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ラ・シルフィード/パキータ (新国立劇場バレエ団) |
03年6月28日(土)
新国立劇場オペラ劇場
ラ・シルフィード
振付: オーギュスト・ブルノンヴィル 演出・振付指導: ソレラ・エングルンド, 大原永子
音楽: ヘルマン・ルーヴェンシュキョル
舞台美術・衣裳: ピーター・カザレット 照明:立田雄士
シルフィード: 志賀三佐枝 ジェームス: 小嶋直也
グァーン: マイレン・トレウバエフ エフィ: 中村美佳 マッジ: 西川貴子
アンナ: 堀岡美香 ナンシー: 中島郁美
2人の友人: 奥田慎也, 陳秀介 グァーンと踊る少女: 安田菜々恵
第1シルフ: 湯川麻美子
新国立劇場2回目の上演。(なお,初演のときの感想はこちら)
志賀さんは,初役だと思いますが,とても上手。ポアントの音が全くしないし,動きは軽やかで美しく,たおやかで優しげな雰囲気。完全にジェームスに恋しているシルフでした。
ただ,妖精らしさがない,というか・・・いや,ちょっと違うな。妖精には見えたから。ええと・・・魔物らしさがなかったですね。この作品のシルフィードは,邪気はないのかもしれませんが,結婚式の場から花婿を拉致してしまうわけで,人間界から見れば迷惑千万な存在であるはず。そういう「人外の者」の感じがなかったように思います。
どうも,この役は彼女に向いていなかったのではないかなー? もっとも,そういう多少不向きな役も含めてそれぞれのダンサーの表現の違いを見られるのがバレエ団のファンである醍醐味でしょうから,別に不満はないですし,人間と同じように純粋な恋をするシルフを好ましく思う方もたくさんいるとは思います。
小嶋さんは,性格が悪くて浮気者で頭も悪いという,いかにもジェームスらしいジェームスでした。(3年前のおとなしさに比べてたいへんな進歩だわっ)
立ち居振舞いがノーブルだから,グァーンやマッジに対する尊大な態度が増幅されて見えて,かっこいいいけどいけ好かない男なのよ。おまけに,場面場面での演技が的確なので,エフィには甘く,シルフの魅力には逆らえず,森の中では浮かれまくるし,マッジにころっと騙される,そういう一連の行動がたいそう愚かしく見えました。
シリアスすぎず軽妙な味わいはあるので(いや,それとも単にファンだからか?),私は「しょーもないやっちゃなー」とかわいく思いましたが,どうなのかしら・・・。見る方によっては腹が立つのではないですかね?
踊りは軽快できれい。ブルノンヴィルスタイルと違うような気はするのですが(←単なる印象。この辺はよくわかんないの),初演のときと違って,自分の踊りになっていたように思います。
ソロも見事でしたが,森の中でシルフたちと踊るところが私のお気に入り。右に左に弾むような跳躍で,幸福感いっぱい♪ 見ているこちらもとっても幸せ〜♪♪
あ,あと,キルトがよく似合っておりました。(ただ,あの襟元のひらひらするボウタイはなんとかやめてもらえないものだろーか? 跳躍する度に気になるんですけどー)
死のシーン,目が見えなくなって手探りでジェームスを求めるシルフは,うう,とてもかわいそうでした。ここは志賀さんがここまで見せてきた人間らしい恋も奏効した感じで,名演でした〜♪
それに応えて下手前から一気に中央奥に駆け寄り手をとるジェームスの勢いも見事。小嶋さんは,ひと晩ぶんの誠実さをすべてこの場面に注ぎ込んだ感じで感動的。
もっとも,直後にマッジが出てくるとまた頭に血が上って,おいおいまたかよ,学習効果のないヤツだなー,と頭を抱えさせてくれるわけで,ううむ・・・まあそういう話でそういう演出ではありますが・・・志賀さんと小嶋さんの表現したい物語は噛みあっていなかったのかなー,という気もします。
なんというか・・・志賀さんは現代に通じる純愛物語をやっていて,小嶋さんはもっとお話に忠実というか・・・ううむ・・・なんだろう? 「スコットランドむかし話」かな?(笑)
マッジの西川さんは,たいへんよかったと思います。初演のときより迫力と存在感が出ていました。あまりおどろおどろしい感じではなく,むしろ男の身勝手を指弾する「かっこいい」雰囲気だったかな。
それにしても,マッジって,1幕でジェームスから邪険にされただけで,あれだけ大掛かりな復讐をしたんですかね? それとも,最初から悪意を持って,ジェームスの家を訪れたのかしら? うーむ,謎だ・・・。
中村さんのエフィは初演のときも見ましたが,可憐な感じでよいですー。
これといって特徴のない「いい娘さん」なのでかえって難しそうな気もするのですが,結婚式を迎える幸福感やジェームスの挙動に不安を抱く様子,グァーンのプロポーズを泣き笑いのような表情で受け入れるところなど,上手でした。
グァーンのトレウバエフさんは,踊りは上手ですが,演技はおとなしすぎる印象。あれだけエフィが魅力的なんだから,もう少し熱く恋心を表現してはどうでしょうかねえ。あるいは,あれだけジェームスが感じが悪いんだから,もう少し敵愾心を燃やすとか・・・。
あと,マイムが上手でなかったです。シルフィードを目撃したことを示すために,腕をひらひらさせる場面があるのですが,あれじゃ意味がわからないような・・・。せっかく笑いをとれるグァーン役の見せ場(?)なのにー。
コール・ドは,2幕は「もうちょっと」でしたが,初演のときよりは妖精らしさが出ていたと思います。
ソロを踊った湯川さんは,軽やかさは不足していたような気はしますが,あら〜,こういう愛らしい雰囲気も作れるんだわ〜,と感心しました(普段は大人の役が多いから)。
1幕は,全体にとてもよかったと思います。特にスコットランドの民族舞踊の場面は初演のときよりずっとフォークダンスっぽくなっていて,楽しかったですー。
今回新しい発見だったのは,スカーフをジェームスが手に入れる場面。なんとなくマッジのほうから差し出して勧めたような気がしていて,ほんっとにジェームスってバカだわ,と思い込んでいたのですが,そうではなかったのね。
マッジはさりげなく(←きれいな色だからもちろん目立つが)自分の腰に巻きつけていて,ジェームスのほうからそれに目をつける。そして,断られるとお財布からお金を出したりするの(このシーンのためだけに全幕ずっとアレをウエストに着けているというのも難儀な役ですなー)。で,欲しければそこに跪いて頭を下げろ,みたいなやりとりの末に譲ってもらう。
なるほど,これならジェームスがその手に乗るのも無理ないですねー。(もっとも,このように腕に巻きつけろ,という懇切丁寧なアドバイスに従うのは,やっぱりバカだと思いますけどー)
1幕のセットで,中央のドアの向こうに見える風景の荒涼とした感じに感銘を受けました。
たしかに,スコットランドの自然って,花が咲き乱れたりしないで,ああいうふうに無彩色の感じだよねえ。
そうかー,ジェームスたちはああいう暗い世界で,厚着して暮らしているわけなのよね。そこに現れたひらひらした薄いピンクの妖精は,そりゃ魅力的ではありましょう。なるほどー。
全体としては,とても楽しかったです。
(ジェームスがほとんどずっと舞台の上にいるから,それだけで私にとってはポイント高いのよん)
お話の趣旨からして楽しくていいのか? という疑問はありますが,でも,そのお話自体が基本的にアホくさいストーリーに思えるので,私がこの作品を見て感動することは永久にないような気がします。
もちろんシルフの死のシーンではそれなりに心を動かされますが,最後まで見たときに,たとえば「心洗われるような感動」を得るのは無理だと思いますねえ。
それもあって,これだけ楽しめれば満足だわ〜,という感じでした。
パキータ
振付: マリウス・プティパ 演出・振付指導: マハール・ヴァジーエフ, リュボーフィ・クナコーワ
音楽: レオン・ミンクス
舞台美術: 川口直次 衣裳: 大井昌子 照明:立田雄士
ディアナ・ヴィシニョーワ イーゴリ・コルプ
大森結城, 西川貴子, 前田新奈, 湯川麻美子, 鹿野沙絵子(←たぶん), 川村真樹(←たぶん)
神部ゆみ子, 北原亜希, 楠元郁子, 工藤千枝, 斉藤希, 千歳美香子, 深沢祥子, 大和雅美
パ・ド・トロワ: 遠藤睦子, 西山祐子, グリゴリー・バリノフ
ヴァリエーション: 湯川麻美子, 大森結城, 前田新奈, 西川貴子
ううむ・・・よくなかったですねえ。
純粋なクラシック・バレエで,しかもストーリーや役柄なしで踊りだけで見せなければならないから,難しいのでしょうが・・・。
コール・ド・バレエが揃っていませんでしたし,一人ひとりの動きも今ひとつきれいでありませんでした。ソリストも,上手には見えない方が多かったですし,なにより,この作品の持つ華やかさ,「ソリストたちの美技が光る華やかな踊りが次々と繰り広げられます」(←新国立のちらしより)という感じがなかったのが残念でした。
まあ,初演だし,まだ2日目でしたから,次に見るときに期待することにいたしますー。
(小嶋さんが主演の日に見損ねたから,近く再演してもらわないと困るのよぉ)
よかったのは,パ・ド・トロワを踊ったバリノフさん。きれいな踊りですし,見る度に上手になっているような気がするわ♪
それから,第4ヴァリエーションの西川さんが,歯切れのいい踊りで安定していました。
主役の二人はキーロフ・バレエからのゲストでした。
ヴィシニョーワさんは,身体の使い方というか動きの質がやはり違うのだなー,と感心しました。プリマの華は圧倒的ですし,もちろんたいへん上手でした。
ただ,好調ではなかったように思います。もっとすごいの何回も見てるもん。
コルプさんはよくなかったと思います。
跳躍は高いし,回転は速く,この作品に必要な芝居っ気もありましたが,踊りがきれいでなかったです。サポートのときに自分の身体のラインが崩れるのはミスするよりはいいですから不問に付すにしても,ソロのときに,跳躍の後ろ脚とか回転の腕の使い方が美しくなくて・・・。ミスとか身体のキレとかの話ではなく,踊り方の細部の話ですから,こちらは調子の問題ではないような気がするのですが・・・。
衣裳は,真紅で同じデザインだったような。(パ・ド・トロワは白系だったかな)。もう少し変化があったほうが楽しいような気もしますが,これはこれで悪くはないですね。
ゲスト二人が周りと傾向が違うのはあまり嬉しいことではないですが,まあ,全幕作品ではないから文句を言うほどではないかな。
装置は,幕開きでシャンデリアが上がっていくのはすてきでしたが・・・あのー,背景幕が柵と門というのはなんか妙なような・・・。屋外にシャンデリアがあったということでしょうか? いや,まさかねえ??
というわけで,『パキータ』は盛り下がってしまいました。
でも,まあいいですね。私のお目当ては『ラ・シルフィード』のほうだったわけだから。
久々に小嶋さんのキルト姿が見られたし,踊りも表現もすてきだったし,うふふ,満足できる公演でしたわ〜♪
(03.7.5)
このページのイラストは,バレエイラスト素材サイト「バレエの華麗な王子様」から頂きました。