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こうもり(新国立劇場バレエ団)

 

02年9月22日(日)・23日(祝)・28日(土)・29日(日)

新国立劇場オペラ劇場

 

振付: ローラン・プティ

音楽: ヨハン・シュトラウス2世
編曲: ダグラス・ガムレイ

振付指導: ルイジ・ボニーノ
振付指導補佐: ジャン・フィリップ・アルノ

舞台美術: ジャン=ミッシェル・ウィルモット
衣裳: ルイザ・スピナテッリ
照明: マリオン・ユーレェット, パトリス・ルシュヴァリエ
舞台美術・照明補佐:ジャン=ミシェル・デジレ
舞台美術アシスタント: フランソワ・ドール

指揮: デヴィッド・ガルフォース
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団

  9月22日 9月23日 9月28日 9月29日
ベラ アレッサンドラ・フェリ 草刈民代 真忠久美子 湯川麻美子
ヨハン マッシモ・ムル 山本隆之 森田健太郎 山本隆之
ウルリック ルイジ・ボニーノ 小嶋直也 吉本泰久
メイド 楠元郁子 鳥海清子
グランカフェのギャルソン 奥田慎也,マイレン・トレウバエフ,グリゴリー・バリノフ
フレンチカンカンの踊り子 大森結城,西川貴子,前田新奈
チャルダッシュ マイレン・トレウバエフ
遠藤睦子,西山裕子,鹿野沙絵子,川村真樹,鶴谷美穂,丸尾孝子
警察署長 ゲンナーディ・イリイン
ウインナワルツ 大森結城,西川貴子,前田新奈,奥田貴子,鹿野沙絵子,川村真樹,神部ゆみ子,岸川章子,北原亜希,楠元郁子/鳥海清子,鶴谷美穂,深沢祥子,堀岡美香,丸尾孝子
市川透,奥田慎也,陳秀介,冨川祐樹,マイレン・トレウバエフ,井口裕之,貝川鐵夫,佐々木淳史,澤田展生,高木裕次,カール・テーラー,冨川直樹,内藤博,中村誠
ヨハン(歌) 樋口達哉

 

たいへん楽しめる作品でした。
名作とか傑作というようなモノではないと思いますが,一度は見るといいわよ〜,ハズレはないわよ〜,とお友だちに勧めたい感じ。プティさんは,やっぱり名人ですね〜♪

装置も衣裳も現代的でおしゃれだし,照明もすてき。特に,仮面舞踏会の「仮面」が「お面」だったのは,「おおっ」でした。

上演のほうですが・・・何しろ作品の中心がナイトクラブと仮面舞踏会だというので,「雰囲気出せるのか???」と危ぶみながら見にいきました。そして,「なかなかやるじゃん」と思えて,とても嬉しかったです。
本格派(?)ではなくプティ風の軽い味わいにしてあったのもよかったのでしょうが,(外国人以外は)全員黒髪の男性コール・ドが,総じておヒゲと燕尾服が似合っていてかっこよかったのには感激したわぁ。

以下,見た順番に。(踊りの名前は,一部勝手に命名しておきました。)

 

22日(初日) 「フェリとボニーノの名人芸に感心する」の日

フェリさんは,ドラマチックな役だけではなく,コメディも上手なのですね〜。
最初,垢抜けないブルーのドレスに赤毛のカツラで登場。(あら,髪を染めたんだわ,でもあまり似合わないわね,と見事にだまされてしまった・・・。)子どもたちやメイドとのやりとりや歩き方などに,なにか不満を抱えた専業主婦の雰囲気があってお見事。ウルリックを電話で呼び出すシーンなどは「おばさんの押しの強さ」の趣さえあって,笑いながら感心してしまいました。
そして変身した瞬間の美しさ! (ロングドレスだとばかり思っていたので)ビスチエ風の衣裳と黒の短い髪型に仰天したせいもあったかもしれませんが,ポーズと視線が見事に決まって,まるで別人でした〜。 
衣装がよく似合って,ソロも男たちに囲まれての踊りも魅力的でしたが,最後のヨハンとのパ・ド・ドゥはちょっとつまらなかったかしら・・・。彼女はレオタ−ドはあまり似合わないみたいですし・・・。こちらが初見で場面の意味を量りかねたせいもあったかもしれませんが,残念でした。

予想通りのチャップリンメイクで登場したボニーノさんがまた,「さすが」としか言いようのない名人芸。お芝居のタイミングがうまいですよねー。
軽妙な演技で,何をやっても笑わせてくれるというか,出てきただけで笑ってしまう身体の表情の見事さ! さらに,お話全体を支配しているかのような(実際そうだとも言えるわけですが),存在感にも感嘆しました。

この2人に比べると,ムルさんは影が薄いというか不利というか。(笑)
細身の身体,顎にも髭を描いてチェーザレ・ボルジアのように不穏な雰囲気のかっこよさなのですが,踊りも表現もさほどではない。
まあ,ゲストだと思うから物足りないのであって,初役のダンサーとしては立派だったと言うべきでしょう。笑顔で踊る最後のワルツは,黒い燕尾服が似合って(やっぱりどの日本人ダンサーよりも似合っていたと思う)すてきでした。

 

23日 「小嶋さんが踊ってくれて幸せ〜♪」の日

草刈さんは,ううむ・・・きれいですし,古典作品と違ってテクニック不足も気にならないし,男たちにちやほやされるシーンでの貫禄はさすがですが・・・夫に想いを寄せたり,ウルリックに窮状を訴えたりするシーンの表情が,(ごめんなさい)「男に媚びている」ように見えてしまって,私は好きになれませんでした。

山本さんは,かっこいい上にのほほんとした雰囲気があるので,しょーもない夜遊び亭主がよくお似合い。
踊り自体はムルさんほど上手ではないのですが,劇場専属だけあって練習が十分だったのでしょう,振付の面白さが出ていました。くどくどと訴える妻からやっと解放されての「さあ遊びに行くぞー」のソロの中に,肩から肘を水平にして肘から先を垂直方向と肩までの間で何回も上下させる動き(説明がヘタですみませんー)があるのですが,前日は「なんじゃ,こりゃ? 二枚目台無し」という感じだったのに,彼の動きは,ちゃんと「嬉しいなったら嬉しいな」と見える。
黒い衣裳もなかなか似合って夜の巷ではかっこいいですし,最終的に妻の掌の中におさまったのも,よくはまっていました。

半年ぶりに登場した小嶋さんは,「おもしろうてやがてかなしき」三枚目で,とてもよかったです〜。
ボニーノさんほど笑わせてくれるわけではないですが(←下手でもない),ベラに想いを寄せていて,その気持ちを抑えて尽くして報われない「男の純情」がとーってもすてき♪
これは,美男美女の草刈/山本と比べると風采の上がらない小男に見える(あわわ,私ったら,大事な王子さまになんてコトをっ)というキャスティングの妙もあったと思いますし,彼の表現力もあるでしょう。立ち方が,王子役のときとは違って,哀愁が漂って見えましたから。
そして,何より,踊れる強み。与えられた動きをきちんと自分のものにして踊っているから,振付の意図(この場合はユーモアとペーソス)が観客の前に現れるのだろうなー,と思います。
ものすごく難しそうな「ベラの変身」での踊り(←ボニーノさんとは振付が違っていたと思う。)は,軽くて速くて,もちろんきれいで,それはもう見事でした〜。
また踊ってくれて,ほんとうに幸せ〜♪♪♪

 

28日 「真忠さんの立派なデビューを喜ぶ」の日

コール・ドから大抜擢の真忠さんは,立派なデビューの舞台でした。
5人の子どもとのシーンがお母さんではなく住み込みの家庭教師に見える(笑)とか,表情が単調だとか,振付どおり踊っているだけで自分の見せ方になっていないとか,問題もありましたが,そんなコト言ってはいかんですよね。(←言ってるじゃん) 最初は,みんなそうだもの。
きちんと品よく踊っていて,技術的な問題はないように見えましたし,何より美しかったです〜。
プロポーションがよくて,目が大きいかわいらしい美人で,ビスチエもレオタードもドレスもぜーんぶ似合っていましたし,ヨハンとの愛のパ・ド・ドゥは,雰囲気があってすてきでした。

森田さんは,少々ミスキャストだったでしょうか?
ちゃんと5人の子持ちに見えましたし,踊りもそれなりで悪くなかったとは思いますが(おマヌケなフライングシーンは,彼が一番上手)・・・伊達男とはいいかねたような・・・。まあ,あとの二人がかっこよすぎたとも言えましょう。
熱い恋愛はお得意ですし,体格がしっかりしていてサポートが上手ですから,愛のパ・ド・ドゥがすてきだったのは,彼の功績が大きかったのかも。
何より,デビューの真忠さんを支えるには,最適なパートナーだっただろうと思います。

小嶋さんは,突如お芝居が上達したのか(←まさか),それともノリがよかったのか,この日はかなり笑えるウルリックでした。
ただ,メイクを白塗りっぽく変えて,髪も固めていたのが,(その工夫があったからより面白かったのかもしれないとは思いつつも)私としては残念。「たそがれたおじさん」の額に落ちる前髪に,妙な色気があったのにぃ。
踊りは(23日ほどの圧倒的なスピード感はなかったけれど)やはり見事♪ メイドとの「おそうじのデュエット」は,前回に増して軽やかで,楽しかったです〜。

 

29日(最終日) 「湯川さんの輝きに仰天する」の日

湯川さんは,プリンシパル級の役は踊っていますが,主役は初めて。
『シンデレラ』の仙女や『リラの園』の過去の愛人役で,存在感や表現力には定評がある方ですし,2月の『白鳥』のスペインなどで妖艶さを見せ,「最近特にきれいになったわ〜」と思っていたので,楽しみにしていました。
しかし,この日は,期待を大きく上回るすばらしさ♪ 正直に言って,びっくり仰天しました。

最初は良妻賢母の趣で登場し,品のいい美しさがすてき。さらに,重要な小道具である「はさみ」をさりげなく観客に印象付ける扱い方や先に寝てしまった夫にふてくされる演技,ウルリックを呼び出す電話のシーンでのコメディエンヌぶりには「上手だなー」と感心してしまいました。
変身後の姿の輝きにはびっくり♪ プロポーションでは真忠さんのほうが上だったかもしれませんが,「私が主役よ!」の迫力やソロの見せ方の印象的だったことはフェリさんに勝るとも劣らない。
そして,ヨハンとの踊りが,また見事でした〜。
顧られない妻としての最初のデュエット(大人の女〜)と変身してからの誘惑する踊り(妖艶♪)と牢屋の前の愛のパ・ド・ドゥ(慈母のような存在感)としょげて帰宅した夫を迎えてのデュエット(喜びの中にしてやったりの表情が怖い!)とラストのハッピーエンドのワルツ(純粋な幸福感)と,全部表情が違って,それぞれ魅力的。すばらしかったです〜♪♪♪

華という意味では4人のベラの中では一番地味かしらなんて思っていたけれど,とーんでもない,一番輝いていました。
ああ,ほんとにすてきだったわ〜。

山本さんは,23日よりいいできだったと思います。
「あらら」程度のミスは多少ありましたが,湯川さんの名演を受け止めて,あれだけ見せてくれれば文句はないです。特に,最後のワルツでの愛の溢れる雰囲気がすてきでした〜。

吉本さんもよかったです。小嶋さんより面白かったですわ〜。
本人は伊達男のつもりなのに,ハタからはそう見えないおかしさが秀逸。細かい動きに工夫があって,楽しませてくれました。(いやん,首は振らないでー)

 

メイドは,前半2日の楠元さんは「女中さん」の雰囲気。対する相手によって対応を変えていてうまい! 後半2日の鳥海さんは,「小間使い」風でかわいらしい。
2人とも,とても楽しいお芝居と踊りで,楽しませてもらいました。

それから,マキシムでの3人のギャルソン♪
レニングラード国立から移籍のトレウバエフさんは,やはりテクニックが強い。チャルダッシュのソリストも踊って大活躍でした。
奥田さんは,お尻の突き出し方がうまい。(笑) たぶん,振付が求める動きのニュアンスは,3人の中で一番出ていたと思います。
そして,バリノフさんはチャーミング。ロシアバレエすぎる(つまり,王子みたいに踊りすぎて少々浮いている)とは思うのですが・・・動きが一番きれいでした。

コール・ドは,日に日に動きがこなれて,よくなっていきました。ベラを囲む男たちの踊りでの表現がうまくなっていったのは,特に嬉しい。
それから,真忠さんの日は,森田,小嶋はじめ周りの全員が(そしてたぶん客席も)彼女を盛り立てているような舞台で,とてもとてもよかったです。

 

今回の公演は,こんなに楽しめるとは思っていませんでした。(プティ流の小粋さは,そんなに好きではないのよ,実は。)でも,ほんとに楽しかったし,感激しました。

特に,最後の湯川さんの「大化け」の舞台(または,培ったものが「花開いた」舞台)は,十数年のバレエファン歴の中でもめったにない貴重な体験。
(小嶋さんが出ているから行きがかり上そうなっちゃったのではあるけれど)このバレエ団をずっと見てきてよかったわ〜,と心から思える舞台でした。感涙。

うん,でもやっぱり,彼の復帰のほうが嬉しかったかしら〜。

 

(02.10.4)

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04.01.01から

このページの背景とこうもりのイラストは,こちらのサイトの素材を使わせていただきました。