ジゼル(新国立劇場バレエ団)

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02年6月29日(土)・30日(日)

新国立劇場オペラ劇場

   6月29日  6月30日
ジゼル 志賀三佐枝 宮内真理子
アルベルト(またはロイス) 逸見智彦 山本隆之
ミルタ(ウィリの女王) 前田新奈 西川貴子
ハンス(森番) 市川透 奥田慎也
クールランド公爵 長瀬信夫
バチルド(アルベルトの婚約者) 鳥海清子
ウィルフリード(アルベルトの従者) ゲンナーディ・イリイン
ベルタ(ジゼルの母親) 堀岡美香
村人のパ・ド・ドゥ 高橋有里,吉本泰久 遠藤睦子,グリゴリー・バリノフ
ジゼルの友達 遠藤睦子,高山優,中村美佳,西山裕子,鹿野沙絵子,鶴谷美穂,難波美保,大和雅美 高橋有里,高山優,中村美佳,西山裕子,鹿野沙絵子,斉藤希,鶴谷美穂,大和雅美
《ドゥ・ウィリ》モンナ 大森結城 高山優
《ドゥ・ウィリ》ジュリマ 湯川麻美子 西山裕子

 

新国立の4年ぶり2回目の上演。

セルゲーエフ版はたぶん新国立でしか見たことがないですが,1幕での主役2人のアツアツぶりが足りないなど,上品で古めかしいロシア風で,最後,ジゼルが墓に下っていったあと音楽が明るい感じになって,一人残されたアルベルトがジゼルから愛を教えられて今後の人生に向かう・・・という感じのハッピーエンド版(?)。いい御領主さまになってくれるといいですねー。

 

◇ジゼル

志賀さんは初役ですが,ここ1年何を踊っても期待どおりか期待以上の舞台を見せてくれましたので,きっとすてきなジゼルだろうなあ,と楽しみに見にいったのですが・・・ううむ・・・残念ながら,全体にあまりよくなかったです。
1幕の自然な演技や2幕での愛のある雰囲気はよかったと思うのですが,踊りにいつものなめらかさがありませんでしたから,たぶん調子が悪かったのだと思います。こちらの期待が大きすぎたせいもあったのかしらん。

狂乱シーンはよかったです。「狂乱」と書きましたが,そういう感じではなく静謐。狂気に陥っているのではなく,この事態が信じられない,信じたくない,受け入れられない,という感じに見えて,とても同情できました。(私は大騒ぎするジゼルが好きではないので・・・。)

 

宮内さんはとてもよかったです〜。
1幕は幸せで愛らしい村娘がよく似合いますし,見開いた目で虚空を見つめる狂乱シーンの表情は,完全にあちらの世界に「いっちゃってる」。それでいて,それまでの少女の雰囲気は保っているのが見事でした。(しつこいですが,私は大騒ぎするジゼルは好きではないんですよ。)

そして,2幕も,やっぱり少女のままなの〜♪ 
ジゼル役を1幕と2幕で「踊り分ける」べきとは私は思いません。(白鳥と黒鳥じゃないんだから)
1幕の少女が霊的な存在になるのが2幕のジゼルであって,宮内さんは,(「霊的」とまでは言えなかったかもしれないけれど)1幕の愛らしさを失わず,さらに清らかさを増したような雰囲気で,すてきだなー,と思いました。

技術的にも,ポアントの音がしないし,浮遊感があってよかったです。もちろんこれは,山本さんのサポートの力もあったのだろうと思います。

 

◇アルベルト

逸見さんは,1幕はエレガントなだけで,プレイボーイなのか純愛なのかいっこうにはっきりしないアルベルトで・・・。バチルドにもジゼルにもそれなりに誠実に対しているように見えるのは,彼の解釈なのか演技力が不足なのか,それとも人徳というべきなのか???

2幕はとてもすてきでした。
まず,紫のタイツが似合うというのがすばらしい♪ 黒いマントもよくお似合い。ジゼルへの愛はやはり少々足りないような気もしましたが,この際それはどうでもよくなってしまったわ(笑)。ウィリに踊らされてだんだん消耗していく表情に色気があって・・・苦しむ姿を見たいミルタに同調すべきか,必死に助けようとするジゼルに共感すべきか・・・う〜む,悩むわぁ。

踊りもよかったです。彼でプティパのグラン・パ・ド・ドゥを見ると,跳躍や回転の連続のときにもう少し脚が上がると(開くと?)いいのになー,と思ってしまうのですが,単独で跳躍すると柔らかくてきれいなので,この作品の振付は向いているのではないかしらん。

 

山本さんは・・・よくなかったと思います。
(2月の『白鳥』のジークフリートと併せて考えるに)これは調子がどうこうではなくて,たぶん,彼の個性やテクニックがダンスールノーブルではない,ということだろうと思うのですが・・・。

彼はかっこいいし色気もあるし,お顔はハンサムだし,主役を踊る華もある。サポートも安心して見ていられます。
でも,アルベルトを踊るダンサーには,「美しい」とか「ノーブル」とか「エレガント」とか,せめて「きれい」という形容詞が不可欠なんじゃないかなー,と私は思います。現代的な演出であればともかく,ロシアの古典作品として上演しているわけですし。

ウィリフリードに去るよう命じたり,ハンスに激昂して腰(の剣があるべき場所)に手をやる様子が「生まれながらの貴公子」でないのは,日本人ダンサーは皆さん多かれ少なかれそうですから,見逃すにやぶさかでありませんが,踊りがきれいでないのは困る・・・。

でも,他に適任の方はいないのでしょうし,日ごろの主義主張からして「ゲストを呼べ」とは決して言いたくないので(・・・小嶋さんの代役が彼だったのは,とても嬉しかったのよ,私・・・。だからこそ見にいったわけだし・・・),新国立の男性ソリストの人材不足を悲しみながら,「人好きのする青年のふとした過ち」のアルベルトもあっていいと思うことにします。とにかく,感じはよかったですし,1幕の無邪気な恋はチャーミングでしたから。

 

◇ミルタ

前田さんは凛然としたウィリの女王。男に対する怨念みたいなモノは感じられないので,あまり怖くはなかったですが,気高さがあり,たいそう美しかったです。

西川さんは,けっこう気が強そうな感じで怖かったですー。ウィリたちを「率いる」感じもあり,リーダーというべきでしょうか。最初にポアントで舞台中央を前に進んでくるときの全く音のしないすべるような動きが見事でした。

 

◇ハンス

市川さんのハンスは,「いい人」でした(笑)。
ジゼルの家のドアをノックしようとして思いとどまり,小さな花束を壁にかける様子がなんだか弱気に見えますし,アルベルトの小屋に目をやるのも,恋敵に敵意を燃やしているというよりは,勝ち目はないとため息をつく感じに見え,なんだかハンスらしくないなー,と思ってしまいました。
でもそれがよかったのでしょう,アルベルトの正体を暴くときは,ジゼルへの不器用な真情が前面に出る感じでしたので,(私は普段はハンスびいきではないのですが,)彼のためにその後の話の展開を気の毒に思いました。

それから,彼は背が高いだけでなく,脚が長いのですねー。1幕の終盤は,(逸見さんが村人風の衣裳が似合わないせいもあったかもしれませんが)衣裳がロビンフッドみたいでヘンでもこっちのほうがいい男に見えるよなー,と(多少我が目を疑いながら←失礼でごめんなさい)つくづく眺めてしまいました。

2幕でウィリたちに殺されるところは踊りに迫力があり,しかも「踊らされている」感じを上手に出していたと思います。

翌日の奥田さんは少々地味でしたが,かなり剣呑な雰囲気を漂わせて登場。どちらかというと童顔なのに,髭が似合うなー,うまく化けるもんだなー,と感心しました。
アルベルトの正体を告げる前にジゼルにその気持ちを確かめ,「そうか。俺の言うことを聞かないんだな」と言わんばかりに大きく2,3度頷き,おもむろに隠してあった剣を取りに行くのが,うーむ,なかなか悪役でしたねー。

 

◇バチルド

鳥海さんは,昨年の「眠り」の王妃がすてきだったので,きっといいだろうと思っていたのですが,期待どおりの品格と美しさ。動きが貴婦人なの〜♪

お高く止まった冷たいお嬢さまでもなく,ジゼルとの娘同士の打ち明け話に興ずる庶民的過ぎるお姫様でもない。身分の違いは当然すぎることで,市井の娘とほんとうに打ち解けるわけはないけれど,ふと目に止まった愛らしい少女に好意をかける心の柔らかさは持ち合わせている・・・たいへん説得力がある公爵令嬢でした。
婚約者がこんなに魅力的であるからこそ,ジゼルの哀れさが際立つのよね〜♪♪

 

◇ウィリフリード

イリインさんは,職務に忠実な役人(?)の雰囲気で,もちろんアルベルトのためを思っているけれど,公爵にも逆らえない。当たり前といえば当たり前ですが,いったい誰の家来なのだ? と問い質したくなる人や全然存在感のない人もたまにいますからねえ。
狩りの一行が現れたときにアルベルトの姿を求めてあたふたしているところなど,細かい芝居が上手でした。

 

◇村人のパ・ド・ドゥ

30日の遠藤/バリノフ組がよかったです。

遠藤さんはパフスリーブの衣裳が似合って,村の踊り自慢の娘の雰囲気。踊りは歯切れがよく,安定していました。

バリノフさんは,とってもとってもよかったです〜〜♪
動きが正確でキレがあって,とてもきれい。特に,2回転しながらの跳躍(トゥール・ザン・レール?)の着地がぴたっと決まって爽快そのもの。明るく楽しげな雰囲気で弾むように踊っていて,ああ,もう,なんてかわいいのかしら♪♪ う〜ん,言うことナシの見事さでした。(あ,メイクは改善の余地があるかも)

 

◇コール・ド・バレエ

最初に登場した方々(ワルツ?)が,上半身の使い方があまり揃っていなかったので1幕全体の印象を悪くしたように思います。まあ,あの品のないターコイズブルーの衣裳のせいもあったかもしれないけれど・・・。
それにしてもあの衣裳,単独で見てもかなりの色遣いですが,装置ともあっていませんよねえ。舞台美術と衣裳を同じ方が担当したのに,どうしてああなっちゃうんでしょう???

2幕はよかったです。
集団としての不気味な雰囲気とかあるいは妖精らしさは感じられなかったですが,純潔のまま死んでいった乙女たちの群らしく,清純な感じがありました。30日は3階正面から見ていたのですが,整然としていてきれいでした。月が出て照明が明るくなったところで全員が舞台後ろの中央に身体を向けて上体を倒したり起こしたりするところが特によかったと思います。

 

◇全体

ううむ・・・どうなんでしょ?
↑にお1人ずつ書きましたが,「この日の舞台はこういう愛の物語」という書き方ができないというのは,主役のパートナーシップとか舞台全体の相乗効果としてはさほどよくなかったんでしょうねえ,たぶん。悪かったとは思いませんが,感動はしなかったのよね。
まあ,「ジゼル」は難しい作品だということなのでしょう。

(02.7.3)

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