白鳥の湖(牧阿佐美バレヱ団)

サイト内検索 06年一覧表に戻る 表紙に戻る

 

06年6月10日(土) 

ゆうぽうと簡易保険ホール

 

作曲: P・T・チャイコフスキー

演出・振付: テリー・ウエストモーランド(プティパ/イワノフ版による)

美術: ボブ・リングウッド

指揮: 堤俊作   管弦楽: ロイヤル・メトロポリタン管弦楽団

オデット/オディール: 青山季可

王子ジークフリート: 逸見智彦

王妃: 坂西麻美     フォン・ロットバルト: 森田健太郎

【1幕】

王子の友人たち: 
小橋美矢子, 笠井裕子, 加藤裕美, 坂梨仁美, 坂本春香, 佐々木可奈子
塚田渉, 徳永太一, 今勇也, 邵智羽, 中島哲也, 菊地研

パ・ド・トロワ: 橋本尚美, 吉岡まな美, ムラット・ベルキン

村娘: 森脇友有里     王子の家庭教師: 秋山聡

村人たち:
館野若葉, 奥田さやか, 竹下陽子, 日高有梨, 海寳暁子, 貝原愛, 大野智子
武藤顕三, 笠原崇広, 依田俊之, 坂爪智来, 石田亮一, 細野生, 高鴿, 上原大也

【2幕・4幕】

白鳥たち 大4羽: 橋本尚美, 吉岡まな美, 笠井裕子, 坂梨仁美

白鳥たち 小4羽: 奥田さやか, 小橋美矢子, 竹下陽子, 坂本春香

白鳥たち:
櫛方麻未, 館野若葉, 柄本奈美, 加藤裕美, 貝原愛, 関友紀子, 山中真紀子, 藤原まどか, 大野智子, 金森由里子, 日高有梨, 海寳暁子, 杉本直央, 鈴木理奈, 今井真彌子, 佐々木可奈子, 柳川真衣, 又吉加奈子

【3幕】

パ・ド・カトル: 佐藤朱実, 橘るみ, 今勇也, 中島哲也

ルースカヤ: 田中祐子

チャルダッシュ: 柄本奈美, ムラット・ベルキン

スパニッシュ: 橋本尚美, 吉岡まな美, 塚田渉, 菊地研

ナポリターナ: 小松見帆, 細野生

マズルカ: 山中真紀子, 金森由里子, 杉本直央, 加藤裕美, 徳永太一, 石田亮一, 邵智羽, 高鴿 

各国の姫君: 奥田さやか, 小橋美矢子, 竹下陽子, 坂梨仁美, 坂本春香, 笠井裕子

 

青山季可さんの初主演の舞台。(『白鳥』が初めてなのはもちろん,主演自体が初めて)
のんびり〜,まったり〜,と楽しんできました。

そんなに優れた舞台だったとは思いませんが,芸術監督がプログラムで「新人公演」と宣言しているくらいですから。
そういうものを見るのも悪くはないですもんね。

 

青山さんは,チャーミング。

初主演に向けて調整したのか,練習量が多かったからなのか,よりほっそりしたプロポーションになったようでしたし,技術的にも体力的にも,この作品を踊るのに不足はないように見えました。

ただ,なんというか・・・個性とか資質がオデットに向いていないのではないか? という気がしました。ちっとも白鳥らしく見えなかったのですよね。
そもそも流麗な感じの踊りではないと思いますが,牧のバレリーナは皆さん「かっちり踊る」系だから,それが原因ではないような気がします。「リリカル」とか「哀れ」とか「清らか」とか「王子に頼っている」とか「毅然」とか・・・なんでもいいのですが,オデットらしい「なにか」が欲しかったです。

オディールはとてもよかったです。輝いていました。
ちょっとコケティッシュ入った「溌剌ダイナマイト娘」という感じ。視線の使い方がうまかったし,華もあるし,フェッテもダブルを入れてスピードもあって,テクニックが強いのですね〜。
一番印象的だったのは,ロットバルトが真実を王子に示したあとのシーン。
「天真爛漫」とでも言いたいような笑顔で,それはもう嬉しそう。心から悪事をエンジョイしている「末恐ろしいお嬢さん」のオディールでありました。

「若いころはオデットよりオディールのほうが」といったような話はよくありますもんね,経験を積んで,白鳥のほうも魅力的に見せられるようになってくださいね〜。

 

逸見さんのジークフリートはさすがでした。
優美さと王子オーラはいつもどおりですし,周りがどんどん若返っている結果,キャリアからくる存在感が相対的に増して,明らかに舞台上で一番偉い人に見えるようになったみたい。

彼は,感情の起伏をあまり出さないダンサーですよね。(「出せない」というべきか?)
1幕での様子は穏やかそうで,恋への憧れや成人への不安があるようには見えないし,湖畔でもオデットに恋をしているのかどうかわからない。舞踏会ではさすがに盛り上がりますが,それは「彼にしては」であって,さほど熱くなっているようには見えない。

だからこそ,「王子」なのだと思います。
下賎の者のようにむき出しの感情を見せないからこそ王子。紗幕を隔てた向こう側にいるように見えて,なにを考えているのかわからないからこそ王子。

そして,そういう王子だからこそ,最後に「死ぬしかないのです」というオデットのマイムを見たときの絶望と「それなら私も後を追おう」という決意の潔さが際立ちます。
4幕のこのシーンは,それはもう感動的。すばらしかったです〜。

踊りはいつもどおり。
サポートは破綻ないがリフトは弱い。ソロはきれいで上手で,そして必ず「詰めが甘い」が出る。(特に今回は,「ミスした」のが顔に出ちゃったのが痛かった)

 

新人公演だったのは主役だけではなく,あちこちで「あら,この役で見るの初めて」の方々が登場しておりました。

中で一番印象的だったのは,長身,美しい,威厳ある,と三拍子揃っていた坂西さんの王妃でしょうか。
なにしろ,登場して舞台奥(舞台面より数段高い)で両手首を交差させるポーズでしばし立っているときに,客席から盛大に拍手がわいてしまったくらいで。(私も思わず参加した)
演技その他に関しては,逸見王子のお母さんというよりお姉さんに見える,という問題点があったので,見事とまでは言いませんが,立居振舞全般がすてきでしたわ〜。
おなじみの大きな白鳥やスペインで見られないのはもったいないような気もしましたが,王妃はとても大切な役ですから。草刈さんがこういう役を踊らない以上,彼女が最適任だと思いました。

舞踏会でパ・ド・カトルを踊った中島さんもよかったです。
「きれい」には至っていないと思いましたが,あれくらい脚が上がって,身体が動いて,楽しそうに踊ってくれればオッケーです。主役を目指してくださいね〜。

それから,チャルダッシュ。普段はそんなに目立たない踊りですが今回はとても印象的。
柄本さんは目のくりくりした明るい雰囲気の方。でも視線に色気と凄みがあって,いかにもキャラクター・ダンスだな〜,という感じ。
1幕のパ・ド・トロワでは「???」だったベルキンさんも,芝居っ気があって,かっこよかったです。

あとは,森脇@村娘(愛らしくて上手),ナポリターナ(小松さんはキュート,細野さんは笑顔がいい)と・・・そうでした,小さな4羽は全員初役だったのでは? 普通に問題ないレベルで揃っておりました。

 

もちろんおなじみの方も出演しますし,やっぱり上手です〜。

特に,橋本さんと吉岡さんは,1幕はパ・ド・トロワ,3幕はスパニッシュ,2幕と4幕は大きな白鳥で大活躍。
橋本さんには,特にパ・ド・トロワで「うまいな〜」と感心。吉岡さんは,スパニッシュがすてき。プロポーションも妖艶さも文句なしでした。

それから,パ・ド・カトルの佐藤さんがとてもよかった。愛らしくて,上手で,音楽的。細やかなステップの多いこの踊りは,彼女にぴったりですね〜。(よく知らないけれど,たぶんアシュトン振付なんじゃないのかな?)

そして,スパニッシュでの菊地さんのかっこよさ。
踊り自体も動きが大きくてよいのですが,登場シーンでのちょっとしたアクセントのつけ方とか,踊り終えてポーズのあと,掌を翻してからパートナーに手を差し出すところとか,そういう細部の色気がすばらしいです〜。

忘れてはいけないのが,森田さんのロットバルト。青山さんを魅力的なオディールにするのに,大いに力を発揮しておりました。
耳打ちしたり,遠くから指示したり・・・の芝居が巧みですし,怪しげな存在感はあるし,(少ししかないが)サポートもうまい。少々「もったいない」感はありますが,適材適所ですよね〜。

 

コール・ドには,まあ,こんなもんかなー,と思いました。

王妃の友人たち(ワルツなどを踊る)や村人たち(乾杯の踊りなど)は楽しげな感じが不足していたと思いますが,白鳥たちはそれなりに。1人ひとりが白鳥か? という問題はありますが,普通に揃っていて,集団としては問題ないです。(なにより,足音がパリオペに比べればはるかに静かなので,それだけでポイント高かったりする)
コール・ドから大小4羽に昇格(?)した方も多く,必然的に新しい方が多かったでしょうから,これくらいならよいかなー,と。

が,しかし! 王妃のお付きの皆さんはなんとかしてほしいです。立居振舞いが,まったくもって,宮中の方々になっとりません。困ります。
背が高ければそれで貴族的に見えるわけではないんですよねえ。改善してほしいですー。

一方でよかったのは,各国の姫君(花嫁候補)の皆さん。
王子にまとめて断られたあとの演技とか,黒鳥のパ・ド・ドゥ中のオディールが近くに来たときの反応など,皆さんよい芝居をしてるな〜,と思いました。
オディールを怖がって,お供のほうに身体が逃げるお姫様もいれば,「なによ,この女」みたいにツンとする人もいる。こういうのって大事ですよね〜。

 

見るたびに思うのですが,ウエストモーランド版の3幕はよいですよ〜。
花嫁候補がそれぞれお国ぶりの衣裳で登場して,キャラクターダンスが応援部隊になっているし,コーダのフェッテのあとで音楽を止めないからどんどん場が盛り上がる。最初に挿入されてるパ・ド・カトルで場の豪華さも増すし,大好きな演出です。

今回は,創立50周年記念公演ということで,そもそものウエストモーランド版にはないルースカヤも踊られました。
そもそもは大原永子さんのために振り付けられたのだそうで,記念の年にプリンシパルが踊るのが慣例だとか。(前回上演されたのは,40周年のときだそうです)

この踊り,ロシアのダンサーがガラなどで踊るものとは振付が違っておりました。(もちろんテイストは似ていましたが)
特徴としては,客席に背を向けて踊る場面がけっこうあることでしょうか。プリマが踊るからこそ(背中でも語れるからこそ),そういう振付をあえて入れているのかもしれません。

演出としてちょっと疑問だったのですが・・・
花嫁候補の中には,衣裳からロシアのお姫様だと思われる人がいます。それなのに,「ルースカヤ」は,そのお姫様と全く関係ない風に登場して,去っていく。
バレエ団を代表するプリマが踊る以上,ほかのキャラクテールみたいにお姫様の後ろに控えているわけにもいかないとは思いますが,もったいないなー,少しはコンタクトがあったほうが効果的なんじゃないのかなー,という気がしました。

それはそれとして,50周年の今回これを踊るのは,もちろん,田中さん。
本調子ではないように見えましたが,さすがの貫禄で情感たっぷり。すてきでした。

 

さて,60周年のときは,どなたがルースカヤを踊ることになるのでしょうか? 主役はどなたになるのでしょうか? 小嶋直也さんはそのときもこのカンパニーでバレエマスターをしているのでしょうか? そして私は,その公演を見るのでしょうか? 

(06.6.20)

 

【広告】 『白鳥の湖』CD

Tchaikovsky: Swan Lake

Pyotr Il'yich Tchaikovsky Antal Dorati Minnesota Orchestra

B00000AFRQ

Swan Lake

Jules Eskin Pyotr Il'yich Tchaikovsky Seiji Ozawa

B000001GYA

 

サイト内検索 上に戻る 06年一覧表に戻る 表紙に戻る