くるみ割り人形(レニングラード国立バレエ)

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2006年12月19日(火)

宮城県民会館

 

作曲: P.チャイコフスキー

原作: E.ホフマン     台本: マリウス・プティパ

改訂台本: N.ボヤルチコフ     改訂演出: N.ボヤルチコフ     美術: V,オクネフ

指揮: セルゲイ・ホリコフ(たぶん)     管弦楽: レニングラード国立歌劇場管弦楽団

マーシャ: エルビラ・ハビブリナ     王子: デニス・モロゾフ

ドロッセルマイヤー: マクシム・ポドショーノフ     くるみ割り人形: デニス・トルマチョフ     ネズミの王様: アントン・チェスノコフ

フリッツ: アレクセイ・クズネツォフ     父: アレクセイ・マラーホフ     母: ナタリア・オシポワ

コロンビーナ: ユリア・アヴェロチキナ     ピエロ: ダニール・サリンバエフ

スペイン人形: マリア・リヒテル, ニキータ・クリギン

中国の人形: ヴィクトリア・シシコワ, アレクセイ・クズネツォフ

アラビアの人形: アンナ・ノヴォショーロワ

パストラル: ナタリア・エゴロワ, エレーナ・ニキフォロワ, アンドレイ・ラプシャノフ

トレパック(ロシアの人形): ナタリア・オシポワ, アンナ・スホワ, アンドレイ・ブレグバーゼ, ヴィタリー・リャブコフ

ワルツ: エレーナ・エフセーエワ, エカテリーナ・ガルネツ(自信なし), エレーナ・フィルソワ, ユリア・カミロワ(たぶん), アルチョム・プハチョフ, ドミトリー・ルダチェンコ(たぶん), パヴェル・ノヴォショーロフ(自信なし), アレクサンドル・オマール(自信なし) 

 

ボヤルチコフ版の『くるみ割り人形』を見るのは99年以来でした。
前回も仙台で見たのですが,その際に「なんともかんとも・・・な演出だ。交通費を使って見にいくようなものではない」という結論が簡単に出ました。したがって東京公演を見ようと思うこともなく年月が過ぎて,7年ぶりに地元で見る機会が到来したわけです。
久しぶりに見た感想としては・・・全体としては,前に思ったほど「なんじゃこりゃ?」ではなかったです。いい演出だとは全然思いませんが,まあ,こういうのもあってもいいかも。かなりミョーだし,意味不明なところも多いけれど,バレエ団ごとに違ういろんな演出があったほうが楽しいですもんね。
ただし!!! グラン・パ・ド・ドゥのアダージオ(カヴァリエつきのパ・ド・シス)だけは,なんとかしたほうがいいと思いますー。あの身体能力「のみ」全開の振付は,「百害あって一利なし」なんじゃないかしらね〜?

 

以下,最初からつらつらと書いていきます。

まず,1幕前半は好きではありませんです。フリッツを始めとする男の子役を男性ダンサーが踊るから,なんともむさくるしくて。例えばマスロボエフが出ていて「元気よくはじける」をやっていましたが,もんのすごい違和感。なんか・・・「おいたわしい」という気分になってしまいましたよ。ほかにも,頭髪が危ない方やら髭の剃り跡が濃い方やら,「背が低い順にキャスティングしたらこうなりました」なのでしょうが,見ていてうるわしくないのですよねえ。
女の子のほうも「お顔が子どもに見える順」ではなく「背の低い順」でキャスティングする結果,お母さんたちのほうが向いているのでは? の方もいて・・・直前に子どもの役を子役が踊る版を見た直後なのも悪かったのか,「かわいくねーなー」とため息をつきたい気分でした。

それから,ドロッセルマイヤーがかなーりヘンテコ。
どのようにヘンテコなのかを説明するのは難しいのですが・・・「ほっ,ほっ」という声を出しながら登場しそうな,騒々しい感じの人。(実際には黒子にリフトされて移動したり,腰を突き出しながら忙しく揉み手をしたりする。大きな跳躍なんかも見せる)
なんて言えばいいのかなー,「陽気で愉快なおじさん」とか「童心を保っていて子どもたちと仲良くなれるのが特技」な設定なのでしょうが,私には「テンション高すぎ」とか「1人で大騒ぎしている」に見えてしまいました。

もちろん,全部が気に入らないわけでないのです。
一番魅力的なのは,タイトルロールの「くるみ割り人形」。最初から男性ソリスト(今回はトルマチョフ)が出てくるのですが,カワイイのよね〜,これ。
両手を広げてカクカク動く,等身大のお人形。普通に腕に抱ける人形だと「マーシャはなんでこんなブサイクな人形を?」がつきまとうのですが,こんなに大きくて動くお人形なら,ブサイクも愛嬌に転じます。子どもにとって,これと遊ぶのは楽しいですよね,きっと。

ツリーが大きくならず,パカッと割れて空高く上っていく・・・という怪奇現象を経てネズミたちが登場。
ネズミたちは,黒と赤の衣裳。スタイリッシュでかっこいいです。男女混合部隊なのはかなり珍しいと思いますが,考えてみれば,実際のねずみたちならオスもメスもいるのが当たり前。実に理にかなったキャスティングですねー。(←ちょっと違うか?)
兵隊たちは,この版にしては珍しく普通の感じ。たしか歩兵が男性ダンサーで騎兵が女性ダンサーだったと思います。

マーシャがネズミ王に投げつけるのがスリッパではなく蝋燭というのが珍しかったなー。
ハビブリナは愛らしくも迫力の欠けた投げつけ方でしたが,ステパノワなんかが投げたら見事に命中して,ネズミの王様は火だるま状態? 効果的な戦法で,実に理にかなった演出ですね〜。(←これもちょっと違うか?)

さて,ネズミたちが退散して人形は王子に変身します。
この変身(交替)方法が変わっているのですわ。袖から,両手を広げてカクカクした人形振りで王子が登場,くるみ割り人形と入れ替わります。(王子なのに気の毒ぅ)
おまけに,雪の場面が終わると,またカクカク王子→カクカクくるみ割り人形という入れ替わりがあって,幕切れは,マーシャとくるみ割り人形のツーショット。王子をないがしろにしすぎですよねえ。
まあ,今回に関しては,モロゾフよりトルマチョフのほうが魅力的なダンサーでしたので,くるみ割り人形に大活躍していただいて異論はないのですが,ミョーな演出ではありますなー。

 

さて,休憩後幕が開くと,唐突にも,マーシャとくるみ割り人形は人形の国におりました。(と思ったのですが,プログラムによるとドロッセルマイヤー家の屋根裏だそうで。はて,もしかして,シュタールバウム家の間違いではないのかなぁ?)
そこにネズミたちがまた登場,くるみ割り人形が最終的に勝利をおさめたところで,再びカクカクくるみ割り人形→カクカク王子と入れ替わって,ディベルティスマンが始まります。

ボヤルチコフによるディベルティスマン改変の基調は「小道具持ち込み」なのだなー,というのが今回の発見でありました。
スペインの扇とアラビアの布は普通だと思いますが,チャイナの女性は龍のついた長い棒を持って登場。踊りらしい踊りはなく,男性の周りで棒を振り回すのが仕事のよう。パストラル(あし笛)の男性は,説明が非常に困難なのですが・・・携帯小型ブランコのようなものを手に登場。それを介して女性が交互にポーズをとるなどありまして・・・うーむ,効果的な小道具とは思えませんが,珍しいからまあいいか。トレパックは,うーむ,これも説明困難・・・リボンが2本だけのメイポール? ロシア風の棒? 男女4人の踊りなのですが,男性1人が交代で支柱を支え,女性2人はリボンを手に踊り,残る1人の男性だけが手ぶらで踊っておりました。

コロンビーヌとピエロが1幕だけでなくずっと出ているのですが,(プログラムによると,この2人がネズミにさらわれたのをくるみ割り人形が救い出す・・・のが2幕の最初の場面らしいです。あまりそういう感じには見えなかったけれど)この2人の踊りもありました。この辺は,話に一貫性があってよいですね。(音楽はギゴーニュおばさん)

そうそう,ディベルティスマンの特徴がもう一つ。
音楽が終わる度に,各国の人形たちが全員手をつないでぞろぞろと登場するのです。しかも,元気なく・・・というより,意気消沈した様子で。
いったいどういう趣旨の演出なのでしょうねえ??????

花のワルツに続いて,グラン・パ・ド・ドゥになるわけですが,最初に書いたように,とにかく,これは改悪としか言いようがない。記憶に残るしゃちほこリフト多用に加えて,横180度開脚リフトなんかもあって,情緒に欠けることおびただしい。ほんっとに困ったもんだと思います。

ラストは,人形たちが消え,王子にリフトされるマーシャが舞台に残ります。
そして,(たしか)上からクリスマスツリーが下りてきてマーシャたちの姿が消え,舞台中央にはドロッセルマイヤーとくるみ割り人形が現れて・・・幕。
どういう意味の幕切れなのかしら〜? とは思いましたが,雰囲気があってよかったです。(ドロッセルマイヤーなしでくるみ割り人形だけのほうがもっとよかったかも〜)

 

ハビブリナは,出産を経て体調がまだ戻っていないのかなー? という感じで,踊りは重かったです。もともと細いタイプではないけれど,さらにふっくらしちゃったみたいで・・・。
でも,万年少女の愛らしさで,マーシャ役はぴったり。優しげでありながら溌剌ともしていて,素直で聡明に育ったお嬢さんという感じ。くるみ割り人形との冒険行を心からエンジョイできそうな少女でした。

モロゾフの主役を見るのは初めて。キャスト表を見て「おおっ」と楽しみにしたのですが・・・えーと,全然よろしくありませんでしたねえ。
振付のせいもあるのかもしれないけれど,全身の調和が欠けているというか,腕と脚がバラバラに動くというか・・・全然きれいに見えないのですよね。容姿はよいのですが,姿勢もあんまりよくないし,うーむ,うーむ,うーむ・・・と唸るうちに舞台が終わってしまいました。

印象に残るソリストは,くるみ割り人形を踊ったトルマチョフ。人形振りについてどうこう言える目は持っていないのですが,踊りも演技もとても上手に思えましたし,愛嬌がありました。「さすがはタイトルロール!」という感じ?
それから,(振付自体はどうかと思いますが)チャイナのシシコワがとてもキュートでしたし,つぶらな瞳で愛らしいお顔立ちのニキフォロワ(パストラル)も印象的でした。(初めて認識した方)

あとは・・・お父さんはマラーホフだったのですが,「・・・祖父か?」という老けメイクでありました。(なぜだろう?)
大事なことを忘れてはいけない。私としては,プハチョフが花のワルツのカヴァリエで出ていて,美脚とエレガントな指先を見られたのがオトクでございましたわ。

コールドは,きれいに見えませんでした。
直前に牧阿佐美バレヱ団を見ていたときはマリインスキーの後遺症は出なかったのですが,どういうわけか,今回は出たみたいで・・・率直な感想を言うと「ありゃ,全然違う。あっちのほうがずっときれいだ」という感じでした。すみません。

 

完売ではないとのことでしたが,オケピットを抜いて約1500席の会場がほぼ満席のように見えましたし,カーテンコールでは立って拍手する方もたくさん。ホールから出る中で聞いた会話も,皆さん満足なさったようでした。
ですから,まあ・・・自分が満足したかどうかはさておいて,ほのぼの〜とした気分になれる公演ではありました。

(2007.02.27)

 

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