06年12月23日(土)
新国立劇場 オペラ劇場
振付: フレデリック・アシュトン (監修・演出:ウェンディ・エリス・サムス)
作曲: セルゲイ・プロコフィエフ
舞台美術・衣裳: デヴィッド・ウォーカー 照明: 沢田祐二
指揮: エマニュエル・ブラッソン 演奏: 東京フィルハーモニー交響楽団
シンデレラ: 本島美和 王子: 中村誠
義理の姉たち: 保坂アントン慶, 堀登 仙女: 川村真樹 道化: 八幡顕光
父親: ゲンナーディ・イリイン ダンス教師: グリゴリー・バリノフ
春の精: 寺島まゆみ 夏の精: 真忠久美子 秋の精: 遠藤睦子 冬の精: 厚木三杏
ナポレオン: 伊藤隆仁 ウェリントン: 貝川鐵夫
王子の友人: 陳秀介, マイレン・トレウバエフ, 冨川祐樹, 江本拓
優れた作品だなー,と改めて思いましたし,優れたバレエ団だなー,とも改めて思いました。
主役については足りないところも多かったと思いますが,二人とも若くて初役なのだから,そういう点があっても全然問題ありません。もちろん「初役とはびっくり」な舞台を見せてくれればそのほうがよいですが,「なんじゃこりゃ?」でなければ,とりあえずは結構。よいと思うところは誉めますし,悪いと思えば貶しますし,そうこうするうち立派になってくれれば,見る甲斐があるというものです。(←かなり悪口を言うので,最初に予防線)
本島美和さんの主役を見るのは初めてでした。
この方の踊りは私の好みではないようで,今日も「きれい」とか「音楽的」とは全然思わせてくれませんでしたし,ステップ(? 脚の動き?)に「なんか違うのでは? アシュトンに見えないような?」という違和感がありましたが,普通に上手だったとは思います。
表現面は「演技している」のはわかるけれど感情が全然伝わってはこなかった(ひらたく言えば,わざとらしく見えた)・・・のですが,3幕で「王子の前に靴が落ちてしまう」ところの靴の扱いがとっても自然で上手でした。どこから落ちたのか全然わからなくて,突然靴がどこかから転がり出てきたみたいで,びっくりしちゃったわ〜。(こんなの初めてかも?)
そこまでが拙く見えたのは,彼女なりにいろいろ演技プランを練ったのだけれど,初役だからこなれていなかった・・・ということなのかもしれません。もしかしてもしかすると,もう1回踊ればずっとよくなるのかも〜。
王子は,中村誠さん。
前の週に牧バレエ『くるみ割り人形』で小嶋直也さんを見たばかりで,「当分バレエ見なくていいんだけどー。追憶の中にいたいんだけどー」という精神状態だったにもかかわらずこの日の舞台を見にいったのは,ひとえに彼の初主役を見るためです。
一昨年の『くるみ割り人形』のカヴァリエで初めて認識して,「腕の動きがノーブル♪ けっこういいかも♪ 王子候補かも♪」だったのですよね。その後きわめて順調に出世の階段を上り,予想より早く王子役デビューですから,やっぱ見ときたいですもん。
感想としては・・・そうですねー,「立ってるだけで王子」度とか「手を出すときも王子」指数が高いダンサーだなー,と大いに感心しましたし,「やっぱりね。思ったとおりダンスールノーブルだわ」と心中大きく頷きました。(我が目は正しかった,なんてね)
脚が長くてきれいですし,ただ立っていたり,歩いたりするときに決して「王子」を離れないのが立派。腕も長いくて指先までエレガント〜。82年生まれだそうですから,まだ24歳。その年齢であのエレガンス,すばらしいことだと思います。
一方で,踊りのほうは「ありゃ」とか「おおっと」が頻発。「あれ? 難しい跳躍を省略した?」と見えたところもありましたし,ソロもパ・ド・ドゥも技術的にもっと安定しないと,主役で見るには苦しいものがありますね。いっそう精進していただいて,「立ってるときは王子」とか「手を出すときだけ王子」で終わらないようにお願いしたいものです。
今回一番「♪」だったのは,仙女の川村さんの美しさです。(たしか初役)
最近見るたびに「きれいになったなー。充実しているなー」だった方で,大きな役も増え,来年早々の『眠れる森の美女』の主演も決まっています。キラキラ輝く美しい妖精だったのは,決して衣裳の飾りのせいだけではなく,その充実ぶりが大きいのでは? 以前よりきれいになって,(たぶん)ご本人も自信がついて・・・という結果なのだろうと思います。
踊りは伸びやかで繊細で透明感がありました。若々しい感じだから「舞台を支配する」まではいかなかったかもしれないけれど,不遇な少女を導いてくれる「優しく信頼できるお姉さん」の雰囲気はありましたし,ちゃんと四季の精より格上の存在に見えました。
うん,とーってもすてきな仙女さまだったと思いますよ〜♪(オーロラも楽しみ〜)
四季の精では,冬の精を踊った厚木さんの美しさと動きのキレが格別でした。前回見たときは「手首を翻しすぎて,アシュトンじゃないんじゃ?」に見えましたが,今回はそんなことはなかったですし。
秋の精の遠藤さんは,いつもどおり「いい仕事してますねぇ」でした。リズム的に踊りにくそうなヴァリアシオンの音楽なのに,ぴたっ,ぴたっと要所が決まって,見ていて気持ちがいい。かっこいいですー。
12人の星の精(ソリスト参加のコール・ド)はお見事。
機敏に快活に音楽とともに動いて,踊りとしてもきれいで,申し分ありません。ここのバレエ団の女性コール・ドはほんっとに見事ですよね〜。プティパもいいし,アシュトンもいいし,バランシンだって上手だし。
義理の姉たちは,初挑戦の保坂アントン慶さんと初演からずっと踊っている堀登さん。
保坂さんは(オペラグラスで何回確認しても彼には見えなかったのですが,やっぱりそうだったんでしょうねえ),うーん・・・「おとなしめのアクリさん」に見えてしまいました。普通に面白くはあったのですが,独自の個性や工夫が感じられなかったので,「そんなら本家のアクリでいいじゃん」というのが正直な感想。(どっちも客演なわけですし)
堀さんはやっぱり上手い。男性的な容貌を白い化粧に包んで,なんとも言えず「情けない」感を漂わせる雰囲気づくりが巧みだと思います。
お父さんはイリインさんでしたが,うーん・・・恰幅がよすぎて,「うるさい上の娘たちに気圧されている」が不足しておりました。この役より,前回見せてくれた,(アクリさんとは全然違う)「女らしさ全開」の上のお義姉さんを見せてほしかったなぁ。
道化は八幡さん。
上手でしたが,この作品の道化を踊るには,ちょっと若すぎるのかも? 『白鳥の湖』の道化と違って,ちょっと皮肉っぽい趣を見せる存在ですよね。そういうものがうまく出せていない気はしました。
でも,あれくらい踊ってくれれば,その辺は後回しでもいいかなー,と思える踊りではありましたから,ま,いいかしら〜。
美術は,何度見ても,もんのすごくすんばらしいです〜。
特に衣裳はすばらしい。凝っているし(←その分,踊りにくそうな役も多いけれど),美しいし,大好き。
そうそう,今回は,馬車が,以前より長く舞台上にいたような気がしました。「長く」といっても1分未満ですよね。その時間のためだけにあるあの豪奢な馬車を用意する気概というか無駄というか・・・それこそが,舞台を本格的に見せるのだよなー,といつも見る度に思います。
そして,今回は・・・年に数十回,ほんの数時間の舞台のためだけに,毎日長時間の訓練と準備を続けるダンサーの生活は,あの馬車に似ているのかもしれないなー,なんて考えてしまいました。(人間と装置をいっしょにするな,と言われますかね?)
(2006.12.23)
Cinderella Prokofiev Dowell Sibley アシュトン版の本家・英国ロイヤル・バレエの映像DVD。1969年収録。新国とは演出が少し違うし,衣裳も違います。 |
Cinderella Prokofiev Dowell Sibley ←と同じ映像のVHSです。 |
Sergei Prokofiev: Cinderella- Ballet In
Three Acts Sergey Prokofiev Andre Previn London Symphony Orchestra 全曲収録のCD・・・かなぁ? |