テーマとヴァリエーション/ラ・シルフィード
(新国立劇場バレエ団)

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00年6月30日(金)〜7月2日(日)

新国立劇場オペラ劇場

指揮: アラン・パーカー   管弦楽: 新星日本交響楽団

 

テーマとヴァリエーション

音楽: ピョートル・チャイコフスキー

振付: ジョージ・バランシン   演出・振付指導: パトリシア・ニアリー

舞台美術: 牧野良三   衣裳: 大井昌子  照明: 磯野睦

   6月30日  7月1日  7月2日
プリンシパル 宮内真理子, 小嶋直也 高部尚子, 逸見智彦 宮内真理子, 小嶋直也
ソリスト 大森結城,遠藤睦子,高山優,西川貴子
市川透,奥田慎也,左右木健一,山本隆之
大森結城,遠藤睦子,高山優,湯川麻美子
市川透,奥田慎也,左右木健一,山本隆之
大森結城,遠藤睦子,高山優,湯川麻美子
市川透,奥田慎也,左右木健一,根岸正信

 

30日
宮内さんと小嶋さんは,2月にもこの作品を踊っていますが,この組み合わせで見るのは初めて。酒井/小嶋は「プリンシパルの競演」ヴァージョンで宮内/小嶋は「深窓の姫とナイト」ヴァージョンだなー,なんて思いながら見ました。
二人とも多少押し出しが弱いものの品がいいですし,技術的にも安定して,特にこの日の小嶋さんは最高♪
動きは軽快だし,難しそうな技も全部気持ちよく決まるし,チャーミングだし,パートナーを立てる紳士的な雰囲気はあるし,ほんとうにすばらしかったです〜。ああ,見られて幸せ〜♪♪♪

1日
高部さんは,バランシンに見えないなー? という気もしましたが,プリマらしい貫禄があったのがよかったです。
逸見さんは,ノーブルな雰囲気はよかったのですが,ええと,ええと・・・はらはらさせられたところもありました。ソロでの跳躍の連続で,どんどん横にずれていったの・・・。

2日
宮内さんは変わらず繊細な美しさを見せたのですが,小嶋さんの動きが今ひとつでした。(ミスがあったとかではなく,2日前に比べると・・・という感じ)
ううむ・・・疲れが出たのかも・・・。だって,5日連続公演で,日替わりでジェームス2回,『テーマ』のプリンシパル3回だもの。ちょっと酷使されすぎだと思うわ。ぶつぶつ・・・。もっとも,おかげで3日連続で彼の舞台を見られて嬉しかったですし,バレエ団の陣容を考えればしかたがないのかなー,とも思いましたが・・・。

 

ラ・シルフィード

音楽: ヘルマン・ルーヴェンシュキョル

振付: オーギュスト・ブルノンヴィル   演出・振付指導: ソレラ・エングルンド, 大原永子

舞台美術・衣裳: ピーター・カザレット   照明:立田雄士

   6月30日  7月1日  7月2日
シルフィード 吉田都 酒井はな 西山裕子
ジェームス ヨハン・コッボ 小嶋直也 森田健太郎
グァーン 逸見智彦 根岸正信 左右木健一
エフィ 中村美佳
マッジ  豊川美恵子 ソレラ・エングルンド 西川貴子
アンナ 杉崎泉 鳥海清子
ナンシー 難波美保
2人の友人 ゲンナーディ・イリイン,高木裕次
グァーンと踊る少女 市村陽子 位下純奈
第1シルフ 湯川麻美子 前田新奈 大森結城

 

30日 「イヤな男の末路」編

吉田さんは,初役とのことでしたがさすがに上手でしたし,少女のようにかわいらしいシルフでした。あとから,腰の調子がたいへん悪かったと聞いたのですが,舞台ではそういうことは全くわかりませんでした。軽やかな踊りで,見事だったと思います。
ただ,「愛らしい」場面は魅力的ですし,舞台のほとんどはそういうシーンなのでそれでいいような気もするのですが,最後の死の場面は今ひとつでした。演技が段取りっぽく見えて哀れさが足りないというか・・・。

もっともこれは,コッボさんのジェームスを私が好きになれなかったせいもあったのかも。
つまり・・・踊りはさすがデンマーク・ロイヤル出身だけあって見事ですし,演技も上手で,周りのダンサーと段違いの存在感もあるのですが,その演技や存在感が逆効果を生んで,「傲岸不遜で自己中心的な男」に見えてしまったので・・・。
グァーンが踊った直後に踊りを披露して場をさらう場面など,本来はグァーンを気の毒に思いながらもちょっと笑い,続いてジェームスの踊りに感嘆するシーンだと思うのですが,ものすごく不愉快になってしまいました。マッジに対する居丈高な態度も嫌いだったなあ。

そもそもジェームスというのは,困った男性が多いバレエの主人公の中でも特に困った人で,婚約者をほっぽってシルフを追いかける無責任さですし,敬老精神には欠けているし,しかもまんまとマッジに欺かれてシルフを死に追いやるという頭の足りない人なわけですが,あそこまで「イヤな奴」に見えてしまうと,なんというか・・・シルフが死に瀕しているシーンも「なにを好きこのんで,こんな男に惚れたんだか・・・」と思うだけで,哀れと思えないでしまうのよねえ。

新国立版は,最後にジェームスも絶望のあまり死ぬのですが,この場面を見て「そうだ!当然の報いだ!!」と快哉を叫びたくなってしまいましたわ。(すみません)
なお,ジェームスも死んだ結果「死がすべてを浄化する・・・」という感じになったので,生き残る演出より(妙な言い方ですが)あと味はよかったです。

 

1日 「美しい死神が青年を破滅させる」編

そういうわけで,前日の舞台に対する最大の感想は,「ううむ・・・明日小嶋さんはこのイヤな男を踊るのか・・・」というものだったのでした。

で,「なんかやだなー。だからといってグァーンで出てこられても困るけどさー」という気分で見始めたのですが,幸いなことに「考えの浅い青年」程度だったので,ほっとしました。マッジを家から追い出すあたりも,「気の毒な年寄りに無情」というよりは,「結婚式の日に得体の知れない人が入ってきて不吉な占いなんか始めたら,そりゃ追い出したくもなるよねー」という感じ。
その代わり芝居が淡白すぎて,夢中でシルフィードの後を追う「ロマンティックな魂を持つ青年」には見えませんでしたが,この際あまり贅沢は言うまい。(笑)

踊りはきれいで,脚さばきも明瞭に見える感じでしたが・・・どうなのかな? よかったのかなぁ・・・?
(コッボさんと比べてしまうせいかもしれませんが)「板についてない」感じがしたし,彼自身の前日の舞台のほうがずっとチャーミング。ブルノンヴィルよりはバランシン向きのダンサーなのかもしれませんねー。

酒井さんは,たいへん,たいへん,すばらしかったです。

パワーと華で「咲き誇る」タイプのバレリーナですから,妖精向きとは予想していなかったのですが,全く足音のしないポアントワークが見事で,「この世のものではない」雰囲気がよく出ていました。
トウで立って,腕を胸の前に置き,片手の指を頬に当てる有名なポーズは,無邪気な妖精であると同時に男を誘う魔物の趣で・・・これはすごい,と思いました。愛らしい笑顔を見せながら,自分でも意識せずに男を誘惑し,破滅させるファム・ファタールのシルフィード・・・。これくらい魅力的であれば,堅物に見える小嶋@ジェームスでも,夢中になるのは当然かも,と納得。

その磁力はたいへんなもので・・・終始目を離すことができませんでした。(これは,私にとってきわめて異例の事態。普段なら,彼女が真ん中で踊っているときでも端で立っている小嶋さんのほうを見ているのに,ずーっと彼女を見ているというのは・・・この二人の舞台を数年間見てきて,初めてのことだったと思います。)

死のシーンもドラマチックで申し分ありません。(ここは,小嶋さんの演技もなかなかよかった。)

うん,ほんとうにすばらしかったです。事前の期待度の違いもあるかもしれませんが,私は吉田さんより彼女のほうがずっと魅力的なシルフだったと思います。

 

2日 「妖精と人間の,適わぬ恋の物語」編

西山さんは,腕の動きが美しいシルフィード。容姿からいって,3人の中で彼女が一番妖精の雰囲気だろうと思っていたのですが,よくも悪くも,妖精というよりは優しい少女のようでした。
そして森田さんは,テクニックは少々物足りないものの,直情径行,真実の恋の勢い。

『ラ・シルフィード』の本来の話とは違うような気もしますが,引き裂かれたロミオとジュリエットのようで感動的でした。シルフの死は,実はマッジの呪いのせいではなくて,人間であるジェームスに抱きしめられたからでは? などと思ってしまうほど。

 

エフィは3日とも中村さん。
かわいくてしっかりものの「すてきな奥さん」(←という雑誌がありますよね)になりそうな感じでした。

グァーンは,日替わりでしたが,それぞれ魅力的。
逸見さんは恋心の表現はさほどでないですが,二枚目が二枚目半を演ずるおかしさがよかったですし,根岸さんは「友人の婚約者への秘めたる恋」の切なさがすてき。左右木さんは想いを正面から伝える感じで,ジェームスにかなり対抗心を持っているように見えました。

マッジは,豊川さん,今回の公演で演出・振付指導を担当したデンマーク・ロイヤルのエングルンドさん,西川さんの日替わり。
えーと,実は・・・どの方もよかったですが,特にこれといって記憶も・・・。さすがエングルンドさんはすばらしい! と皆さんおっしゃるのですが,どこが他の2人より優れていたのか,私にはわかりかねました。(すみません) 逆に言うと,団員の西川さんも遜色なく見えてよかったなー,と思いました。

コール・ドは・・・ううむ・・・よくなかったですねえ・・・。
私,新国立のコール・ドには概ね満足させられることが多いのですが・・・クラシックとはまた違う難しさがあるのかしら?
衣裳や髪型も似合っていなかったような気がするし,動きにシルフィードらしい滑らかさが欠けていたように思います。

装置が美しかったです。
特に忘れられないのが,森の中にシルフィードたちが現れる場面。セットの色調と白い衣装があいまって,幻想的で美しく,息を飲みました。

 

楽しい3日間でした。
見にいく前から「3日続けて小嶋さんが見られるなんて♪」だったわけですが,あまり見る機会のない『ラ・シルフィード』を本家デンマーク・ロイヤル演出(←なぜか結末が違ったけどー)で見られて,しかも3組の主役がそれぞれ違った雰囲気の舞台を見せてくれましたし,その上2月に感激した『テーマ・・・』まで見られて,うん,堪能いたしました〜。

(03.6.10)

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