04年1月3日(土)
東京国際フォーラムAホール
音楽: P.チャイコフスキー
台本: I.フセヴォロスキー
振付: M.プティパ 改訂演出: N.ボヤルチコフ
美術: V.オクネフ
衣装: I.プレス
指揮: アンドレイ・アニハーノフ 管弦楽: レニングラード国立歌劇場管弦楽団
オーロラ姫: オクサーナ・シェスタコワ デジレ王子: ドミトリー・シャドルーヒン
リラの精: イリーナ・ペレン カラボス: アンドレイ・ブレグバーゼ
フロリナ王女: オクサーナ・クチュルク 青い鳥: ロマン・ミハリョフ
王: マラト・シェミウノフ 王妃: ナタリア・オシポワ 式典長:イーゴリ・フィリモーノフ
妖精: アナスターシャ・ロマチェンコワ, エルビラ・ハビブリナ, タチアナ・ミリツェワ, ヴィクトリア・シシコワ, オリガ・ステパノワ
4人の王子: デニス・モロゾフ, ヴャチェスラフ・イリイン, アンドレイ・クリギン, ミハイル・シヴァコフ
ファランドール: ラシッド・マミン, アレクサンドル・ラツスカヤ
《宝石の精》 ダイヤモンド: エレーナ・エフセーエワ 金: アンナ・スホワ サファイア: ナタリア・エゴロワ, 銀: ユリア・カミロワ
長靴をはいた猫: ラシッド・マミン 白猫: ヴィクトリア・シシコワ
赤頭巾ちゃん: ナタリア・ニキチナ 狼: ヴィタリー・リャブコフ
人食い鬼: アレクセイ・マラーホフ 人食い鬼の奥さん: デニス・ヴィギニー子供たち: 高木淑子バレエスクール
このバレエ団の『眠りの森の美女』を見るのは3年ぶりで,たぶん3度目。
演出や美術については,前回の感想に書きましたが・・・今回初めて前のほうの席で見て,衣裳について思ったことが三つほど。
一つ目は,失礼ながら「安っぽいなぁ」ということ。
デザインや色遣いはわかっていたのですが,生地がいかにも「舞台衣裳」風。特に国王夫妻については,当たり前かもしれませんが,舞台の外では絶対着られないような品の落ちる感じの光り方なの。まあ,これは直前に見た新国立劇場『こうもり』の衣裳が,あまりにセンスもよく本格的な(お金がかかっていそうな)ドレスだったせいもあるでしょうか。
二つ目は,プロローグの妖精たちの衣裳がカワイイ♪ ということ。
チュチュのスカートがそれぞれ違うお花の柄なのは知っていましたが,その花が胴回り(?)にも散りばめてあるし,髪にも編みこんであるし,パ・ド・シスのとき小道具に使う(オーロラに捧げる?)花束もその花。
ええと,たしかロマチェンコワ=鈴蘭,ハビブリナ=赤いカーネーション,ミリツェワ=菫(?),シシコワ=水仙,ステパノワ=ピンクの薔薇,だったんじゃないかな。まあ,ピンクの薔薇だけは踊りの雰囲気(セルゲーエフ版だと勇気の精)に合わないような気もしましたけどー。
三つ目。狩の場面のデジレ王子のあのマントはなんやねん。(怒)
衣裳自体もちょっと厚ぼったい感じの生地で垢抜けないモスグリーンなのですが,そちらは,狩猟に適した作業着というかスポーツウェアだと考えれば,まあよろしいでしょう。でもさー,あの,背中に縫いとめてある薄くてピラピラした白い短いマントは・・・あんまりだと思うわぁ。シャドルーヒンが気の毒で気の毒で・・・。
シェスタコワは,「各幕の違いはもちろん細かいところまできちんと考えてある」という感じのていねいな踊りでした。
登場シーンはちょっと華が不足している感じはありましたが奥ゆかしいお姫さまでしたし,続いてのシーンでは,はつらつとした跳躍やお茶目な感じも見せ,妖精たちの贈った美徳をいろいろ身につけて成長したのだなー,と思わせてくれました。ローズアダージオでは,一人目の王子の手から次の王子の手へとすぐ移ってしまうところもありましたが,無理して離れ業を見せて必死だったりぐらついたりするよりずっといいですよね。
2幕は,かすかな笑みを浮かべて「嫋々たる」という雰囲気。王子が「救い出してあげたい」と思うというよりは「自分のものにしたい」と思いそうな感じかな。私の好みではないのですが,これはこれで魅力的だったと思います。
グラン・パ・ド・ドゥは,柔らかな個性を生かしてたおやかで,かつ,客席に向ける視線の使い方などはプリマらしいというか,(もうお姫さまではなく)女王のようというか。ええと・・・正直な印象を書けば,「女らしさ」が前面に出すぎる感じで,私としては「なんかちょっと違うなー」ではあったのですが,これはあくまでも好みの問題でしょう。優しげな感じが魅力の立派なオーロラだったと思います。
あ,それから,彼女はほんとに頭が小さいですね〜。なんか,手のほうが顔より大きいようにさえ見えるの。驚異的だわ。
シャドルーヒンは,お顔とサポートともの柔らかな感じはよく,脚とソロと風格不足が物足りない。デジレ王子は,偶然そこを通りかかった救命係ではなくリラの精が見込んだお婿さんなのですから,もっと抜きん出た感じがほしいと思いますが・・・まあ,悪くはなかったです。
リラの精のペレンはとてもよかったです♪
身体の線が美しく,チュチュでもギリシャの女神のような長めの衣裳でも,おお,美しいなー,と感嘆。踊りは伸びやかですし,なにより,辺りを払う貫禄とでも言いましょうか,群を抜いた存在感で輝いていました。リラの精に通常求められる「暖かみ」とか「母性的」という感じはないですが,これだけ華があってエラソーならそんなものなくても十分だわ〜,という感じ。技術的にも安定していて,プロローグのソロの最後で小さく跳躍したあと,ポアントでの美しいアラベスク(アチチュード?)で3秒くらい(←に思えた)静止したのが特にすばらしかったです。
まだ「常ににこやか」とまではいかないようですが,正面を向いて決めるところでは必ず「にっこり」を見せるようになっていて,成長したなー,と少々感激しました。いや,別にファンというほどではないですが,ずっと見ているから情が移るのよね,やっぱり。あとは,メイクを(というか,頬紅の位置だけ)改善してほしいですー。
青い鳥のパ・ド・ドゥはクチュルク/ミハリョフ。
うん,このペアはさすが安定していてうまいですよね。特にミハリョフはいつもどおり跳躍が高いですし,着地はいつもより柔らかな感じでよかったと思います。
プロローグの妖精は主役級も並んでいましたが,一番印象的だったのはミリツェワかな。ほっそりとした首や腕が優美に動く柔らかい踊りでしたし,可憐な感じでありながら美徳(鷹揚だったかしらん?)を象徴する存在感みたいなものもあってよかったです。
演技面では,キーロフほどお高くとまらないで,わかりやすいのが楽しいです。まあ,カラボスに「私を招待し忘れたのは誰だ?」と迫られた国王が式典長を指差すのは,一国の王としてあまりに情けないのではないか? と呆れましたけどー。
そう言えば,式典長のフィリモーノフが楽しかったです。カラボスに髪をむしりとられて小さくなっていたのに,リラの精の力で彼女が去っていくときに,回りに便乗してあたふた出てきて「去れっ」というマイムをするタイミングの遅さがすばらしい♪(つまり,カラボスがほとんど舞台から消えてからやっとそういう元気が出た,という)
全体としては,「もうすばらしくて〜」というほどではないですが,なんの不安もなく見られる踊りが続くよい公演だったと思います。お正月にふさわしい豪華なキャストでもありましたし。
うん,新年早々楽しめる舞台でした♪
(04.1.8)