06年10月7日(土)
新国立劇場 オペラ劇場
振付: マリウス・プティパ 改訂振付・演出: 牧阿佐美
作曲: アレクサンドル・グラズノフ
舞台装置・衣装: ルイザ・スピナテッリ 照明: 沢田祐二
指揮: オームズビー・ウィルキンス 管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
ライモンダ: ダリア・パヴレンコ ジャン・ド・ブリエンヌ: ダニラ・コルスンツェフ
アブデラクマン: 山本隆之
クレメンス: 真忠久美子 ヘンリエット: 川村真樹 ベランジェ: マイレン・トレウバエフ ベルナール: 中村 誠
ドリ伯爵夫人: 楠元郁子 アンドリュー2世王: 市川 透
夢の場/第1ヴァリエーション: 遠藤睦子 第2ヴァリエーション: 西山裕子
サラセン人: 厚木三杏, 寺島まゆみ(たぶん), 内冨陽子
スペイン人: 本島美和, 奥田慎也
チャルダッシュ: 高橋有里, グレゴリー・バリノフ
マズルカ: 神部ゆみ子, 千歳美香子, 堀岡美香, 北原亜希, 酒井麻子, 堀口純
グラン・パ・クラシック:
真忠久美子, 厚木三杏, 遠藤睦子, 西川貴子, 西山裕子, 本島美和, 川村真樹, 寺島まゆみ
陳秀介, マイレン・トレウバエフ, 貝川鐡夫, 富川祐樹, 江本拓, 中村誠, 佐々木淳史, 高木裕次ヴァリエーション: 西山裕子
パ・ド・カトル: マイレン・トレウバエフ, 貝川鐡夫, 江本拓, 中村誠
パ・ド・トロワ: 厚木三杏, 川村真樹, 寺島まゆみ
とても楽しかったです〜。
ただし,全幕作品らしいドラマを楽しんだわけではありません。三角関係の話としても盛り上がらないし,ライモンダの女性としての成長物語では全くないし,誘拐から決闘に至るシーンはのどか〜な味わいですし,およそドラマらしいものはなにもない。
初演のときもこういう印象でしたから,出演者がどうこうではなく,この作品(演出)がそういうふうにできている,ということだと思います。(別にそれでも差し支えないわけです。例えば『眠れる森の美女』の正統派演出にも,ドラマはないですから)
ドラマがない替わりに,踊りがたくさんあります。
ソリスト大量投入で,次からへと,入れ替わり立ち替わり踊りまくって,あっちを見たりこっちを見たり,もちろん主役も見たりしているうちに,あっという間に3時間が経って,ああ,楽しかったわ〜,という感じ。
たいそう見応えのある大ディベルティスマンでありました。
主役は当初チェルネンコ/マトヴィエンコの予定だったのですが,所属するキエフ・バレエのスケジュールを優先したそうで,マリインスキーからのゲストに変更になりました。
私は,他の公演との兼ね合いで見る日を選んだ結果この日になってしまい,「なんだって,よそのバレリーナの育成公演なんか見なくちゃいけないんだか」という気分でしたから,「あら,代役がマリインスキーのプリンシパルとはラッキー♪」と変更を歓迎する立場。
パヴレンコは初めて見たのですが(ソリスト時代に『くるみ』の雪片のような役では見ているはずですが,認識には至らなかった),最近のロシアのバレリーナにしては異色なタイプですね〜。
つまり,プロポーションや脚の上がり方を見た時点で「参りました」にならないし,技術的にもさほどでない。でも,きちんとコントロールされた動きで上半身の使い方が優美だから,見ているうちに「さすが」という感じがしてくる。
ザハロワのような超人よりこういうゲストのほうが,劇場のバレリーナさんの参考になってよいかも,などと思いましたし,体格的にも違和感がなくて結構でした。
1幕は「???」でした。
まず,胸から肩の辺りのプロポーションが「ほっそり〜」ではないのが印象を非常に悪くしていました。(クレメンスやヘンリエッタのほうがたおやかできれい)
踊りも「大味」というか不安定な部分が多々見受けられましたし,雰囲気は,よく言えば「堂々たる押し出し」ですが,悪く言えば「かわいらしくない」。婚約者がいるのに横恋慕する男が出てくるような魅力は感じられませんでした。
夢の場面も,恋しい人と出会っている(しかも,夢の中という幻想的な場面で!)という甘い雰囲気が全然漂ってこなくて・・・これは振付やパートナーの責任もあるのかもしれませんが,かなりがっかりしました。
2幕で,見直しました。
踊りはやはり「ん?」もありましたが,アブデラクマンの求愛への戸惑いや嫌悪感を,はっきりと,かつ,品を失わずに表現していたのがとてもよかった。そういえば,1幕でも,その粗暴な振舞いにすごくショックを受けている感じだったし,深窓のお姫様の反応として自然な感じで好ましいです。
3幕は,ブラヴォ♪
アダージオは幸福な結婚式の雰囲気が出ていましたし,ヴァリアシオンでの顔のつけ方やタメの見せ方が見事。そして,貫禄もひと際で,一挙手一投足から目が離せない感じ。「さすがマリインスキーのプリマだわ〜。品格があるわ〜」と感嘆しました。
マリインスキーの『ライモンダ』を見たことがないので推測になりますが・・・3幕は,いつも踊っているヴァージョンと同じだからすばらしくて,1幕・2幕は,踊り慣れていないからさほどではなかった・・・ということかもしれません。あるいは,そんなに全幕で上演される演目ではないけれど,グラン・パは何回も踊っているから・・・ということかもしれない。
これだからゲストは・・・と言いたくもなりますが,とにかく,3幕のグラン・パは「これぞライモンダ」と絶賛したいすばらしさでありました。
コルスンツェフについては,6年前のキーロフ(現・マリインスキー)日本公演で『白鳥の湖』を見たことがありました。少し地味ではあるけれどすてきなジークフリートで,特に,エレガントな手の動きに見惚れた記憶があったので,楽しみにしていたのですが・・・少々期待外れ。
もっとノーブルなダンサーだと思っていたのですが,うーむ・・・6年の間に脳内美化が進みすぎていたのであろうか???
長身で脚も細く長く,上半身はしっかりした立派なプロポーション。お顔は,前回見たときよりハンサムに見えました。(ヘアスタイルの成功?)
なのですが・・・「地味さ全開」とでも申しましょうか,ヒロイックでもなければ優しそうでもなく,風格があるかといえばそういうこともなく・・・これといって魅力を感じられないジャンで,悪くもないけれど,印象的でもない。
なにより,立居振舞や歩き方が今ひとつ垢抜けない感じで,これはかなりショックでした。(周りが日本人だと大柄なのが突出して,もっさり見えちゃうのかしらん?)
サポートは安定していましたが,パヴレンコと踊るには少々長身すぎるのでしょうか,苦労して合わせてる? な場面もありました。
ソロは安定していましたが,癖がある,と言えばいいのかなぁ・・・脚が前にはきれいに上がるのに,後ろにはスムーズに上がらない・・・のかなぁ・・・? よくわかりませんが,見ていて違和感がありました。でも,前に見たときと違って,着地が静かだったのがよかったです。(上達したのかもしれないし,オーチャードより新国の床の質がよいからかもしれない)
山本隆之のアブデラクマンは,よかったです。
彼のキャラクテール役は,エスパーダや『マノン』の看守などで見ましたが,いずれも「♪」だったので,アブデラクマンもきっとよいだろうな〜,と期待していましたし,その期待は裏切られませんでした。
お髭が似合って色気があるし,ハンサムなお顔でうっすら笑うのが酷薄な印象ですてき。冒頭シーンでのライモンダへの思慕と貢物を持ってくるときの粗暴とが2幕の求愛シーンではうまくブレンドされて,印象的な恋敵でした。
もうちょっと踊れるとさらによいわけですが,その点は織り込み済みというか諦めの心境というか・・・なのでオッケーです。
ただ,ジャンと向かい合うと「ありゃ,ちっちゃい」なのは残念でした。そこまで築き上げてきた「かっこいい敵役」が一瞬にして「マンガチックな脇役」に・・・。(ごめんねー)
バレエ団の間尺に合わないゲストなど呼ばないでほしいものですよ,まったく。
コール・ドは,先シーズンで辞めた方が多いからでしょうか,このバレエ団にしては・・・と思いました。
もちろん悪くはないのですが,いや,高水準だとは思うのですが・・・頭の向きがずれている方がいるなんて,新国とは思えない。「我が目を疑う」気分でした。
一方,1幕やグラン・パの8組は,ソリスト投入が奏功したのか,とてもよかったです。
特に,男性陣を見直しました。リフトで「ん?」が全然なく,タイミングなども揃っていて,気持ちよく「豪華だわ〜」と酔えましたから。
ソリストで一番よかったのは厚木三杏のサラセン人(真ん中)。
プロポーションは美しいし,動きにキレがあって,音楽に見事に乗って表現している。妖艶とアブデラクマン一派らしい悪人ぶりとが共存していて,すばらしかったです。
でも,それ以外のキャラクテールは,初演のときの鮮烈さには及ばない印象。
スペインの本島美和は音に遅れていたと思いますし,奥田慎也も初演のときのほうがダイナミックだったような。
チャルダッシュの高橋/バリノフには,前回見た大和/吉本での「まるでキャラクター・ダンス専業のような」とびっくりさせられたスピード感と動きの大きさはありませんでした。かわいらしいので,これはこれでいいのでしょうが,でも,「ちょっと違う」よなあ,と。
ライモンダの友人は,川村真樹がきれいな踊り。愛らしさもあってよかったです。
トレウバエフはもちろんうまいし,プロポーションが前よりきれいになってきている気がしました。中村誠は,技術的にはトレウバエフほどではありませんが,ただ立っているときなども「きれいに」に努めているのが好印象。
1幕のヴァリエーションは,「きっちり安定,常に安心」名人芸の遠藤睦子と柔らかい西山裕子,どちらもよかったです。西山は,グラン・パでのヴァリエーションも,「愛らしさに顔がほころぶ」踊り。今回は,特に好調でしょうか。パ・ド・トロワの3人も安定していて,なんの問題もありません。
それに比べると,男性のパ・ド・カトルのほうは問題があるわけですが・・・トレウバエフまで投入した甲斐があって,前回よりはレベルアップ。一方で,正しく踊れる方がいると,あとの3人が「正しくない」のが見えてしまうわけで・・・うーむ,難しいものですなー。
ドリ伯爵婦人の楠元郁子は,美貌と長身が衣裳に映えて,とてもすてき。
アンドリュー2世王の市川透は・・・えーと,ミスキャストなのでは? 好々爺のようで威厳というものが・・・。新国はこの方の起用法を間違えているような気がします。ベテランで長身だからといって,ほっそりと優しげな二枚目をこういう役に就けるというのは???
装置と照明は,やはりすばらしい。
特に,アブデラクマンが倒されて去っていくと,背景に城砦が浮かび上がるのは「おおおっ」かつ「うっとり〜」でした。(前回は気づかなかった)
3幕の背景は,なんか子供向き絵本みたいでちょっと・・・とは思いますが,全体として趣味がよいですよね〜。
衣裳は,ちょっと文句を言いたいところもあります。
全体として「さりげなく凝っている」のがすばらしいですし,貴婦人たちの衣裳の染め具合などはほんとうにすてきだと思うのですが,男性の孫悟空のようなヘアバンドとか,アブデラクマンの山賊みたいな衣裳とか,理解できないものもあります。
あと,剣がデカすぎ。当時の剣はああいう風だったのかもしれませんが,あの背の高いコルスンツェフが鞘にしまうのに苦労していたくらいで,間抜けな小道具だと思います。
そういえば,今回の主役は持ち込みの衣裳で,困ったもんだ,と思いました。(それを止められないバレエ団も悪い)
男性の衣裳のほうはそんなに違和感はなかったですし,ライモンダの1幕も白系で穏当でしたが,2幕のパープル系ブルーは周りとの調和が崩れるし,3幕のあれは・・・写真で見たことがあるのでマリインスキーのデフォルトなのだと思いますが,半袖に戦前の上流階級の旅行着みたいな帽子って・・・???
あ! 装置にも文句はあるのだった。
あの豊頬なるジャンの肖像画だけは,なんとかしたほうがいいと思いますー。
客席の反応はさほどではなかったです。
そもそも空席もありましたし,カーテンコールもあっさり目。山本隆之への拍手が主役と同じかちょっと多いかくらいだったので,たぶん,パヴレンコは,客席の心を掴むのに失敗したのだと思います。
私自身も↑に書いたような感想なので,そんなに熱い拍手を送ったわけではないですが・・・この作品の初演のときに見たザハロワの舞台に比べて,あまりに冷たいような気はしました。少なくとも3幕に関する限りは,パヴレンコの踊りは,あのときのザハロワより上だったと思いますから。
ザハロワにはこの劇場での客演を重ねて観客との間に築いてきた関係があるからかもしれませんが,些か割り切れない気分ではありました。
(2006.11.5)
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