ソリテイル/2羽の鳩(小林紀子バレエ・シアター)

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02年10月19日(土)

新国立劇場中劇場

 

指揮:スティーブン・レイド

演奏:東京ニューフィルハーモニー管弦楽団

 

ソリテイル

振付: Sir.ケネス・マクミラン

ステイジド・バイ: ジュリー・リンコン

作曲: マルコム・アーノルド

美術: キム・ベアスフォード

ソリテイル: 島添亮子

ポルカ: 伊藤真知子 第1ソロ・ボーイ: 小林由明  第2ソロ・ボーイ: 奥田慎也

パ・ド・ドゥ: 島添亮子, 中尾充宏

6カップルズ:
志村有子, 難波美保, 濱口円香, 中村恵子, 荻野曰子, 高橋怜子
佐藤禎徳, 澤田展生, 武石光嗣, 冨川直樹, 冨川祐樹, 中村誠

友人たちといっしょに楽しくすごしてはいても,どうしてもなじめないものを感じている少女を描いた作品のようでした。
題名とマクミラン作品ということから,かなり暗い内容を予想していったのですが,楽しげに踊る友人たちに少女も加わったりして,割合穏やかな感じの作品でした。そのかわり,劇的な盛り上がりなどはなかったので,ちょっと肩透かしの感じもしましたが・・・。

主役の島添さんがとてもよかったです。
柔らかな動きで,その時々の少女の気持ちを表現していました。孤独感だったり,はしゃいでみたり,ほのかな恋愛感情だったり,そして,やっぱり最後は1人に戻る・・・。
衣裳もオールドローズの濃淡の短めのチュチュで,いい雰囲気。

しかし,彼女以外の衣裳はひどい。
たぶん英国で上演されているのと同じなのだと思いますが・・・。
英国系の装置や衣裳はとてもすてきなことが多いですが,私には理解できかねるようなものもたまにあります・・・K−Balletの『ラプソディー』とか・・・。
今回のも「とほほ」なもので,私は,作品の雰囲気に浸るのを妨げられました。こういう衣裳を日本人ダンサーに着せてはいかん!! と強く主張したいです。

女性は,髪型と衣裳の感じがベリスキー版『カルメン』のよう。(ヴィシニョーワがローザンヌ・コンクールで着ていたモノを想像してください) そして,とてもプロポーションが悪く見えるの・・・。
同じ方々が『2羽の鳩』では皆さんきれいに見えましたから,衣裳のせいとしか考えられない。あれじゃダンサーがかわいそうだわ・・・。

男性のほうは,ブルー系のユニタードで,菱形の模様が入っている・・・。
菱型がピエロを連想させるのは,それにより楽しさを演出する効果を狙っていたのかもしれませんが,私にはダサイとしか見えませんでした。そして,身体の線がはっきり出たときに美しくないのはダンサーの問題かもしれませんが,でも,そういうダンサーが多く出演する以上,それをカバーするような衣裳にするのが,サービス業としてのバレエ公演のあるべき姿なのではないでしょうか?

・・・というわけで,その他のダンサーについては「いいも悪いもあったもんじゃない」という心境ですが・・・島添さんとパ・ド・ドゥを踊った中尾さんはまずまずでした。
(衣裳の色が割合暗めだったのもよかったのかもしれませんが)プロポーションも悪くなく,優しげな雰囲気があって,初恋の感じにふさわしかったです。サポート中心ですからどれくらい踊れる方かはわかりませんでしたが,笑顔がかわいらしかったしー。(←おばさん入ってますかね?)

 

2羽の鳩

振付: Sir.フレデリック・アシュトン

ステイジド・バイ: ジュリー・リンコン

作曲: アンドレ・メサジュ

美術: ジャック・デュポン

少女: 吉田都  若者: パトリック・アルモン

ジプシーの女: 大和雅美  その恋人: 原田秀彦  近所の女性: 赤池美恵子  ジプシー・ボーイ:徳江弥

 

(私の理解した)あらすじ
1幕:
恋人どうしの若者と少女の間に小さないさかいが起きる。少女も彼女の友人たちも何とか修復しようとするが,かえってすれちがうばかり。ジプシーたちが登場(経緯不明。関係修復のきっかけになるかと,踊りを見るために呼んだのかしらん?)。若者はジプシーの女に惹かれる。少女は不安になって,ジプシーたちを追い払う。これが若者の逆鱗に触れて,彼は家を飛び出す。悲嘆に暮れる少女・・・。
2幕:
若者はジプシーの群れを訪れ,魅力的なジプシー女に再会する。踊りまくるジプシーたちと若者。しかし,ジプシー女には恋人がおり,若者を弄んだだけのこと。結局彼はジプシーたちに袋だたきにされ,放り出される。家に帰り着くと,少女が彼を待っていた。2人は,愛を再確認するデュエットを踊る・・・。

 

吉田さんがすばらしかったです〜〜♪
軽やかな脚さばきと雄弁な上半身,くるくると変わる顔の表情と達者なお芝居で,それはもう見事。
お茶目だったり,恋人の様子に戸惑っていたり,いじらしかったり,ライバルに敵愾心を燃やしたり・・・とってもキュートでチャーミング♪ お姫さまや妖精だけではなく,等身大の女の子を踊っても,こんなに上手なのね〜。
1幕でジプシー女と張り合って,彼女のマネをして踊るところには大笑いしました。しかも,そういう笑いをとる場面なのに,決して品を失わないのがすばらしい!!
そして,出ていってしまった恋人を思って悲しんでいる姿や最後に戻ってきた彼を静かに迎える様子はしっとりとした雰囲気があってすてき。
う〜ん,格が違うわぁ・・・という感じでした。

アルマンさんは,踊りは少々重いものの安心して見ていられますし,お芝居も上手ですが・・・この役は,恋人には怒ってばかりですし,ジプシー女にいいように扱われるという役だから,魅力的に見せるには,少年の自負心とか幼さとか・・・つまり「かわいげ」が必要なような気がします。彼では大人に見えすぎて,性格の悪い勝手な男に見えてしまうのよねえ。ハッピーエンドを見ながらも「今のうちに,こんな男とは別れたほうが・・・」と意見したくなってしまいましたよ。

ジプシー女を踊った大和さんは,こんなに踊れる方だったとは! と失礼ながらびっくり。ちょっとポアントが弱い感じはしましたが,吉田さんと張り合う場面など,一歩も引かない存在感で楽しませてくれましたし,全体的にも動きにいきいきとした魅力があって感心しました。
ただ・・・ほんとうは,この役は「一歩も引かない」では足りないのだろうと思います。少女を上回る「魔性の女」の磁力・・・危険な香りの女性的魅力とか野性味とか・・・が必要なのではないかなー? その点で彼女はかわいらしすぎたような・・・。

同じことはジプシーたちの踊りにも言えて,満艦飾の衣裳で舞台いっぱいに広がってそれなりに楽しませてはくれるのですが,女性陣は色気が,男性陣は迫力が足りないので,場面全体が盛り上がりに欠けました。
もっとも女性はトウシューズでの踊りでしたし,振付のせいもあったのかもしれません。アシュトンの作品をそんなにたくさん見ているわけではないですが,凶々しさとか情熱とは縁がなさそうですものねえ。

対照的に,1幕での少女の友人たちはよかったです。
上品なパステルカラーの長めのチュチュが似合って,動きも軽やかで「若い娘たちの群れ」らしさが出ていました。青年の絵を見て笑ってしまうお芝居なども上手。(よほどヘタな絵なのでしょうねえ。画家としての将来には期待が持てないと思うから,やっぱり別れたほうが・・・笑)

そうそう,1幕で黒っぽい衣裳の大人の女性が登場して,恋人たちの和解のためにいろいろ気を配ります。てっきり少女か若者のお母さんだと思っていたのですが,プログラムの表記は「近所の女性」なの。ホントかなー???

 

全体としては・・・満足したとはいいかねます。
2年ぶりに吉田さんの見事な踊りを見られたので,チケット代分は楽しませてもらいましたが,交通費は惜しかった。

『ソリテイル』はひとえに衣裳のせい。
『2羽の鳩』のほうは・・・乱暴な言い方をすれば「痴話げんかがこじれたが元の鞘におさまる」というストーリーそのものが私向きではなかったこともあると思いますし(波乱万丈のドラマチックなバレエが好きなの),吉田さん以外の出演者が「おおっ」と思わせてくれなかったせいもありますね。
まあ,波乱万丈すぎる上に「おおっ」の連続だったボリショイの『スパルタクス』後遺症もあったとは思いますが・・・。

(02.11.7)

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