ドン・キホーテ(新国立劇場バレエ団)

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02年5月19日(日)

新国立劇場オペラ劇場

 

振付: マリウス・プティパ, アレクサンドル・ゴルスキー
台本: マリウス・プティパ
改訂振付: アレクセイ・ファジェーチェフ

音楽: レオン・ミンクス
指揮: 渡邊一正
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団

舞台美術・衣裳: ヴャチェスラフ・オークネフ
照明原デザイン: 梶孝三

キトリ:志賀三佐枝  バジル:逸見智彦

ドン・キホーテ:長瀬信夫  サンチョ・パンサ:奥田慎也

ガマーシュ:ゲンナーディ・イリイン  街の踊り子:大森結城  エスパーダ:山本隆之  ジュアニッタ:鹿野沙絵子  ビッキリア:高山優  ロレンツォ:田名部正治  ロレンツォの妻:鳥海清子 

メルセデス:西川貴子  ギターの踊り:大森結城, 神部ゆみ子, 深沢祥子  居酒屋の亭主:石井四郎

ジプシーの頭目:市川透  二人のジプシー:吉本泰久, グリゴリーバリノフ

森の女王:前田新奈  キューピッド:高橋有里  
3人の妖精:鹿野沙絵子, 鶴谷美穂, 真忠久美子
4人の妖精:中村美佳, 斉藤希, 難波美保, 大和雅美

公爵:京谷幸雄, 公爵夫人:本田世津子
ボレロ:湯川麻美子, 市川透
第1ヴァリエーション:西山裕子  第2ヴァリエーション:遠藤睦子

 

志賀さんのキトリはお見事♪♪
たしか8年ぶりに見たのですが,前回は,テクニックがすばらしく,3幕のフェッテで規則的にトリプルを入れて見せてもらって,興奮しました。
今回も,技術的には全然問題ないですし,歯切れよく踊りながら品もいい。さらに,肩のあたりに姐御肌の色気が感じられ,でも,1幕の片手リフトで空中でにっこりするところなどはかわいらしい笑顔。相手役の逸見さんが初役ということも手伝ってか,終始彼女がリードしている印象でしたが,それが勝気な性格の表現にもなって,かっこいいキトリでした。

逸見さんは,芝居も踊りもおとなしすぎたような・・・。踊りの質も雰囲気も優しすぎますから,バジルではないと思うなあ。(ご本人の責任ではなく,キャスティングの問題なのでは?)
やるべきコトはちゃんとやっていたと思いますから,文句を言う気はないですが,注文は山ほどある。
でも,誠実そうに見えて感じはよかったですから,王子が無理して見得を切っているように見えるよりは,よかったかもしれません。(バジルに誠実さが求められているか,という疑問は残るが)

 

新国立の「ドンキ」上演は3回目ですが,過去2回は3月の上演だったため,(年度末は仕事が忙しい)私は1回しか見たことがなかったのでした。酒井/小嶋で見たのですが,それがあまりに印象的な舞台だったため,どうも刷り込みになっていたらしく,今回の1幕では今一つ乗れませんでした。(すみません・・・)
でも,酒場の場面(2幕1場)の大森さんと山本さんがたいへん魅力的だったので,そこからすっかり引き込まれました。

大森さんのギターの踊りは,踊り出す前にテーブルの上にいるときから目をひきますし,カスタネットを小道具に使う踊りでは,メリハリをつけて,とても印象的に見せていました。(彼女は街の踊り子も踊ったのですが,どちらもエスパーダに絡む役なので,見ていてちょっと混乱。まあ,混乱しても支障はないですが)

山本さんのエスパーダは,いやー,かっこよかったですー。
ギターのソリスト,次いでメルセデスを,陰のある整った顔立ちでじっと見つめる様子が,ううっ,はまりすぎだわ。踊りもポーズもちょっと笑いたいくらい決まっていて,キトリがこっちに傾かなくてよかったねー,バジルくん。(笑)

次の2場では,吉本さんとバリノフさん率いる(?)ジプシーの踊りの迫力に,おおっ,いいねえ♪ 

そして,森の場面は,たいへん美しかったです〜。
明るくなった瞬間,パステルカラーの衣裳で舞台いっぱいに広がるバレリーナたちにうっとり。
いいですよね,この場面。知っていてもちょっと感激しましたから,『ドンキ』を初めて見るお客さまはびっくりするだろーなー。(意味不明かもしれませんが) こういう場面を無理やり(?)挿入してくれたプティパに感謝したくなりました。
森の女王(前田さん)は優雅ですし,女王らしい気高さもあってすてき。志賀さんはちゃんとお姫様の踊りになっているし,キューピットの高橋さんも上手だし,コール・ドも柔らかくて美しく,うっとりしました。

3幕は,ボレロの衣裳の色彩に少々驚きました。紫の下から水色が見えるって・・・ううむ・・・ま,目に鮮やかと言えなくもないか・・・。
湯川さんは妖艶な感じですてきでしたし,市川さんもジプシーの頭目よりずっとお似合い。

ファンダンゴは少々「ううむ?」。これは出演者の責任というより,演出(指導?)の問題のような気がしないでもないです。どこがどうとはわからないけれど,キャラクター・ダンスにはそれなりの踊り方があるはずで,それができていないような気が・・・。

そして,グラン・パ・ド・ドゥ。
西山さんの第1ヴァリエーション(アレグロ)は歯切れがいいし,遠藤さんの第2ヴァリエーション(アダージオ)はアクセントの付け方が達者。
志賀さんは,ヴァリアシオンは見せ方を知っている感じですし,フェッテは前半ダブル織りこみで後半はシングルで軸足が動かない。前回見たときの超絶技巧の興奮ではありませんが,全然はらはらさせてくれないのが残念なぐらいの安定。結婚式らしい格式もある踊りでした。観客を屈服させる迫力やプリマの華とはちょっと違うかもしれませんが,客席を引き込む魅力は,これこそ日々積み重ねた芸から来る貫禄なのだろうな〜。

 

演出的には,狂言自殺の末に結婚を許されるのが結婚式の直前のほうがいいとは思いますが,こういう流れもよくあるから,まあ,しかたがないですね。
大詰めは全員で踊って終わるのが好きなので,ちょっと残念。
それにしても,3幕にキューピッドが登場するのはいったいなぜなの???

 

最後に奥田さんのサンチョ・パンサについて
「滑って転んで」愛敬があるの〜。真ん中の踊りと同じ動きをモタモタ踊ってみたりして。1幕のトランポリン(?)では,最初はそのまま仰向けに落ちてきて,次は180度回転してお腹から落ちる。3回目には,うふふ,360度回って背中から。うーん,芸が細かいわ〜。
ドン・キホーテ(長瀬さんはなかなかの風格)に忠実な感じも出ていて,日本人の感性に合う,嬉しいサンチョでした♪

 

楽しかったです。
『ドンキ』は,主役二人がいわば「踊りを競う」ところが観客の心を弾ませる作品だと思いますから,その点でバジルがかなり物足りなかったですし,1幕のコール・ドはもう少しいきいきとした町の賑やかさを出してほしかったかなー,とは思いますが,でも,公演全体としてこれくらい見せてくれれば,まず満足です。

(02.5.23)

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