2006年7月22日(土)
文京シビックホール
振付: 関直人
美術・衣裳: ピーター・ファーマー 照明:古賀満平
音楽: チャイコフスキー
指揮: 堤俊作 演奏: ロイヤルメトロポリタン管弦楽団
オデット/オディール: 藤井直子 王子: アレクサンダー・アントニエヴィッチ
王妃: 福沢真理江 ロートバルト: 市川透
【1幕】
ヴォルフガング: 池田貞臣 パ・ド・トロワ:宮嵜万央里 鈴木直美 江本拓
【2幕・4幕】
2羽の白鳥: 鶴見未穂子 萩原美佳 4羽の白鳥: 鈴木麻子 宮嵜万央里 吉本奈緒子 長谷川園
【3幕】
各国の姫: 嶋田涼子 増田伸子 田中りな 大島夏希 高村明日賀 仲秋亜実
3羽の黒鳥: 宮嵜万央里 鈴木直美 西川知佳子 ナポリターナ: 田川裕梨 荒井英之
マズルカ: 鶴見未穂子 井上陽集 チャルダーシュ: 萩原美佳 原田公司
そんなによい上演だったとは思いませんが,初めて見る版で興味深かったですし,ピーター・ファーマーの美術がきれいでしたので,それなりに楽しみました。
まず,演出と美術の話から。
1幕の装置は「緑深い」感じの書割り。
衣裳は,パステル調で品がよく,装置との映りもよかったです。色味はコール・ドはイエロー,パ・ド・トロワは白,王子はペパーミントグリーンが基調。王子のブーツの色が目立ちすぎて,脚が長く見えないのが惜しかったなぁ。
「道化が登場しない」系の演出で,しかも,道化のソロの音楽そのものがカットしてあって,家庭教師も踊らず。えらくお上品な宮廷で,ちと物足りない感じがいたしましたです。王子のソロもありませんし,全体に,話の進行が早い印象もありました。1幕と2幕の間も中幕で処理してスピーディーな舞台転換でしたし。
中幕が上がると,ロートバルトだけでなく支配される側の白鳥も6羽。これは珍しいですね。
その後は,普通のイワノフ版の手順で舞台が進みましたが,コール・ドの動きは少々違っていたかも。なお,大きな白鳥は2羽でした。
白鳥たちの衣装はロマンチックチュチュ仕様。でも,ヘッドドレスは普通なので,最初のうちは違和感がありました。そして,オデットだけはクラシックチュチュ(金の刺繍でけっこう豪華)なので,さらに違和感が。こういう衣裳はたまに見ますが,どういう発想なのか,私には理解できませんー。
一方,ロートバルトの衣裳はすばらしくすてきでした。マントの内側は銀系のどっしりした刺繍,頭には鳥の羽のかぶりもので,フクロウなのが歴然。でも,ダンサーの顔はちゃんと見える。市川さんは,新国の衣裳のときの倍くらいかっこよく見えましたわぁ♪
3幕で印象的だったのは,まず,オディールの登場シーン。
ロートバルトが棒つきで扱う大きなマントを広げて(この衣裳もかっこいい),それを翻すと,そこにはオディール・・・。よく見る演出ですが,マントが大きいから,とても効果的でした。
それから,オディールのほかにも3羽,黒鳥が登場。オディールが王子とともに袖に去った後に登場,スペインの音楽で踊るので,ふむふむ,なるほどー,と。スペインの音楽は,「ロットバルトの手下の踊り」風の曲調に聞こえなくもないので,スペインの4人をそのような位置づけにしている演出は多いですが,黒鳥に踊らせるのは初めて見たような。普通のキャラクターダンスより魅力的かと聞かれると悩みますが,新鮮でよかったです。なお,この黒鳥たちは,この幕の最後にも登場。ロートバルトとオディールが去った後に舞台を一回りして去っていきました。
王子が「選んだ人」に贈るのがティアラで,恭しくクッションに載せて小姓が運んでくる・・・というのは初めて見ましたが,とてもよい演出だなー,と思いました。単なるお嫁さんではなくて,お妃になるわけですもんね。(もちろん,この幕の最後には,王子がその手でティアラをオディールの頭に乗せて・・・という段取りになるわけです)
なお,花嫁候補の衣裳はお揃いで,「お姫様たちにしちゃ胸の辺りを露出しすぎ?」なデザイン。あまり感心できませんでした。
3幕と4幕の間には休憩があったような気がします。(←記憶不確か)
幕が開くと,ドライアイスの中に24羽の白鳥たちがおりました。この版独自のものだと思うのですが,きれいで変化のあるフォーメーション。
話の進行としては,途中で「愛の力にロットバルトが圧倒される」場面もありましたが,普通の後追い心中パターン。ただ,二人とも走ってセットの奥に引っ込むだけなので(ダイビングをしないので),少々顛末がわかりにくい感じでした。
後半から主演二人が消えたあとにかけて,白鳥たちが舞台上に斜めに4×6の集団となる動きが多かったような。特に,身投げした直後に,四角くまとまったまま波打つように動くのが,湖の波紋のようでもあり,白鳥たちの嘆きのようでもあり,印象的でした。
最後は,白鳥たちが力強く踊るとともに,ロートバルトは弱っていき,岩山の上で倒れて動かなくなりました。主役2人の運命と違って,こちらは顛末がたいへんわかりやすく,よかったと思います。
最後は,白鳥たちが身を伏せる奥に,死後結ばれた二人が現れて(たしか,乗り物の類はなかった),幕となりました。
ダンサーについてですが・・・藤井さんを見たのは,たいへんたいへん久しぶり。(もしかすると,90年に『コッペリア』全幕を見て以来かも) 当時と全然変わらぬ「夢見る愛らしさ」的な美貌で,その若々しさと可憐さには驚嘆&感嘆。
万年少女,いえ,万年美少女ですね〜。
なのですが,踊りのほうは「うううむ・・・」でした。
彼女は身体のラインが美しくないのですね。プロポーションがどうこう以前に,腕の伸ばし方とか足の上げ方とか・・・にバレエ的な美しさが欠けている印象。特にアラベスクについては,(失礼ですみませんが)プロでここまで脚が上がらない人も珍しいなぁ・・・とある意味感心しながら眺めてしまいました。
そして,悪いことに,この作品,主役の踊りというのはアラベスクが多いのですね。グラン・アダージオも黒鳥のパ・ド・ドゥも・・・。(私としては「新発見」という気分だったのですが,落ち着いて考えて見ると,どんな作品でも主演バレリーナのアラベスクは多いのかも?)
アントニエヴィッチさんは,可もなく不可もなく。
普通のプリンシパル,という感じ。職責は十分果たしていたと思いますが,表現面でも踊りの面でも,書きとどめておきたいほどの魅力は見出せませんでした。
コール・ド・バレエは,それなりに。特によかったとは思いませんが,普通程度に揃っていたと思います。
ソリストたちも,それなりに。「おおっ,この方すてきっ♪」はなかったですが,全体に,お嬢さん的品のよさが感じられ,悪くもなかったです。
芸術監督の関直人さんの舞踊生活60年記念公演ということで,ロビーには後援会が贈った盛大な生花のオブジェ(テーマ:白鳥の湖)が。
カーテンコールでは,ダンサーたちが二つに分かれて,奥から関さんが登場。花束が贈られるなど,和やかでよい雰囲気の公演だったと思います。
(06.9.23)
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