バレエの美神

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06年2月5日(日)

NHKホール

 

第1部

『ドン・キホーテ』第2幕2場より「夢の場面」

音楽:L.ミンクス     振付:M.プティパ    演出:N.ボヤルチコフ

ドルシネア姫:イリーナ・ペレン     森の女王:オクサーナ・シェスタコワ     レニングラード国立バレエ

セット付き,キューピット付き(シシコワ),コール・ド付き,おまけにキホーテ(A.マラーホフ・・・かなぁ?)まで登場する本格上演。当然そうだろうと思っていたけれど,実際に目にすると,やはり盛り上がります。
4人のドゥリアーダは,コシェレワ,コチュビラ,ヴィジェニナ,カミロワ。3人のドゥリアーダは,ミリツェワ,ロバノワ,フィルソワでした。

ペレンは,キトリを残したドルシネアと言えばいいのかな。額にくるりんとした髪一筋があって,華やかで艶やかな笑顔で美しく踊っていました。シェスタコワは当たり役だけあって,「森の妖精」らしいたおやかさと「女王」らしい優美さを兼ね備えていて見事。
2人がいっしょに踊ると,シェスタコワのほうが「見せ方に一日の長あり」だな〜,と思いました。

 

『ロミオとジュリエット』

音楽:S.プロコフィエフ     振付:X.ワシリーエフ

ナタリア・レドフスカヤ, ゲオルギー・スミレフスキー

うーむ・・・引き込まれませんでした。
たぶん,テープの音がショボイのが悪かったのでしょうねえ。私は音楽に無頓着な観客ですが,さすがに少々キツかったみたい。

振付は,「ふーむ,ワシリーエフ版ってこういうのだったかしらね?」という感じ。(1回しか見たことがない) 特にいいとも思いませんが,悪くもなく。
レドフスカヤはしっとりと大人っぽいシュリエット。スミレフスキーは,脚がきれいだよね〜。

 

『ダジラード』

音楽:M.ラヴェル     振付:A.リグライナー

草刈民代, ミハイル・シヴァコフ

この作品を見るのは2度目ですが,今回も「つまんない」と思いました。前回も草刈民代で見たから(パートナーはイルギス・ガリムーリン)彼女の問題もあるのかもしれませんが,それ以前に,振付がよくないのだと思うなー。なんと申しましょうか・・・「さあ,今日は,床の上でのストレッチを中心にお稽古してみましょう」という感じの振付でした。(これをオーチャドの前方席で見るのは,さぞ苦行だったであろう。NHKホールは段差があって助かった)
音楽がラヴェルであったとはっ,というのがこの日の最大の発見でした。

 

『オーニス』

音楽:M.パシェ     振付:J.ガルニエ

ウィルフリード・ロモリ

アコーディオン演奏によるフランスの民謡に振り付けた作品。

始まったときは,「ありゃ,また床に転がる系かいな」と思いましたが,それは最初と最後だけ。全体として,音楽の素朴な味わいを生かしたよい振付だなー,と思いました。
派手なわけでも見応えがあるわけでもないけれど,決して単調ではない。少しずつ違ういろんなステップが見られて,普通の「身振り」を生かした上半身の動きも面白くて,全体として素朴とか庶民的という形容詞をつけたい作品。
額に汗して働く農民の生活の哀感とか収穫の喜びとか,もっと一般的に,日々の人間の営みの中での楽しさとか悲しみとか小さな幸せとか困りごととか・・・そんなものが感じられ,ほっこりした気分になれる佳作だと思いました。

ダンサーもよかったのですよね。
まず,容姿が完全に「おじさん」なので,だぶだぶのシャツとサスペンダーつきのズボンという衣裳がよく似合っていて,それだけで味わいが出る。
踊りは上手できれい。さらに,振付が完全に身体の中に入っていて,きちんと意味を咀嚼して,自分の味付けを施した上で踊っている,という感じがすごくしました。ロモリがエトワールになったと聞いたときは仰天したわけですが,今日の舞台を見ていたら,それは非常に妥当なことだ,それができるパリ・オペラ座は実に立派なカンパニーだ,という気がしてきましたよ。
クラシックのパ・ド・ドゥのように好きなわけではないですが,もしロモリが日本でまたこの作品を踊ってくれるなら,私は喜んでまた見ます〜。

 

『レクイエム』

音楽:W.A.モーツァルト/C.ストーン     振付:笠井叡

ファルフ・ルジマトフ

ルジマトフならではの,気高い精神性が感じられる美しい舞でした。
「踊り」ではなく「舞」と書きたくなったのは,跳躍や回転がほとんど(全然?)ない振付だったからなのか,振付者が日本人だからなのか,ダンサーがそういう表現を見せたからなのか・・・?

振付については,前回見たときは「いきなり最後に『瀕死の白鳥』になる」ように見えたのですが,そうではなくて「終始翼を大きく広げるかのような動きが出てくる」だったようです。「翼ある者」を表していたのでしょうか,それとも「飛翔」でしょうか? あるいはそういう寓意はないのでしょうか?
音楽については,前回ほど拒絶反応は出ませんでした。衣裳は,今回は黒。(前回は白かった)

そんなによい作品だとは私には思えないのですが,ルジマトフが笠井叡という振付家に出会って,その人を選んで作ってもらった作品で,今回また見せることにしたのだから,彼にとってはよい作品なのでしょう。
今の彼が踊りたいのだから,それでいいのですよね,うん。
この路線に私がついていけるかどうかにちょっと不安はありますが・・・まあ,たぶん大丈夫でしょう。この日の踊りも,すばらしく美しく感じられたわけですから。

 

第2部

『忘れないで・・・』

音楽:Y.ティエルセン, A.アマー    振付:M=C.ピエトラガラ, J.ドゥルオ    舞台装置:M.ベロブラディク    衣裳:P.ムッル

マリ=クロード・ピエトラガラ, ジュリアン・ドゥルオ

「うん,こういうのってよくあるよねー」という感じのコンテンポラリー作品でした。
男(女)が踊りまくっている後ろで背を向けて立つ女(男)とか,無音状態と現代的音楽が交互に現れるとか,舞台が暗くて上演時間が長いとか,よくわからないけれどやっぱり男女の愛憎を表現しているのかなー?という感じとか(プログラムによると,子供のころからの思い出がテーマだそうですが),なんかどこかで見たような。

決して好きではないですが,こういうガラでもないと私はこういう作品は見ないから,たまに(&1回だけ)見る分には差し支えないです。途中から,「そろそろ終わってくれないかなぁ」と思いながら見ていたのも事実ではありますが。
男性の膝を支点に1回転する動きとか,斜めになった白い戸板(?)の上でスローモーションで踊る女性とか,独自色が感じられるシーンもありました。

ピエトラガラはやはり存在感がありましたが,以前より「カリスマ」は薄れていたかも。(よく言えば,女らしく見えた)
ドュルオは,マッチョ系の上半身がきれいで,上腕部の「画」という刺青もかっこよかったですが,姿勢が悪いように見えました。(大柄なせいか少々猫背?)

 

『幻想舞踏会』より

音楽:F.ショパン     振付:D.ブリャンツェフ

ナタリア・レドフスカヤ, ゲオルギー・スミレフスキー

これもテープ演奏だったでしょうか?
きれいな音楽なのですが,『忘れないで・・・』の直後に聞くと弱々しく感じられ,最初のうちはノれませんでした。(今回のガラの構成のマズさで一番損をしたのはこのペアだったと思うなー)

途中からは,レドフスカヤの軽やかさと大人〜な雰囲気,スミレフスキーの美しい脚(グレーのタイツできれいに見えるってスゴイと思う)を堪能しました。
以前見たことがあって(たしかそのときもレドフスカヤだったような?),抽象バレエだと思い込んでいたのですが,けっこうドラマチックな作品でありました。

 

『スパルタクス』よりアダージョ

音楽:A.ハチャトリアン     振付:Y.グリゴローヴィチ

タチアナ・チェルノブロフキナ, ドミトリー・ザバブーリン

スパルタクスが最後の(そして,敗北に終わる)戦いに向かう直前の愛の場面の上演でしたが,よくなかったと思います。

失礼な言い方になりますが,ザバブーリンは「スパルタクスを踊る器ではない」という感じ。ヒロイックな感じがないし,肝心のリフトで「おおおおっ」と盛り上がらせてくれないのでは,上演する意味ないよねえ。(いや,あのリフトがおっそろしく難しいのは知っています。でも,ガラでわざわざ踊るからには,ちゃんと見せてほしい)

チェルノブロフキナは堂々たる美しさでしたが,だからこそ「違うなー」と。
フリーギア役には,「夫だけを頼りに生きる」的な嫋嫋たる情感が必要なのではないでしょうか? むしろエギナ向きのバレリーナなのでは?

 

第3部

『眠りの森の美女』よりローズ・アダージョ

音楽:P.チャイコフスキー     振付:M.プティパ     演出:N.ボヤルチコフ

オクサーナ・クチュルク

クチュルクは調子が悪かったのでしょうか? それとも,ボルドーに行って指導者が変わったせい? あるいは,フランス風(ヌレエフ風?)な脚の使い方を私が苦手だからか? 脚の動きが雑に見えて,かなりショックでした。
以前から「命名式に元気の精が2人来た」系オーロラだとは思っていたけれど・・・ううむ・・・久しぶりに見られて嬉しいわ〜,とは全然思えない踊りでした。いつもどおり美人でキュートだとは思ったし,プロムナードで余裕の表情なのはさすがだと思いましたが。

4人の王子は,シヴァコフ,クリギンと,あとはモロゾフとイリインだったらしいです。
これも国王夫妻やコール・ドに加え,立ち役の女官までいる本格上演。

 

『眠りの森の美女』よりグラン・パ・ド・ドゥ

音楽:P.チャイコフスキー     振付:M.プティパ

イリーナ・ペレン, アンドリアン・ファジェーエフ

ペレンは華やかで伸びやかな踊り。きれいでした。
終始歯を見せた笑顔なので,「少々違うのでは?」とは思いましたが,笑顔がないと文句を言い,笑顔になると文句を言い・・・というのではあんまりな鑑賞態度のような気が自分でもしましたし,このキラキラは実に得難い,とも思いました。
ファジェーエフは,白い衣裳がよくお似合い。お顔もプロポーションも美しく,踊りも柔らかくてたいへん上手でした。デジレがマネージュ中に片手で見得を切るのは妙だとは思いましたが・・・ルジマトフのファンには文句を言う資格はないですね。

クラシック・バレエを見る,という意味では,この日一番の上演だったと思います。

 

『アヴェ・マイヤ』

音楽:J.S.バッハ, G.グノー     振付:M.ベジャール

マイヤ・プリセツカヤ

黒いパンツ系衣裳で,裏表が紅白になった扇を両手に持っての緩やかな踊り。脚の動きは日舞系というかお能系というか。(知識がないのでよくわかりませんー)

女王プリセツカヤもついに枯淡の境地に入ったのだなー,と感じ入りました。
数年前の『牧神の午後』のニンフでは現役バリバリオーラが出ていたから,こういうふうに軽い感じで「ひと差し舞ってみました」を見せてくれるとは予想もしていませんでした。
(でも,カーテンコールに応えて2回踊るところや,引っ込む直前に扇をさっと差し上げてポーズを見せるところなんかを見ると,やっぱりまだまだ枯れていないかも〜)

僭越ながらひとつ言わせていただけば,扇の扱いはより上達の余地あり,かも。(左手用の扇を準備できなかったからではないか,との説あり) せっかくですから,日本で日舞の専門家にアドバイスを貰うなり,特別の扇を誂えるなりしていただくとよろしいか,と。
是非これからもお元気で,よりスムーズな扇さばきで,またこの作品を見せていただきたいものです。

 

『シルヴィア』より

音楽:L.ドリーブ     振付:J.ノイマイヤー

デルフィーヌ・ムッサン, ウィルフリード・ロモリ

女神ディアナと眠る美青年エンディミオンのデュエット。たしか1幕で踊られるのではなかったかな?

ジロ/マルティネスを映像で見たことがあるわけですが,キャストが変わると雰囲気が全然変わるなんだなー,と興味深く見ました。
産休明けのムッサンは,プロポーションが戻っていないのかしらん,上下分かれた黒の衣裳で見るのは少々キツい感じでしたし,ロモリはもっと辛い。(素肌にサロペットですからねえ) その結果,なんと申しましょうか・・・中年男女の純愛不倫,夢の中だけで結ばれる切ない恋に見えました。
本来の設定とは違うわけですが,これはこれで雰囲気があって悪くなかったですし,ノイマイヤー作品だと思うと有り難くも感じられました。

 

『ドン・キホーテ』よりグラン・パ・ド・ドゥ

音楽:L.ミンクス     振付:M.プティパ     演出:N.ボヤルチコフ

ファルフ・ルジマトフ, オクサーナ・シェスタコワ, レニングラード国立バレエ

ルジマトフの踊るこのパ・ド・ドゥには独特の趣があります。「快活に若々しくはじける」のがこの踊りの一般的なあり方だと思いますが,彼が踊ると「陰翳ある炎が燃え上がる」になるのですよね。
全幕はまたちょっと違いますが,バレエコンサートで見せるパ・ド・ドゥは,私が初めて見た二十代後半のころからそういう雰囲気が常で,四十代に入った今でもそれは変わらない。
それはこの人以外のどんなダンサーにも出せないものだと思いますし,私がずっと愛してきたものですから,また見られて嬉しかったです。

同時に,切なくもありました
ヴァリアシオンとコーダは「いっぱいいっぱい」に見えました。超絶技巧でないのは全然かまわない,というか若いころからそういうタイプではないのですが・・・見ていてあちこちにひっかかりを感じてしまって素直にうっとりできないのは辛い。このパ・ド・ドゥに関しては,そろそろ最後の時が近づいているのかもしれませんねえ。

雰囲気的には,これも不倫カップルの話でしょうかね? 『シルヴィア』と違って純愛ではなく,恋の駆け引きというか・・・いや,ちょっと違う。互いに煽って煽られて,挑みかかって挑まれて,どんどんエスカレートしていくドラマ。
ルジマトフによく似合うのはもちろんですし,シェスタコワも意外にはまっておりました。というか・・・以前見た彼女の「かわいいでしょ? 色っぽいでしょ?」なこのパ・ド・ドゥでの表現より,こういう大人っぽい雰囲気で見せてくれるほうが,私はずっと好きです。

 

私はルジマトフを見にいったので普通に満足しましたが,客観的に言って「今ひとつ」感のあるガラでした。
前回の『美神』が実にもってすんばらしかっただけにそういう感じが強かったのかもしれませんが・・・いや,やはり,イレールが直前降板したし,ビッグネームのピエトラガラの作品がさほどでなかったし・・・イマイチな公演だったと思います。特にイレールについては,故障というやむを得ない事情による欠場ではありますが,日本で彼が踊るのを見られる最後の機会かも? だっただけに,残念でありました。

(2007.04.08)

 

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スパルタクス: イレク・ムハメドフ
クラッスス: アレクサンドル・ヴェトロフ
フリーギア: リュドミラ・セメニャカ
エギナ: マリヤ・ブィローワ

Sylvia

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シルヴィア: オレリー・デュポン
アミンタ: マニュエル・ルグリ
アムール/ティルシス/オリオン: ニコラ・ル・リッシュ
ディアナ: マリ・アニエス・ジロ
エンディミオン: ジョゼ・マルティネス

Don Quixote

B0006212TU

キトリ: タチアナ・テレホワ
バジル: ファルフ・ルジマトフ
森の女王: ユリア・マハリナ
街の踊り子: アルティナイ・アスィルムラートワ

 

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