メリー・ウィドウ(アメリカン・バレエ・シアター)

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02年9月21日(土)

東京文化会館

 

振付: ロナルド・ハインド
振付補佐: アネット・ペイジ, ジョン・ミーハン

制作・台本: サ・ロバート・ヘルプマン, ロナルド・ハインド
原台本: ヴィクトール・レオン, レオ・シュタイン

音楽: フランツ・レハール
編曲: ジョン・ランチベリー

装置・衣裳: デズモンド・ヒーリー
照明: マイケル・ウィットフィールド

指揮: デイヴィッド・ラマーシュ
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団

初演: 1975年11月13日 オーストラリア・バレエ(メルボルン)
ABT初演: 1997年6月6日 ニョーヨーク,メトロポリタン歌劇場

 

ハンナ・クラヴァリ(ポンテヴェドロの裕福な未亡人): ニーナ・アナニアシヴィリ

ミルコ・ツェータ男爵(駐仏ポンテヴェドロ公使): ブライアン・リーダー

ヴァランシエンヌ(公使夫人): イリーナ・ドヴォロヴェンコ

ダニロ・ダニロヴィッチ伯爵(公使館筆頭書記官): ホセ・マヌエル・カレーニョ

カミーユ・ド・ロシヨン(フランス人の公使館員): マクシム・ベロツェルコフスキー

ニエグシュ(公使の個人秘書官): エルマン・コルネホ

クロモフ(公使館の次官): カルロス・モリーナ
プリッシュ(公使館の次官): イーサン・ブラウン

ポンテヴェドロ人のダンサー: ホアキン・デ・ルース

マグダ(ポンテヴェデロの女性):アンナ・リセイカ
リュドミラ(ポンテヴェドロの女性): ヤナ・カン

マキシムの支配人: ホアキン・デ・ルース
怒っている女性客: サッシャ・ドマハウスキ
その友人: ケリー・ワデル
カンカン・ダンサー: マリアン・バトラー, カリン・エリス=ウェンツ, アリーナ・フェイ, エリザベス・ゲイザー, アン・ミレウスキ, アドリエンヌ・シュルト

 

 

初めて見る作品(日本初演?)でしたが,楽しかったです。
なんといっても,主役を踊ったアナニアシヴィリがすてき! 豊かで品のある女らしさと,立っているだけで気持ちが伝わってくる全身の表情がすばらしかったです〜。

 

1幕1場は,ちょっと困りました。
ポンテヴェドロ王国の困窮ぶりやハンナ以外の登場人物の人となりや人間関係を説明するための場面のようなのですが,駐フランス公使ツェータ男爵や公使の秘書の表層的で品のない演技は,私は苦手・・・。もちろん「わかりやすい」とも言えるわけで,これがABTの芸風ですし,楽しめる方も多いのでしょうから,まあしかたないわね。
と,気持ちを切り替えて言えば,公使夫人ヴァランシエンヌと浮気相手フランス人外交官カミーユのデュエットシーンはなかなか秀逸。外交文書(それとも借用証書なのかな)を広げたままでこの二人以外いなくなるところもスゴイし,その文書が散らばる机の上まで使って踊るというのは,うーむ,なるほど,公使夫人がこれじゃ国が傾くわけだよねえ。

1幕2場は,公使館の大広間での舞踏会。
ここでのアナニアシヴィリの登場がすばらしかったです〜。
黒い喪の色のロングドレスで階段を降りてくるのですが,その姿の艶っぽさと足取りの軽やかさは,まさに「陽気な未亡人」そのもの♪ 
その後も,扇を落とすなど多少のミスはあったようですが,大人の女の輝きを見せる柔らかな踊りとお芝居で魅力的でしたし,回想シーンでの髪を下ろした質素な村娘(?)姿は,まぁぁ,なーんて愛らしいんでしょ。十代の少女そのもので,感嘆するばかりです。

2幕はハンナの邸宅でのポンテヴェドロ風の夜会。
ここでは,フランス人のカミーユ以外は全員民族衣装で登場するのですが,アナニアシヴィリはこれがまた似合うし,踊りも楽しげで見ていて幸せになれる感じ。

そして感心したのは,この場面の幕切れ。ヴァランシエンヌとカミーユが逢引していたのを隠すためにハンナがカミーユとの再婚を宣言したので,ダニロがかつて彼女からプレゼントされてずっと大切にしていたハンカチを,怒って投げ捨てて去っていくのですが・・・これを拾って自分の肩に巻いての幸せそうな姿は圧巻。
「ああ,彼は今でも私のことを愛してくれているんだわ・・・」という確信と彼への想い(そして,今までの自分の人生への追憶さえ),ただ上体をそらしぎみにするだけの姿から伝わってくるようでした。
名演だったわ〜♪

3幕は,マキシムで(婚約者どうしということになっている)ハンナ+カミーユとその他の登場人物一行が鉢合わせして,ダニロとカミーユの決闘騒ぎになり,ハンナとダニロが愛を確かめ合ってハッピーエンド。
途中経過はありがちな演出だと思いましたが,最後の恋人たちのワルツは,とってもロマンチックで,うっとり〜でした。

 

私は,特にアナニアシヴィリのファンというわけではありません。というより・・・むしろ,彼女は好きでない,と言ったほうがいいかもしれません。古典を踊る彼女は,華があって技術も見事なので人には勧めますが,「周りを置き去りにして一人で咲き誇っている」かのように見えて,自分自身はあまり楽しめない。(素直でなくて申し訳ないですが・・・)
しかし,今回は,ほんとうにすばらしかったです! 今回は曜日の関係でこの日を選んだのですが,彼女の日に見られて,ほんとによかったわ〜。(宗旨替えしたほうがいいかなー?) 

各場面の中にしっくりと溶け込んでいて,しかも,華と貫禄はそのままですから,美貌と財産に恵まれ「人生を楽しむ」という女性像に非常に説得力がありました。プログラムの解説によると,ダニロと結ばれなかったのは,彼の家は貴族であり彼女は農民の娘だったからだということですが,こういう前向きな人だからこそ,現在の地位(?)を築いたのだろーなー,と大いに納得。

それから,身体の表現力がすばらしい! ↑で2幕の幕切れについて書いたように,顔の表情や大きな動きで表現しないで,品よくふるまっているのに,場面場面での気持ちがよくわかります。

そしてもちろん踊りがきれい。ロシアバレエの優雅で上品な上半身は,舞踏会でのワルツでも,断然輝くのですね〜♪

 

相手役のカレーニョですが・・・おそらく,かなり不調だったのだと思います。
1幕1場で酒に酔って登場するのですが,動きが重くて・・・その結果全然面白くないの・・・。安定したダンサーだという印象があったので,驚きました。その後も,それなりには見せてくれましたが,2幕の民族衣装での踊りなどテクニックを見せる場面は,彼にしてはちょっと・・・。(翌日のびわ湖ホール『海賊』は休演したそうです。)

表現的には,ううむ・・・ダニロという人は,ハンナの態度にふてくされたり怒ったりするかわいげのあるキャラクターのようなのですが,カレーニョは落ち着き払いすぎているというか・・・。不調のせいもあったのかもしれないですが,どうもミスキャストのような気がするなー。彼は,よくも悪くも端正なダンスール・ノーブルなので,惚れた女の振る舞いに一喜一憂する酒びたりの男は柄ではないのでは?

その代わりと言ってはなんですが,3幕での愛のワルツは,タキシードがよく似合い,大人の恋の雰囲気があって,とてもすてきでしたので,最終的にはいい印象が残りましたが。

 

ドヴォロヴェンコは,たいへん魅力的。
上流夫人の品のいい落ち着きを見せながら,カミーユに対するときはコケティッシュにふるまい,夫をうまくあしらっている様子も見せて楽しませてくれました。ロシア風の優雅さを失わずに,アメリカ風のわかりやすい表現を身につけたという感じで,たいへん見事。
2幕のパ・ド・ドゥでは衣裳の雰囲気も手伝ってか若々しい愛らしさでしたし,3幕でカミーユと踊りながら,彼への想いと夫への愛に揺れている様子もすてきでした。

ベロツェルコフスキーは,ええと・・・純愛路線すぎたのではないですかね?
軍服もタキシードも似合ってすっきりとした美男なのですが,「おフランスな外交官」には見えないというか,人妻との恋を楽しむ垢抜けた男性には見えないというか・・・。真剣な恋だという解釈だったのかもしれませんが,最後に夫がコキュの立場を受け入れるという「オトナな解決」であっただけに,違和感がありました。まあ,かっこよかったから,いいですけどー。
踊りはきれいで立派ですが,2幕でのドヴォロヴェンコとのパ・ド・ドゥを見ると,もしかしてサポートはあまり得意ではないのかしら?

 

2幕の民族舞踊で立派なテクニックを披露したデ・ルースは,いきいきとしてチャーミング♪ (3幕の支配人は,私には面白くなかった・・・)

コール・ドについては・・・私はABTにはこの方面は期待しませんし(失礼ですみません),古典ではなく,さほど揃っている必要がない作品だったので大丈夫でした。
2幕の楽しそうな雰囲気に比べて1幕の夜会や3幕のマキシムは今ひとつのような気はしましたが,バルカンの小国にはふさわしかったかもしれませんねー(笑)。
そうそう,3幕のタキシードの若いお兄さんたちは,なかなか目の保養でありました。

 

装置は派手すぎず豪華で,品がよくてきれいですし,各幕ごとに場面が変わり衣裳が変化に富んでいるのも美しかったです。

ストーリーも重すぎず軽すぎず,楽しめるものでした。(オペレッタは見たことがない。)
3幕での国旗(たぶん)の扱いなど,小技も凝っていました。もう1回見ると,もっと細かい点も楽しめたかもしれません。

それにしても,酒の飲みすぎではあったよなあ・・・。ハンナの財産で国が救われたとしても,結局みんなで飲みつぶしてしまうのではないだろーか?

(02.10.12)

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