白鳥の湖(新国立劇場バレエ団)

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06年1月9日(月・祝)

新国立劇場 オペラ劇場

 

振付: マリウス・プティパ  レフ・イワーノフ     改訂振付: コンスタンチン・セルゲーエフ     監修: ナターリヤ・ドゥジンスカヤ

作曲: ピョートル・チャイコフスキー

台本: ウラジーミル・ベギチェフ  ワシリー・ゲリツェル  

舞台美術・衣装: ヴェチェスラフ・オークネフ      照明: 梶孝三

指揮: 渡邊一正     管弦楽: 東京交響楽団

オデット/オディール: スヴェトラーナ・ザハロワ     ジークフリート王子: アンドレイ・ウヴァーロフ

ロートバルト: 市川透      王妃: 鳥海清子      道化: 八幡顕光

家庭教師: ゲンナーディ・イリイン      王子の友人(パ・ド・トロワ): 真忠久美子 ,内冨陽子, マイレン・トレウバエフ

ワルツ: 湯川麻美子, 厚木三杏, 西川貴子, 川村真樹, 江本拓, 冨川祐樹, 中村誠, 陳秀介

小さい4羽の白鳥: 遠藤睦子, 西山裕子, 本島美和, 大和雅美

大きい4羽の白鳥: 真忠久美子, 西川貴子, 川村真樹, 厚木三杏

花嫁候補: 真忠久美子, 厚木三杏, 西山裕子, 川村真樹, 本島美和, 寺島まゆみ

スペインの踊り: 湯川麻美子, 楠元郁子, マイレン・トレウバエフ, 中村誠

ナポリの踊り: 高橋有里, グリゴリー・バリノフ      ハンガリーの踊り: 遠藤睦子, 冨川祐樹

マズルカ: 西川貴子, 北原亜希, 杉崎泉, 堀岡美香, 陳秀介, 高木裕次, 冨川直樹, 澤田展生

2羽の白鳥: 厚木三杏, 川村真樹

大きい4羽の白鳥: 湯川麻美子, 真忠久美子, 西川貴子, 楠元郁子

 

ザハロワのオデットは,たいへんたいへん美しかったです。
長くてよくしなる腕と脚と身体が,見事にコントロールされて見事に動くし,やりすぎということが全くない。ポーズも動きも「完璧」という感じですし,この完璧さをもって振付どおり踊れば詩情もそれに伴って現れてくるのだなー,という感じ。
気高さと儚さが両立していて,まさに『白鳥の湖』を踊るために生まれてきたバレリーナですよね〜。

ただ,物語性は薄かった。
最初は王子を恐れていたのがだんだんと心を開いていく・・・という物語は,私には見えませんでした。さすがに最初はおびえていましたが(そういう振付だ,そうとしか見えない),その後は,一人で悲哀を踊っている感じ。
これについては,ウヴァーロフが「私はサポートのためにここにいます」に徹しているから・・・ということもあったのかも。その甲斐あって包容力あるすばらしいパートナーですが,悪く言えば「何も語らないジークフリート」なのですよね。

今回印象的だったのは,ザハロワが可憐に見えたことです。私には,最近の彼女は「女王様」に見えることが多いのですが,この日は「お姫様」に見えました。
これは,明らかに,ウヴァーロフの体格の功績でしょう。背が高いだけでなく上半身に厚みがあるから,優しいサポートとあいまって,ザハロワが「守られている」風に見える。「可憐なザハロワ」というのは新鮮で,たいへん結構でした。

ザハロワは「白鳥に比べると黒鳥は・・・」だと思っていましたが,今回は,オディールもとてもよかったです。見る度にオディールらしい妖艶さを増していて,おお,さらに成長しているな〜,と感心しきり。
華やかで美しくて輝いているけれど,それは明らかに「黒」の華やかさ,美しさ,輝き。オデットとは明らかに違う種類の美しさで,でも美しい。

フェッテ名人ではないのはあい変わらずで,シングルでずっと通しましたが,以前よりスピードが出ていたし,きれいに脚を上げて,揺るぐことなく最後まで同じ速度で回りとおして,これはこれで見事だったと思います。
あと,ピケ・ターンがすごい。美しく甲の出た脚で垂直に床に「突き刺す」動き,まさに「ピケ」という単語の意味を表した動きでした。
そして,そういう動きの見事さが舞台上と客席を支配し,それが「王子を支配している」の表現になっていたのではないかなー。

終幕は・・・正直言って,全然印象がないです。造形美よりはドラマ性の場面だから,あまり彼女向きではないのかもしれませんし,ウヴァーロフがよかったのでついそちらに注目したから,ということもあるかも。

 

ウヴァーロフは,1幕1場では屈託があるように見えないし,2場では↑に書いたようにサポートに専念しているし,黒鳥のパ・ド・ドゥでは「恋の高まり」の加速した感じがないし(よく言えば,たいへん安定した踊りだった),オディールへの愛の誓いは「あ,そうですね。もちろん誓いますよ」という感じだし・・・「いい人そうだが,どうにも盛り上がらんよなぁ」なんて思いながら見ていたのですが,それ以降が非常によかった。

マザコン度ゼロで決然として王妃に別れを告げる2幕の最後の演技もよかったし,3幕では,下手から切迫感を持って走り込んでくるところから始まって(グラン・ジュテしなかったのがポイント高い。ジュテするのがデフォルトの振付なんだろうとは思うけど,私はあれは好きじゃないのよ),オデットの前に跪いてその手をとって許しを請うところもすてきだったし,ロットバルトとの戦闘シーンも意外に迫力があったし。

まとめて言うと,「育ちがいいから素直でおっとり。なんだか頼りない」お坊ちゃんが,今回の試練によって「この人なら頼っていいのよね」と信じられる青年に成長した,という感じでしょうか。セルゲーエフ版らしい,よいジークフリートだったと思います。

ただ,ノーブルでなかったのは意外でしたし,がっかりもしました。
彼って姿勢があまりよくないのですねえ。舞台上で誰かを見れば必ず下を見ることになる長身だからしかたないのかもしれませんが,少々猫背気味。その上,無造作に歩いたり立っていたりする場面もあって,私の基準から言えば「王子」ではありませんでした。
前日,ルジマトフの(人によっては「やりすぎ」だと笑いたくなるであろうほどの)様式的な立ち方・歩き方を見た直後だったからかもしれませんが・・・うーん,でも・・・???

一方,「いい人」オーラ全開で「ゲストが浮かない」のはよかったです。悪く言えば「ボリショイのスターだ。やはり違う」と思ってしまう種類のオーラがないのですが,私は彼を見にいったわけではなく新国の舞台を見にいったので,「背が高すぎる以外はすっかりなじんでいていいなー。よいゲストだなー」とほのぼのしました。

 

この日の嬉しい発見は道化を踊った八幡顕光。
予定では吉本泰久だったのですが負傷でキャスト変更があったそうで・・・実は私,この変更に気づいていなかったのです。で,「吉本さん,今日は芝居がおとなしめ?」と不審に思ったり,「え? こんなにうまかったっけ??」と驚いたりしていたら,あらまー,別の方だったのですね。

・・・と書いたとおり,演技のほうはさほどではありませんでしたが,たいへんなテクニシャン。
見せ場のピルエット・ア・ラ・スゴンドで,3回転を織り交ぜていたのも見事でしたが,その直後だったか1場の最後のほうだったかで,舞台の前方でちゃちゃちゃっ,と珍しい回転系跳躍を見せたのもすごかった。(すみません,描写能力がありません。でも,一瞬「え?」と思ってしまうような動きでした)
かなり小柄だし,腕が長くないのが惜しいけれど,脚が伸びてきれいな踊りでありました。

もちろん,こういう役においては,小柄なことはプラスに働くわけで,ウヴァーロフとの対照は絶妙。頭がウヴァーロフの胸くらい・・・はおおげさにしても,肩より下にあるので,二人が隣り合って立ってるだけで,なんとなく笑える。
演技も悪くはなかったです。オディール登場の先触れとして「ひぃーーー,怖いよ,悪魔が来たよーーーーー」と舞台に駆け込んできて,王妃の隣の椅子に逃げ込んだところなど,動きのスピードも手伝って,とても印象的でした。

もう一つ嬉しかったのは,鳥海清子の王妃復帰♪
あの大柄なウヴァーロフを相手に,ちゃんとお母さんに見えるだけですばらしいですし,おっとり&のほほんとした王子に対して「もうちょっとしゃんとしないかしら」と言わんばかりの表情を見せるなど,芝居も確か。
美人で,物腰が優雅で,威厳もあるすてきな王妃さまでした。

 

1幕のパ・ド・トロワは,うーむ・・・よくなかったです。
特に内富陽子は不安定で,はらはらさせられました。大きな役だから緊張していたのかも。(別に命がかかっているわけじゃないんだから,気を大きく持って踊ってくださいね〜)
真忠久美子は,それに比べると安定していましたが,「主役も踊ることもあるバレリーナ」だと思うと物足りない感じ。もう少し伸びやかに踊ってほしいなー。
トレウバエフは上手だし安心して見ていられます。でも,この踊りも「ノーブル」の範疇だと思うと少々・・・。男性的な個性のダンサーだからしかたないのかもしれませんし,プロポーションで損している面もあるかとは思いますが・・・もうちょっと優美に見えんものか,とは思ってしまいます。

2幕のキャラクテールは,レニングラード国立の直後に見ると,大幅に物足りなく感じます。女性はまあよいとして・・・男性は,動きにもっとメリハリがほしいものです。(特に,ハンガリーとマズルカに出演の皆さん)
中では,そのレニングラード国立出身のトレウバエフも登場するスペインがよかったです。ナポリもかわいらしくて,心和みました。

市川@ロートバルトは,いつもどおり。
新国に彼以上のロートバルトはいませんが,ザハロワとウヴァーロフという大型ペアが主演する舞台でこの役を務めるには少々苦しい。ほっそりした優男なのもよくないし,それに替わるもの(貫禄とか)もあるとは言えないし。
まあ,しかたないことです。悪いのはバレエ団の間尺に合わないゲストのほうで,彼ではないわけですから。

 

白鳥たちは,もちろんよいです〜。
脳内で美化しすぎたせいか,研修所2期生など新しいダンサーがたくさん入ったせいなのか,私のイメージしていた「一糸乱れぬ統率」は見られませんでしたが,ほっそりしていて,たおやかで,芯が強そうな大和撫子の白鳥たち。静かなシーンでは静謐に踊って,白鳥の羽ばたきは力強くて,足音も比較的静かで,好きだな〜。なじむな〜。

特に好きなのは,3幕の幕開き。音楽も振付もほんのり明るい調和があって,夜明けまでの束の間,人間の姿に戻って安らいでいる乙女たちの雰囲気が漂っていて・・・。切なさを感じながら見事なフォーメーションを堪能しました。
1幕2場も美しいけれど,あそこは結局オデット次第でよしあしが決まるような気がします。でも,この場面は違いますよね。純粋にコール・ドの踊りと雰囲気で表現する場面で,凡庸なバレエ団で見ていると「要らないんじゃ?」と言いたくなるシーン。新国はここがいいのよね〜♪

ここで登場する2羽の白鳥もよかったです。
厚木三杏のパキパキした踊りは私には白鳥には見えませんが,上手だし,音楽的でもあります。
そして,川村真樹の白鳥姿はほんとうに魅力的。清らかな詩情が感じられて,愛らしい女らしさもあって・・・。是非彼女のオデットを見たいものです。

 

美術は好きではないです。特に衣装は嫌い。これに比べれば,キーロフ直輸入で白やらピンクやらのカツラをかぶるほうがよほどマシだと思います。
とにかく垢抜けない,センスが悪い・・・とはかねて思っていましたが,今回は,帽子の多用が非常に気に障りました。
1幕のワルツの男性も帽子,2幕のキャラクテールもそろって帽子。確かに舞踏会ではそれぞれのお国ぶりの帽子つきの衣裳は多いような気はしますが,スペインの男性にまでベレー帽をかぶらせなくてもいいのでは?

そして,花嫁候補のソフトクリーム帽については,今さら言うまでもありません。
今までは「だってマールイだって似たようなのかぶってるじゃん。なんでみんな新国のときばかり悪口言うわけ?」と義憤を感じていたのですが・・・今回続けて見た結果,ようやく悟りました。やっぱり新国の帽子の形はヘンテコ。マールイとは比べ物にならないくらい妙ちきりん。
せっかく美人ソリストで揃えたキャスティングなのに,観客の印象に残るのは帽子だけ・・・というあの衣裳は犯罪的だと思いますよ,まったく。

演出・振付については・・・日本のバレエ団がわざわざ上演する必要があるかどうかはわかりませんが,やっぱり好きです。いつもどおり,「そうよね〜,これが『白鳥の湖』よね〜,こうでなくちゃね〜」と思いました。(←単なる刷り込みかしら〜?)

(2006.11.11)

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