スパルタクス(ロシア国立ボリショイ・バレエ団)

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台本: ユーリ・グリゴローヴィチ
史実ならびにR.ジョヴァニョーリの小説に基づく/N.ヴォルコフの台本を改編
1968年初演

振付: ユーリー・グリゴローヴィチ

音楽: アラム・ハチャトリアン

美術: シモン・ヴィルサラーゼ

指揮: パーヴェル・ソロキン

演奏: ボリショイ劇場管弦楽団

     マチネ    ソワレ
スパルタクス ユーリー・クレフツォフ ドミートリー・ベロゴロフツェフ
クラッスス ドミートリー・ルィーフロフ ウラジーミル・ネポロージニー
フリーギナ エレーナ・パーリシナ アンナ・アントーニチェワ
エギナ マリーヤ・アラシュ ナデジダ・グラチョーワ
剣奴 アレクアンドル・ペトゥホフ ルスラン・プロニン
道化 セルゲイ・アントノフ,ヴェチェスラフ・ゴルピン,キリル・シュレポフ,アレクサンドル・プシェニツィン,
オクサナ・ツヴェトニツカヤ,オリガ・スヴォーロワ,アナスタシヤ・ヤゼンコ,ナターリヤ・マランディナ,リュボーフィ・フィリポワ,エカテリーナ・シプリナ
牧夫 アンドレイ・エフドキモフ,ゲンナジー・ヤーニン,ルスラン・プロニン,ゲオルギー・ゲラスキン,アンドレイ・メラニン,アレクセイ・ポポフチェンコ,アレクサンドル・ペトゥホフ
女羊飼い ユリア・チチョワ,スヴェトラーナ・グニェドワ,マリーヤ・プロルヴィチ,イリーナ・セレンコワ,ニーナ・カプツォーワ
娼婦 リュボーフィ・フィリポワ,オリガ・ジュールワ,ナターリヤ・ノヴィコワ,エレーナ・ドルガレワ,アナスタシア・ヤゼンコ,アンナ・アントロポワ,アンナ・レベツカヤ

02年10月5日(土) マチネ 

東京文化会館

 

いやー,よかったです〜〜。
さすがはボリショイ♪ さすがはグリゴローヴィチ男性路線の精華♪♪

骨太なストーリー,迫力ある男性群舞,主役4人のキャラクターの明確な違い,勇壮な跳躍と派手なリフト・・・25分の休憩2回をはさんで3時間半近い舞台でしたが,モノローグ(つまりソロですね)を使用したスピーディーな舞台転換も多く,全然あきませんでした。
(あ,2幕のクラッスス邸での宴会は,女性群舞の踊りが多かったせいか,ちょっとだけ長く感じました。もしや,観客があきるくらい延々と宴会なんかしているからスパルタクス軍に負けるのだな,ローマ軍はたるんでいたのね,という説得力が狙いだったとか?←まさか

 

クレフツォフは,以前全幕のロミオ(グリゴローヴィチ版)とコンラッド,「世界バレエフェスティバル」を見たことがあり,私にとっては「不満はないがおおっと思うこともない」ダンサーだったのですが,今回は「おおおおおおっ」と思いました。
人間を信じる理想主義者のスパルタクスという感じでしょうか,望郷の思いや仲間を殺してしまった苦悩,蜂起の決意の高揚感,フリーギアへの愛,信じていた同志の離反への悲しみと敗北を予感しながら最後の戦闘に臨む悲壮感など,各場面での表現が明確で魅力的。
さらに,2幕の最後でクラッススを解放するシーンでの表現は,人格の高潔さを感じさせて,勇猛なだけの男ではなく,奴隷に身を落とす前は高貴な身分だったのではないか(あるいは,人間の貴賎は出自ではない)と思わせてくれました。
あまり身長が高くないせいもあるのでしょうか,跳躍の高さや迫力などは驚くほどではなかったですが(←立派ではあった),リフトは,それはもうすごかった〜〜♪♪ パートナーが(たぶん)いつも組んでいるパーリシナに替わったのもよかったのでしょう,ものすごく難しいと思うのに,全然はらはらさせてくれないの〜。(夜の部も同じ振付だと思うのですが,スムーズさに若干欠けた分より難しいコトをやっているように見えて,拍手がより大きいという矛盾があったような・・・笑)

初めて見るルィーフロフは,背が高く胸板が厚くてローマ彫刻のような立派な体格。なるほどこれはローマ貴族だわ,と思わせてくれる押し出しのよさがあり,尊大な統治者らしさのある悪役でした。
ただ・・・技術的には非常に不満です。全体に重いというか・・・。最初に両脚をそろえて跳躍して空中で身体をそらす動きを見た瞬間(ごめんなさいね)「なんなんだ,このヌルさは!!」と怒りたくなりました。高さもないし,反りも足りないのよ。2幕の冒頭での男性群舞(剣奴たち)のほうがよっぽどこの技では優れていたような気がする・・・。

アラシュも初めて見るダンサーですが,顔立ちが派手な美人ですし,力強いですねー。大柄なので,ルィーフロフとはいいコンビ。
1幕の宴会での踊りも迫力がありましたし,3幕1場だったでしょうか,ローマ軍が脚を前に蹴り上げながら舞台を斜めに行進して出陣していくシーンでは,最後に進む彼女の蹴り上げが一番力強くて頼もしそうなので,ちょっと笑いながら感心してしまいました。(実際一番頼りになったのは彼女なわけだしー)

パーリシナは,けっこうベテランだと思いますが,たぶん見るのは初めて。登場直後は「地味では・・・」と思いましたし,ソロなどは特に印象的というほどではなかったのですが,見ているうちによさがわかってきました。
クレフツォフとのパートナーシップを理由にキャスト変更をしたというのが頷けるというか・・・。リフトでのパートナリングはもちろんですが,それ以外のシーンでも見事にイキがあっていて,フリーギアとスパルタクスの間の愛や信頼が同志的な関係にさえ見えました。
それもあって,ラストシーンは感動的。突き上げてもみ絞る腕の動きや夫の身体に駆け寄り,信じたくないかのように後ずさる動きなどから伝わってくる嘆きの見事な表現! そして最後,同志に高く掲げられたスパルタクスの死体の後ろで両腕を高く差し上げ,遠くを見つめるシーンは,愛する夫の死を悲しみながらも,彼の志は永遠であることを周りにも観客にも信じさせる名演だったと思います。(かりにソビエト社会主義全盛時に見ていたら,イデオロギー的すぎると感じたかもしれないくらい,説得力がありました。)

 

全体としては,クレフツォフが小柄(というほどではないが)でハンサム,ルィーフロフが大柄の悪役タイプという対照もあり,善悪の対立が明確な印象。男性コール・ドもたいへんたいへん迫力があり,「ああ,ついにこの有名な作品を見られたわ〜」という個人的感慨も含めて,とても印象的な舞台でした。これでクラッススの踊りがもっとキレていたら・・・とは強く思いましたけどー。

(02.10.20)

 

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スパルタクス(ロシア国立ボリショイ・バレエ団)

 

02年10月5日(土) ソワレ 

東京文化会館

 

2回見ても,やっぱりよかったです〜。というか,ますますよかったです〜〜。

男の世界だわっ! かっこいいわっ!! 血が騒ぐわっ!!!

 

ベロゴロフツェフについてはだいぶ前にロミオ(ラブロフスキー版)を見て「脚がきれいで少年っぽいダンサー」というイメージを持っていたので,「??スパルタクス??」と思っていましたが,いやー,僭越な言い方ですが,ダンサーって成長するのねえ。
無精ひげを描いていたのでしょうか,精悍な感じのお顔で,身体も立派(クレフツォフほど厚みはないが)。うーん,いかにも抵抗運動の指導者みたいだなー,と思いました。
踊りは,長い手脚で迫力があり,これがカリスマ的な求心力の表現になっていたと思います。そして,跳躍が高い♪♪ 1幕の最後,舞台を斜めに一直線に進むグラン・テカール(←プログラムにそう書いてありました。空中で両脚を前後水平に開く跳躍)の連続などは,4階席から見ていても「うわっ」と声をあげたくなるくらいの高さでした〜。
最後に覚悟を決めて両手の短剣を捨てたクレフツォフと違って(その武士道的潔さもステキだけれど),最後まで闘う意志を捨てず,槍で突き上げられた空中で力尽きて剣を落とし,しかもかなり斜めに身体を向けて(つまり美しく正面を向くのではなく)死を迎えるシーンには感動しました。(もっとも,もしかして,リフトの失敗による怪我の功名ではないかという気もしないではないけれど・・・どうなんでしょ?)

主役級では初めて見るネポロージニーのクラッススは,「貴族のお坊ちゃま」でございました。細身の長身で美しいので,うす汚れ系メイクのベロゴロフツェフと対照的に見えて効果的。
威風は少々足りないのですが,それも,こういう世襲貴族が統治する国はロクなものではなかろうと思えますし,2幕でスパルタクス軍に遅れをとるのにも説得力があります。そして,エギナの愛の力(←ちょっと違うか?)で立ち直って,立派な将軍に成長したわけですねー。めでたし,めでたし。(←だいぶ違うか?)
踊りは見事。跳躍の高さもあって,きれいでした。敵役と考えれば線が細すぎるような気もしますが,人の上に立つ立場だと考えれば,気品があってよかったです。何より,テクニックで見せてくれたので,私はたいへん気に入りました。

グラチョーワは(スターですから,今まで何を見たかをイチイチ書く必要はないですね),それはもう印象的でしたー。

妖艶な演技と,妖艶な踊りと,妖艶な衣裳と,妖艶なメイクと,妖艶な存在感!!

クラッススとの関係では,完全に主導権はエギナにあって,3幕の冒頭で落ち込むクラッススを叱咤激励する様子は,いやー,はっきり言って怖かったですー。スパルタクスの同志をたらし込むところの演技はかなり濃厚で,これでは戦意喪失するのも誠にもっともだなー,と大いに感心。
踊りは少々重かったと思いますが,開脚しながら腰を床まで落としていく動きなどは,身体の柔らかさを生かして存分にゆっくりと見せてくれました。

アントーニチェワについては,ジュリエット(ラブロフスキー版)やニキヤなどを見たことがありますが,私には苦手なバレリーナです。彼女の首や肩の使い方は,私には「シナを作っている=男に媚びている」ように見える。でも,フリーギアに関しては,それが「情の深さ」に見え,ひたすらスパルタクス一人に頼っている感じにつながって,よかったです。
手脚が細くて長いので,ソロもリフトされているときも,振付が非常に効果的に見えました。
ただ,スパルタクスの死後のシーンは,「・・・」でした。パーリシナと同じ振付だと思うのに,どうしてこれほど違う印象を受けたのかわからないのですが・・・大騒ぎしすぎというか・・・(ごめんなさいね)そらぞらしく見えました。ですから,ラストシーンも感動できなくて・・・ううむ・・・やっぱり好みの問題なのでしょうかねえ?

コール・ドは,昼夜2回ということでやはりお疲れだったでしょうか? 主に男性群舞に,あちこちで動きが遅れる方や隊列の乱れが・・・この作品がどの程度コール・ドの統率を必要としているのかわかりませんし(多少ズレても戦闘シーンの迫力は出ますよね),こちらが2回目で目が慣れてきたせいもあったかもしれませんが・・・。

 

主役4人は各幕とも出演しているのに,その都度カーテンコ−ルがありました。特に,2幕のあとは,クラッスス・スパルタクスがそれぞれ自らの陣営とともに気勢をあげる(?)というモノで,かっこよかった〜♪ (で,エギナは参加するけれど,フリーギアはやらないの)
それから,カーテンコ−ルの登場順が,フリーギア→エギナ→クラッスス→スパルタクスとなっていて,そうか,この作品での重要度(?)はこういう順番なのか,などという勉強もできました。

長い作品でしたので,昼夜2回連続はかなり疲れましたが,ほんとうにいい作品のいい上演で,それはもう堪能しました。
なかなか上演されるものではないだけに,2回見られてよかったです。う〜ん,満足,満足♪♪

 

(02.10.24)

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