ヌレエフ・フェスティバル

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03年7月20日(日),21日(祝)

文京シビックホール

 

第1部

フィルム上映 『さすらう若者の踊り』

監修: ルネ・シルヴァン

ルドルフ・ヌレエフの生涯を紹介するフィルム。
ボルドー・オペラ座での同趣旨のフェスティバルでも上演されたものだそうです。

郷里で初めて見た民族舞踊色の強いバレエ作品から最後の振付作品『ラ・バヤデール』まで,自身の踊りとしてはブルノンヴィルからセサミ・ストリート出演(!)まで,わかりやすく,上手にまとめられておりました。(詳しくは,こちらへ。記憶に頼ったメモですけれど)

 

『海賊』よりグラン・パ・ド・ドゥ

振付:マリウス・プティパ/改訂振付:ルドルフ・ヌレエフ   音楽:リッカルド・ドリゴ

デルフィーヌ・ムッサン, イルギス・ガリムーリン

ヌレエフ改訂振付ということでしたが,アダージオの最後が頭上リフトのままで袖に入っていった以外は,見慣れた感じでした。ヌレエフが改訂したものが世界中で踊られているというコトなのでしょうか。メドーラのヴァリアシオンは,『ドン・キホーテ』森の女王の音楽を使ったもの。(マーゴ・フォンテーンと同じですね)

ムッサンの衣裳は,サーモンピンク(というか肌色?)のハーレムパンツ。ヌレエフの解釈は,「姫君と奴隷」のパ・ド・ドゥとは違うのですかね? それとも,さらわれてハーレムに入った後だからそういう衣裳だということなのか?

・・・というような理屈は置いておくにしても,やはりスカートで踊ってほしかったなー。
ムッサンは情感があってすてきですし,フェッテで1/6回転ずつ多く回って身体の方向をずらす技を見せるなどそれなりに上手でもありましたが,こういうパ・ド・ドゥ向きの華やテクニックの強さはあまりない印象。それなのに,きらきらした飾りは豊富であっても色が地味なハーレムパンツで,さらにおとなしく見えてしまって損をしたような・・・。映像で残っているフォンテーンはチュチュだったのに,なぜこうなったのだろーか?

ガリムーリンはヌレエフとはタイプは全然違いますが,同じ中央アジアの血を引くダンサー(いや,モスクワ出身らしいけれど,容姿からいってそうだよね,たぶん)が『海賊』を踊るのはよい考えですねー。
・・・と思ったのですが・・・たぶん右足を傷めていたのではないでしょうか。マネージュの向きをいつもと反対にしたり,左足で踏み切って空中で前後の脚を入れ替えて同じ足で着地するなど,「うまいもんだなー」と感心はしましたが,やはり迫力に欠けてしまい,特に,2日目はかなり苦しい感じでした。

その替わり(?)アダージオはていねいなサポートと柔らかい上半身できれいでした。ムッサンもソロよりデュエットで輝くダンサーなのでしょうか,優美な雰囲気を見せ,その結果,アダージオが一番印象に残るという『海賊』にしては妙な上演だったような・・・。でも,単なる「テクニックご披露」よりは大人のパ・ド・ドゥでよかったです。

 

ファンダンゴ(『ドン・キホーテ』より)

振付:ルドルフ・ヌレエフ   音楽:リュドヴィク・ミンクス

モニク・ルディエール, カール・パケット

3幕で踊られるキャラクテール・ダンス。こういうモノをガラで見られるとは珍しいですー。
長いスカート(黒基調に赤い縁取りがすてき♪)とキャラクター・シューズで踊るルディエールを見られたのは貴重。恥ずかしながら,今まで「ファンタンゴ」という名前だと思っていたので,正しい名称を覚えられたという意味でも貴重。(・・・というほどのコトでもないか)

互いに挑みかかるような振りが入っていたりして,ロシア風の振付よりは面白かったような気もしますが・・・それほど変わったモノでもなかったような気もするし・・・。
ルディエールは雰囲気を作るのが上手ですねー。パケットは,もうちょっと動きにキレが欲しいかも。

拍手が続く中,下手に立って,次のペアを迎え入れる演出(お芝居?)が楽しかったですが,パケットは,こういうときの立ち居振舞いが,プルミエ・ダンスールというよりは新人のようですな。(それはそれでかわいいけどー)

 

『ドン・キホーテ』よりグラン・パ・ド・ドゥ

振付:マリウス・プティパ/改訂振付:フドルフ・ヌレエフ   音楽:リュドヴィク・ミンクス

オクサーナ・クチュルク, ロマン・ミハリョフ

こちらは『海賊』とは違って見慣れない動きでしたので,正真正銘のヌレエフ版なのだろうと思いますが・・・。
不思議と,普段ヌレエフ振付のグラン・パ・ド・ドゥを見るときほど「難しいコトを詰め込めるだけ詰め込んだ」という印象は受けませんでした。『ドンキ』はそもそも難しそうな演目だからさほどとは感じられないのか,踊りなれていない版だからダンサーが多少何かを割愛したのか,それともこの二人くらいのテクニシャンが踊れば普通に見えるということなのか・・・?  むかーしむかしに全幕を見たことがあるのですが,細かく覚えてなんかいないし・・・。うーむ,どうなんでしょ?

クチュルクは明るくチャーミングな雰囲気でキトリ向きだとは思うのですが,ううむ・・・フェッテが・・・。腰に手を当てたまま32回転するというテクニックを披露したのは立派ですが,その結果・・・勢いで回っていて全然きれいでなかったです。
ミハリョフは,(たぶんこの版の特徴なのであろう)身体と片手を弓なりにそらす決めポーズが板についていない感はありましたが,なかなかかっこよかったです。

全体に「いつもと違う版に挑戦している」感じの舞台でしたが,珍しいモノを見られて楽しかったです。
二日目のほうがなじんできましたから,3回くらいどこかで踊ってから日本で披露してもらえるともっとよかったかも〜。(←わがまま)

 

『シンデレラ』よりパ・ド・ドゥ

振付:ルドルフ・ヌレエフ   音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

デルフィーヌ・ムッサン, カール・パケット

ヌレエフ版は映像では見たことがありますが,舞台では全く初めて。
やはり難しそうな振付ですが,丸椅子の使い方が「♪」でしたし,古典の改訂よりは,その難しさに必然性がありそうな気がしました。(いや,なんとなく,ですけどー)

ムッサンは,シンデレラ(あるいは映画スターを夢見る娘)にしては大人すぎたような気はしますが,ロマンチックで女らしい雰囲気があってよかったです〜。
こちらは衣裳もすてき。というか,(ドレスのデザインは普遍的かもしれませんが)あの頭飾り(ヘアバンドに羽根)が似合うのって,それだけですばらしいコトだと思うわぁ。

パケットも衣裳が似合っていました。というか,ウルトラマンシリーズの地球防衛隊員に見えなくもないデザインの衣裳でも二枚目に見えるのが立派でした。
さらに,初日は「必死のサポート」という感じだったのが,二日目には「懸命のサポート」程度に進歩していました。なので,リオネル・ドラノエの故障による急な代役(しかも初役?)ですからやむを得ないこととは承知しつつも,こちらのペアも3回くらいどこかで・・・以下同文。

 

『ロミオとジュリエット』より寝室のパ・ド・ドゥ

振付:ルドルフ・ヌレエフ   音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

モニク・ルディエール, ローラン・イレール

ルディエールは可憐でジュリエットそのもの。詩情があってドラマを感じさせてくれて,とってもとってもすてきでした〜♪♪

イレールには,初日はちょっと「?」な感じを受けました。上手に踊っているだけで,愛や情熱がないように見えてしまって・・・。正直言って,容姿の印象からもロミオに見える年齢ではないしなー,とか,ルディエールにはやはりマニュエル・ルグリのほうが合うのかなー,などと考えてしまいました。

でも,二日目はすばらしかったです。
舞台の上の二人から「最初で最後になるかもしれない逢瀬」の刹那感が客席に溢れ出て・・・感情の嵐に巻き込まれる感じ・・・。それはもう感動的でした。

振付はたいへん難しそうなもので,アクロバティックと言ってもいいのではないかしら。
私はヌレエフ版の『ロミジュリ』全幕は大好きですが,初日は,取り出して上演されると振付の難度が突出してしまうのだなー,ここまで難しいリフトをさせなくてもいいのではないだろーか,などと思いました。
でも,二日目の名演を見ると,そんなことを言う気は失せました。もしかすると踊るダンサーを選ぶのかもしれないけれど,ドラマチックで切迫感が伝わる,見事な振付だと思います。

 

第2部

『オレオール』

振付:ポール・テイラー   音楽:ゲオルク・フリードリフ・ヘンデル

シャルル・ジュド, ステファニー・ルブロ
シルヴィ・タヴィラ, ロール・ラヴィス, ユーゴ・リンシンドルジュ(イェウルト・リンシャンドール?)

えー,なんというか・・・初日は,あまりにもアメリカーンなモダンダンスで唖然としてしまいました。

男性はまるで器械体操のような衣裳ですし,女性もスカートではありますが,やはり白くて簡素で,体操のおねえさんに見えなくもない。
この衣裳で,両腕を斜め45度に差し上げてその場で跳躍するとか,伸ばした腕を身体に沿って前後に振る勢いで舞台を駆け抜けるとか・・・。そうそう,うさぎ跳びもあったな。

明るく元気がいい作品で感じは悪くありませんでしたが,いやあ,とにかくびっくりした。
だってさー,プログラムによると,コリフェ時代のジュドが初めてヌレエフに誘われて共演した記念の作品だというから,若き日のジュドの才能を見出したヌレエフが対等の立場で起用したのかしらとか,小さいけれど特徴のある役だったのかしら(例えば少年の美しさが必要とかアジア系のエキゾチックさが必要とか)などと,いろいろ想像してしまったわけよ。そしたら,あらまあ,うさぎ跳びなんだものねえ。
肩透かしというか引き落としというか・・・とにかく驚いてしまって,立ち合った瞬間に土俵に転がされてしまいましたよ。

二日目は,こういう作品だという理解(覚悟?)のもとに見ましたから,楽しめました。
この作品を自分のガラでしばしば上演したというヌレエフの趣味は,私にはよく理解できないものの,とにもかくにもダンスに貪欲な方だったのだなー,というコトを実感できて有意義でしたし。

そして,ジュドには感銘を受けました。
彼はさすがに跳んだり走ったりばかりではなく,静かなパートとかデュエットとかが主だったのですが,一人だけ飛び抜けて美しかったです。格というものが全然違う。ほかのダンサーには失礼ですが「掃き溜めに鶴」という言葉が頭に浮かんだくらい違う。

いや,ほかのダンサーが悪かったと言っているわけではないです。ジュドとデュエットを踊ったルブロは可憐だったし,上手でもあった。たぶんコリフェのジュドが踊ったのであろうパートを担当した東洋系のリンシンドルジュも爽やか。
でも,身体が発するものが全く違うのよ。

そして,その美しさに感嘆しつつも,ジュドはボルドー・オペラ座バレエの芸術監督でもあるわけで・・・苦労してるんだろーなー,パリ一極集中は考えモノだよなー,などと余計なお世話のコトを思ってしまったのでした。

 

『アポロ』

振付:ジョージ・バランシン   音楽:イーゴリ・ストラヴィンスキー

ローラン・イレール, イリーナ・ペレン, オクサーナ・クチュルク, アンナ・フォーキナ

階段のセットはありませんでしたが,誕生シーンを除く全体が上演されました。

イレールがすばらしかったです。
美しくて,力強くて,若々しくて,風格があるアポロ。
衣裳がよく似合って,身体の美しさも黒髪で彫りの深いハンサムなお顔立ちもギリシャ神話にぴったり。太陽神にしては陰影が強すぎるような気もしますが,神様だから気高く見えるとも言えそう。

踊りは,振付の意味をきちんと伝えながら,自分の魅力を十分に見せていて見事。
リュートを扱う仕草も,岩の上に腰を下ろしてミューズたちを鑑定しているところも,信号機の点滅みたいな意味不明の振付も,テレプシコーラと踊るときの笑顔も,オリムポスからの呼び声に応える凛々しい様子も,全部神々しくてすてきでした〜♪

初日は,最後に3人のミューズと踊るシーンで「お疲れのご様子?」かと思いましたが,二日目はそういうコトもなく,完璧なデキと言っていいかも〜。あ,最初のソロは,もう少し,「生まれたてでモノ慣れない」が必要なのかな? それとも神様だから最初からエラソーでもいいのかな? うーむ,どうなんでしょ?

ペレンもよかったです。
見事で女らしいプロポーションと伸びやかな足の蹴り上げで,3方向からミューズたちが登場するシーンを見ただけで,この人が今日のテレプシコーラだとわかりました。踊り方も,以前ルジマトフとの舞台でポリュヒムニアを踊ったときよりバランシンに見えたしー。
いつもは表情の乏しさが気にかかるバレリーナなのですが,愛らしくチャーミングな笑顔で踊っていたのには,正直言ってびっくり。うーむ,これってもしやイレールの力なのだろーか???

 

『ムーア人のパヴァーヌ』 (「オテロ」のテーマによるヴァリエーション)

振付:ホセ・リモン  音楽:ヘンリー・パーセル(組曲「アブドルザー,またはムーア人の復讐」より)

ファルフ・ルジマトフ, シャルル・ジュド, エマニュエル・グリゾ, ヴィヴィアナ・フランシオジ

ルジマトフがロシアのダンサーと踊るのは何回か見ていますが,ボルドー・バレエとの舞台は初めて見ました。(というより,この作品では初共演)

同じ作品がロシアとフランスで別々に伝えられるうちに振付・演出が違ってしまったようで,具体的にどこの部分とは言えないのですが,見ていて「あれ?」,「そうだっけ?」という感じもありました。たぶん,どちらもニキータ・ドルグーシンなりヌレエフなりの解釈が加わってしまっているのではないかしらん。
リモンが生きていて見たら「両方とも私の意図したものと違うっ!」と言い出したりして・・・。(笑)

振付・演出の違いのせいかダンサーの違い(主にドルグーシンとジュド)によるものかわかりませんが,物語のニュアンスがかなり違って感じられたのが興味深かったです。

ドルグーシン版(と,かりに呼びます)は,心から妻を愛していた男が,友人と信じていた男の罠に落ちてすべてを失う感じ。イアーゴーは最初から明確な意図を持って(例えばオテロにとって替わろうとして)あれこれ策を廻らし,要所要所に楔を打ち込み,その楔から綻びが生じて,オテロとデズデモーナの間に悲劇が起きた感じでした。
ヌレエフ版(これももちろん仮称ね)は,高潔な魂を持っていたはずの将軍が,陋劣な男にスポイルされて自分から破滅していく印象。下世話な言い方をすれば,しつこくまとわりついて嫌がらせを繰り返す部下のせいで神経衰弱になった男がついにキレて妻を手にかけてしまったというか・・・。

どちらが優れているという問題ではないのでしょうが,私はドルグーシン版のほうがドラマチックで好きかな。
でも,「人間の弱さ」を描くという意味ではヌレエフ版のほうがいいのかもしれませんねー。(こちらでは,イアーゴーも卑屈な感じですごく人間的。ドルグーシン自身が踊ったイアーゴーは「悪巧みしてます」がわかりやすすぎてちょっとマンガ的なのよ)

ジュドは,笑い方からして虫唾が走りそうなほど不愉快な小人物。存在感があるからうっとうしさが増幅されるし,所作が優雅なのも慇懃無礼の極みに見えるの。
実に,実に,見事でした〜♪

ルジマトフは,これにひきずられて落魄していくオテロ。どう対応しても暖簾に腕押しの相手になすすべもなく,精神がどんどん磨耗していく感じ。
切なくてすてきなんだけど,「堕ちていく」背景をもう少しなにか感じさせてほしかった。「ムーア人」である隠れた劣等感とか,それにもかかわらず高位の将軍に上り詰めた自負心とか,あるいは一途なデズデモーナへの愛とか・・・。なんというか,ただの「美しく風格ある将軍」に見えてしまいました。

たぶん,ヌレエフ版に慣れていないせいで表現しきれないところがあったのではないかなー。自分の身についている作品であるだけに,新しい作品に挑戦するより難しいということもあるのかもしれないし。
特に初日は,迫力がないというか,オーラが感じられない舞台で,ジュドがこの日のほうが「全開」という感じだったこともあり,残念でした。二日目はかなり伝わってくるものがありましたので,3回くらいどこかで・・・以下同文。

グリゾは小柄で静謐な感じがデズデモーナにあっていてよかったと思います。エミリアとデズデモーナは,同じようにスカートを両手でつまんで歩くときでも肩から腕にかけての形が違って,二人の人柄の違いを表しているのですが,彼女のほうは問題ないものの,フランシオジはあまり上手ではなかったです。(で,また,芸術監督のジュドはたいへんだなー,と余計なお世話のコトを・・・)

 

全員そろってのカーテンコール,背後にヌレエフの写真が映し出され,出演者がそれを仰ぎ見て敬意を表する一場がありました。
冒頭のフィルムからこの演出まで,コンセプトがしっかりしていて,よい公演だったと思います。ジュドは優秀なプロデューサーですね〜。

(03.8.6)

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