世界バレエフェスティバル プログラムA

サイト内検索 06年一覧表に戻る 表紙に戻る

2006年8月2日(土)

東京文化会館

指揮: アレクサンドル・ソトニコフ     管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団     ピアノ: 高岸浩子

 

第1部

『ラ・ファヴォリータ』

振付:ペタル・ミラー=アッシュモール     音楽:ガエターノ・ドニゼッティ

ルシンダ・ダン  マシュー・ローレンス

たしか,以前このフェスティバルに出演したオーストラリア・バレエのダンサーも,これを踊ったと思います。
というわけで,見るのは2度目。(詳細は記憶なし)

オーストラリア建国200年のご祝儀バレエだそうで,擬古典調の振付。個性的とは思いませんが,祝祭感がある作品でした。
幕開けにふさわしかったと思いますし,オーストラリア・バレエ独自のものを見せてくれたのもよかったです。

ダンは初めて見たバレリーナ。(生徒時代にローザンヌ・コンクールに出場したときのTV放映は見ているはずですが・・・)
快活な感じが「いかにもオージー」に見えるし,プリマらしい品もあって,すてきなバレリーナだと思いました。ちょっと脚の筋肉が逞しすぎるのは気になったけれど,空中で膝から曲げた脚の甲がとても美しかったです。

ローレンスも初見。
容姿もテクニックも少々物足りなかったですが,それなりに端正だったので,まあいいか,と。

 

『7月3日 新しい日,新しい人生』 世界初演

振付:ジェレミー・ベランガール     音楽:エイフェックス・ツイン

ニコラ・ル・リッシュ

パリ・オペラ座のプルミエ・ダンスールであるベランガールが振り付けた作品の世界初演。
「ヤマなし オチなし 意味は・・・たぶんあるのであろうなー」という現代作品。よくあるよね,こういうの。

特によい作品とは思えないし,私向きでもないですが,この手の作品にしては音楽が耳に優しかったし,照明も変化があったのでオッケーです。背景に銀の環みたいなものが浮かんで,その前でル・リッシュが両腕を抱くようにしているシーンなどは,雰囲気あるな〜,と思いました。

もしかすると,Aプロの最終日に見たのがよかったのかもしれません。
事前にネットで予習したときに評判がむやみに悪かったので覚悟ができていた・・・ということもあるし,4回目の上演ですから,ダンサーが作品を咀嚼して表現できるようになっていたのかも。

黒い簡素な衣裳のル・リッシュは,髪が肩まで伸びていました。少しスリムになったのかしらん,精悍な感じでかっこよかったです。

 

『白雪姫』

振付:リカルド・クエ     音楽:エミリオ・アラゴン

タマラ・ロホ  イナキ・ウルレザーガ

スペインで創作され,ロホが初演したバレエだそうで,大団円のグラン・パ・ド・ドゥが踊られました。
映画音楽みたいな感じの愛らしくて甘い音楽で,男性のヴァリアシオンはプロコフィエフ『シンデレラ』風味?
ロホは白地に金で飾りのついたチュチュでオーロラか金平糖みたい。ウルレザーガは上下茶色で・・・あのー,王子には見えないんですけどー???

ロホの踊りは私にはきれいに見えないようで,アダージオやヴァリアシオンは「イマイチだなー」と思いましたが,コーダのフェッテはすばらしかったです。力みがなくて滑らか〜,な感じ。
48回転だか64回転だかという宣伝文句だったので数えようと試みましたが,たくさんトリプルが入るので,どう数えたらいいのか困惑。

ウルレザーガは,この3年の間に「男性ダンサーの仕事は跳躍と回転だけではない」ということは学んだようで,結構なことです。次は「舞台に入ってくるときと下がるときも役を忘れずに」をお願いしたいものです。(←世界バレエフェスの感想とは思えないですなー)

 

『椿姫』より第3幕のパ・ド・ドゥ

振付:ジョン・ノイマイヤー     音楽:フレデリック・ショパン

ジョエル・ブーローニュ  アレクサンドル・リアブコ

いわゆる「黒のパ・ド・ドゥ」。
幕が開いたら,カウチもクッションもなしでリアブコがうずくまっているのでがっかりしました。ちょっと淋しいですよねえ。(なぜこんなことに?)

ブーローニュは透き通るように白い肌と折れそうに細い手脚のバレリーナ。雰囲気も顔立ちも地味なので,「・・・元は高級娼婦?」という気はしましたが,「年上の女が病に苦しんでいる」という意味では,それはもうはまっていましたし・・・「清らかな叙情性」がありました。もちろん,感情の奔流の中の踊りなのですが,でも,そんな印象。ショパンのピアノ曲にふさわしい叙情性,と言えばいいのかな?

リアブコについては,感情表現が少々単調なのでは? と感じました。このパ・ド・ドゥのアルマンは,愛憎半ばするというか愛憎もつれあうというか・・・だと思うのですが,終始怒っているように見えて「違うのでは???」と。
でも,Bプロで別のダンサーが踊るのを見た後に納得しました。「若くて,若くて,あまりに若い」アルマンだったんですよね,たぶん。
彼の全幕を見てみたい。

 

第2部

『ロミオとジュリエット』より“バルコニーのパ・ド・ドゥ”

振付:ジョン・クランコ     音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

ポリーナ・セミオノワ  フリーデマン・フォーゲル

クランコ版のバルコニー・シーンはこのガラで何回か見ているとは思いますが,「あまり記憶が定かではない」状態で見ました。
赤いリボンつきのジュリエットの衣裳がカワイイなー,と思ったのですが,もしかして,まだ着替えてなくてパーティードレスのままという設定なのかしらん?

ロミオ登場のところで,フォーゲルが,まったり〜,ゆったり〜,と走るのを見て眉間に皺が。(最後に去っていくときだはけっこう勢いがあったのも謎) 
クランコ演出の要請なのでしょうかね? いや,まさか。
あんなロミオってあり得ないよねえ???

セミオノワについては,顔の小ささに改めて感嘆し,胸の大きさに改めて驚き,ジュリエット役が180度脚を上げることの是非について考察。(ギエム@ジュリエットもザハロワ@ジュリエットもあれくらいやっていたから,彼女にだけ文句を言うのもおかしいとは思うが・・・でも,なんか突出して見えたなー。いいのだろうか???)

全体としては,私にはなにも伝わってこない上演でした。

 

『エスメラルダ』

振付:マリウス・プティパ     音楽:チェーザレ・プーニ

レティシア・オリヴェイラ  ズデネク・コンヴァリーナ

二人とも白基調の衣裳で,全然ロマっぽくなかったのが不思議でした。

オリヴェイラは,初めて見るバレリーナ。
小柄な美人ですし,テクニックも強いようでしたが,踊りに「きれい」とは思えませんでしたし,品も悪く見えました。タンバリンの扱いもさほどではなかったですし・・・。

コンヴァリーナは普通によかったです。
「おおっ♪」は特になかったですが,サポートは安定,ソロは上手,金髪でハンサム,プロポーションよく脚がきれい。

 

『オネーギン』より第1幕のパ・ド・ドゥ

振付:ジョン・クランコ     音楽:チャイコフスキー     編曲:シュトルツェ

アリーナ・コジョカル  フィリップ・バランキエヴィッチ

いわゆる「鏡のパ・ド・ドゥ」。久しぶりに見ました。

コジョカルは,3年前よりずっと大人っぽくなっていました。(ロイヤル日本公演は見ていない)
前回は,上手であればあるほど「サーカスに売られてきた少女」的に見えてしまって,正視するのがしんどかったのですが,これなら大丈夫。平常心で見られました。

コジョカルは笑顔満開で踊り,バランキエヴィッチは「特に嬉しくもなさそうだが,たまにニヒルな笑顔」でしたので,このオネーギン@夢の中は,タチアーナが勝手に思い描いている姿「なにに対しても不機嫌そうなあの方が,私にだけは微笑みを見せてくれる」として彼女の前に現れたのだなー,と思いました。

うん,わかる。そういう反応をする少女を,オネーギンが迷惑に感じ,ついには嫌悪するようになるのもわかる。よくわかる。
・・・という意見が適切かどうか不安なので,近いうちに全幕を見たいものです。シュツットガルトは去年これを持ってきたばかりだから,次がいつかわかりませんが・・・。

バランキエヴィッチのリフトは「少し乱暴?」なのか「見事!」なのか,私にはわかりませんでしたが・・・派手に振り回すようなリフトこそがタチアーナの高揚感の表現になっているのだなー,実に巧みな振付だなー,と感心しました。

 

『ジュエルズ』より“ダイヤモンド”

振付:ジョージ・バランシン     音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー

アニエス・ルテステュ  ジョゼ・マルティネス

全幕公演のときにこのペアで見て「すてきだわ〜」だったのですが,今回もとてもよかったです。
穏やかさと品のよさがあって,華やかすぎず地味すぎない2人には,しっとりとしたこの作品はぴったり。
パートナーシップもさすが。ちょっとした手の出し方と受け方とか,動き出すときの足の出し方のタイミングなどが,見事に揃っていたと思います。

振付も見事。さすがバランシンだわ〜,と改めて感心しました。
かなり長いアダージオなわけですが,「似たような動きの繰り返し」がありませんし,『白鳥の湖』を連想させる動きが,より洗練されて(抽象的になって)出てくるのも魅力的。

背景の「青い空に刷いたような白い雲」も雰囲気があってすてき。さすがNBSだわ〜と,これも改めて感心。
(もちろん,東京バレエ団のレパートリーのセットを流用しているのだと思いますし,当たり前といえば当たり前ですが・・・当たり前のことをここまできちんとしてくれる主催者は貴重だと思いますから)

 

『白鳥の湖』より “黒鳥のパ・ド・ドゥ”

振付:マリウス・プティパ     音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー

イリーナ・ドヴォロヴェンコ  ホセ・カレーニョ

前半の最後にふさわしい演目選定。そして,この作品を踊るにふさわしい出演者。
とてもよかったと思います。

ドヴォロヴェンコは,「悪女オディール」という感じ。
妖艶な笑顔を王子に振りまいて,いかにも悪そうに白鳥の真似をして,輝かしく技巧を誇示しながら踊って,超高速のフェッテを見せて,王子を見事に欺いておりました。

カレーニョは,柔らかな物腰と落ち着いたマナー,「ジークフリートのお手本」のような演技。
私には絶対「きゃあああ」は来ないダンサーですが,ほんとにすてきなダンスールノーブルだな〜,と再確認。
3年前にも『黒鳥』を見ましたが,今回のほうが好調のようでした。回転はより滑らかでしたし,跳躍も前回ほど重くなくて。
それから,タイツが白かったのも嬉しい。(やっぱりジークフリートは白いタイツでなくっちゃね)
なお,ヴァリアシオンがグリゴローヴィチ版(かどうか自信がないが,音楽が『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』のものだった)でした。前回は普通だったと思うのですが,なぜかしらん?

 

第3部

『扉は必ず・・・』

振付:イリ・キリアン     音楽:ダーク・ハウブリッヒ(クープランに基づく)

オレリー・デュポン  マニュエル・ルグリ

キリアンがフラゴナールの絵画「閂」に想を得て創作したもので,この2人が初演者とのこと。
「フラゴナール??? 閂???」状態だったので,インターネットで予習。事前にその絵(の写真)を見てから公演に臨みました。(インターネットはありがたいですね〜)

ほの暗い寝室で,離れた椅子にすわっている二人。しかも,男性の椅子は倒れている。ふーむ,情事の後なのでしょうかね?
で,部屋から出ていこうとする男を女が止めて,もつれあううちにどうやら再び・・・になったのかならなかったのか不明ですが,ベッドの上や周りをフルに使って,からみあう動きが延々とスローモーションで行われました。
このゆっくりした動きの連続はさぞかし難しいんだろーなー,と感心しているうちに,男が閂をあけることに成功。

この次が楽しかった。
せっかく扉が開いて外に出たのに,引き止めてほしくて出たり入ったりする男。(ルグリがすごくカワイイ) 
その優柔不断に業を煮やして,「じゃ,あたくしが出ていくわ」とすたすたと去る女。(デュポンはかっこいい)

でも,結局戻ってきて・・・この辺りから音楽に妙な音(扉がきしむ音?)が混じってきて,生理的に不快になりました。
この不快感がいけなかったんでしょーねー,それから,長すぎて飽きてきたのかもしれない,その後音楽は普通に戻ったような気はするのですが,「なんかアホくさいなー」気分になってしまいました。
途中までは楽しかったんですけどねー?

 

『眠れる森の美女』

振付:マリウス・プティパ     音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー

マイヤ・マッカテリ  デヴィッド・マッカテリ

キラキラと輝く白い衣裳で踊られました。
兄妹だそうですが,マイヤは小柄,デヴィッドは長身,お顔もあまり似ていないような?
それから,兄妹だからといってパートナーシップが優れているというわけではないみたいですね。(当たり前?) フィッシュダイブなどは,イマイチでありました。

マイヤ・マッカテリは愛らしい美しさで,オーロラはよくお似合い。結婚式の新妻というよりは16歳の溌剌に見えましたが,きれいな踊りだし,チャーミングな輝きもあって,よかったと思います。

デヴィッド・マッカテリについては,踊りはさほどとは思いませんでしたが,マネージュでまっすぐに伸びる脚がきれいでした。脚も長く,ハンサムでもありましたし。(王子というよりはドゥミキャラっぽい美男ではあるが)

 

『コンティニュウム』

振付:クリストファー・ウィールドン     音楽:ジェルジ・リゲティ

ルシンダ・ダン  マシュー・ローレンス

ポアントで踊られる現代バレエ。初めて見ました。

最近よく名前を聞くウィールドンの振付ということで,ちょっと楽しみにしていたのですが・・・叙情的できれいな振付だし,音楽の雰囲気ともあっているし,ダンサーにも不満はないけれど・・・かなり飽きました。
私がレタード・バレエをそんなに好きではないせいでしょう。たぶん。

 

『ライモンダ』

振付:マリウス・プティパ/ユーリー・グリゴローヴィチ     音楽:アレクサンドル・グラズノフ

ガリーナ・ステパネンコ  アンドレイ・メルクーリエフ

ステパネンコはおなじみのライトブルーの衣裳。メルクーリエフはマント姿でした。
(どういうわけか,「新国立劇場が『ライモンダ』を初演したときには小嶋直也は既にいなかった」ことを思い出して精神状態が悪化し,舞台を見るどころではなくなってしまったので,これだけ)

 

『春の声』

振付:フレデリック・アシュトン     音楽:ヨハン・シュトラウス

アリーナ・コジョカル  ヨハン・コボー

初めて見ました。
オペレッタ『こうもり』の劇中バレエとのこと。リフトで登場して紙吹雪をまくところから始まり,リフトで去っていくまで。
愛らしい雰囲気の作品でコジョカルに似合っていましたし,こういう催し向きでもありました。衣裳もかわいらしかった。

女性がウエストをサポートされて,トウが床に着くか着かないかで高速で舞台を斜めに横切るとか,男性の頭の後ろに横抱きにされる(?)とか,難しそうな技もいっぱいありましたが,とてもスムーズ。
コボーを見るのはかなり久しぶりだったのですが,細かい足技はもちろんお得意の上に,サポート名人にもなったのですね〜。

 

第4部

『カルメン』

振付:ローラン・プティ     音楽:ジョルジュ・ビゼー

アレッサンドラ・フェリ  ロバート・テューズリー

一夜が明けた寝室でのデュエットのみの上演でした。
最初のホセのソロやこの場面直前のカルメンのソロを見せてからこのデュエットにつなげるのが普通だと思いますが・・・あれ? カルメンのソロはありましたっけ? なかったと思うのですが・・・?

フェリの衣裳はもちろん黒のビスチエですし,ヘアはショートカット。初演者のジャンメールと同じ姿でした。(衣裳は決まっていますが,髪はアップで出てくる方が多いですよね。フェリ自身が6年前? に踊ったときもそうだったと思う)
そして,調整がうまくいったのでしょうね,5月の新国立劇場『こうもり』のときより細く見えたから,脚線美もいっそう見事だし,動きの輪郭もシャープに見えました。輝きも増していたと思います。

彼女のプティ版カルメンは,全幕(1幕もの)も見たし,ガラでも何回か見ましたが・・・今回初めて,素直に感心することができました。
今までは「どう? 妖艶でしょ? チャーミングでしょ?」と迫られているような気分になって好きになれなかったのですが,今回はよかった。
美しかったし,脚が語るし,なにより,清潔感があった。

カルメンに「清潔感」という誉め方は妙かもしれませんが・・・プティの『カルメン』は,情念とか土着とか・・・そういう(私たちが通常イメージする)スペインとは縁遠い世界です。そうではなくて,スタイリッシュで垢抜けていて・・・猥雑ではあるけれど,ベタベタした愛欲の世界とは違う。
そういうプティ版『カルメン』の物語にふさわしい雰囲気を見事に見せていたと思います。

テューズリーは,影が薄かったですが・・・これは相手がフェリだし,ソロなしの構成だったせいもあるかと思います。(私が彼に興味がないせいもあるでしょうね)
髪を黒く染めていましたね。

 

『TWO』

振付:ラッセル・マリファント     音楽:アンディ・カウトン

シルヴィ・ギエム

見るのは2回目ですが・・・うーむ・・・期待外れでした。

舞台中央の2メートル四方だけが照明で薄明るくなっていて,ダンサーは,跳躍も回転もなしでその中で踊る。周囲の暗闇との境目は数十センチの幅で一際明るくなっていて,そこを手や足が通ると,そこだけが明るく輝き,残像効果も生まれる。
・・・という作品。

去年暮れに彼女+東京バレエ団の『ボレロ』プロで見たときは,最初は「??????」だったのですが,段々と手や足にスポットが当たる(手や足がスポットの下を通る)頻度が高まっていって,それにつれて,こちらの注意も引きつけられていったのです。
そして,最後のあれは腕の回転だったのかな? 光の残像が連なって,彼女の周囲に,刻々と変化する光の輪ができたように見えて,「要するに照明効果ね」なんて論評しつつも「神秘的な現象を見た」ときに準じる厳粛な気分にもなったのですわ。

ところが,今回は最後の「光の輪」がなかった。
座席位置の関係でそう見えなかったのか,振付が変わったのかはわかりませんが・・・がっかりしてしまった。
・・・あれがないとつまんないなぁ。

 

『ベジャールさんとの出会い』 世界初演

振付:モーリス・ベジャール     音楽:グルック/ショパン/アルゼンチン・タンゴ/アンリ

ジル・ロマン     那須野圭右/長瀬直義

ベジャール自身が初演した4つの作品をモチーフにした新作だそうです。
那須野&長瀬は,小道具を運ぶ黒子として登場。

ロマンが最初は竪琴を持っていたから,これは『オルフェ』なのでありましょう。(全然知らない作品)
次に,綱が天井から降ってきたので『孤独な男のためのシンフォニー』かな? と思いました。(パトリック・デュポンの舞台写真の印象が強烈なので覚えている) でも,音楽の感じが違うかな? と思っていたら・・・

間髪を入れず黒子登場。しゃれこうべを持ってきたので,『ハムレット』なのを了解。(これは,ロマン自身が踊るのを見たことがあります。←ちょっと自慢
そうこうするうち,音楽がアルゼンチン・タンゴに。『我々のファウスト』ではアルゼンチン・タンゴが使われたと聞いたので,たぶんそうでしょう。タンゴで踊るのはメフィストだったかなぁ?? で,意外にユーモラスな踊りなので驚いた。もっと凶々しいものだと思い込んいたものですから。
最後は,再び綱が下りてきて・・・今度の音楽は,たぶん間違いない。「ミュージック・コンクレート」というモノでしょう,あれはきっと。

・・・というような感じで,「ふむふむ」と見ました。
こういう見方が正しいのかどうかは大いに疑問ですが・・・ベジャールというのは,私にとっては,こういうふうに「ふむふむ」と見ることが多いものなのですよね。

 

『マノン』より“沼地のパ・ド・ドゥ”

振付:ケネス・マクミラン     音楽:ジュール・マスネ

ディアナ・ヴィシニョーワ  ウラジーミル・マラーホフ

すばらしかった。「世紀の名演」と誉めたいくらい。
こちらの精神状態のせいもあったのかもしれないけれど,それはもう,すばらしかったです。

登場シーンで,憔悴しきったデ・グリューの姿を見ただけで鳥肌が立つよう。
私は,マラーホフは「焦燥と悲嘆の王子様」だと思っていますから,この場面のデ・グリューが似合うのはわかっていました。
でも,想像以上。具体的になにがどうだったのか忘れてしまいましたが,でも,舞台に出てくるだけで,あんなに胸を打つ姿って・・・。
彼以上に,この場面が似合うダンサーはいない。

そして,マノンは,デ・グリューに頼り切っている。
「全き生命力のプリマ」ヴィシニョーワのこのシーンに関しては,「絶対死にそうに見えないよねえ。どうするんだろ?」と危ぶんでいたのですが,ああ,そうなのか。「愛」なんだ,と。
当たり前かもしれないけれど,デ・グリューへの愛。最後に残ったのは,それだけ。デ・グリューだけしか見えない。そういう様子に見えました。

中央での踊りになって・・・ヴィシニョーワの身体能力と技術は,マノン役に最適なのだ,とわかりました。あるいは,身体能力と技術の使い方が最適なのかも。(より優れているのかもしれないギエムはしなかったことだから)
女性が駆け寄ってくる勢いを利用して男性の頭上で何回転もするリフトがこの場面の特徴なわけですが・・・ヴィシニョーワは助走しない。助走に見せないで,よろよろしながらデ・グリューを求めて近づいていって,そして,あの難しそうなリフトは見事で,空中での彼女の腕や脚の動きは美しい。
その腕や脚の軌跡に,私は「燃え上がる愛」を見ました。

たぶん,死んでいくマノンは幸福だったに違いない。
弱っていく中で,遠のく意識の中で,求めていたのはデ・グリューだけ。そして,そこに彼はいるのですから,今抱きしめられているのですから,幸福の絶頂。
だから,彼女の死に顔は穏やかで。

もちろん残されたデ・グリューは,この上なく悲痛。
このまま彼も死んでしまえば,たぶんそのほうがいいのかも・・・。マノンが幸せに死んでいったことを,彼がわかればいいけれど・・・。

とても感動的でした。
あの短い場面だけでドラマだった。全幕を見るのと同じくらい説得力があった。すばらしかった。
・・・そう思います。

 

『ドン・キホーテ』

振付:マリウス・プティパ     音楽:レオン・ミンクス

ヴィエングセイ・ヴァルデス  ロメル・フロメタ

いや〜〜,ほんっっっとにすごかったわ〜〜〜〜。
もんのすごい超絶技巧だったわ〜〜〜〜。

特に,アダージオでのヴァルデスのバランスがすごかった。
通常長いバランスに入る前の,パートナーの「位置どりOK? 体制OK?」の段取り抜きで,ささっとバランスに入る。(ように見える)
ポーズを保つ時間が長い。
さらに,ポーズを変える。あまりのことに覚えていないのですが,アラベスクからルティレとか,ルティレからアティチュードとか。たぶん,アラベスク→ルティレ→アティチュードなんかもあったんじゃないかしらん。

すごかったのはバランスだけではありません。
最初の片手リフトも長かったし,次は,片手でリフトしたまま「すたすた」と舞台を横切ってみせた。
普通は男性の両手の中で長くピルエットを続けるところで,フロメタは片手を外して空いた右手でポーズをとり,ヴァルデスは軸が傾く気配もなく回り続けた。(こういうの,初めて見たと思う)
アダージオ最後のフィッシュは,上に放り投げて,ヴァルデスが空中で開脚してから。(投げ上げる技だけなら,ロシアのテクニシャンで何回か見ました。でも,空中であんな派手なポーズを見せたのは初めてだなー)

・・・という物凄さなので,ヴァリアシオンやコーダは(グラン・フェッテの前半がすべてダブルであるなど,かなりの技だったのに)おとなしく見えてしまったくらいで。

以上はテクニックの記録なのですが,この2人がすばらしかったのは,このような超難技を披露しながら,「きれい」だったことです。
長ーいけれどぐらつくバランスとか,片手リフトしながら「おっとっと」とか・・・が全くないのはもちろん,全体として品がいい。

雰囲気もよかったです。
ヴァルデスは,ヴィシニョーワから「魔性」を取り除いた感じのお顔立ちで,スペイン娘がよくお似合い。
フロメテは,カレーニョ系? アフリカ系? の容姿で,あまり背が高くないのですが,エレガント。柔らかな身体を反らしての決めポーズなどはいかにもバジル向きですが,柔らかな指先などは王子も似合いそう。
「お熱い」カップルではないですが,全幕で見たら,旅籠の看板娘でチャキチャキのキトリさんとその後をついて回っているバジルくんになるんじゃないかなー,とイメージがわく踊りでした。

二人とも「どうだっ,見たかっ」ではなくて,観客を喜ばせるため共同作業を行っている感じなのも好ましい。特に,バランスで拍手が出る度に,ヴァルデスがいかにも嬉しそうな笑顔になるので,なんだかこっちまで嬉しくなっちゃった。
うん,単なる超絶技巧披露じゃなくて,観客を幸福にしてくれる,とてもよい上演だったと思いますよ〜。

(2006.9.2)

サイト内検索 上に戻る 06年一覧表に戻る 表紙に戻る

世界バレエフェスティバル プログラムB

2006年8月11日(金)

東京文化会館

指揮: アレクサンドル・ソトニコフ     管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団     ピアノ: 高岸浩子

 

第1部

『ディアナとアクティオン』

振付:アグリッピーナ・ワガノワ     音楽:チェーザレ・プーニ

ヴィエングセイ・ヴァルデス  ロメル・フロメタ

Aプロがヴァルデスのバランス披露なら,こちらの演目はフロメタの肉体披露?
このパ・ド・ドゥの男性の衣装は「最低限」のものですから,美しくたくましい肉体を堪能できました。ギリシャ神話の彫刻のようで,作品のテーマにまことにふさわしい。
(落ち着いて考えると,ふさわしくないですね。アクティオンは神様ではなくて,鹿の姿に変えられた人間なわけですから。でも,見ているときは,ふさわしく思えたのよ。話が変わりますが,そういう人物設定を前提に見ると,アクティオンも弓を射る動きを見せていたのは妙でした。まあ,時々見ることではあるけれど)

身体能力もすばらしいです。特に跳躍が見事。
ヴァリアシオンのマネージュは,身体を後方に倒して回る技(バタフライ?)だったのですが,あんなに傾斜して,あんなに高く跳んで,あんなに弾んで見えるのは,初めて見たと思います。
それから,このパ・ド・ドゥ独特の,空中で片脚を曲げながら反対方向に身体を反らす跳躍がすばらしかったです。
そして,テクニシャンであるだけでなく,手を差し出したり,歩いたり・・・がエレガント。いいですよね,彼♪

ヴァルデスのほうは,そこまで絶賛する気はしません。
この日もアダージオで長いバランスを見せていましたが,構成上ちょっと強引かなー,という気がしました。(思うに・・・ガラでの『ドン・キホーテ』パ・ド・ドゥほど振付変更の許容範囲が広いものはないのでは? いろんな人がいろんなことをしでかしてきたから「何でもあり」で抵抗なく見ることができる)
登場シーンの「アティチュードで左右の足を交互に換えながら前に進む」動きに軽やかさが不足していたと思いますし,アラベスクで弓を射る動きもあまりきれいではなく・・・女神には見えないなー,という感じ。

でも,いろいろ見せてくれたので,サービス精神をよしとしたいと思います。
フェッテしながら背中から矢を取り出して射る動きなど,(回転が速すぎてあまり効果的とは思えなかったけれど)作品世界を生かした超絶技巧の披露方法を創出しているわけで,もしかすると流行るかも〜。
それからそれから,コーダ前半(だったかな?)の回転技がすごかった。ピルエット(フェッテだったかも?)している後ろからフロメテがサポートに入って,そのままろくろ状態で回す。「そんなことせんでも」と眺めていたら,推進力をつけるための(文字通り)サポートだったんですね,パートナーが手を離した後,10回近く回っていたような?

 

『リーズの結婚』

振付:フレデリック・アシュトン     音楽:フェルディナン・エロール

エレーナ・テンチコワ  フィリップ・パランキエヴィッチ

テンチコワは初めて見ましたが,小柄で愛らしいお顔立ちで踊りも軽やか。
・・・なのですが,私には彼女の踊りはアシュトンらしく見えませんでした。「コンパクト」感に欠けるというか,動く方向の切り替えが遅いというか,そんな感じ。
ロシア風だかドイツ風だかに訛っちゃったアシュトンなのかしらね〜? なんて思いましたが,もしかすると私のほうが,牧阿佐美バレヱ団の日本風に訛ったリーズばかり見ていて目が変になっているのかしら〜?

バランキエヴィッチは上手でしたが・・・お顔立ちが「牧歌的」の正反対の感じなので,少々違和感が。全幕を前提に見ないで,普通のパ・ド・ドゥだと思って臨めば「かっこいいわ〜」だったかも。

ところで,このペアがなぜクランコの作品を上演しなかったのか不思議です。クランコでなくでもいいのですが,「シュツットガルトならでは」の演目を紹介してくれればいいのにねえ。

 

『幻想−“白鳥の湖”のように』

振付:ジョン・ノイマイヤー     音楽:ピョートル・I・チャイコフスキー

ジョエル・ブーローニュ  アレクサンドル・リアブコ

ブーローニュがすばらしかったです。
大人の情感があって,儚げな美しさで,19世紀の王族らしい知的な感じもあって,とーーーってもすてき。うっとりだわ〜〜。

王の心が自分から離れていくことを感じながら,どうすることもできなくて,なんとかしようとしても王女として育っているからどうしたらいいのかわからない・・・。
それとも,自分を見てほしいというよりは,なんとか王を助けたい,力になりたい,でも自分にはできないことを悟る・・・そんな感じかも。

容姿が高級娼婦よりも近代の王女のほうが似合う,ということもあったのでしょうか,Aプロもよかったけれど,この役は格別の味わいがありました。
幽閉された王を訪れる最後のパ・ド・ドゥも彼女で見てみたい,と思いました。というより・・・彼女で全幕を見たい,ということですね。

リアブコもよかったです。
難しそうなリフトの連続なのにすべてが滑らかに進む印象だったし,表現も説得力がありました。狂気にとらわれていく王というよりは,周囲との軋轢に悩み,消耗している青年王子・・・みたいに見えましたが,そういうのもあり,ですよね。
残念だったのは,「影」が登場しなかったこと。やはりいたほうがいいですよねえ。

 

『海賊』

振付:マリウス・プティパ     音楽:リッカルド・ドリゴ

イリーナ・ドヴォロヴェンコ  ホセ・カレーニョ

ドヴォロヴェンコは薄いブルーの衣裳で登場。
美しかったですし,安定していてたいへん上手ですし(フェッテに規則的にダブルを入れながら,一点で回り続ける等),見せ方も心得た「プリマのメドーラ」だったとは思いますが,少々見得を切りすぎのような。(もっとおっとりしたお姫様のメドーラが好きなの)

カレーニョは,この上なく優美に,踊り,振る舞っておりました。
ワイルドやセクシーが全くなく,王子か騎士のような妙な海賊ではあるわけですが,これくらい徹底していれば立派ですよね〜。というわけで,その確信犯ぶりにちょっと感動しました。
それにしても,ABTのアリの衣裳は妙ですなー。

 

第2部

『ロミオとジュリエット』より“バルコニーのパ・ド・ドゥ”

振付:レオニード・ラヴロフスキー     音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

マイヤ・マッカテリ  デヴィッド・マッカテリ

マイヤ・マッカテリは,軽やかで愛らしく,少女らしい清潔感のあるジュリエット。ラブロフスキー版に似合っていたと思いますし,とても好感が持てました。両家の争いがどーしたこーしたに関係なく,素直に初めての恋に夢中になっている感じかな?
彼女はたぶんまだ二十代前半ですよね,その若さがあったからこそのジュリエットだったのではないでしょうか。

デヴィッド・マッカテリは,容姿も踊りも悪くはなかったのですが,ロミオかというと・・・? 
お顔立ちがシャープだし,雰囲気も甘さがないし,動きが重めの感じだし,ロミオというよりティボルト向きのような気が。

 

『カルメン』

振付:アルベルト・アロンソ   音楽:ロディオン・シチェドリン

ガリーナ・ステパネンコ,  アンドレイ・メルクーリエフ

最初にカルメンのソロ。舞台端で見つめて苦悩するホセ。
次にホセのソロ。カルメンは舞台から去るが,最後に舞台奥に戻ってポーズしてホセを挑発して幕。
アロンソ版に疎いので,どこの場面だったのかよくわかりませんが,たぶん,ホセがカルメンに陥落するまで,でありましょう。

ステパネンコは存在感というか貫禄というか凄みというか,はあったのですが,うーむ,これはカルメンとは違うような? なんというか,最初からドン・ホセを篭絡するのが目的で近づいている性悪女のような? いや,カルメンはそういう人だとも言えるから,それでいいのか???(悩)
故障でしばらく舞台を休んでいたせいでしょうか,少しふっくらしたようで,動きに鋭さが感じられないのも気になりました。

メルクーリエフは黒髪で登場しましたが,この方,黒髪だと人相が悪くなるのですねえ。(驚) 女で身をあやまる小役人というより,最初から小悪党のような?
踊りはキレて,かつ柔らかいし,苦悩ぶりもよかったです。

サンバカーニバルのようなホセの衣裳が話題になったわけですが,ボリショイで最近上演したときの写真を見ていたので,平常心で見られました。
ただ,↑に書いたように,2人とも,「私のイメージするカルメンとホセ」と違ったので・・・うーむ。

 

『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』

振付:ジョージ・バランシン     音楽:ピョートル・Iチャイコフスキー

アリーナ・コジョカル  ヨハン・コボー

コボーの踊りに唖然呆然。
バランシンではなくブルノンヴィルですね,これでは。このパ・ド・ドゥって,こんなにパを変えていいものなのでしょうか???

3年前のコレーラもかなり独自色を出していましたが(そして私は,品の悪い改変だと悪口を書いたのですが),でもあれは,そもそもピルエットであるところをより超絶技巧のピルエットで行う・・・という種類の話でした。コボーは,トゥール・ザン・レールの連続をアントルシャ・シスの連続に変えたりしているわけで・・・私が見るつもりだった『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』とは全然違うなぁ。こんなの見たくないなぁ。がっかりだなぁ。

コボーの脚さばきはたしかに見事で,リフトもよかったと思いますが,後半の普通に踊ったソロは凡庸なできでした。
つまり・・・そもそもの振りが彼に合わないから,得意なテクニックに替えて踊ったのではないでしょうか。そういうことをしなければならない演目をなぜ選んだのか,不可解なことです。

コジョカルについては,3年前と同じ印象。動きが今ひとつ音楽的に見えなくて,空中で脚を見せるポーズ(有名なパ・ド・シャとか)がきれいではない。
後者の理由はトウシューズの形が変わっているかららしい,という発見がありました。(つま先の面積が広いんですよね。なぜなのだろう?)

 

『白鳥の湖』より“黒鳥のパ・ド・ドゥ

振付:マリウス・プティパ     音楽:ピョートル・Iチャイコフスキー

ポリーナ・セミオノワ  フリーデマン・フォーゲル

セミオノワは邪悪で狡猾な猛禽。見事でしたし,「この若さで・・・」と感心もしました。
恵まれた肢体が伸びやかに美しく動く。そして,その美しさは,オディールの悪意でくっきりと縁取られている,という感じ。

技術的には安定していますし,フェッテの前半をダブルで通すなど「見せるべきところ」は外さないし,なにより表現面がすばらしい。
いわゆる「演技」はもちろん,踊っているときの視線の使い方や身体の方向やアクセントの付け方や・・・がすべてオディールの凶々しさや彼女の企みの表現になっているという印象。
ヴァリアシオンはグリゴローヴィチ版の音楽・振付だったのですが,これを見事に踊ると,それだけでオディールという人が立ち現れるのだなー,とも思いました。
うん,非常に完成度が高い黒鳥だったと思います。

一方のフォーゲルですが・・・私が思うに,彼は,こういう催しでプティパのグラン・パ・ド・ドゥを踊るには向かないダンサーですね。シュツュットガルトのパートナーとクランコ版『白鳥の湖』の一部を披露する,ということであれば話は別ですが・・・古典のパ・ド・ドゥとして見れば,今回の踊りはあまりにひどい。
サポートは腰が退けていっぱいいっぱいだし,跳躍は重いし,回転はプレパレーションが盛大なのに1回しか回らないし,ジーフクリートとしての演技はないに等しいし。よいのは容姿だけ。

まあ,いかにも欺されやすそうな人に見えた,という誉め方もできるかもしれませんが・・・うーん,でも王子の役ですからねえ。
セミオノワの黒鳥には,まともに古典を踊れる方を配してほしかった,と思います。

(2006.9.03)

 

第3部

『眠れる森の美女』

振付:マリウス・プティパ     音楽:ピョートル・Iチャイコフスキー

ルシンダ・ダン  マシュー・ローレンス

ダンがすばらしかったです。
スケールは大きくありませんが,技術も表現もバランスのとれた見事さで,「プリマ・バレリーナのオーロラ」のお手本のよう。見惚れました。
ていねいで「歌う」指先,エレガントな腕の動き,安定したポアント,結婚式らしい晴れやかな雰囲気,プリマの貫禄と品格。姫らしい愛らしさと若妻らしい落ち着きを兼ね備えた,いかにもオーロラ姫らしいオーロラ姫。とてもすてきでした。

ローレンスは,サポート技術そのものはさほどとは思いませんが,二人でシンクロして踊るところの合わせ方の配慮など,優れたパートナーだと思いましたし,きちんとデジレ王子を演じていたので,悪くもなかったです。
もう少し踊れるともっとよいとは思いましたが・・・。

振付のアレンジに珍しいものが多かったのですが,オーストラリア・バレエのヴァージョンだったのでしょうか。
詳細は忘れましたが,リフトしてからフィッシュダイブに入る動きなどがありましたし,オーロラのヴァリアシオンも普通と違っていたような記憶が。

 

『椿姫』より第2幕のパ・ド・ドゥ

振付:ジョン・ノイマイヤー     音楽:フレデリック・ショパン

オレリー・デュポン  マニュエル・ルグリ

マルグリットがパトロンの公爵に対してアルマンへの恋を宣言した直後に踊られる,いわゆる「白のパ・ド・ドゥ」。
美しかったです。

栄華の絶頂の(そして以後は不幸な運命に進む)高級娼婦と情熱的な青年のパ・ド・ドゥには全然見えませんでしたが・・・そうですねー,私には「ハイミスと妻子持ちの男のひと夏の恋」に見えましたが・・・この際そういうことはどうでもよい気がしました。
美しかったし,舞台上に芳醇な恋の雰囲気があった。詩情が感じられたし,この恋は(事情は違えど)別離で終わるのだろうなーと思える刹那感もあった。
だから,十分感動的。それでいいんじゃないかなー。

 

『ジュエルズ』より“ダイヤモンド”

振付:ジョージ・バランシン     音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー

ディアナ・ヴィシニョーワ  ウラジーミル・マラーホフ

これ以上ないほどドラマチックで情感溢れる上演。
この日の「私の一番」はこれで,ヴィシニョーワとマラーホフの描く世界を堪能しました。
同時に,「このプログラム一番の問題作」だとも思いました。ここまでやったのでは泉下のバランシンが「違ーーーーーうっ」と怒りそうだと思ったり。でも,もしかすると喜ぶかも,と思ったり。

2人とも持てる表現力のすべてを注ぎ込んだ感じ。
絡み合う視線,背けられる顔,求めるように伸ばされる腕・・・出会い,すれ違い,離れ,また魅かれ合う・・・ニキヤとソロルのようでもあり,ジゼルとアルブレヒトのようでもあり,オデットとジークフリートのようでもあり・・・そして,もちろん美しい。
すごかったです。ひたすら見入ってしまいました。

それから,とてもロシア的だと思いました。
バランシンがロシア・バレエへのオマージュとして作ったという知識のせいかもしれませんし,ヴィシニョーワのチュチュとティアラのデザインがロシア風だったこともあるかもしれませんが・・・そんな気がしたなぁ。
暗くて,重苦しくて,長い冬の国の地中に輝くダイヤモンド。

いえ,ダイヤモンドではないのかも。
カットして初めて輝きが見えるような,無色透明に光るような,そういう宝石とは違う気がしました。
自然のままでも輝きわたる石なんだと思うし,色もついていたと思うなー,この宝石は。

 

『孤独』

振付:モーリス・ベジャール     音楽:ジャック・ブレル/バルバラ

ジル・ロマン  那須野圭右

『ブレルとバルバラ』を今回のためにアレンジしたということでしたが,何曲かを抜粋して,つながるように演出しなおした・・・のでしょう,たぶん。

よかったです。
プログラムかキャスト表の裏で,シャンソンの歌詞か概要を教えてくれると,鑑賞の助けになってもっとよかったとは思いますが,ロマンくらいのダンサーになれば,その辺が不明でもなんとかなりますから。
きれいだったり,切なかったり,ユーモラスだったりする動きを,ぼーっと眺めました。引き込まれたと言えば嘘になりますが,飽きないで最後まで見られたのは確かです。

那須野圭右は,小林十市が初演した役を担当したのだと思いますが,打掛の扱い方が雑でした。
特にカーテンコールやフィナーレでの無神経な裾裁きには唖然。女形(パートナー)という位置づけで前に出るのなら,それなりに振る舞ってもらわないと困ります。それができないのなら,後ろに控えていていただかないと。

 

『椿姫』より第3幕のパ・ド・ドゥ

振付:ジョン・ノイマイヤー     音楽:フレデリック・ショパン

シルヴィ・ギエム  ニコラ・ル・リッシュ

おなじみの「黒のパ・ド・ドゥ」。
迫力があったので(作品自体の力もあったと思う)引き込まれましたが,誉めるのはためらわれる心境です。
ギエムに存在感がありすぎるため,咳き込んだり床に崩れ落ちたりする演技が非常にわざとらしく見えてしまって・・・失礼ながら,ちょっと笑いたくなる瞬間も。

ル・リッシュは優しく包容力あるアルマンでした。
カウチに尋常に腰を下ろしている時点で「?」だったし,その後も,マルグリットと会う約束をして待っていたかのような紳士的な振舞い。
全幕で見ればこういうアルマンもあるのでしょうが,このパ・ド・ドゥだけ抜き出して上演する場合,場面の意味が不明になるような?

 

第4部

『ドリーブ組曲』

振付:ジョゼ・マルティネス     音楽:レオ・ドリーブ

アニエス・ルテステュ  ジョゼ・マルティネス

のどかな音楽に振り付けたのどかなパ・ド・ドゥ。初めて見ました。
ルテステュがデザインしたという衣裳は,濃い目のブルー系の色遣いが珍しかったですし,女性のチュチュのスカート部分がとてもカワイイ。(丈が短くて,ドレープでボリュームを出している)

一応グラン・パ・ド・ドゥ形式に則っていましたが,雰囲気的にはネオクラシックでしょうか。
マルティネスの振付の才については・・・はて,どうなんでしょう? 「へ?」というようなものでなかったのは確かですが,なにか個性があったかと言われると・・・?

「回転は左右両方できるように練習しましょう」みたいな趣もあって,バレエ学校用に作ったのかと思ったら,若手ダンサーの公演用だとのこと。当たらずといえども遠からず,ですね。(え? 違う?)
男性が,左回りのジュテをしながら舞台上に右回りの円を描くマネージュを行ったのが非常に珍しかったです。初めて見たかも。(見ていて「いずい(仙台弁。適切な代替標準語がないのですわ)」気がしたので盛り上がれませんでしたが,こりゃ難しそーだなー,と感心しました)

 

『三人姉妹』

振付:ケネス・マクミラン     音楽:チャイコフスキー  編曲:ギャモン

タマラ・ロホ  イナキ・ウルレザーガ

ロホはプロポーションに恵まれているとは言えないバレリーナで,この作品のサーモンピンクのロングドレスも似合っているとは言いがたく・・・野暮ったく見えました。が,しかし,その垢抜けないところが「田舎教師の妻」らしかったですし,上半身が肉感的に見えるのが「今の暮らしに飽き足らないでいる女」像に説得力を与えていました。
彼女はドラマチックな作品で優れていると言われているわけですが,この作品を見て「なるほどー」と納得。
情念系,とでも言えばいいのでしょうか,チェーホフというよりはロルカの世界の住人のような気もしましたが,「暗い情熱」のマーシャだったと思います。

ウルレザーガは,将校ではなく一兵卒に見えましたし,最初にマントを外して投げ捨てる動きがちっとも決まっていませんでしたし,その後もかっこよくは見えませんでしたが・・・そもそものヴェルシーニンはさえない中年男であったわけですから,まあいいことにしましょう。
よかったのは「踊れる」ことです。大きな身体でダイナミックな跳躍や回転を行うことによって,ドラマが現れてきていました。彼の功績というよりはマクミランの振付の力だとは思いますが,とにかく迫力があったから振付が効果的だったのは確かだと思います。

全体としては・・・うーん・・・誉めはしますが,私は好きじゃない。この2人を主役に全編を上演するのを見たいとは思えない。
この作品は,もう少し容姿が美しいカップルに踊ってもらわないと,私の琴線には触れないのだと思います。

 

『マノン』より“沼地のパ・ド・ドゥ”

振付:ケネス・マクミラン     音楽:ジュール・マスネ

アレッサンドラ・フェリ  ロバート・テューズリー

私は,フェリが口を大きく開けて演技するときの表情が大の苦手です。今回もそういう表情を見せられて「あ,やっぱりダメ。この人好きじゃない」になってしまいました。(オペラグラスを使ったのが悪かったんですよね。その辺はわかっているからいつもは使わないようにしていたのに,5月の『こうもり』とAプロの『カルメン』を見て,もしかして好きになったかも〜,と油断してしまった)
したがって,感情移入はできませんでしたが,さすがは熟練の演技。それはもう見事な,まさに死に瀕しているマノンだったと思います。デ・グリューへの感情のほうは特に感じられなかったけれど・・・まあ,とにかく拒絶反応が出ちゃったあとだから,自分の見る目に自信はない。

テューズリーは,献身的なリフトでフェリを支えるよいパートナーでしたし,弱っていく恋人をなんとか救おうとする,頼もしいデ・グリューでもありました。
そういう,男らしく見えたデ・グリューだからこそ,マノンの死を知ったあとの嘆きぶりが胸に迫る・・・ということで,よかったと思います。

 

『ドン・キホーテ』

振付:マリウス・プティパ     音楽:レオン・ミンクス

レティシア・オリヴェイラ  ズデネク・コンヴァリーナ

「ジプシー娘?」なアクの強いキトリと「ちょっとすかした」系バジルによる「恋の駆け引き」ヴァージョン。結婚式には見えませんが,二人とも芝居っ気があったし,ガラ公演らしいテクニック披露もあったので,楽しめました。
「世界バレエフェスティバル」のトリだと思うと物足りなくもありますが,ガラでの『ドンキ』としては,まずまず結構だったと思います。

オリヴェイラはテクニシャン。ぐらつく長いバランスはないほうがもっとよかったとは思いますが,いろいろ技を見せてくれました。(1月以上経ったので,詳細は忘れてしまいましたが,フェッテで扇の開閉を見せたりしたような気が)
浅黒い肌がスペイン娘風ですし,Aプロでは「品が悪い」に見えた見得切り系のアクセントも「こういうキトリもあるよね〜」と思えました。

コンヴァリーナは・・・えーと・・・普通でした。特に文句を言うようなことはなかったけれど,特に印象的なこともなかったような? 
今でも覚えているのは,カーテンコールでパートナーから扇をかっぱらってみせたこと。面白くてよかったのですが,こういうことが一番記憶に残るというのは,要は踊りのほうは普通だったということですよね。

 

Bプロ全体のラインナップは,今ひとつだったと思います。
よく言えば「なんじゃこりゃ?」がなく充実しているのですが・・・珍しいものが『ドリーブ組曲』だけだったので,「おおっ,この作品面白い♪」の余地が乏しくて・・・。普通のガラなら別に文句はないですが,「いろいろな振付家を紹介して観客を育ててきた」と自ら誇っているこの催しとしては,これでは恥ずかしい・・・は言い過ぎかもしれませんね,ええと・・・無難に過ぎたのではないでしょうか。
もちろん,それぞれのダンサーが踊りたい演目を上演するのが基本でしょうから,しかたのない面もあるとは思いますが。

なお,この日は最終日ということで,ダンサーへの花束贈呈と客席への手ぬぐい投げがありました。

(2006.09.14)

サイト内検索 この日の文頭に戻る 上に戻る 06年一覧表に戻る 表紙に戻る

世界バレエフェスティバル ガラ

2006年8月13日(日)

東京文化会館

指揮: アレクサンドル・ソトニコフ     管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団     ピアノ: 高岸浩子

 

第1部

『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』

振付:ジョージ・バランシン     音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー

レティシア・オリヴェイラ  ズデネク・コンヴァリーナ

オリヴェイラは,作品に合わせて「表現する」バレリーナなのですね〜。この日は作品にふさわしく「若々しい恋」を表現していました。エスメラルダやキトリのときのアクの強さ同様にかなり濃厚な作り方だったので好みは分かれるかと思いますが,私は,よいなー,と思いました。
小柄だし,踊り方もきびきびした感じで,この作品に合っていたんじゃないかな。

コンヴァリーナは,「ん? 音楽に間に合ってない?」が散見。その結果,この作品に必要な疾走感がない上演になってしまったと思いますが,普通にシンプルに踊ってくれたので,心が和みました。
うん,普通がいいよね〜。(え? それだけじゃダメ?)

 

『水に流して』

振付:イヴァン・ファヴィエ     音楽:S・デュモン/M・ヴォケール/E・ピアフ

アニエス・ルテステュ  ジョゼ・マルティネス

初めて聞く振付家による初めて見る作品。
よかったです。全幕の一部を踊ってくれるのも悪くはないですが,ガラでしか見られないような珍しい演目を見せてくれるのも嬉しいことですし,長すぎないのも結構でした。

幕が上がると,無音の中,下手に立つルテスチュが仏頂面で髪を三つ編みに編んでいる最中。衣裳はフリルひらひら〜,数段重ねのミニドレス。しばらくして,上手から面白くもなさそうにマルティネス登場。こちらは,チェックの地味なジャツにスボンという日常着風で,なぜか手に,巻いたゴザ・・・じゃなかった,マットを抱えている。これを広げると,簡易な緑の芝生になって,マルティネスはポケットから花びら(?)を出してはらはらと・・・。
そして,ルテスチュをマットまで運んできて踊り始める・・・のですが,そこまでの不穏な雰囲気とはうってかわって,キュートで意表を突く動きの連続。キッチュでユーモラスで楽しかったわ〜。(最後は簀巻きにするのかと思ったが,そうではなく,ルテスチュを乗せたまま引きずっていった)

表題の『水に流して』というのは,流れたシャンソンの題名なのでしょうが,全体として,「多少のいざこざはあったけど,仲良くやろうぜ。楽しもうぜ」みたいなテーマの作品なのかな?

 

『ライモンダ』

振付:マリウス・プティパ/ユーリー・グリゴローヴィチ     音楽:アレクサンドル・グラズノフ

ガリーナ・ステパネンコ  アンドレイ・メリクーリエフ

Aプロと同じ演目に変更されました。
その替わり? ステパネンコは白く輝く衣裳で登場。このほうがほっそり見えるし,結婚式らしい豪華さがあってよいかも。
踊りはさすが。たっぷり〜と見せてもらった,という感じかな。優雅で大人で威厳ある姫君でありながら,幸福感や一抹の哀切も感じさせて,見事でした。

メルクーリエフはパートナーに貫禄負け。でも,落ち着いて考えてみると,当初出演予定だったウヴァーロフの場合もステパネンコに貫禄負けしているのが常なわけで,その点を云々するのは間違っておりますね。
体格的な印象もあるのか「線が細い」感じで,勇壮さは足りないと思いましたが,鋭さはあったから騎士には見えましたし,優美な踊りですてきでした。
多少「苦労している」感はありましたが,マントで踊ってくれたのもポイント高いですー。

 

『レ・ブルジョワ』

振付:ベン・ファン・コーウェンベルグ     音楽:ジャック・ブレル

フィリップ・バランキエヴィッチ

うーん・・・つまんなかったなー。
バランキエヴィッチは3年前にもこの演目を披露していて,そのときは楽しかったのですが,今回は「・・・こんなのなくていいのになぁ」と思いました。特に,カーテンコールで何回も「ライター持ってない?」を見せるのには,ものすごくイライラしてしまった。

何故そういう反応になったのかは自分でも不思議で,何回も見たいような名作ではないということかなー? 同じシャンソンを使った作品の『水に流して』を見たばかりで,そちらに負けちゃったのかなー? とあれこれ考えたのですが,ひと月後にこの文章を書きながら,なんとなくわかりました。
あれは,ルイジ・ボニーノのチャップリン芸を見せられるときと共通する不愉快感だわ。珍しさがなくなってみると,あの作品の(それともバランキエヴィッチの?)ユーモア感覚は私と全然合わないんだわ,きっと。

踊りはたいへん上手だったと思いますが,この作品ではなくて,テンチコワとなにかパ・ド・ドゥを見せてほしかったです。

 

『海賊』

振付:マリウス・プティパ     音楽:リッカルド・ドリゴ

マイヤ・マッカテリ  デヴィッド・マッカテリ

この方たちは,衣裳の趣味がとてもよいですね〜。
メドーラの上半身濃紺でスカートがシルバーグレイで銀糸豪華刺繍のチュチュがとってもすてきですし,アリのほうは,トルコブルーのハーレムパンツ,ヘアバンドつきという正統派だし,うん『海賊』はこうでなくては・・・と満足。

踊りは中途半端というか,凡庸というか。物語性もなければ超絶技巧でもなく,特に印象に残る上演ではありませんでした。
でも,悪くもない。というか,Bプロの2人より,私は好きです。ちゃんと「姫と海賊」になっていましたから。

なお,メドーラのヴァリアシオンは『バヤデルカ』ガムザッティのヴァリアシオンの音楽と振付。

 

第2部

『眠れる森の美女』

振付:マリウス・プティパ     音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー

ディアナ・ヴィシニョーワ  ウラジーミル・マラーホフ

ヴィシニョーワはさすが。
16歳の初々しさこそありませんが,お姫さまのキラキラも未来の王妃らしい貫禄も不足なく,艶やかで華やかなロイヤルウエディングのオーロラでした。

一方のマラーホフは,ちらとも笑顔を見せない新郎。わはは,これでは結婚式には見えませんなー。
オーロラが実在するのか不安に思っているかのような,彼女を失うのを恐れているかのような表現で,3幕ではなく幻影の場を見ている気分になってしまいました。
ですから,このパ・ド・ドゥのデジレとしては失格だと思いますが,美しいことには間違いない。豪奢な白と金にブルーでアクセントをつけた衣裳が,まあ似合うこと,似合うこと。動きの美しさはもちろんですし・・・眼福でございました。

踊りは,どうかなー? 2人とも好調ではなかったかも。
特にマラーホフのヴァリアシオンは・・・もう「ふわっと」を期待してはいけないんでしょうねえ・・・少しだけ切ない気分になりました。

 

『作品100−モーリスのために』

振付:ジョン・ノイマイヤー     音楽:サイモン&ガーファンクル

アレクサンドル・リアブコ  イヴァン・ウルバン

これがこの日の「私の一番」。深く心動かされました。
作品とダンサーもよかったけれど,それ以前に作品の趣旨そのものが感動的だし,泣かせる「仕掛け」も万全。

10年前にベジャールの70歳のガラのために創作された作品で,ノイマイヤーの100作目だという事実。
サイモン&ガーファンクルの「Old Friends」というタイトルの曲と「明日に架ける橋」という名曲を使ったこと。(まるでベジャールのような「あざとい」音楽選定)
曲の間に流れたフランス語の朗読での直截なる愛の表明。(これは,ベジャールがノイマイヤーとマリシア・ハイデに振り付けた『椅子』の中の1節だそうで,そういう使い方も感慨深いですよね。もっとも,私はてっきりノイマイヤー自身の筆になるものだと思い込み,「難解なる自作解説を常とする,あのノイマイヤーがこんなベタな詩を・・・」という妙な感動をしてしまったのですが)

踊るのは,男性2人で,その振付はベジャール風。私はベジャールの熱心な観客ではないのではっきりとは言えませんが,たぶん,ベジャールの語彙を用いて,作品を作ったのだろうと思います。
そういうベジャールへのオマージュを,ベジャールが80歳になった10年後の今年,「モーリスのよき友人」であるNBSの佐々木専務理事がプロデュースする催しの30周年記念に上演するという事実。

ノイマイヤーのファンとしては,これに感動しないでなにに感動するか? という感じで・・・見事に乗せられて,涙しました。
(「乗せられた」のはちょっと口惜しいんだけど・・・どういうわけか,ノイマイヤーには私を素直にする力があるのよね。それがファンだということなのでしょうね,たぶん)

清々しく昇華されたダンスでした。同性愛的な雰囲気が漂わないのはもちろんですし,葛藤とか相克のような「男の友情」を描くときにありがちなものもない。純粋で優しくて美しい感情だけをエッセンスにして見せてくれた,そんな印象。
特に心に残るのは,2曲目の最初のほう。互いの肩に手を置きながら並んで踊る中で,リアブコがウルバンのほうにちょっと首を傾げた動き。それは「なついている」と形容したいような雰囲気で・・・ノイマイヤーはこういうふうにベジャールを慕っているのかなー,なんて思いました。

 

『くるみ割り人形』

振付:レフ・イワーノフ     音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー

イリーナ・ドヴォロヴェンコ  ホセ・カレーニョ

きれいでした。
ドヴォロヴェンコはピンクのチュチュで,色香漂う金平糖。カレーニョは,衣裳の豪華さが不足している気はしましたが,踊りもマナーもエレガントをきわめた王子。

このペアは3演目とも立派な舞台だったとは思うのですが・・・古典のグラン・パ・ド・ドゥだけなのは,ちと面白みに欠けた気も。(ではなにが見たいか? と聞かれると「はて?」だから,しかたないのかなぁ)

 

『エスメラルダ』

振付:M・プティパ/B・スティーヴンソン     音楽:チェーザレ・プーニ

タマラ・ロホ  イナキ・ウルレザーガ

このパ・ド・ドゥで一番感心したのは,ウルレザーガの衣裳です。すごくすっきり見えて,びっくり〜。(ロホについては,特に貢献しているとは思えなかったが)
深緑の衣裳というのは珍しく,その点でも印象に残りました。

ロホのバランスの長さと回転の滑らかさは実に見事。より効果的に見せるための演出だったのか「調子がいいからこのままいっちゃえ」だったのかわかりませんが,パートナーが準備万端で差し出した手をとらないままアダージオの最後のポーズに持っていったのが,特に上手でした。
でも,ヴァリアシオンで,脚がタンバリンの位置まで上がるのではなく,手のほうが足に向かって下がっていったので,少なからずがっかりしました。このパ・ド・ドゥは,あそこが印象の決め手だと思うので,「演目選定を間違ったのでは?」と。

ウルレザーガは,『三人姉妹』のように「舞台上でやるべきことがすべて決められている」演目はなんとかなるようですが,余白を自分で処理しなければならない古典のパ・ド・ドゥは,依然として「問題大あり」なのですよね。まずは,歩き方をなんとかしていただきたいものです。(踊りはよいのですが)

(2006.10.4)

第3部

『白鳥の湖』第2幕より

振付:マリウス・プティパ/レフ・イワーノフ      音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー

シルヴィ・ギエム  ニコラ・ル・リッシュ  東京バレエ団

ギエムは,独自の主張など持ち込まずに,きわめて神妙に妥当なオデットを踊りました。
なのですが・・・席が前方すぎたのが悪かったのでしょう,彼女の肩の辺りの男らしさ,それ以上に意思的なお顔立ちに妨げられて,全然引き込まれずに終わりました。オデットの揺れ動く心を丁寧に繊細に表現しているのは理解できるのですが,私にはちっとも白鳥に見えなくて・・・。

ル・リッシュは包容力あるジークフリート。
それにしても,この方の自己顕示欲のなさというか,自分のファンへのサービス精神欠如というか,世界バレエフェスティバルに対する熱の低さというか・・・には感心します。
ギエムが自分中心に選んだ(としか思えない)演目に,いつも快くつきあい,彼女がソロを踊る関係上自分もソロになれば,新人振付家の「海のものとも山のものとも」な新作を披露し・・・。「いい人だなー」とほのぼのしたり,パートナーの爪の垢を煎じて飲んだほうがよいのでは? と言いたくなったり。

でっきりグラン・アダージオだけの上演だと思い込んでいたので,二人がポーズをとった直後にコール・ド・バレエが両袖にはけていったのには驚き,喜びました。でも,いきなりコーダになったので拍子抜け。
ところで,東京バレエ団の女性コール・ドは,『ジゼル』はけっこうよいのに,『白鳥の湖』は,なぜにこんなにもきれいでないのでしょう???(謎)

 

『些細なこと』−世界初演−

振付:クリスチャン・シュプック     音楽:梅林茂

ポリーナ・セミオノワ  フリーデマン・フォーゲル

シュプックという名前は聞いたことがあるようなないような・・・? と思ったら,シュツットガルトの座付き振付家みたいですね。
暗い中で踊られるトウシューズのコンテンポラリー・バレエでした。フォーサイス風の動きもあったけれど,ユニゾンが多かったのが特徴かも。衣裳は黒系の簡素なもの。
なにが「些細なこと」なのかは全くわかりませんでしたが,飽きないで見ることができました。よい作品かどうかはわかりませんが,音楽を含めて悪くはないのでは?

セミオノワはかっこいいですね〜。伸びやかでシャープで若竹のように健康的な感じ。
フォーゲルは,この作品が一番よかったと思います。

 

『スターズ・アンド・ストライプス』

振付:ジョージ・バランシン     音楽:ジョン・フィリップ・スーザ

アリーナ・コジョカル  ヨハン・コボー

このパ・ド・ドゥはどのように楽しむのが正しいのか,見る度に悩むのですが・・・もしかして,アメリカに対する一種のパロディーなのでしょうかね?
だとしたら,コボーは名演ですね〜。あっけらかんとバカっぽくて,今まで見たこのパ・ド・ドゥの中で一番笑えました。

コジョカルは,それに比べると印象が薄かったですが,チャーミングで上手でした。

 

『新世界』

振付:エディー・トゥーサン     音楽:アントニン・ドヴォルザーク

レティシア・オリヴェイラ  ズデネク・コンヴァリーナ

長すぎました。飽きました。
振付は,たいしたことがないというか,ありがちというか。オリヴェイラはやはり表現力があると思いますが,それだけで保たせるのは無理な長さでした。後半は,早く終わるよう祈りつつ,ひたすら辛抱。

 

『白鳥の湖』より黒鳥のパ・ド・ドゥ

振付:マリウス・プティパ     音楽:ピョートル・I.チャイコフスキー

ヴィエングセイ・ヴァルデス  ロメル・フロメタ

この日一番の問題作。びっくり仰天。驚天動地。

キューバ国立バレエで上演されている版らしいのですが,テクニックてんこ盛りの振付でした。
ただ,これについては,コーダの最後にオディールが後退するときにポアントだったこと以外は,「誰かで見たことあるなー」な技をまとめて見せてくれたにすぎないので,普通に驚けばすむ程度。

仰天したのは,演出です。
「やりすぎ」どころか「あざとい」と言いたいくらいに多々芝居を盛り込んで(オディールが普通の倍くらい演技をして,さらにロットバルトの分まで代行して=合計3倍),王子を欺して陥落させるわけです。「王子が差し出した手を撥ね退けて高笑いする」とか,「王子に背を向けてすたすたと舞台から去ろうとすると,王子は慌てて彼女の前に回り,両手を広げておしとどめる」とか,もんのすごくわかりやすい演技が挿入されていて,目が点になってしまう。(・o・)

さらに,衣裳や装飾の類がスゴイ。
黒鳥のチュチュに赤の装飾があるのはけっこうよく見るわけですが,ティアラが赤いのは初めて見ました。王子のほうも,黒いタイツに上半身赤というバジルないでたちで,口をあんぐり〜。(・o・)

というわけで・・・ひっじょーにドラマチックだったという誉め方もできそうなのですが,一方で,浅薄でなんとも品が悪かったと貶したくもあり・・・。
いずれにせよ,非常に興味深い上演だったのは確かです。「世界の裏側には,まだ知らないバレエの世界があるらしいなー」なんて思いましたし,是非,この『白鳥の湖』の全体像を見てみたいとも思いました。

ヴァルデスは,踊りも表現も迫力があってよかったのですが,プロポーションがマニッシュすぎるかも。(オディールだからいいけれど,オデットはどうかなー?)
フロメテは近くで見たらハンサムでもありましたし,踊りはほんとうに上手。洗練はこれから,という感じですが,将来はきっとすてきなダンスールノーブルになると思います。

(2006.10.05)

第4部

始まる前に,出演回数の多いルグリ,ロマン,フェリに対して,記念品の贈呈式がありました。(この場にいないベジャールや指揮者の故ケヴァル,照明などの関係の方にも贈るそうで,そこまでは納得がいくのですが,どういうわけか,今回の指揮者のソトニコフまで貰いました。なんでだろ?)

 

『椿姫』より第2幕のパ・ド・ドゥ

振付:ジョン・ノイマイヤー     音楽:フレデリック・ショパン

オレリー・デュポン  マニュエル・ルグリ

↑の贈呈式の中で,佐々木専務理事がつらつらと趣旨不明の話をしたのですが,それによると,デュポンの膝が「あわや休演」の状態で,『ソナチネ』のリハーサルなど到底できないので,Bプロと同じ演目になったそうです。
それを聞いてしまったので,「もしやここは本来ドゥミ・ポアントではなくポアントで・・・?」などと考えながら見てしまいました。
この私の反応は,心配というよりは興味本位のものなので,あまり偉そうなことは言えないのですが・・・踊る直前にそういう話をするというのは無神経すぎますよね。より感動なさった方もあるかもしれないけれど・・・心配で舞台を見るどころではない心境になった方もあったのではないでしょうか? そういうことは,舞台が終わってから知らせるべきだと思います。

見る側に雑念が入ったせいもあったのか,2人の踊りは,前々日のBプロで見たときのほうがスムーズに見えました。この日は,リフト関係がけっこうぎこちなく見えたので,その分詩情が削がれてしまったような。
でも,近くで見たルグリは若々しく,ちゃんと「年下の男」に見えました。(遠目のほうが年相応に見えるものなのかしら? なんだか不思議・・・) デュポンは美人ですから近くで見るのに適していますし,2回見られてよかったかも〜。

 

『アダージェット』

振付:モーリス・ベジャール     音楽:グスタフ・マーラー

ジル・ロマン

すばらしかったです。名作だし,音楽の力もあるし,もちろんダンサーのすばらしさもある。

求めて,求めて,翻弄されて,求めて,最後のふとした瞬間にあっけなく手に入ったもの。それなのに,自分から手放してしまったもの。
あれっていったいなんなのでしょうね? 私には,何回見てもわからないんだけど・・・。

 

『ロミオとジュリエット』より“バルコニーのパ・パ・ドゥ”

振付:ケネス・マクミラン     音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

アレッサンドラ・フェリ  ロバート・テューズリー

フェリは,ほんっっとにジュリエットですね。
変な表現ですが,そう思いました。AプロやBプロで踊ったバレリーナのほうが実年齢ではジュリエットに近いわけですが,フェリのほうがずっとジュリエットらしい。「愛らしい」とか「情熱的」とか,ジュリエットにつけるにふさわしい形容詞はいろいろあるわけですが,そういう言葉を使うのではなく「ジュリエットだった」と描写するのが一番ふさわしい気がしました。

テューズリーは,そういう意味ではロミオではないのですが(少年ぽさが致命的に欠けている),誠実そうだし,愛がありましたし,かっこよくもありました。

 

『ドン・キホーテ』

振付:マリウス・プティパ     音楽:レオン・ミンクス

ルシンダ・ダン  マシュー・ローレンス

正統派の『ドン・キホーテ』グラン・パ・ド・ドゥ。
3組目にして初めて,キトリとバジルの結婚式が執り行われました。衣裳が白基調なのも厳粛なるお式らしいですし,お祝い事らしい「格」も感じられる立派な上演。

ただし,ガラの『ドンキ』としては「イマイチつまらん」でした。全幕の最後にこの踊りなら不満はないのですが,ガラで見る場合は,それなりの超絶技巧を見せてもらって,多少は(できれば,たくさん)「おおっ」と言わせてもらって,手に汗握って盛り上がって,スカッとして終わりたいですもん。
そういう意味で,この2人,特にローレンスは適任者ではありませんー。

ダンは,安定してきれいな踊り。3つのプログラムを見てきた感じとして,跳躍も回転もポアントワークも,アダージオもソロも,古典もモダンも,苦手なことはなにもないみたい。とても優れたバレリーナだなー,と思います。
このパ・ド・ドゥでは跳躍の高さが印象的。脚が強いのでしょうね。
一方で扇を広げてのフェッテは・・・うーむ,これだけ上手な方でも「なにかケレンを見せねば」と無理しちゃうんだなー,という感じ。肩の辺りに力が入っていたのではないかしらん,きれいでなかったです。素直に回ったほうがよかったんじゃないのかなー?(いや,私自身がケレンを求める観客でありながら,こういうことを書くのは自己矛盾だとは思うんだけど・・・)

ローレンスは,両手でボレロの裾を掴んでのポーズなどちゃんとバジルを演じてはいるのですが,技術不足は如何ともし難い。このパ・ド・ドゥがshow-stopping になるかどうかは,男性の技術レベルによるところが大きいので,かなり苦しいものが。

 

この日は,ガラの恒例(?)おまけの上演がありました。

『ロミオとジュリエット』バルコニー・パ・ド・ドゥ   マラーホフ,ロホ

『白鳥の湖』黒鳥のヴァリアシオン   フォーゲル

『エスメラルダ』ヴァリアシオン   フロメテ

『ドン・キホーテ』バジルのヴァリアシオン   ヴァルデス

『三角帽子』など   マルティネス

『カルメン』   カレーニョ,メルクーリエフ,セミオノワ

このところガラは平日が多かったため,このお遊びは久しぶりに見たのですが,そうですねー,期待ほどではなかったです。
上演そのものより,その後のカーテンコールで,カルメンの姿のまま平然かつ完璧なマナーでドヴォロヴェンコをエスコートするカレーニョに,いたく感心いたしました。

(2006.10.06)

 

【広告】2006年1月にチェコのプラハ国立劇場で行われたガラ公演
ディヴァイン・ダンサーズ プラハよりダンス 

Divine Dancers (Sub Ac3 Dol Dts)

タイトルはAmazon.co.jpの国内盤へのリンク/ジャケット写真はAmazon.co.jpの輸入盤へのリンク/右の情報源はHMVジャパン

【収録作品】
・マスネ:マノン(抜粋)[ケネス・マクミラン振付、L.ルーカス編曲]
・ワイル:どのくらい長い時間[クシシトフ・パストル振付]
・ラフマニノフ:想い出[ジュリアン・レステル振付]
・シナトラ&アンカ:マイ・ウェイ[シュテファン・トス振付]
・プーニ:ファラオの娘(抜粋)[ピエール・ラコット振付]
・パーセル:ムーア人のパヴァーヌ[ホセ・リモン振付]
・ガーシュウィン:フー・ケアーズ[ジョージ・バランシン振付]
・チャイコフスキー:眠りの森の美女〜グラン・パ・ド・ドゥ
[プティパ、ヌレエフによるシャルル・ジュード振付]
・ブレル:アムステルダム[ベン・ヴァン・コウヴェンベルグ振付]
・レ・ブルジョワ[ベン・ヴァン・コウヴェンベルグ振付]
・グラズノフ:ライモンダ(抜粋)[マリウス・プティパ振付]

【出演】
ポリーナ・セミョーノワ、イゴーリ・ゼレンスキー、ナターリャ・ホフマン、アルティン・カフティラ、デルフィーン・バイ、ダニール・シムキン、ドミトリー・シムキン、マリア・アレクサンドロワ、セルゲイ・フィリーネ、シャルル・ジュード、ステファニー・ルーブルト、ジャン=ジャック・エルマン、ヴィヴィアナ・フランシオシ、オクサーナ・クチュルク、ロマン・ミハリョフ、マレク・トゥーマ

【収録時間】 90分

 

サイト内検索 この日の文頭に戻る 上に戻る 06年一覧表に戻る 表紙に戻る