2006年10月22日(日)
ゆうぽうと簡易保険ホール
演出・振付: サー・フレデリック・アシュトン
原作: ジャン・ドーベルヴァル
作曲: フェルディナン・エロール 脚色・編曲: ジョン・ランチベリー
美術: オズバート・ランカスター
指揮:堤俊作 管弦楽:ロイヤルメトロポリタン管弦楽団
リーズ(シモーヌの一人娘): 橘るみ
コーラス(リーズと恋仲の若い農夫): 菊地研
シモーヌ(未亡人・裕福な農園主): 保坂アントン慶
トーマス(金持ちのぶどう園主): 本多実男
アラン(トーマスの息子): 清瀧千晴
村の公証人: 加茂哲也 公証人の書記: 山内貴雄
若いおんどり: 中島哲也 めんどりたち: 森脇友有里, 吉田浩子, 塚田織絵, 小松見帆
リーズの友人たち(木靴の踊り): 橋本尚美, 吉岡まな美, 笠井裕子, 坂梨仁美
リーズの友人たち: 奥田さやか, 竹下陽子, 青山季可, 伊藤友季子
村娘:
館野若葉, 小橋美矢子, 柄本奈美, 加藤裕美, 関友紀子, 又吉加奈子, 金森由里子, 日高有梨, 鈴木理奈, 小塚悠奈, 白木あゆみ, 佐々木可奈子農夫:
塚田渉, ムラット・ベルキン, 徳永太一, 今勇也, 邵智羽, 石田亮一
伊藤隆仁, 藤井学, 坂爪智来, 細野生, 高鴿, 上原大也
楽しかったですよ〜。
何回見ても好きだな〜,見る度に好きになるな〜。
この作品の最大の長所は,つきあいで来ているお父さんたちも楽しめることなんじゃないかしらね〜?
今日も五反田駅まで群れをなして歩いている中で,お嬢さん@バレエ習ってます に向かって「楽しかったねー。びっくりしたねー」と話しかける若いパパの声や,「けっこう面白かった」と奥様に述べるご主人の声などが聞こえました。
こういうのって珍しい。普通はお嬢さんに「楽しかった?」と尋ねるとか,「きれいだったわね〜」という奥様に「うん」と答える程度ですもん。
橘さんがリーズを踊るのは2回目。
私は前回も見ていて,「おすまし」すぎるなー,と思ったのですが,今回はその点は大丈夫でした。
小柄な身体で小さな丸顔。そのお顔の表情がくるくると変わって,とても愛らしいし,演技もよかった。お母さんへの愛情はかなーり足りなかったですが,その分コーラスへの想いは十分で,この作品の原題「箱に入れ損ねた娘」がぴったりでした。
演技に比べると,踊りはリーズらしくなかったような気がします。「お姫様」の踊りだった,と言えばいいのかな?
彼女は,アシュトンよりプティパのほうがよいみたい。小柄だから細かい動きが似合う,というわけではないのですねえ。(←発見) 長い腕を生かして,優美に古典のプリマを務めるほうが向いているんじゃないかなー。
それと,踊りに「お茶目」とか「おきゃん」の類の表現を持ち込もうとして,手の動きが人形振りみたい? になったところがあったのが気になりました。
でも,上手でしたよ。ポアントワークなども安定していて,安心して見られました。
初役の菊地さんは,色男のコーラス。
色男という意味では逸見智彦さんもそうだったのですが,2人の色気の種類は全く違っていて・・・逸見コーラスが「白の貴公子。実はどこぞのご落胤?」なのに対して,彼は黒の魅力。
「黒の貴公子」なのか,貴公子以外の何かなのかは,現時点では判断を保留しますが・・・とにかく,「厚生省中央児童福祉審議会 平成11年度推薦文化財指定作品」だというこの作品の世界とは全く違った趣で・・・ホストクラブで髪を撫で付けながら,流し目を送っているのが似合いそう。(「髪を撫で付けて流し目」は,この日の舞台で何回かやっていたのよ,実際)
言い換えれば,暗いうちから起き出して農作業に精を出し,夜は青年団活動,親には孝行を尽くし,(リーズのマイムによれば)子どもを3人儲けて幸福な家庭生活を・・・送るであろう有為な農村青年には全然見えないわけです。(ミスキャストとも言えますね)
その替わり,とにかくかっこいいし,フェロモン発しまくりだし,愛情表現が濃厚。大団円で皆で踊った後舞台から去っていくときに,リーズを軽々と抱き上げてステップを踏みながら,最後に音を立ててキスしたのには驚嘆しました。
こんなことができる(そして,似合う)日本人ダンサーって初めて見たわよ。すごいよ,彼は。
踊りもよかったです。
そもそもテクニックのある方だと思いますが,今回は,きちんとコントロールが効いておりました。勢いよく踊って最後に崩れる・・・の類が全くないし,最初から最後までムラなく安定。全幕主役に必要な体力配分ができるようになったんじゃないかしらね?
全身を見ると「きれいだわ〜」とは思えないのですが,手の動きがエレガントになっていて,かなり驚きましたし,感心もしました。彼はけっこう手が大きいので,そこが改善されると,全体の印象も大幅に上昇するみたい。
サポートもよかったと思います。
最初のデュエットでのけっこう難しそうなリフトこそ「あらま」でしたが,あとは問題なかったし,最後のパ・ド・ドゥのアダージオなんて,ウエストをホールドして一番高く上がった瞬間に,さらに上に投げ上げてみせたりして。
菊地さんは22歳になったばかりだそうですが,その年齢でこれだけの総合力を以って全幕を踊れることがすばらしいですし,加えて,独自の稀有な個性があるのもすばらしい。
「後世畏るべし」なダンサーなのではないか,と思いました。
アランの清瀧さんは,そうですねー,敢闘賞?
この役に関しては,根岸正信さんの名演があるので,ついつい比べてしまって「醸し出すペーソスが足りない。ほろっとできない」などと言いたくもなるのですが・・・初役の上に1回しか踊る機会がない方に向かってこういう文句を言うほうが間違っている,という気はしますね。
気が弱くて子どもっぽい少年の感じで,アランの「頭がお花畑〜」な感じは足りないと思いましたが,こういう役作りもありだと思うし,かわいいのがなにより。もうちょっとお顔の表情が豊かだとなおよいかも。(緊張していたのかな?)
彼は,踊りがきれいですね。
普通のバレエ的な振付と違うからはっきりとは言えないですが,傘にまたがって小さく跳躍する動きなんかがきれいに見えちゃったから,けっこう端正に踊る方かも〜。(踊りとしては,たぶん,菊地さんより好みだわ)
保坂慶さんのシモーヌは,コミカル度アップ。でも,女らしさがちょっと減少したかも,です。
いずれにせよ,上手だし,「牧歌的」と形容されるこの作品にふさわしい=最後に若い二人の結婚を認めるのに違和感のない,お母さんぶりだったと思います。
本多さんのトーマスは,私,好きです。この作品を見始めた頃は「金で嫁取りする悪役」として単なる脇役扱いしていたけれど,回を重ねて舞台のあちこちを見る余裕が出てくるにつれて,「よいなー」と思えるようになりました。
息子の前途が心配で心配で,しっかりしたお嫁さんを一生懸命探していたのよ,きっと。
若いおんどりに関しては,小嶋直也さんの刷り込みがありますから,いろいろ物足りなくはあるわけですが・・・踊りに関しては,比較すること自体が間違っているので(小嶋さんのレベルで踊れる人がいたら,大事件だ),どうこう言わないことにします。
ただ,中島さんには,トリらしい踊り方とか演技とか(舞台上をヒョコヒョコ歩く動きとか,首を捻る動きとか)について「小嶋さんを見習ってね〜。もうちょっとがんばってね〜」と申し上げておきたい,と。それができれば,もっと笑えるトリさんになるんじゃないかしらん?
よかったのは,高さのある跳躍。なかなかダイナミックなオンドリちゃんでした。
8ガールズ(リーズの友人)の中では,橋本尚美さんが出色。柔らかい踊りと的確な演技。よいバレリーナですよね〜。それから,伊藤友季子さんがよかった。村娘にしては線が細いような気はしましたが,ラインがきれい。
6ボーイズ(コーラスの友人)は,いつもどおりいい味出してました。中では,塚田渉さん。先日の発表会で認識を改めたので,なんとなく注目していたら,おお,一番跳躍の滞空時間が長いのですね〜。だから,トゥール・ザン・レールなども,無理なく決まっておりました。(以前より細くなったとも思った)
フルートボーイ(笛でアランをからかう首謀者? 役)は,坂詰智来さん。初めて認識したので,よく覚えておこう。それから,8ガールズの一員の坂梨仁美さんも初めてお顔とお名前が一致。お顔立ちなどがちょっと地味な感じですが,たおやかな方ですね〜。
小道具の多いこの作品は,多少のアクシデントがつきものなわけですが,この日は概ね良好,かな。
主役の人間あやとり(?)が今ひとつスムーズでなかったのと,2幕の男性コール・ドが藁束を倒しまくったくらいでしょうかね? まあ,藁束のほうは,ちょっと危なかったけれど・・・私の席からは,なんとか大丈夫でした。
そうそう,今回のポニーちゃんは,いつもより小柄? 毛並みの白さもいっそうで,とってもかわいかったです〜。
(06.10.28)
フレデリック・アシュトンのラ・フィーユ・マル・ガルデ 英国ロイヤル・バレエ ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団 牧バレエと同じアシュトン版を本家英ロイヤルが上演した映像。1981年収録。 |
La Fille Mal Gardee Ashton Royal Ballet 左と同じ映像の北米盤 |
Fille Mal Gardee Herold Kozlova Jensen スイス・バーゼル・バレエによる上演。振付もアシュトンではないはずです。(シュポルレリか?) |