓場にいないのでロメオはもう一つ殺人を重ねないですむこと,ロメオが息を引き取る前にジュリエットが目覚めて束の間の逢瀬があること,最後に2人の横たわる墓? がせり上がった上に前に傾いて横たわる2人の姿が見える状態になったところに両家が登場し和解すること,などがありました。

「この版でしか見られない」ものはないような気はしますが・・・バルコニー・パ・ド・ドゥで上下に分かれてそれぞれ踊るシーンが長いのは珍しいかもしれません。これがよい演出かどうかは・・・どうでしょう? 私は「いつになったら声をかけるんだ? 優柔不断なやっちゃなー」と思いましたが,互いに想いが高まったところでいっしょに踊るほうがドラマチックだという感じ方もありそうです。
あ,墓のせり上がりは,悪い意味で独創的だと思いますです。

振付は,非常にバレエ的。グリゴローヴィチ版ほどではないですが,なんでも踊って表現しますし,使うパもいかにもクラシックバレエ。
マクミランのかの有名な「ジュリエットはベッドに腰掛けているだけ」という場面でジュテを跳んだりします。これについては,ジュリエットの切羽詰った心情の表現として説得力がありましたが,仮死薬を飲むべきか逡巡する場面で薬瓶を床に置いてその周りをポアントで回るといったような,ジュリエット役が気の毒に感じられる振付もありました。

 

全体としては,そうですねー,特に名作とは思いませんが,悪くもない版だと思いますよ。
翌日も見る予定だったわけですが,「しまった。小嶋さんが出ないなら見ることなかった」と思ってしまうようなこともなかったですし。

1年おきくらいに上演して,また小嶋さんにマーキューシオを踊っていただきたいものです。(そのときは,3人組の踊りをなんとかしてくださいね〜。衣裳が改善されると,なおありがたいですー)

(2007.03.21)

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ロメオとジュリエット(牧阿佐美バレヱ団)

2007年3月11日(日)

ゆうぽうと簡易保険ホール

 

森田さんのロメオがすばらしかったです〜。
彼のロミオはいいとは聞いていたのですが,あそこまでよいとは思っていなかったので,仰天し,感心し,感動しました。う〜ん,日本人でもロメオになれるんだわね〜♪

そこにいたのは,ロメオそのもの。育ちはいいがやんちゃで,恋に憧れ,友と戯れ,血の気も多く,恋に暴走して死んでいく。そういう若者。
唯一惜しかったのは,スレンダーとはどうにも形容しかねる体型ですが,それ以外は全部よかったです。(体型のほうも,今回は比較的うまく調整できていたんじゃないかしらん? 白いブラウスだけの寝室のシーンでもそれほど抵抗なく見られたから)

 

若々しいロメオでした。
童顔だから得をしているところもあるのかもしれませんが・・・でも,ほんとに若く見えて驚きました。(なにしろ一番最近見たときは『くるみ割り人形』でクララのパパだった方ですから〜)
身のこなしも顔の表情も若々しくて,さすがに15歳には見えませんが,ハタチそこそこには見えました。(中島さんはともかく,菊地さんや今さん,京當さんよりよっぽど若く見えた)

だから,マーキューシオ・ベンヴォーリオとのコンビネーションもよくて,ちゃんと仲良し3人組に見える。雰囲気もよかったし,踊りも(前日の3人と違って)揃っていたし。
それでいて,「この人が主役」が歴然のオーラがありましたし,踊りも3人の中で一番うまい。(この点に関しては,逸見さんは気の毒だったよなぁ,なんて思ったりもしました。失礼かもしれないけれどね)

次に,演技がすばらしい。
「日本人には珍しいラブラブな表現」ができるダンサーだということは聞いていましたので,その点は「おお,たしかに」程度の感想でしたが,キスがうまいのには感心しました。日本人ダンサーのキスというものはたいがい「優しいキス」ですが,森田さんは「激しい接吻」や「熱いキッス」もレパートリーに持ち,もちろん「優しいキス」も含めて,場面と踊りの雰囲気に沿って使い分けでおりました。ブラヴォ♪

いろいろと印象的だったシーンがあるのですが・・・まず,2幕の登場シーン。階段の途中で広場の人々(の中の誰か?)に向けて手を振る動きの異様な元気のよさ,階段を駆け下りてからマーキューシオにむぎゅっと抱きつくときの幸福感溢れる勢い。
♪幸せいっぱい♪ ♪ジュリエットのことで頭がいっぱい♪ で,完全に浮わついてしまっているのが,よーくわかりましたし,それによって,マーキューシオやベンヴォーリオの「いったいぜんたいロメオはどうしちゃったんだ?」の芝居にも(前日と違って)説得力が出ていました。

ジュリエットとの秘密の結婚式のシーンもよかった。
ロレンツォ神父への懇願はちょっと駄々っ子みたい。神父さんのほうは,少なからず危ぶみながらも,この若者の純粋さに負けちゃったんだろうなー,なんて思いました。
その後,小さな白い花を床に並べてヴァージンロード用意するときの,愛しむような手の動き♪

一番すごかったのは,マーキューシオの死の衝撃で前後の見境をなくして,ティボルトに挑んでいくシーンの勢い。
単に友の敵のティボルトに襲いかかっているのではないのですよね。決闘を止めようとした自分の行為がマーキューシオの死につながったから,自分に対する怒りもあって,もちろんティボルトへの怒りもあって,頭に血が上っていて・・・「こいつは許せない」とか「こいつ殺したる」とかそんな感じ。

だから,ぜーんぜんきれいじゃないの。
必死というか切迫感というか激しいというか・・・無茶苦茶な勢いでティボルトにつっかかっていって,相手は完全に気圧されていました。最後は,「ロメオが舞台奥に倒されてしまい,上からとどめを刺そうとしたティボルトに下からやっと剣を突き出して勝つ」という演出なのですが,ここもティボルトともつれあうかのように倒れて,先に立ち上がったティボルトを逃してなるものかと夢中で剣を突き出したという感じ。

それはもう引き込まれました。滅多に見られない名演だったと思います。
(もちろん双方打ち合わせの上での芝居でしょうから,相手役? の菊地さんの功績もあるのでしょう)

広場からの去り方もよかったなー。
キャピュレット夫人に許しを乞おうとして,スカートの裾を掴みかけたりする。ベンヴォーリオが無理矢理連れ去ろうとするのを振り切って広場に戻ろうとしていたのが,回廊? 上で乳母に鉢合わせしてしまった瞬間,我に返った様子で舞台から駆け去っていったのも印象深い。(もしかして一目散にジュリエットのところへ? なんて思わせてくれました)

最後に踊りの話ですが・・・よかったです〜。
膝とか腰の不調があったからでしょう,ここ数年は見る度に「? こんなもんだっけ?? もっと踊れたよねえ???」な舞台ばかり見せられたような気がするのですが,見事に復調したみたいですね〜。(おめでとうっっ)
特に,2幕の最初のほう,どんどん加速していくマネージュがすばらしかった。スピード自体も見事でしたが,それがロメオの幸福感や無謀な恋に突っ走る若さの表現になっているのに感動。

 

というふうに延々と誉めてきたわけですが・・・この日の森田さんのロメオに欠点があったとすれば,それは,パートナーを輝かせることができなかったことでありましょう。もっと率直に言えば,「ジュリエットが霞んでしまった」感がありました。
でも,たぶん,それは森田さんのせいではないのですよね。堅実でスムーズなサポートとリフトで青山さんをきれいに見せていたと思いますし,特に寝室のパ・ド・ドゥは,2人で甘さと切なさが交錯する,すてきな雰囲気を見せてくれましたから。

そうではなくて,青山さんが,若くて初役だから,十分役を表現できていなかったから印象が薄かった・・・ということなのだろうと思います。それと・・・もしかすると,役に合っていなかったのかなー? という気も少々・・・。
決して悪くはないのです。可憐な美人だと思うし,存在感もあったし,踊りは上手で安定していたと思う。

でも,なんだかジュリエットらしく見えなかったのですよね,私には。
それがなぜなのかはわかりません。「気が強そうでしっかりしたお嬢さん」に見えたのですが,そういうジュリエットだって悪くはないはず。ジュリエットはロメオより大人でしっかりしているのが普通ですし,おとなしいだけのお嬢さんでは死に突き進むことはできませんよねえ。
・・・とは思うのですが,でも,なんか・・・?

うーん・・・もしかすると,彼女の個性からいって,最後に死を迎えるような役は向いていないのかも? そう言えば,白鳥よりも黒鳥のほうが断然よかったですし,例えばジゼルよりはキトリなんかのほうが似合いそう。
まだ若いバレリーナですし,目下の状況から言うと毎公演のように彼女の舞台を見ることになりそうですから,その辺について探りながら,今後を楽しみにしたいと思いますー。

 

マーキューシオは中島さん。よかったですよ〜。
踊りは小嶋さんと比べるとムニャムニャ・・・でしたが,これは比べるのが間違いですよね。難しそうな振付をちゃんと踊っていたから立派だったと思いますし,動きも軽くてマーキューシオの軽妙な感じが出ていました。町の女たちと踊るシーンでのサポート系で「ん?」はありましたが,ミスしたわけではありませんし。
演技もよかったです。ダンサーの若さと役の若さが一致しているのもよかったのかな,芝居が自然な感じでしたし,死んでいくシーンも上手でした。

雰囲気的には「なんかわかんないけど,キミはいつも楽しそーでいいねー」なお兄ちゃん,という感じ。楽しそうに仲間たちとつるんで,楽しそうに広場で踊って,楽しそうに刃傷沙汰に従事しておりました。
彼のお顔立ちはどちらかというとティボルト向きかと思っていたのですが,笑顔になるとアヒルちゃんみたいでカワイイのですね〜。(って失礼?)

ベンヴォーリオはこの日も今さん。やっぱり「いい人そう」で,役に合っているのがなにより。

菊地さんも2日連続のティボルト。
前日はほかに見なくてはならないものがあったので,今ひとつ堪能できなかったのですが,落ち着いて見るとかっこいいですね〜。(というより・・・前日は「1000倍くらいかっこいい人(←当社比)」が同じ舞台の上にいたので,「かっこいい」というよりは「かっこつけてる」に見えてしまった・・・のかもしれません)

舞台に登場しただけで剣呑な雰囲気を漂わせ,好戦的でとんがった若者。その一方で,町の広場での尊大な態度や舞踏会(前半)での落ち着いた物腰には良家の子弟らしさが感じられ,ごくたま〜に見せる笑顔からは色気がこぼれ落ちる。

踊りは,前日より好調だったのでは? 跳躍も回転もきれいに決まっていました。
課題は剣さばき・・・というより,剣を持って踊るシーンでの形の決まり方,と言ったほうがよいかな? 中島さんにも言えることなのですが,上半身と下半身の調和が今一つ欠けて見えました。森田さんのロメオの表現くらいまで行けば「そんなことどうでもいい」と思えますが,バレエですからやはりきれいなほうがよいですよね。そういう意味では,小嶋さんはもちろん,一見「お嬢さんの剣術」風の逸見さんのほうが上手で,やはりキャリアが長いだけのことはある。菊地さんもいっそう精進してください〜。

京當さんのパリスについては,うーむ,やはり誉める気はしないなぁ。
このバレエ団は,彼を「王子を踊るべきダンサー」として育成中で,だからこそパリスを踊ったのだと思いますが,菊地さんといっしょに舞台にいると,ティボルトのほうがエレガントなんですよねえ。(困) 
現時点ではベンヴォーリオのほうが向いていたんじゃ? などと思ってしまいました。

 

キャピュレット夫人は坂西さん。長身にロングドレスが映えて美しかったです。
意外にも,田中さん以上にジュリエットに対する愛情が薄い感じに見えました。表面的には優しそうだけれど実は無関心,という感じでしょうか。
一方で,ティボルトの死の嘆きようはたいへん女らしく,「2人の関係は?」的に見えて唐突感が。(そういう嘆きようをするなら,舞踏会の場でそういう雰囲気が2人の間に見えていないと困る)

この版では道化の真ん中は女性プリマの役になっていて,この日は橘さんが踊りました。丸いお顔に頬の赤い○が似合って,これは意外なはまり役? という感じ。踊りはもちろん上手でしたし,弾むような感じも道化にふさわしい。。
初日は佐藤さんで,こちらもキュートだったろうと思うのですが,マンドリンで伴奏する? マーキューシオなんか眺めていたので見逃しました。やむを得ない事情ですが,少々残念。

町の女たち3人はダブルキャスト。皆さん上手でしたが,初日のほうが元気がよく,2日目のほうが大人っぽい感じ。主要キャストとの兼ね合いでいうと,逆だったほうがよかったかも?
その他で目を引いたダンサーは,清瀧千晴さんと細野生さん。どちらかの家の従者や道化や町の男で踊っていましたが,若くて溌剌としていてカワイイよね〜。

コール・ドについては,うーむ・・・人がたくさん舞台の上にいる割りに「広場の賑わい」や「舞踏会の豪奢」が表現されないのは困ったもんだなー,と思いました。
まあ,でも,良くも悪くも「なにをやっても整然」というのが,ここのカンパニーの個性なのかもしれません。人が多い割りには「ごちゃごちゃ混雑」感がなく,主要キャストが埋没することがないのは長所でしょう。これはこれでよい,と考えておくことにしますかね。

 

というわけで,楽しい2日間でした。

それにしても,2日目を見逃さなくてよかったなー,と思います。主役以外のキャストが発表になって,小嶋さんが初日だけマーキューシオを踊るとわかったときには,2日目のチケットは手放そうかとも思ったのですが・・・思いとどまって,ほんとによかった。あの日の森田さんのロメオというのは,「バレエファンなら見ておくべき」と言えるくらいの名演だったと思いますもん。

そして,小嶋さんについては・・・そう,ある意味では,今の状況は夢みたいに幸せです。
もちろん,新国立劇場で毎回主役を踊るのを見続けていられたら,そのほうが幸せだったのは間違いありません。でも,一時は,情報収集すればするほど「もう2度と踊れない」という話ばかり聞かされたことを思えば,信じられないくらい幸せな状況。

あんなにすてきなマーキューシオを見せてもらえて,その上で「踊りは物足りなかった」なんて言える幸福。「彼が踊っている」こと自体への感激に終始するのではなく,彼の踊る姿を当然のこととして受け止めて,平常心で舞台を見られる幸福。幕が下りた瞬間に悲しくなるのではなくて,「数か月待てば,なんかは踊ってくれるだろう」と安心していられる幸福。
そして,彼が新国立劇場のマクミラン版上演を2回とも降板して以来の,プロコフィエフの音楽を聞く度に喪失感で涙してしまう日々から逃れられた幸福。

今回のマーキューシオは「きゃあああ♪♪♪」と熱狂できるものではありませんでしたが,その替わり,平穏でしみじみとした幸福感に浸れて,とても嬉しい公演でありました。

(2007.04.02)

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