ホフマン物語(牧阿佐美バレエ団)

サイト内検索 02年一覧表に戻る 表紙に戻る

02年10月6日(日)

ゆうぽうと簡易保険ホール

 

演出・振付: ピーター・ダレル

作曲: ジャック・オッフェンバック
編曲: ジョン・ランチベリー

ゲスト・コーチ: 大原永子(OBE)

美術: アリステア・リビングストン

音楽監督・指揮: 堤俊作

管弦楽: ロイヤル・メトロポリタン管弦楽団

ホフマン: 逸見智彦   

ステラ: 橋本尚美   オリンピア: 橘るみ   アントニア: 柴田有紀   ジュリエッタ: 平塚由紀子  

リンドルフ/スパランザーニ/ミラクル医師/ダペルドゥット: 相羽源氏

【プロローグ・エピローグ “ラ・ステラ”】

ステラのメイド: 土田さと子,  ランドロード: 加茂哲也

女給: 大畠律子, 金澤千稲, 岩本桂

ホフマンの友人: アルタンフヤグ・ドゥガラー, 邵治軍, 菊地研

学生達:
櫛方麻未, 奥田さやか, 渡辺悠子, 駒崎友紀, 竹下陽子, 青山季可,
岡田幸治, 徳永太一, 武藤顕三, 三國典央, 笠原崇宏, 中島哲也

【第1幕 “オリンピア”】

召し使い: 保坂A.慶, 今勇也

ゲスト:
鈴木規緒美, 酒向葉子, 櫛方麻未, 小橋美矢子, 笠井裕子, 柄本奈美, 貝原愛, 竹下陽子
飯田伊奈美, 岡田幸治, 山本成伸, 塚田渉, 秋山聡, 武藤顕三, 徳永太一, 三國典央

【第2幕 “アントニア”】

アントニアの父: 本多実男

パ・ド・シス: 大畠律子, 金澤千稲, 岩本桂,  アルタンフヤグ・ドゥガラー, 邵治軍, 菊地研 

10カップル:
坂西麻美, 鈴木規緒美, 飯野若葉, 山井絵里奈, 奥田さやか, 笠井裕子, 加藤裕美, 坂梨仁美, 山中真紀子, 青山季可
山内貴雄, 飯田伊奈美, 山本成伸, 塚田渉, 秋山聡, 保坂A.慶, 徳永太一, 今勇也, 三國典央, 笠原崇宏

アントニアの影: 竹下陽子

【第3幕 “ジュリエッタ”】

パ・ド・カトル: 大畠律子, 坂西麻美,  塚田渉, アルタンフヤグ・ドゥガラー

10カップル:
金澤千稲, 鈴木規緒美, 土田さと子, 酒向葉子, 飯野若葉, 山井絵里奈, 笠井裕子, 坂梨仁美, 山中真紀子, 山口恵理子
山内貴雄, 飯田伊奈美, 山本成伸, 秋山聡, 保坂A.慶, 今勇也, 邵治軍, 菊地研, 徳永太一, 阿南誠

 

12年ぶりの再々演。前回も見たのですが,おおまかな筋くらいしか覚えていない状態で見にいきました。

(なお,↓の《 》内のあらすじは,覚えている範囲で書いているので,記憶違いや勘違いが入っているかもしれません。悪しからず。)

 

プロローグ “ラ・ステラ”

《初老の詩人(←たぶん)ホフマンは,居酒屋で恋人のオペラ歌手ラ・ステラを待っている。彼女が現れ彼への手紙を言付けるが,市会議員リンドルフ(実は悪魔)がその手紙を取り上げてしまう。ホフマンは友人たちに求められて,過去の恋愛遍歴を話し始める。》

 

逸見さんは老け役が上手でした。白髪混じりの髪とあごひげに違和感がないし,膝をちょっと曲げて背中もちょっと丸めてゆっくりと動く姿は,キャストを知らなければ彼だとはわからないかも。
相羽さんのほうは,老けるというより気味の悪い感じに塗って描いていたので,なるほど,こういう行き方もあったかと感心。
踊れるベテランをそろえた女給3人は,さすがに達者。

短いソロもある友人3人は,蒙中日3国と国際的ですねー。このバレエ団がアジアのダンサーにとって働きたいバレエ団であるのがめでたいような,生粋の若手男性ダンサーがさほどでないのかと考えると困ったような,微妙な心持ちになりました。
(たぶん一番年長の)邵さんが一番見せてくれました。アルタンフヤグ・ドゥガラーさんは,(アーガイルのセーターなんか着ているのに)雰囲気がノーブルで王子に向きそうな感じ。菊地さんは,印象的でスター性があるし,芝居心があると思うけれど・・・もう少し踊りでおおっと思わせてほしいなー。(←デビューがすごすぎたから期待値高すぎ?)

 

1幕 “オリンピア”

《人形師スパランザーニ(実は悪魔)がホフマンに魔法の眼鏡をかけさせると,自動人形オリンピアが可憐な少女に見える。彼は彼女への恋に落ち,結婚を申し込む。スパランザーニの許しを得たホフマンは人々の嘲笑を受けながら彼女と踊るが,最後には人形は彼の手の中でバラバラに崩れ落ちる。←最後のあたり,記憶不確か》

 

ちらしで白いカツラをかぶった正木亮羽さん(悪魔役の初日キャスト・・・休演したそうですが)の写真を見て「ううむ,困った・・・」と思っていたのですが,相羽さんと召使い2人は白塗りに頬に赤い円を塗って登場したので,愛嬌があってよかったです。踊りも,ぴょんぴょんとはねる感じで,かわいらしかったわ。
逸見さんは,白皙の美青年の趣で登場。プロローグとの落差が大きくて効果的。
橘さんは主役級は,たぶん初めて。小柄なのでこういう役には合っていると思いましたが,私には人形振りのよしあし(というか魅力)がよくわからないので・・・。

 

第2幕 “アントニア”

《ピアノ教師の娘アントニアは心臓が弱いのに恋人ホフマンのピアノに合わせて踊りはしゃぐので,心配した父はホフマンを去らせ,医師を呼ぶ。ミラクル医師(実は悪魔)は,アントニアに催眠術で自分はバレリーナだと思い込ませる。夢の中でチュチュ姿になったアントニアはホフマンと美しく踊る。現実に戻ったアントニアは訪れたホフマンにピアノを弾くよう願い,踊り始める。ミラクル医師はホフマンにピアノを弾き続けるように強い,彼女は踊りをやめることはできない。アントニアはついに死を迎える。》

 

ちょっと『ジゼル』を思い出しました。特に,アントニアが胸をうっと抑えたり,最後かけつけたお父さんがホフマンを突き飛ばして娘を抱きしめるところとかで。
でも,『ジゼル』に比べるとお話自体がアホくさいので(失礼ですみません・・・)感動は薄かったなー。

(チュチュに着替える都合上「アントニアの影」のダンサーも使って)暗い舞台の奥で段々と夢の世界に入っていくところ,そして段々ともといた部屋に戻ってくるシーンが印象的。
夢の中のシーンは,アントニアの衣裳が黒っぽいなど華やかさがあまりなくてちょっと不満。英国的な落ち着きと考えるべきかもしれませんが。

柴田さんは,お嬢さまの雰囲気がありますから,中流階級風のオフホワイトのドレスが似合いますし,チュチュのシーンも,最近主役が多いだけあって,堂々としていました。もう少し柔らかい感じがあったほうが,私は好きですが。
相羽さんは1幕とうってかわって不気味な感じの存在感があり,これもよかったです。

逸見さんは,幻想の中では「普遍的な王子さま」なのがよかったですが,サポートは今ひとつ。いや,今ふたつ。
それから・・・ピアノの弾き方を練習してほしいですぅ。もちろん実際に弾いていないのは誰にでもわかるわけですが,もう少しそれらしくしてほしいなー。
でも,現実に戻ったあと,無理矢理ピアノを弾かせられるシーンが色っぽいのなんのって・・・。きゃああ,のけぞる首筋がたまらないわ〜♪♪ というコトで,今回の私にとっての白眉はこのシーンでした〜。(笑)

 

3幕 “ジュリエッタ”

《今では宗教に帰依したホフマンがダベルトゥット(実は悪魔)の背徳のサロンを訪れる。人々の誘惑にも動じないホフマンだが,高級娼婦ジュリエッタが現れ,彼の胸の十字架を奪い,捨て去る。タベルトゥットと人々は,ホフマンを嘲笑う。苦悩の末,彼は床に落ちていた小道具(←名称不知。短い柄の先に羽毛か何かが植えてある)の柄の部分を十字の形に組み合わせて人々に突きつける。人々は逃げ散り,ダベルトゥットとジュリエットも消え失せる。》

 

ええとですね・・・なんと申しましょうか,ツッコミどころ満載の幕で・・・。いや,演出振付の故ダレルさんとかバレエ団の皆さんにはたいへん申し訳ないですが,笑っちゃったわよ。

まず,牧師のようないでたちのホフマンが,なぜこのようないかがわしい場所に現れたのかが不審ですー。(オペラを知っていればわかるのか?)

次に,男性コール・ドで早速ガウンを脱ぐ方といつまでも脱がない方がいる,さらに,脱いだあとの上半身が裸の方と何か着ている方とがある・・・のは,身体に自信があるかないかの違いなのかしら〜?(笑)

そして・・・短い柄で十字架の形をつくると人々が恐れおののくという光景には・・・この人たちって,もしやドラキュラ???(大笑い〜)
いや,マジメな話をすれば,プログラム掲載のあらすじによれば,ホフマンはジュリエッタの誘惑に負けていったん信仰を捨てるらしいんですよ。でも,この演出振付では,ジュリエッタがホフマンの隙をついて十字架を引きちぎったようにしか見えない。
で,これもプログラムによれば,ホフマンが神に許しを乞い,救われるらしい。それを踊りなり芝居なりで表現するのはたしかに難しいでしょうが,だからといって,十字架を形づくるというあまりに即物的な表現というのは・・・まるでマンガのよう。(とほほ)
決してコメディではなく,恋愛を通して1人の男の人生遍歴を表現する作品なのでしょうから・・・演出の大失敗だと思いますねえ。

暗く光る衣裳のコール・ドの踊りは魔窟めいた雰囲気がまずまず出ていましたが,相羽さんのユル・ブリナーみたいないでたちは,さすがに苦しい。(ごめんなさい。ほら,彼って,かわいい感じのハンサムだから・・・)
懊悩する逸見さんの熱演も,↑のような事情があるので,感銘には至らない。

あ,平塚さんはたいへんよかったと思います。
桃色のお下品な衣裳が娼婦らしく,しかもその派手な色に負けない美しさと存在感♪ 妖艶とまでは言えないかもしれませんが,妖しげな感じは十分出ていましたし。

 

エピローグ “ラ・ステラ”

《語り終えたホフマンは,酔いのため眠ってしまう。恋人ラ・ステラが現れるが,酔いつぶれた彼の姿と丸めて捨てられた自分の手紙(←リンドルフの仕業)を見つける。ホフマンに失望した彼女はリンドルフの申し出を受け入れ,2人は腕を組んで去る。目覚めたホフマンは事情を悟り,1人立ち尽くす。》

 

最後,ホフマンが1人で舞台に残ってのシーンは,少々長く感じました。
これについては,演出が悪いというより,逸見さんの表現力の問題だったのかもしれません。

相羽さんの役について「実は悪魔」と書いてきましたが,ちらしなどでは「宿命の敵」とか「影の男」と表記されていることもありました。深読みすれば,ホフマン自身の弱さや愚かさの象徴なのかもしれません。
ですから,過去の逸話にすぎないと思っていたことを自分がもう1度繰り返したと知る・・・自分の弱さや愚かさを改めて知り,立ち尽くす・・・そんな場面かと思ったのですが・・・ううむ,残念ながら,そうは全然見えなかったです。
でも,それはこちらの考えすぎかもしれませんし,ひゅるるー,と寒い風が吹き抜けていくような索漠とした感じがあったのは,とてもよかったと思います。(ほんとに老けた様子が上手だわ〜。)

 

全体としては,珍しいモノを見られたのはよかったけれど,そんなに優れた作品とは思えないというか,広く世間に知られている作品でないのは無理もないというか・・・。
(前日のボリショイ・バレエ『スパルタクス』2回のせいで)こちらがかなり疲れていたせいもあったのでしょうが,それを覆して「とってもよかったわ〜」と思えるほどの作品・上演ではなかったようです。

(02.10.16)

サイト内検索 上に戻る 02年一覧表に戻る 表紙に戻る

04.01.01から