ジゼル(東京バレエ団)

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06年3月19日(日)

神奈川県民ホール

 

振付: レオニード・ラブロフスキー(ボリショイ劇場版J.コラーリ,J.ペロー,M.プティパの原振付による)
改訂振付(パ・ド・ユイット): ウラジーミル・ワシリーエフ 

音楽:アドルフ・アダン

美術・衣装:ニコラ・ベノワ  衣装:宮本宣子  照明:高沢立生

指揮:福田一雄  演奏:東京ニュー・シティ管弦楽団

ジゼル: 斎藤友佳理   アルブレヒト: セルゲイ・フィーリン

ヒラリオン: 木村和夫   ミルタ:  大島由賀子

バチルド姫: 井脇幸江   公爵: 後藤晴雄   ウィルフリード: 森田雅順   ジゼルの母: 橘静子

ペザントの踊り(パ・ド・ユイット): 高村順子−中島周 門西雅美−大嶋正樹 小出領子−古川和則 長谷川智佳子−平野玲

ジゼルの友人(パ・ド・シス): 大島由賀子 西村真由美 乾友子 高木綾 奈良春夏 田中結子

ドゥ・ウィリ: 西村真由美 乾友子

 

斎藤さんのジゼルは初めて見たのですが,1幕はたいへんエキセントリックな趣。

最初から感情の振幅がたいへん大きく(花占いでの落ち込み方とその後のはしゃぎ方など),心臓病の表現もしっかり見せながら「それでも踊りたいの」も明確に見せる。
バチルダの衣裳に触れる演技も,「これじゃお姫様も驚くわな。というより,こりゃ無礼千万だよなぁ」と呆れるくらい,身体のそばまで生地をたぐっていっておりましたし,首飾りを貰っての喜び方,感謝の気持ちの表し方もたいへん派手。
アルブレヒトに対しても,かなり積極的で,抱きつくなどしておりました。

たいへん失礼ながら容姿的・年齢的な問題もあり,「愛らしい」等とは思えませんでしたが,見ようによっては「身体は大人でも心はこどものように純粋」なジゼルだし,ときには「既に半分くらい,どっかにいっちゃってる」ようにも見えました。
その結果,「こういう人が失恋に至った場合,精神に異常を来たす,自殺するなどの結果になる恐れは非常に大きいのではないか」と思えて,なるほどー,こういうのもあるかー,と大いに感心。

 

フィーリンさんのアルブレヒトも初めて見ましたが,こちらは「お育ちのよい若様が領内の娘を愛しく思いました」のアルブレヒト。

立居振舞がエレガントだし,少し険のあるお顔立ちも「人の上に立つべき」育ちから来る尊大さに見える。ジゼルに「いっしょに踊りましょ」と誘われて抵抗するところなども,いかにも不本意そうな表情に見えるので,「踊るなんて下賎なことは・・・」という反応なのかな? と思える。
踊りはとてもきれい。(跳躍の着地音の大きさは気に入りませんが,たぶん私は,この点にうるさすぎるのでしょう)

心臓発作のときの心配ぶりなどから見て,別にジゼルを弄んでいたわけではなく,心から可愛いと思っていたのでしょうが,しょせん相手は村娘。城に召し出すよりは,こういう形のほうがこの娘にとっても幸せだろうから・・・という(彼にとっては)まことに誠実な理由で,身分を偽って恋人をやっていたように見えました。

したがって,公爵一行が現れれば,ごくスムーズに本来の自分として振る舞うことができる。全然うろたえないし,ジゼルのことなど眼中になく,躊躇せずにバチルダの手に口づけをする。

さすがはボリショイのプリンシパルだなー,こういうのが,王道のアルブレヒトなのだろうなー,と思いました。
アルブレヒトに純愛を持ち込むのは,たぶん,本来の『ジゼル』の物語とは違うのでしょうし,かといって,完全にプレイボーイでは現代の観客は納得しない。(少なくとも,私は納得しない)
ジゼルは「許せない男」を許し,それによってアルブレヒトを更生させる・・・というのが『ジゼル』の物語だとすれば,誠にそれにふさわしい表現のアルブレヒトでありました。

 

ジゼルのほうは,続く場面が「狂乱の場」と呼ばれるという意味からすると,こちらも王道。
バチルダから与えられた首飾りを引きちぎるように外してアルブレヒトの足下に投げつける。花占いを再現していつまでも止まらない。舞台上をフルに使って大暴れする。(←無粋な描写で恐縮ですが・・・でも,そんな感じでした)

私はこの場面で大騒ぎするジゼルが好きではないので,全然引き込まれませんでしたが,熱演であったと思いますし,そこまでの斎藤さんの役作りからして納得がいく表現であったとも思います。

 

フィーリンさんのほうは,ここでも王道のお貴族さま。
ジゼルをなんとか救おうとするけれど,それは「寵愛した娘」に対するもので,自分の罪など理解できない。

「村娘に手を出す」ということ自体が悪いことだという認識がないから,ヒラリオンに「余計なことをしやがって」と怒りをぶつけるし,「あんたのせいだ」と反論されてもさっぱり理解できないで,「私のせいだと? 逆らうとは面白い」なんてせせら笑って,剣を手にする。
なるほどー,これぞ貴族の若様のあるべき姿かも。

あそこで笑うアルブレヒトは,初めて見たような気がします。普通は,反論されて頭に血が上るとか,自分が悪いとわかっているからヒラリオンに八つ当たりするとか,そういう感じですよね。自分の正当性を全く疑わない(疑えない)アルブレヒトってすっごく新鮮。
傲岸不遜な感じのお顔立ちとあいまって,そりゃもうかっこよかったです〜。(いいもん見せてもらったな〜♪)

ジゼルを愛しく思う気持ちは真実ですから,1幕の最後は,何度も戻ろう戻ろうとしながら,無理矢理ウィリフリードに舞台から連れ去られていきました。(最後だけ自分で走って袖に入っていったのが惜しかった)

 

さて,2幕ですが・・・斎藤さんのジゼルは,墓からよみがえった最初の回転の形の不気味さと迫力が見事。「おお,これぞウィリー」でありました。
その後も,ポール・ド・ブラが「既に死んでいる」というか「この世の人でない」というか・・・に見えるので感心しました。

正直言って,その腕の動き自体は私にはきれいに見えないし,跳躍も重かったと思うのですが,さすがは当たり役だ,と思いましたし,その「異界の人」の中に,彼女の個性である「ニッポンのお母さん」的母性が感じられるのも,この幕のジゼルにふさわしい。
私の好みとは違うのですが,「うん,なるほど。感動する方もいるのであろう」と思えるジゼルでありました。

 

フィーリンさんは,さすがでした。

登場シーンの歩き方に情感が足りないとか(よく言えば,ナルシスティックなところがない。それから,タイツが黒だったせいもあったかも?),ジゼルが目の前に来ても目を疑う様子がなく当然のように踊り始めるとか,最初のほうの頭上に上げるリフトが「あれ?」だとか(斎藤さんの責任もあるのかも?),最初のうちは「??? この程度なの???」と不審に思ってしまったのですが,やはり,その程度ではありませんでした。

指先や爪先まで神経の行き届いたきれいな踊りを見せながら,その踊りの中で,ちゃんと消耗していく様子を表現していましたし,サポートもとても上手。

最初に倒れるときは,ピルエットの後に,片手を上に伸ばしてトゥール・ザン・レールをしてから倒れ込みました。これだと,なんかもがいて倒れ込んだように見えるんだなー,ちゃんと苦しんでいるように見えるよなー,と感心しました。
次に倒れこむときは,心臓の辺りを押さえたり,息切れしている様子を見せたりしてから,仰向けに倒れました。たぶん,無防備な姿勢で倒れるくらい消耗している表現なのだと思います。(ちょっと唐突感はあったけれど)
最後は,倒れずに,膝をついて,片手を上に差し上げたまま。・・・「助けてくれ」という執念を表していたようでもあり,「ジゼルを愛している」というポーズのようでもあり。

最後の見せ場については,アントルシャ・シスではなくブリゼで,途中で2回くらい,姿勢を反らせて後ろにも脚を打ち合わせていました。細かい脚捌き系がやはり見事ですね〜。

サポートについては,ウエストを持って左右に運ぶところが,ほんとに「ふんわり〜」と見えて感心しました。(たぶん,斎藤さんのポーズの作り方もうまいのでしょう,ジゼルが全く体重がないように見えました)

最後は,アルブレヒトが片手でマントを引きずりながら,もう一方の手にジゼルが残した一輪の百合を持ち,悄然として歩む姿で幕。
その姿は「母を失った寄る辺のない子」のようで・・・ここに至って愛しい人を失った本当の痛みを知ったのかもしれないなー,自分の罪深さを自覚できたのかもしれないなー,と思いましたし,斎藤さんの母性的な感じのジゼルを受けての表現としてふさわしいかも〜,とも思いました。

 

大島さんのミルタも初めて見たのですが,よかったです〜。
最初は「あれ?緊張してるのかな?」と思いましたが,段々安定してきて,最後にパ・ド・ブレで後ろ向きに上手に去っていくところなど「おお,見事」でしたし,長身でプロポーションもよいから,舞台栄えもします。
お顔立ちがかわいらしすぎるせいか,若いからか(よく知らないのですが,たぶん若いと思う),威厳や怖さなどは「もう少し」という気もしましたが,踊りが伸びやかで素直な感じできれい。
とても気に入りました。(井脇さんのミルタより彼女のほうが好きだわ)

ウィリーたちも,とてもよいと思いました。
前回見たのは,3年前のヴィシニョーワ/マラーホフのときだと思うのですが,あのときより上手になったような気がするし,足音もけっこう静かだったし,なにより,怖いのがよいです〜。

 

ヒラリオンはおなじみの木村さん。
芝居が濃厚すぎて私の好みではないのですが(たいへん失礼だとは思いますが,つい笑いたくなってしまう),細かい演技まで「無骨な純愛」という役作りが一貫していてさすが当たり役ですし,2幕で死に瀕してもがくように踊るところも「プリンシパルを配しただけのことはある」と思えるし,よかったと思います。

ウィルフリードは,いつもどおり森田さんでしたが,いつもどおりよかったです。
今まで見たときは,アルブレヒトはマラーホフさんで,当然ながら,フィーリンさんはマラーホフさんとは演技が違うわけです。それを受け止めながら,やはり忠実な臣下ぶりで,(農民たちに比べれば)身分が高いのがわかる立居振舞でもある。
私の知る限り,彼こそ日本一のウィルフリードです〜。

井脇さんのバチルド姫は,ジゼルとのやりとりの辺りの高慢なお姫様ぶりが秀逸。自分のドレスに憧れているジゼルに呆れかえったり,下賎の娘の反応を面白がってちょっとだけ打ち明け話をしてみたり,首飾りを与えられて感激のきわみのジゼルが自分の手にふれるのをぴしっと拒絶したり・・・。これによって,アルブレヒトの属する世界とジゼルの生きる世界の違いを観客に感じさせていたと思います。(その割りに,アルブレヒトの正体露見後は普通でしたが・・・まあ,ほかにやりようもないかしらん)

1幕のパ・ド・ユイットは,ソリスト全員投入という感じのキャスティングですから,やはり見応えがありましたし,唐突にパ・ド・ドゥが披露されるより「村人みんなでなんだか盛り上がっている」感じがしてよいかも。
中では,大嶋さんの上手さが際立っていました。(というよりは・・・動きが明瞭に見える踊り方だから,私の好みなのかな?)

 

全体としては,感動したというほどではないのですが,見られてよかったです。
斎藤さんのジゼルもフィーリンさんのアルブレヒトも,「また是非見たい」ではなかったですが,「また是非」なダンサーがたくさんいすぎても困りますから,特に不都合はありませんし。

よい舞台だったと思います。

(2006.4.3)

 

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