パキータ(パリ・オペラ座バレエ)

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06年4月29日(土・祝)ソワレ・30日(日)

東京文化会館

 

台本: ピエール・フーシェ, ジョセフ・マジリエ

音楽: エドゥアール・マリ・エルネスト・デルデヴェズ, ルートヴィヒ・ミンクス     編曲: デヴィッド・コールマン

復元・振付: ピエール・ラコット(1846年ジョセフ・マジリエ版,1881年版マリウス・プティパ版に基づく)

装置・衣裳: ルイザ・スピナテッリ     照明: フィリップ・アルバリック

指揮: ポール・コネリー   演奏: 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

   4月29日ソワレ  4月30日
パキータ クレールマリ・オスタ オレリー・デュポン
リュシアン・デルヴィー バンジャマン・ペッシュ ジェレミー・ベランガール
イニゴ ステファン・ファヴォラン カール・パケット
将軍,デルヴィイー伯爵 リシャール・ウィルケ
伯爵夫人 ミュリエル・アレ   
ドン・ロペス・デ・メンドーサ ローラン・ノヴィ
ドンナ・セラフィナ ナタリー・リケ イザベル・シアラヴォラ
パ・ド・トロワ ミリアム・ウルド=ブラーム  ファニー・フィアット
マロリー・ゴディオン  
メラニー・ユレル  ノルウェン・ダニエル
エマニュエル・ティボー  
2人の将校 ブリュノ・ブシェ  クリストフ・デュケーヌ 
グラン・パ ファニー・フィアット  ローラ・エッケ
マチルド・フルステー  ミュリエル・ズスペルギー
オーレリア・ベレ  ローレンス・ラフォン 

 

初見なので,まずあらすじを記録

【1幕場】
フランス占領下のスペイン。占領軍の将軍一家が面従腹背の知事ドン・ロペス一家とともに登場。一方で,ジプシーたちも登場。
ジプシーの若いリーダーであるイニゴは,兄妹として育ったパキータに夢中だが,パキータにその気はない。将軍の息子で将校であるリュシアンはパキータに一目ぼれし,両親や婚約者であるドン・ロペスの娘の目の前で彼女に言い寄る。身分を気にして断るが,内心は嬉しいパキータ。
ドン・ロペスは,イニゴにリュシアン殺害をもちかけ,リュシアンをイニゴとパキータの家におびきよせる。

場】
パキータはドン・ロペスとイニゴの悪巧みを立ち聞きし,リュシアンに知らせようとするが,騙されたリュシアンがいそいそと現われる。
イニゴは眠り薬入りワインでリュシアンを眠らせて仲間と殺す計画だったが,パキータは隙をみてグラスをすりかえ,逆にイニゴを眠らせて2人は逃げ出す。

【2幕】
逃げ出した2人は将軍主催の舞踏会の場に現れ,リュシアンはパキータが命の恩人であることを告げる。パキータは陰謀の主犯がドン・ロペスであると告発し,その場にいた彼は捕らえられる。
リュシアンはパキータに求婚し,パキータは身分違いを案じて躊躇する。すったもんだの中,彼女は壁に飾られた肖像画が自分が拾われたときに身に着けていたロケットの中の肖像画と同じであることを知り,驚く。肖像画はリュシアンの伯父を描いたものであり,二人は従兄妹どうしだったのだ!
身分の問題は解決し,幸福な二人はグラン・パを踊る。

 

とっても楽しかったです〜。
主役のバレリーナがたくさん踊って,ほかのダンサーの踊りもたくさんあって,コミカルなマイムのシーンもあって,「おおっ」な衣装の早替わりなんかもあって,若手男性陣による「目の保養」の踊りもあって,最後は豪華なおなじみのグラン・パがみられて,理屈抜きに楽しめる娯楽作品。堪能しました。特に30日はデュポンの名演で,「とってもとってもとってもとっても楽しかった」という感じ。

まあ,理屈のほうの話をすれば・・・ストーリーがアホみたいとか,幼馴染のお兄ちゃんが間抜けなヒラリオンみたいな役回りで気の毒とか,肝心の王子様(ではなく将校)がイマイチ頼もしくないとか,いくら暗殺未遂の首謀者とはいえ,被占領側の名望家が逮捕されて「めでたしめでたし」というのは無神経すぎる展開だとか,いろいろ言えるわけですが・・・まあ,いいですよね,楽しければ。
ただ,マイムのシーンをはじめとして「あらすじ読んでないと話が見えないのでは?」があちこちにあるのは気になりました。(読んでおけばいいだけではあるし,どのバレエ作品にもそういう点は多いとは思うけれど,ちょっと多すぎるような?)

行きの新幹線の中でプログラムを熟読して知ったのですが,この作品は復元版というよりは,ラコット振付作品と考えたほうがいいようです。
振付は,「細かい足捌きが多い」系で,でも,ヌレエフとは全然違う。うまく説明できませんが,ええと・・・(上半身は全然違うけれど)ブルノンヴィルみたいな「軽やかな足捌き」系?

パ・ド・トロワは,グラン・パの中でなく1幕で踊られました。
マズルカは,パリではバレエ学校の低学年の生徒たちが踊るのだそうですが,引越し公演だからでしょうね,軍服姿の男性ダンサーたちの行進テイストの踊りになっていました。
そして,グラン・パのヴァリアシオンは「次々ソリストが登場して・・・」ではなく,主役2人だけが踊ります。(普通のグラン・パ・ド・ドゥ形式に近い)
現在上演されている『パキータ』のソリストたちのヴァリアシオンはあとから勝手に加えられたものだそうですから,もっともと言えばもっともですが・・・せっかくなんだから,プルミエやスジェの有望株のバレリーナさんたちに次々踊ってもらったらもっと楽しかったのにぃぃ,と思ってしまいましたよ。

音楽は,既視感ならぬ既聞感のあるもので・・・メロディーラインは『バヤデルカ』に似ていたような。どちらもミンクスですものね。
美術は「要は書き割り中心」で,特筆したいようなことはなかったですが,紗幕をうまく活用していて,普通によかったです。
衣装はよかった。特に,グラン・パのコール・ドのチュチュがすてき♪ 「ああ,グラン・パだわ〜。豪華だわ〜」と意味なく感激してしまう美しさ。

 

29日のパキータはオスタ。
彼女は不思議な個性の持ち主ですね。小柄だしお顔立ちも「かわいい」系なのに,かなり色気がある。お姫様でないのはもちろんで,妖艶とも違うけれど,コケティッシュな「魔性の女」タイプなんだと思います。
野に咲いていた小さく可憐な花を摘んで口に咥えてみたら実は毒草で,ちょっと身体が痺れました・・・みたいな。命取りにはならないのよ。病院行って点滴してもらえば一晩で退院できる。その程度。
でも,危ないから近寄らないほうがいいのは間違いないわけです。
・・・なので,ジプシー娘は似合っていましたし,男2人が取り合うのも納得できました。

踊りもよかったです。
特に1幕1場でのソロがよかった。脚線美ではないような気はしますが,細かいステップが軽やかで,音楽的。(脚先の細やかな動きはデュポンより上なのでは?)
2幕でリュシアンとの結婚が決まったあとのパ・ド・ドゥと最後のグラン・パ・ド・ドゥは,プロポーションと華が不足しているとは思いましたし,「実は高貴な生まれであった」には見えませんでしたが,上手だし,可憐でもありました。グラン・フェッテはシングルでしたが,ほとんど同じ位置で回っていましたし。

演技も感情表現も上手で,健気で前向きなシプシー娘の雰囲気。
暢気な作品ではあるけれど,ほろっとできて最後は「よかったね〜」と思えるシンデレラ・ストーリーを見せてくれました。

 

30日はデュポン主演。
こちらは全然シンデレラ・ストーリーではなくて,完全にドタバタコメディになっておりました。大笑いして楽しんで,最後は豪華な踊りを楽しむ。そういう上演。

デュポンは,クールビューティーというか,プライド高いご令嬢風ですよね。そういう個性を十二分に生かした(逆手にとった?)コメディエンヌぶりで,最高に面白い。

最初のほうで,幼馴染のイニゴが柄にもなく跪いて「オレ,マジでおまえを好きなんだよ」と告白するシーンがあります。(舞台上には2人だけ)
オスタ演じるパキータは,お兄さんとして慕っていた人にそんなこと言われて困り果ててしまう。だからこそ,拾われたときに身に着けていたというロケットを眺めては,今の境遇を悲しんでいる。
一方デュポンのパキータは,はなっからイニゴのことなんか眼中にない様子。「なにバカなこと言ってんのよ」で片付けるので,まずここで笑える。で,相手が怒っちゃうと,しなだれかかって懐柔。イニゴはふにゃ〜,となっちゃうから,これも笑える。ロケットを眺めるのも「あたし,ほんとはこんなところにいる身分じゃないのよね〜」と自分に酔っているみたいに見えるから,さらに笑える。

極めつけは,2幕の初めのほう,自分が実はフランス貴族の娘だったと知って気絶するところ。これがもう,わざとらしいのなんのって。(大笑い〜)

1幕2場のマイムシーンでのコミカルな芝居もとても上手でした。
「また会えて嬉しいな〜」なんてのほほんとしているリュシアンにイニゴの悪巧みを伝えたり,眠ったふりをするよう指示したり大活躍。弟のように素直に従うベランガールとは「ボケとツッコミ」の名コンビだわね〜。
このシーン,リュシアンの前には眠り薬入りのお酒,イニゴの前には普通のお酒が用意されていて,パキータはお皿を落として割ったふりをしてイニゴの注意を引いた隙に杯を入れ替えるのですが(リュシアンは,このときも,のほほんとすわっているのだ),このお皿の割り方(=床への投げつけ方)がもんのすごく思い切りがいい。「おお,シプシー娘だわっ。こうこなくっちゃ♪」と感動してしまいましたよ。

踊りも絶好調だったのでは? こんなにすばらしいバレリーナだとは知らなかった・・・と思ってしまうくらいすばらしかったです。
テクニックが安定して,なにをやっても余裕を感じさせる踊り。愛のパ・ド・ドゥでの幸福感の表出と美しさ。グラン・パでの華やかさと貫禄。非の打ち所のないエトワールとして舞台上に君臨し,輝きわたっていました。
(余計な話:昨年のルグリのガラのときも思ったのですが,彼女はルグリ以外のパートナーと踊るときのほうが輝くのでは?)

 

リュシアンは,オスタの日がペッシュで,デュポンの日は(お父さんが危篤で急遽帰国したルグリの代役で)ベランガールが登場しました。

ペッシュは,ソロもサポートも演技もきちんと上手で安定していましたし,手の仕種などがたいへんエレガントでしたが・・・うーん・・・私は魅力を感じませんでした。どこも悪いところはないのに,なぜなのかなー? たしかにプロポーションと華は不足しているけれど,それは見る前からわかっていたことだしなー? と自分でも不可解だったのですが・・・翌日ベランガールを見て,一応納得できました。
彼は,翳のある大人の二枚目タイプなのですよね,たぶん。それが悪かった。一種のミスキャストであったに違いない。

ベランガールは,とってもチャーミングでした。
くりくり巻毛だし,目もくりくりしてるし,「ほっそり」タイプではないのが愛敬につながっていて,ぬいぐるみみたいにカワイイ。ハロッズだったでしょうか,バッキンガム宮殿の衛兵さんの制服を着たテディベアがありますよね? ああいう感じのかわいさ。(って失礼?)
リュシアンは,ぽよよ〜んとした役だから(なにしろ,政略結婚の婚約者とそのお父さんと自分の両親がうち揃っている目の前で,パキータに言い寄るような「アタマ大丈夫か?」の人だからさー),こういうタイプのダンサーが嵌るのですね〜。

踊りは,柔らかいテクニックだし,甘い雰囲気もあって,予想よりよかったです。「きれいだわ〜」ではなかったですが,これくらい踊れれば主役として全然問題ないよね,という感じ。
サポートも,ショルダーリフトなんかしっかりしているし,それでいて自分のポーズもきちんと決めているし,よかったと思います。ウエストの辺りを持って上げるときに高さが不足している気はしたけれど・・・彼は長身ではないし,デュポンも小柄ではないし,その点はしかたないのでは?

 

イニゴは,ファヴォランとパケット。
フォブランは, 『白鳥』のヴォルフガングがすてきだったので期待したのですが,そうですねー,コミカルな役には向いていない? という気がしました。でも,踊りは好み。スピード感があるのよね〜。
パケットはとてもよかったです。すばらしくハンサムなのに全然二枚目に見えないで,単純で強引なだけの男に見えるのがスゴイ。コミカルな芝居も濃く,楽しませてくれました。

パ・ド・トロワは両日ともよかったです。
特に男性は,まずゴディオンを見てその跳躍の高さに驚き,翌日はティボーの柔らかさに驚く・・・という感じ。私の好みはゴディオンみたい。動きがキレて,身体も姿勢もきれいで,とても目に快い踊りでした。

 

コール・ド・バレエは,概ね良好・・・かな?
1幕の最初のほうで「ありゃ,今日も足音が盛大」と思いましたが,その後はほとんど気になりませんでした。
男性陣に関して「あのー,協調性というものも少しは・・・」と言いたくはなったけれど,自分の踊りを見せて出世するのがこのバレエ団のコール・ドのあり方なわけですから,しかたないのでありましょう。(あ,でも,1幕で「振付間違えて踊ってる?」人がいたのは,困ったもんだなー,でした)

グラン・パは,キーロフ〜マールイ系のほうが断然きれいだよな〜,というのが素直な感想ですが,・・・この辺は見る前からわかっていることだし,世界中のバレエ団がみんなロシアバレエ風では,バレエを見る楽しみは半減,いや1/10減しちゃいますよね。みんな同じ学校の出身だから踊り方が似ているのでしょうね,いっせいに動く様子は壮観だし,豪華でもありました。

 

というわけで,堪能し,満足したのではありますが,『白鳥の湖』に続いてこの作品も「S席2万5千円は高いだろうがっ。2万5千円はっっ」という気分は残りました。(毎回S席で見たわけでないが,比例して下のランクの価格も高い) 特に,直後に見たボリショイ・バレエの価格(S席1万9千円)及び内容と比較すると,相当な割高感があります。

でも,私が見た4回とも(ボリショイと違って)満席かそれに近い状態に見えましたし,拍手もカーテンコールも盛大で,皆さん大満足の雰囲気だったから,次に来日するときもこれくらいは高いんでしょうねえ。
やれやれ。物入りなことですなー。

(2006.12.31)

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