07年1月7日(日)
東京国際フォーラム ホールA
作曲: P.チャイコフスキー
台本: V.ベギチェフ, V.ゲルツェル
振付: M.プティパ/L.イワノフ 改訂演出: N.ボヤルチコフ
美術: V.オクネフ 衣装: I.プレス
指揮: セルゲイ・ホリコフ 管弦楽: レニングラード
オデット/オディール: オクサーナ・シェスタコワ ジークフリート: ファルフ・ルジマトフ
ロットバルト: マラト・シェミウノフ 王妃: ズヴェズダナ・マルチナ 家庭教師:アンドレイ・ブレグバーゼ
パ・ド・トロワ: アナスタシア・ロマチェンコワ タチアナ・ミリツェワ アントン・プローム
大きい白鳥: イリーナ・コシェレワ タチアナ・ミリツェワ スヴェトラーナ・ロバノワ ユリア・カミロワ
小さい白鳥: ヴィクトリア・シシコワ ユリア・アヴェロチキナ エレーナ・ニキフォロワ ナタリア・リィコワ
スペイン: オリガ・ポリョフコ ユリア・カミロワ ヴィタリー・リャブコフ アレクセイ・マラーホフ
ハンガリー(チャルダッシュ): エカテリーナ・ガルネツ マクシム・ポドショーノフ
ポーランド(マズルカ): エレーナ・モストヴァヤ エレーナ・フィルソワ ナタリア・グリゴルツァ オリガ・ラヴリネンコ ミハイル・ヴェンシコフ アレクサンドル・オマール イリヤ・アルヒプツォフ ニキータ・セルギエンコ
2羽の白鳥: エルビラ・ハビブリナ イリーナ・コシェレワ
シェスタコワはたおやかで切なげなオデット。去年は「ジークフリートとの恋がすべて」に見えましたが,今年は少し「白鳥の女王」色が出てきた気がしました。でもやっぱり,毅然とした女王というよりは,運命に流されていくかわいそうな存在という趣が強い。
オディールは愛らしい笑顔と妖しい視線で「欺く」感じ。彼女のお顔立ちは,私に「優等生で先生のお気に入り。でも,実は我儘で意地悪」という,昔の少女マンガによく登場した敵役を想起させるので,オデットよりオディールのほうがずっと似合って見えますし,魅力的に感じられます。
踊りは,安定していましたし,(白鳥については私の好みではないみたいですが)柔らかくてよかったと思います。
一方のルジマトフは,実年齢相応に大人で,なにかに苦悩する王子でした。
というか・・・周りと隔絶した雰囲気であまりにもエラソー(ノーブル)なので,王子ではなく,既に統治者として年月を経てきた王に見えてしまいました。 というか・・・領民や友人や家庭教師への反応は通りいっぺんのもので内に沈潜しているように見えて,修行僧とか哲学者とか,そういう存在に見えてしまいました。
外交やら内政やらでの権謀術数に虚しさを感じ,学問? 宗教? に専念する生活に入りたいと願っているが,責任があるから国を投げ出すわけにもいかない・・・と苦悩している,とかでしょうかね???
それともあるいは・・・厭世的とさえ言いたいほどの佇まいの中,若く美しい王妃に対するときだけは熱が感じられましたから,義母(父王の後妻であると勝手に決定)への道ならぬ恋が我と我が身を苦しめる,とかでしょうかね???
なんにせよ,そういう「苦悩の人」と,その人がオデットへの恋に落ちたりオディールに騙されたりするというその後のストーリーとは,私の中で有機的に結びつきませんでした。見ているときは「どういうジークフリートなんだかよくわかんないなー?」でしたし,今も「なにを見せたかったのかなー?」と首を捻っております。
1幕2場以降については,去年(感想はこちら)と同じような感想です。
湖畔の場面は「普通にきれい」で「サポートに専念」しているように見え,舞踏会でのパ・ド・ドゥで「きゃああ」と思えないのは切なく,3幕は,「この演出ではしかたないよね」という感じ。
でも,黒鳥のパ・ド・ドゥに関しては,去年ほど悲しくはなかったです。というより・・・去年よりはきれいだと思いました。
去年の踊りは今年ほど振付を簡略化していなかったのですが,その分「さあ,踊るぞっ」が突出した感じで,私にとって彼の踊りが「きれい」にさえ見えないという初めての経験だったのです。(それを補って余りあるものを見せてもらったとも思っていますが) たぶん,変なところに余計な力が入った踊りだったのだと思います。
それに比べると今年は,無駄な力みが感じられず,きれいに見えました。なんと申しましょうか・・・あれはもう,伝統芸能化していると思いますね。スピードとか高さとか切れ味なんかは皆無なのに,柔らかくてきれいではあるんですよね〜。
そして,踊りというよりは所作と呼ぶべき分野は,それはもう美しいわけです。特に,腕と手の動きと形は,これも伝統芸能化でしょうかね? 驚くほど美しい。
まあ,あまりに美しく,また,それを惜しみなく(悪く言えば,場の趣旨と関係なくむやみに)披露してくれるので,舞台上がいっそう意味不明になった気もします。例えば1幕1場で家庭教師が「ぐるぐる〜」と回されるときも,離れたところにいる王子の手が「回れ」と命じているように見えてしまって,「あのー,もしかして,黒魔術師目指しているからそんなに暗い顔なんですか?」なんて冗談を思いついてしまいましたよ。(すみません)
一番美しかったのは,終幕,上手と下手に引き裂かれた恋人たちが,それぞれその場で回転系の踊りを見せる(いつもは迫力が欠けるよなぁ,と思う)シーンです。アチチュード(?)しながら,両手を手首のところで重ね合わせて前に差し伸べる動きを何回か見せたのですが,あの重ねた両手の優雅で気高い美しさといったらもう・・・。
あとから考えると「死」を意味するマイムですから,崇高で静かな死の決意を表していたのかもしれません。以前からあった振付なのか彼の演技なのかわかりませんが,ずっと記憶にとどめたい美しさでありました。
シェミウノフのロットバルトは長身を生かしてかっこよかったです。目鼻立ちのくっきりしたハンサムだから,「怪奇の館」に近いメイクも魅力的に見えました。
パ・ド・トロワは,ロマチェンコワはシャープ,ミリツェワは動きが大きくて派手な踊り。プロームはよかったですが,私はこの役は「ノーブル」の範疇だと思っているので,ちょっと不満なところもありました。例えば,左の爪先が右と同じくらい伸びるとよいのになー,など。
舞踏会のキャラクテールは,最初のスペインを見たときは「いかん。マリインスキー後遺症だ」と思いました。あのかっこいいマラーホフでさえ「アレに比べるとヌルイ」に見えてしまったのですよね。
でも,見ているうちに大丈夫になったのは,後半登場ほど踊りがよかったのか,こちらの目が慣れたのか・・・? まあ,わかりませんが,マズルカでは「このコいいねえ」も発見。帽子のためお顔がよく見えなかったのが残念なのですが・・・動きがキレよく大きく,そして王子な指先でした。(ヴェンシコフ・・・かなぁ?)
白鳥たちは,大きな4羽や3幕の2羽は普通によかったと思いますが,コール・ドが・・・。
マリインスキー後遺症(みーんな背が高くてみーんな細くてみーんな腕が長くてみーんな美人の残像が・・・)もあったとは思いますが,それ以前に「ぴしっとしない」踊りでした。ハードスケジュールで疲れていたのかもしれませんが,うーん・・・もう少し気合を入れてなんとかしていただきたかったです。
あ,小さな4羽や終幕の黒鳥に関しては,逆の意味でのマリインスキー後遺症「そうそう,こういうのはちっちゃい人に踊ってもらわないとね〜。こうでなくっちゃね〜」で,心和みました。
毎年見てはいるが,ちょっと書きとどめておきたくなったこと。
1幕2場のはじまり,王子が湖面の白鳥の群れに気づくところは,斜幕の後ろにダンサーが現れる演出でした。
全体としては,↑に書いたとおり「物語として釈然としない」という気分は残りましたが,もちろん悪くはなかったです。
ルジマトフはそもそも憂いと翳りの王子様なわけですが,今回のように「内面への旅」に徹底しているのは初めて見たように思います。うん,貴重な舞台でありました。
(2007.01.10)
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作曲: Pyotr Il'yich Tchaikovsky
指揮: Dmitry Yablonsky
演奏: Russian State Symphony OrchestraTchaikovsky: Swan Lake, Op.20 [from US] [Import]
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作曲: Pyotr Il'yich Tchaikovsky
指揮: Charles Dutoit
演奏: montreal symphony orchestra