HS06(服部有吉×首藤康之パートナーシッププロジェクト2006)

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2006年8月5日(土) ソワレ

Bunkamuraシアターコクーン

演出・振付: 服部有吉

美術: 島次郎     照明: 安部昌臣     音響: 友部秋一     衣裳: 前田文子

 

第1部 

HOMO SCIENCE

音楽: アントナン・コメスダズ

首藤康之  エレン・ブシェー  ヨハン・ステグリ  ゲイレン・ジョンストン  大石裕香

ロボット工場で1体のロボットが制御を失い,自らの意思で動き始め(?),他のロボットを次々と破壊し,最後は自らも壊し(あるいは,工場運営当局に破壊され?)・・・というストーリー。
最後は,使えなくなったロボットはすべて運び出されて,何事もなかったかのように冒頭と同じ場面に戻って終わりました。

プログラムによると「善や悪の判断は主観でしかなく,立場や環境が変われば正義とは何かも見えづらくなる」というテーマらしいのですが,ふーむ,そういう感じはしなかったなー。私には,「人間性に目覚め抵抗を試みるが,大きな力の前に敗北する」話に見えました。
どちらにせよ,ありがちと言えばありがちですが・・・愛だの恋だのにとどまらない社会性のある作品を作るとは,服部さんはかっこいい方ですね〜。

振付はコンテンポラリーと言えばいいのかな? これもプログラムの服部さんの説明によると「ジャンルにとらわれない実験的なフリースタイル・ダンス」だということでした。
「実験的」というほど新しいとは思いませんでしたが,「○○風」には見えなかったから,フリースタイルではあるのでしょう。(ノイマイヤー風でないのは,すばらしいことですよね〜)

装置は白(ライトグレーだったかも)一色の箱の中,という感じ。主演の首藤さんが何回か舞台中央前面で客席に向かって「にやりと笑う」を見せていましたから,客席を工場運営当局に見立てていたのでしょうか?
音楽は,「いかにも」な電子音を使ったもの。特に好きではありませんが,作品の雰囲気によく合っていたと思います。
衣裳は男性は白っぽいショーツのみ,女性は同色のセパレーツの水着型。ロボットという設定から考えて,もっともなことです。

出演者6人の作品でしたが,この日は服部さんが体調不良ということで,5人での上演になりました。でも,上手に処理してあったようで,知らなければ,最初から出演者5人の作品だと思えたんじゃないかな。
首藤さんは,髪を少しカールさせて登場。いつもどおり前髪を下ろしていることもあり,若々しかったです。

私はかなり頑なな「バレエ」好きなので,この作品は好みではありませんでしたし,引き込まれるところも全くありませんでしたが,服部さんは優れた振付家,演出家だと思いました。
そもそも,「コンテンポラリーなのに意味不明ではない」ということ自体が,まことに有り難いわけです。最初と最後に上空からロボットが下りてくるという演出などは「!」もあるし,いかにも無機質な工場の作業工程らしい不気味さもあって,とても感心しましたし,全体として,フォーメーションや動きが単調でなかったのもよいです。ロボットが壊されていく過程にも変化があって「深読み」して楽しむ余地がありそうだし・・・よい作品だと思いました。

 

第2部

『ゴーシュ』

音楽: サン=サーンス,ショスターコヴィッチほか 

服部有吉  エレン・ブシェー  ヨハン・ステグリ  ゲイレン・ジョンストン  大石裕香

宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」をもとに,設定をオーケストラからバレエ団に置き換えて作られたバレエ。
失敗ばかりのダンサーが,1人で練習に励んでいると動物たちが現れる・・・彼らとの出会いを通して,立派なダンサーに成長し,公演は成功する・・・というストーリー。

なんというか・・・ユーモアでくるんではありますが,本質は,見ているほうが恥ずかしくなるような単純かつ素朴な成長物語,という印象。いや,原作がそうなんですよね,たぶん。(読んだことがないのです。←という事実のほうがよっぽど恥ずかしいか?)
それに,恥ずかしくなるのは,見る側が素直な心根を失くしているということであって・・・大人が鑑賞するには物足りないと思いますし(もう少しドロドロとかボロボロを経て成長してくれないとねえ),「アホくさ」という心境になりましたが・・・少年少女向けにはよいかも。
どこか日本のバレエ団がこの振付を買ったらどうかなー? これとパ・ド・ドゥいくつかとを持って,日本中の中学校を回って歩いたら,バレエの普及に有益なんじゃないかなー? なんて思いましたが,いかがでしょうかね?

 

最初は,バレエ団のリハーサルの場面。ゴーシュ(服部)はうまく踊れないわ,先生(ブシェー)に迷惑をかけるわ,仲間(ステグリ)にケガをさせるわ・・・でバレエ団の厄介者。
なのですが・・・えーと,この場面に関しては,「服部さん,もっとヘタに踊んなきゃダメじゃん(=もっとヘタに見えるように振り付けなきゃダメじゃん)」だったと思います。最後の,見事に踊って「めでたしめでたし」との落差がないと・・・。

というよりも・・・これは,ひと月以上たって感想を書きながら思ったことなのですが・・・あの場面(と,その直後の悩みを表現するソロ)での服部さんは「なにかが足りないダンサー」ではなく「芸術の方向性がバレエ団の方針と合わなくなっている有為のダンサー」に見えました。そういうダンサーが成長した結果が,そもそも練習中だったバレエ作品を仲間とともに見事に踊ることだったというのは,羊頭狗肉ではないか,と。それが,私が「アホくさ」と感じた大きな要因だったのではないか,と。最後があのような形なのであれば,最初からもっと「単純に下手なダンサー」として描くべきだったのではないか,と。

動物たちですが・・・最初に登場したのは,セクシーでお節介な猫のブシェーさん。最初は「うるせーなー」だったゴーシュですが,この場面を通して,女性の扱い方(サポート?)を学んだ・・・のでしょう,たぶん。
次にステグリさん登場。「自意識過剰で芸術家気取りの鳥」だそうで,彼との出会いによって男性の踊り方を覚えたのか,ナルシストではいけないという反面教師だったのかは不明ですが・・・「リフトしていて窓にぶつかる」など笑えるシーンがありました。
その次が,「おおらかで楽しいことが大好きなたぬき」のジョンストンさん。回転するとポンポコお腹になる衣裳がよかったです。ここは,「踊る喜び」を取り戻すという場面かな? それとも「お客様を喜ばせる」エンターティンメントとしての側面を学んだのかも?
最後が大石さんの「遠慮がちで謙虚なねずみ」ですが,私には「臆病でおどおどしているねずみ」のように見えました。そして,ゴーシュは,彼女を励まし勇気づけることに成功。自分本位ではなく,他人を助けることができるような人間に成長した,という場面だろうと思います。

夜が明けると公演の日。ゴーシュが駆けつけて,バレエが始まります。
バランシン風(?)シンフォニックバレエという趣。美しかったです。男性の衣裳が作品に合っていない気はしましたが・・・。
ふーむ,なかなか「芸域の広い」振付家ですね,服部さんは。

 

ダンサーについては,ブシェーさんが印象に残りました。
たおやかで美しいプロポーションだし,優美な情感があるし,猫の場面のコケティッシュかつ押し付けがましい演技も上手。すてきなバレリーナですね〜。

服部さんについては,最初のほうのソロなどは「おお,なるほどー。よいダンサーらしいなー」だったのですが,最後のバレエ・シーンは「ん? こんなもんなの?? テクニシャンなんじゃなかったの???」でした。カーテンコールで,前に出るときは足を引きずっていたし,前を向いたまま下がることができない状態だったので,そのせいだろうと思います。
というより・・・途中までは「体調不良というのは故障ではなさそう」に見えたのに,カーテンコールがそういう状態だったので,不可解な気分だったのです。「痛み止めが切れたのかなー?」などと想像してしまったのですが,後日ウエブ上で知ったところでは,第1部を欠場した体調不良は別の症状で,負傷はこの日の舞台上のこと,翌日は『ゴーシュ』の上演はなかったそうです。

 

というわけで,第1部は完全な形での上演ではなく,第2部は主演者が万全の体調ではない,という公演だったのは残念でしたが,舞台は生ものですものね。
評判の高い服部さんの振付作品を初めて見ることができたし,(私の好みとは違うかも・・・とは思いましたが)よい振付家だと思ったし,見にいってよかったです。

(2006.9.16)

 

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