ノートルダム・ド・パリ(牧阿佐美バレヱ団)

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2006年7月23日(日) 

新国立劇場オペラ劇場

 

振付・台本: ローラン・プティ

音楽: モーリス・ジャール

装置: ルネ・アリオ     衣裳: イブ・サン=ローラン

指揮: デヴィッド・ガルフォース     管弦楽: 東京ニューシティ管弦楽団

カジモド: リエンツ・チャン     エスメラルダ: ルシア・ラカッラ     フロロ; 菊地研     フェビュス: シリル・ピエール

横山薫, 坂西麻美, 田中祐子, 佐藤朱実, 清水美貴, 土田さと子, 橋本尚美, 櫛方麻末, 館野若葉, 吉岡まな美,  奥田さやか, 小橋美矢子, 笠井裕子, 柄本奈美, 加藤裕美, 貝原愛, 竹下陽子, 関友紀子, 坂梨仁美, 又吉加奈子, 山中真紀子, 青山季可, 土岐みさき, 藤原まどか, 大野智子, 野口かほる, 金森由里子, 日高有梨, 海寳暁子, 伊藤友季子, 杉本直央, 塚田織絵, 鈴木理奈, 小塚悠奈, 佐々木可奈子, 坂本春香, 柳川真衣
マイレン・トレウバエフ, 山内貴雄, 加茂哲也, 鷲崎桂一, 飯田伊奈美, 岡田幸治, 逸見智彦, 塚田渉, 秋山聡, 保坂アントン慶, 伊藤隆仁, 京當侑一籠, ムラット・ベルキン, 武藤顕三, 徳永太一, 今勇也, 邵智羽, 中島哲也, 依田俊之, 坂爪智来, 小針亮, 石田亮一, 細野生, 高鴿, 上原大也, 清瀧千晴, 泊陽平, やまだようへい
西龍太郎, 八代大智

 

10年前の初演以来久々に,新国立劇場オペラ劇場を使っての上演。

このオペラハウスの舞台の高さ,奥行き,舞台袖の広さ。
それを生かして,完全な装置で見るこの作品は格別でした。(実際のところ私にはあまり関係ないのですが,オーケストラの生演奏での上演というのも付加価値が大きい)
奇跡小路の場面での斜めになった装置のそこかしこから顔を出す赤いコール・ドの不気味さ。兵士たちに散々殴られて倒れたカジモドにエスメラルダが水を与える印象的なシーンの次には二人が乗った舞台は左右に分かれていく・・・。2幕冒頭の鐘楼シーンの迫力。そして,聳え立つノートルダム寺院・・・。

ああ,これで,この寺院から現れるのが小嶋直也のフロロであったなら・・・というのがこの日の最大の感想なわけですが,それは見る前からわかっていたことなのでそっちのほうに退けておいて,実際に見たものについて。

 

ラカッラはさすが。
すばらしいプロポーションがすばらしく動いて,「プティの踊り方」のお手本のようでした。
特に,最初のソロでの肩から腕にかけての使い方に感動。どこがどうなのかは説明できませんが,「そっかー,踊るべき人が踊ると,こういう風に見えるのかー。こういうふうに踊るものなのかー」とひたすら感心し,惚れ惚れと眺めました。
「これぞ脚線美」という感じの脚も,その下の舞台に突き刺さるようなポアントもすごいし,プティ風ステップの明晰な美しさも印象的。
それから,絞首台で不気味に揺れる死体演技が非常に上手で,意外に演技派なのね〜,という発見もありました。
身体能力と踊りの見事さが勝ちすぎていて(こちらがそれに気をとられすぎて?),「ほろっとさせる」もの(心優しさとか女らしさとか哀れさとか)が欠けて見えるので,感情移入はできませんでしたが,見事だったと思います。

チャンは,「気は優しくて力持ち」なカジモド。
厚みがあって頼もしそうな体型のせいもあってでしょうか,「いい人」然として見えました。心温まる感じがあって悪くはないのですが,愚鈍とか卑屈とか,そういった屈折した趣がないのが物足りなかったなぁ。
踊りも,右肩の異様さ(と揺れる左腕)をもう少し強調して,「異形の者」感を出してほしかったのですが・・・まあ,こちらは,そうでないカジモドもありがちですから,しかたのないことなのかも。

菊地研のフロロは,凄みこそ「今後に期待」でしたが,踊りも演技もダイナミック。二十歳そこそこの若さで,あれだけ踊れてあれだけ表現できるのは,すばらしいことだと思います。
フロロという人は単なる悪役ではなくて,エスメラルダへの欲望に自分自身が苦しんでいるわけですが,その苦悩ぶりが「力いっぱい苦悩している」という感じで,たいへん迫力がありました。陰湿そうな感じがあって,ちゃんとストーカーになっているのもとてもよいです。
それから,天与のスター性。彼はプロポーションに「多少難あり」だと思いますが,そんなことは問題なくカバーできてしまう。観客の目を引きつける生来の存在感があるんだよなー,と改めて感心したことでした。

フェビュスのピエールは,容姿がよかった。金髪碧眼でプロポーションもよく,あの珍奇な衣裳が似合ってかっこいい。
しかしながら,踊りが重かったのには「なんのためのゲスト?(怒)」ですし,プティっぽい手の形が決まらないのには「この人ほんとにマルセイユ・バレエにいたんかいな?(謎)」と。
「なんのためのゲスト」なのかはもちろん周知のとおりでありまして,エスメラルダとのパ・ド・ドゥでの流れるようなサポートが見事でした。
それを見て「うーむ,さすがだ。ラカッラと踊るんだから来てもらってよかったか」といったんは納得したのですが・・・死体で出てくるところの演技で,またがっかり。ああいうのを「手抜き」って言うんじゃないですかね? ちゃんと死体らしく転がってくださいよ。

 

幕が開いてまもなくの男性ソロに,新国立劇場バレエ団のトレウバエフが登場。こんな役までゲスト呼ばんでも,若手に踊らせてやれよぉ・・・とは思いますが,さすが上手でした。テクニックも下司な表情の作り方も実に見事。
直後にこれと対決(?)する回転中心のソロは,たぶん中島哲也。こちらもまずまずでした。

コール・ドは,よかったと思います。
「民衆のエネルギー」的猥雑な感じはあまりないし,男性の中には「踊れてない」方もいるのですが,日本的コール・ドの美質である一体感の効果でしょうか,迫力がありました。
全体としてプロポーションが向上したのも,よかった一因だと思います。10年前の初演のときは,「うーむ,日本人にこの色,このデザインの衣裳は苦しいのでは? サンローランと言われても・・・」という感じがあったのですが,今回はほとんどの皆さんが問題なくお似合い。これは決して,見慣れたせいだけではないと思うなぁ。
男性の「踊れてない」も,レベルアップ。振付どおり回りきれない方はいても,動けなくて列から遅れるようなベテランの方は動員しないですんだようで。トレウバエウフ以外にも何人か外部からの出演はあったようですが,全体として陣容が充実したのでしょう。めでたいことです。

 

客席は,空席が目立ちました。
そもそも『くるみ割り人形』以外で満席になることのないバレエ団ですし,作品自体の知名度の問題も大きいし,ラカッラの人気はこの程度・・・とも言えるとは思いますが,いったいぜんたいなんだって,世界バレエフェスティバルの直前に公演したりするのでしょうかねえ?

自前のキャストでの公演なら諦めもつきますが,わざわざゲストを呼ぶ以上,その集客力を十全に発揮してもらえるような日程で公演するのが賢明というもので・・・「ラカッラを」見に来るような観客の多くが近く始まる世界バレエフェスティバルに気をとられ,お金もとられている時期に公演するというのは,あまりにセンスがなさすぎるような。
そういえば,3年前の公演は同じフェスティバルの直後。主演は同じラカッラで,やはり空席が目立ちました。どうやらこのバレエ団は,経験から学んではいないようですねえ。やれやれ。

(06.9.18)

 

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パリ・オペラ座バレエ「ノートルダム・ド・パリ」(全2幕)
ガーフォース(デヴィッド) イザベル・ゲラン ニコラ・ル・リッシュ

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パリ・オペラ座による全幕映像
エスメラルダ:ゲラン カジモド:ル・リッシュ フロロ:イレール フェビュス:ルグリ

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ウラジーミル・マラーホフ ルシア・ラカッラ 木村規予香

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ラカッラ/ピエールの『白鳥の湖』グラン・アダージオとカニパローリ振付『椿姫』を収録
マラーホフの『マノン』寝室パ・ド・ドゥ(パートナーはヴィシニョーワ),『ヴォヤージュ』,『ばらの精』なども見られます。

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