シェヘラザード プログラムA(インペリアル・ロシア・バレエ)

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06年10月8日(日)

新宿文化センター 大ホール

 

このバレエ団を見るのは5年ぶりだったのですが,ダンサーが大幅に入れ替わったのでしょうか,スルネワとかクズネツォフとか・・・印象に残る上手な方は来日していないようでした。
タランダ兄弟以外で唯一名前に覚えがあったのは,キリル・ラデフで,この方は随分上達したように思われましたが,あとは・・・全体として,レベルが上がったとは思えないなぁ。まあ,「ううむ?」な『カルミナ・ブラーナ』の印象に引きずられてそう思ってしまっただけかもしれませんが・・・。

 

第1部

『カルミナ・ブラーナ』

音楽: C.オルフ     振付: M.ムルドマ

−初春に−
春: リュポーフィ・セルギエンコ   ソロ: キリル・ラデフ

−居酒屋にて−
ソロ: キリル・ラデフ   酔っ払い: アレクサンドル・ロドチキン   天使: ユリア・ゴロヴィナ

−愛の誘惑−
娘: アナスタシア・ミヘイキナ   若者・ ナリマン・ベクジャノフ

おそらく2005年に作られた作品だと思います。(プログラムでは「上演された」という表記のため初演かどうか確信が持てない)
なのですが,「30年前の旧ソ連時代の作品」と言われても納得してしまいそうな,今ひとつ垢抜けない雰囲気のモダンバレエでした。

幕開きは,赤い照明の下での春の祭典@ベジャール風。
続いて,上半身裸でパッチワーク風ジーンズのラデフのソロと男性の集団の踊り。次に,舞台奥から,ゆるゆると数人の春の精? な女性たちが登場。この衣裳が,春の役だから・・・というよりは,なんだか「頭が春?」風で気の毒になりました。

結局どの方が「春」と表示されているセルギエンコなのかわからないままに,場面は酒場へと進み,ラデフを交えて,男たちが大きなジョッキを持って酒盛り。ラデフがピルエット(最大4回転くらい?)を披露したり,ロドチキン@酔っ払いのちょっとしたソロがあったり,皆でジョッキをかぶったりしておりました。
その後,天使と思われるバレリーナが登場しますが,役名がついているわりには大して踊らないし,こちらも少々「頭が春?」な衣裳だったような。

その後,白いユニタードの「若者」と「娘」が順次登場,それぞれソロを踊っては去っていきました。ここで再度ラデフのソロがあったんだったかな? 違ったかな? いずれ,冒頭と同じユニタード姿の男女8組が現れ,奥では娘と若者がカップルとなって登場,「なんともわかりやすいですなー。こういうのを露骨と言うのでしょうなー」という男女の営みのシーンを踊ります。
最後は,冒頭と同じ音楽に乗せて,同じ照明と振付のシーンが再現されて幕。

珍しくて面白かったですが,特に心打たれたわけではなく,心残るシーンがあったわけでもなく・・・一度見ればいいかなー,という感じの作品でした。

ダンサーでは,一番フューチャーされていただけあって,ラデフが上手でした。それから,「娘」のミヘイキナの柔軟性は「これがあってこそこの振付」という感じ。
全体として,女性は,「健康美すぎないか?」の方が散見。男性も「塚田渉さん?」的ほのぼの〜の方が見受けられ,あまり感心できませんでした。

群舞シーンでの動きは揃っていなかったのですが,これは,作品の性質上あまり気にしていないのかもしれません。
それと,作品冒頭と最後は同じ動きをしているのに,後のほうが格段に迫力が減じて感じられました。見る側に飽きが出たせいなのかもしれませんが,ダンサーの気力・体力の問題のような気もします。

 

『アダージェット〜ソネット』

音楽:G.マーラー     振付:N.ドルグーシン

ファルフ・ルジマトフ

非常に静謐に踊られた印象です。
そもそも激しい踊りではないのですが,こんなにも静かに踊るとは・・・と意外の感に打たれました。

例えば,最初のほう,ずっと後ろを向いていたルジマトフが首を左右に捻って顔の半分を客席に見せる瞬間。その首を捻る動きの静かさ。それは,今までこの作品でルジマトフが見せていた動きとは違っていたと思います。
今までは,「振り向くこと」それ自体がアクセントになってドラマだった。今回はそうではなくて,その動きも静謐で流れるよう。

全体に,そういう印象でした。
もちろんルジマトフですから,語ります。腕が語る。身体が語る。
そして,何者かに見える。求道者かもしれない。扼された囚われ人かもしれない。贖罪者かもしれない。俗世を超越した者なのかもしれない。

でも,彼を「何者か」に見せる,その語り口が,なんというか・・・いつもの雄弁さではなく,穏やかなものに見えました。
過剰なものがなくなった,と言えばいいのかな。うーん,違うな・・・。でも,ほかに適切な表現を思いつかない・・・。

そこにいるのは,紛れもなくファルフ・ルジマトフで,その身体の美しさも動きの美しさも,私の知っているものです。
何回も,何十回も見てきた美。私の知る限り,地上で一番美しい人。
でも,その美しい人が今見せているこの静謐,寡黙と言いたいような静謐は,今まで見たものとは違う気がする。同じ作品で見せてくれた静謐さとは違うような気がする。

そうですねえ・・・まるで詩のようだ,と思いました。
森閑とした中,身体で綴られる一篇の詩。

そして,「聖性」とか「内なる光」という言葉が思い浮かびました。
この人は人間なのだけれど,それは知っているけれど,この世のものではないような・・・神に属する領域を見ているような。

私がこの日見たのは,そういうものでありました。

 

第2部

『シェヘラザード』

音楽: N.リムスキー=コルサコフ     振付: M.フォーキン

ゾベイダ: ユリア・マハリナ   金の奴隷: ファルフ・ルジマトフ

シャリアール王: ゲジミナス・タランダ   宦官長: ヴィタウタス・タランダ   シャザーマン: ヴィニベク・カイール(←たぶん違う)

オダリスク: エレーナ・コレスニチェンコ, アンナ・パシコワ, リュボーフィ・セルギエンコ

マハリナは,栄華と愛の絶頂で輝く「かわいい女」の寵妃。
絢爛たる美しさや「妖艶でありながら気高い」という個性はそのままですが,身体はシェイプアップしたみたいで,最近の彼女にしてはちょっと驚くほどの細さでした。その結果,爛熟度が減少した一方でかわいさ愛らしさがいっそう増した感じ。高貴で気まぐれなペルシア猫を思わせる,若くて怖いもの知らずの妾妃に見えました。

王が惜しみなく与えてくれる愛情と富貴に満足しきっているし,王への愛情もある。でも,エキゾチックな魅力の金の奴隷も手に入れたいから,至極素直にそうしてみました,という感じで・・・金の奴隷に対するときの「暢気」と形容したいほどに朗らかな態度には,かなり驚きました。
今まで見たマハリナのゾベイダも邪気の無さそうな感じの明るい寵姫ではあったのですが,今回はいつもに増して,嬉しそうで幸せそうで,かなり珍しい表現。そうですねえ・・・主の留守中の逢引らしい後ろ暗い感じが全くなく,心からのびのびと情事を楽しむゾベイダ? かな? 
正直,かなり面喰らいました。

それに対するルジマトフは,奴隷に徹している雰囲気でした。
登場シーンでの見得切りが抑え目でしたし,最初のうちは「控えめにお仕えしている」印象。女主人が何か告げる度に「そんな恐ろしいこと・・・」と躊躇うものの,無邪気な愛らしさで「なぜ私の言うことが聞けないの? 私が望んでいるのに」と不思議そうに問われて押し切られる。
そんなやり取りを繰り返すうちに,段々と,この天真爛漫な,無垢で純粋な少女のような女性の虜になっていったのでしょうか,中盤からは思い詰めた様子に変わり,一瞬もゾベイダから目を逸らさず,愛を捧げる奴隷になっておりました。

今までのマハリナ/ルジマトフの舞台は「身分によって引き裂かれた恋人同士の逢瀬」的な印象が強かったのですが,今回はちょっと違う趣。えーと・・・マハリナの享楽的な幸福感には,金の奴隷への「愛」や「恋」の要素は薄かったと思います。ルジマトフのほうは,最初は「畏れと戸惑い」で後半は「愛」・・・よりは切迫感のある感情だったみたい。「この人が欲しい」かな? 
ですから,そうねえ・・・「女王様と奴隷」ヴァージョンになりますかね?

期待していたもの,見せてもらうつもりだったものとは違っていたので意外の感はありましたが,予想と違うドラマを見られて「おお♪」でしたし,楽しかったです。
うん,この2人の『シェヘラザード』は何回見てもよいよな〜,好きだな〜,と改めて思ったことでした。

ルジマトフの踊りは好調。というより・・・この年齢でこれだけ踊れるのか,と改めて感心。
古典作品で見ると少々淋しい気分になることもあるのですが,この作品に関しては全然問題ないですね〜。(るん)

 

タランダがすばらしかったです。
以前見たときもすばらしいと思いましたが,今回もすばらしかった。

彼の演じるシャリアール王はゾベイダを「目に入れても痛くない」という感じでかわいがっているけれど,それはあくまでも自分の美しい持ち物に対する愛情。対等な人間だなどとは思っていない。だから,乱痴気騒ぎの最中に踏み込むときも冷静だし,あんなにもあっさりと,命乞いをするゾベイダを見切ることができる。
特に,「それなら陛下のお手で殺してください」とすがるゾベイダの手から剣を取り,「自分で死ぬように」と優しく剣を返してみせる冷酷さは,何回見ても恐ろしい。

・・・なのですが,この王様は,最後の最後に人間らしい感情を見せるのですよね。どういうわけか,ゾベイダを失った後に哀しむ。
今回はマハリナとの演技もよくかみあい,倒れる瞬間に抱き止めて接吻するという泣かせる名演。

私は男女間の機微に疎いほうなので,このタランダの演技にはいつも首を捻ります。「そんなに嘆くなら許せばいいじゃん」なんて単純なことを言いたくなってしまう。
でも,タランダのシャリアール王の造形には,そういう不可解感を上回る感動があります。私には理解できないけれど,人間はそういうふうに行動する(しなければならない)こともあるのでしょうね,たぶん。

 

今回改めて思ったのですが,この作品は,幕が開いてからシャリアール王出発までのストーリー展開のテンポと音楽の使い方がとても魅力的ですね。
気怠い音楽の中で王とゾベイダの関係を過不足なく見せているし,王の弟の囁きという伏線もある。最後に,音楽の高まる中,ゾベイダを始めとする宮中の全員に見送られて王が出発するシーンには,まるで出征するかのようなヒロイックな趣があって・・・その後のストーリーを知らなければ,この寵姫のために国を一つ奪りにいったのかなー,なんて思っちゃいそう。

それなのに,王が去るなりあんなことを始めたわけですよねえ。王のほうも,こっそり帰ってくるわけですよねえ。
だからどうした? と聞かれると困るのですが,女官たちが宦官長を財宝で篭絡するシーンを眺めながら,こりゃかなり妙なバレエ作品だよなー,という気分に不意に襲われました。
(ルジマトフが登場した瞬間に,それはどこかに飛んでいきましたけれどね)

(2006.11.3)

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シェヘラザード プログラムB(インペリアル・ロシア・バレエ)

 

06年10月15日(日)

新宿文化センター 大ホール

 

この日は,席が少々前過ぎました。
『プレリュード』の冒頭のマハリナの踊りや『ソネット』で舞台に横たわるルジマトフなど,見えないものが多くて残念。

 

第1部

『プレリュード』

音楽: J.S.バッハ     振付: A.ミロシニチェンコ

ユリア・マハリナ

薄い水色のチュチュドレスで踊られるソロ。スカートが透ける素材なので,マハリナの美しいプロポーションが浮かび上がってくる感じですてき。
よくわからないけれど,バレエのレッスンみたいなパが入っていたし,真摯な感じだったり,幸福そうだったり,その後,悩みながら前に進む感じになったり・・・「ユリア・マハリナの軌跡」みたいなテーマなのかしらん? こういう公演の最初に見るのに向いているかどうかは疑問でしたが,品がよく,きれいな作品でした。
マハリナってこんなに跳躍弱かったかなぁ? と思わされる瞬間もありましたが,美しかったし,大人の存在感がさすが。

 

『ダッタン人の踊り』

音楽: A.ボロディン     振付:K.ゴレイゾフスキー/G.タランダ

クマン: ジャニベク・カイール     チャガ: アンナ・パシコワ

騎兵: キリル・ラデフ     ペルシア人: エレーナ・コレスニチェンコ

インペリアル・ロシア・バレエ

この作品全体を舞台で見るのは,たぶん初めて。
期待していたものよりヌルい感じがしました。たぶん,男性群舞が弱いせいだと思います。

主要な役の女性2人がとてもよかったです。
ペルシア人のコレスニチェンコは,柔らかくてキャラクテール的大人の女の色気がたっぷり。
抵抗する女・チャガを踊ったパシコワは,エキゾチックな容貌で,ダイナミック。衣裳も似ているせいか,この方が『バヤデルカ』のインドの踊りを踊ったら,さぞかっこいいだろうなー,なんて思いました。

このカンパニーの男性ナンバーワンのラデフは,ブロンドの髪を辮髪のカツラに隠して登場。キレのいい踊りを披露していましたが,夷族らしさの表現が敢闘賞程度だったのが惜しまれます。(言い換えれば,端正すぎる)
クマン役のカイールは,踊りは悪くないが,もうちょっとスレンダーでかっこよくあってほしい,という感じ。(ところで,『シェヘラザード』の王弟も同じ名前が表記されていましたが,たぶん別人だと思います。前回の来日のときの記憶に照らし合わせるに,この作品で活躍していたのがカイールで,シャザーマンを演じたのは別の方なのではないかなー? それから,イーゴリ公役については表記がなかったのですが,たぶん,ヴィタウタス・タランダだったのでは?)

 

『アダージェット〜ソネット〜』 

音楽:G.マーラー     振付:N.ドルグーシン

ファルフ・ルジマトフ

初日ほどは感動できませんでした。
というか・・・「つまんない振付だなー」と改めて思いました。この凡庸な作品を,これだけ見る価値のあるものにしているルジマトフの表現力はすばらしいですが,これだけのダンサーがよい振付家に恵まれないのはやはり気の毒かも・・・などという,至極まっとうな感想を持つようになった自分が少し悲しい。
以前は,そんな普通のバレエファンみたいなことは考える暇もなく,ルジマトフの描き出す世界にひたすら没入できたんですけれどねえ。

この日の感想を一言で言えば,どういうわけか「悲哀」を感じた,ということになります。
こんなにも美しく輝かしい肉体がいずれは滅びていくのだよなあ,理不尽だと言いたいけれど,そうなるんだよなあ,などと思いながら見ました。
だからこそバレエはすばらしい,のではありますが。

 

『瀕死の白鳥』 

音楽:C.サン=サーンス     振付:M.フォーキン

ユリア・マハリナ

ええと・・・よくなかったと思います。
現在のマハリナのポアント技術は,この作品を感動的に見せるには苦しいものがある,というのが最大の感想。雰囲気的にも,艶やかすぎて,死にそうに見えませんでした。
下手から上手を向いて登場し,最後も仰向けに崩れ落ちるという振付が,プリセツカヤの「侘び寂び」と言いたいような定番と違うから,違和感を感じてしまったのかもしれませんが・・・うーん,でも,死に方はいろいろでしょうが,死に瀕しているのが伝わってこないと・・・。

 

『ワルプルギスの夜』 

音楽: C.グノー     振付: L.ラブロフスキー/M.ラブロフスキー

バッカス(酒の神): キリル・ラデフ     巫女:リュボーフィ・セルギエンコ     パーン(牧神):アレクサンドル・ロドチキン

サテュロス(酒の神の従者): マクシム・ネムコフ, ダニヤール・メルガリエフ, シュンタロウ・タナカ, ナリマン・ベクジャノフ
ニンフ: エレーナ・コレスニチェンコ, アンナ・パシコワ,アナスタシア・コフナツカヤ

キャスト表にラデフの名前があって,小柄だからパーンだと思い込んで見ていたらバッカスだったので驚いてしまいました。(バッカスというのは,普通は,サポートがウリのがっちり系ダンサーの役)
巫女のセルギエンコが長身だったこともあり,少々苦しい感じはありましたが,アクロバティックなリフトとサポートを見事にこなして立派だったと思います。現代ロシアのダンサーとしてはプロポーションが少々・・・ではあるのでしょうが,優れたダンサーですよね〜。

ニンフの美しさが,特に印象に残りました。
ロドチキン@パーンの踊りが物足りなかったことやバッカス向きとは思えないラデフの大車輪の働きぶりもあり,女性>男性なのは,日本のカンパニーに限ったことではないのだなー,世界中でバレエを志す男女比からすればこうなるのだろうなー,と舞台とあまり関係ないことを考えたりして。(つまり,全体として,そんなに引き込まれなかったので,余計なことを考えた)

 

第2部

『シェヘラザード』

音楽: N.リムスキー=コルサコフ     振付: M.フォーキン

ゾベイダ: スヴェトラーナ・ザハロワ   金の奴隷: ファルフ・ルジマトフ

シャリアール王: ゲジミナス・タランダ   宦官長: ヴィタウタス・タランダ   シャザーマン: ヴィニベク・カイール(←たぶん違う)

オダリスク: エレーナ・コレスニチェンコ, アンナ・パシコワ, リュボーフィ・セルギエンコ

「踊れる」ザハロワが踊るとこういうふうになるのかー,という発見のあった舞台。
マハリナやリエパとは全然違った趣で・・・動きやポーズの大きさ,美しさがすごい。(ルジマトフが負けていた。いや,バレエに「勝ち負け」は変ですが,でも,そんな気がしたくらいすごかった)
踊りだけで見応えがある,見る価値がある,という感じでした。

だからといって,ゾベイダらしいか? というのはまた別の問題で・・・後宮の女主人ではあっても,女としての魅力で寵姫となった人には見えませんでした。身分高く生まれついた王女様に見えてしまう。
この辺は,こちらにマハリナによる刷り込みが抜き難くある,ということかもしれませんが。

そうですねー,私には,ザハロワ@ゾベイダは若い王妃に見えました。たぶん,この国より強大な国の王女だった人が,和平条約の一項目として嫁いできたんじゃないかしらん?
権力も財力も生まれながらに待っているから,今の境遇は当たり前のことに思える。だから,シャリアール王にも全然魅力を感じない。(中年太りはイヤだわ,なんて思っていたりして)

そこに現れたのが金の奴隷で・・・今日のルジマトフは,上目遣いに女主人を見上げる奴隷ではありませんでした。正面から獲物を見つめ,時には笑顔を見せて女と蕩けさせる大人の男。自分の魅力を知っていて,お姫様育ちのお妃なんか一捻り,という感じ。
奴隷に見えなかったのは初めてかも〜。パートナーが若返ると,珍しいものが見られるわね〜。

一方で,こちらを巻き込むようなドラマ性や,濃厚な官能性,刹那感・・・などは,さほどでなかったですね。その原因はたぶん,ザハロワの表現力不足のせい(あるいは,見る側が踊りの見事さに気をとられてしまうせい)が第一ですが,ルジマトフのほうも,パートナーに刺激されたのか「より見事に踊る」ほうを中心にしていた気がします。

言い換えれば・・・この日は,「踊る喜び」ヴァージョン?
私としては,マハリナとの舞台のほうが好きですが,これはこれで新鮮。楽しめました。

タランダはこの日も名演。
コール・ドは,それなり。奴隷を踊る皆さんはもっと見た目のよい方であってほしい気はしましたが,言ってもしかたがないことですから。
第1部での主役級で揃えたオダリスクの3人が,美しく,見応えがありました。

(2006.11.3)

 

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Paris Opera Ballet The Polovtsian Dances The Firebird

B0006SSQ6Q

キーロフ(マリインスキー)パリ公演の映像
ザハロワ/ルジマトフの『シェヘラザード』のほか,ヴィシニョーワ『火の鳥』,アユポワ/コールプ『薔薇の精』,『ポロヴィッツ人のダンス』が見られます。

Bolshoi Ballet: Return Of The Firebird

Andris Liepa

B00006L74J

こちらはアンドリス・リエパがプロデュースした映像で,『シェヘラザード』はイルゼ・リエパとヴィクトル・ヤレメンコが主演。
アナニアシヴィリの『火の鳥』とアンドリス・リエパの『ペトルーシュカ』も収録

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