ベジャール・ガラ 〜中村歌右衛門へのオマージュ〜
(モーリス・ベジャール・バレエ団)

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03年4月14日 

東京文化会館

 

第1部

プレリュード

振付:モーリス・ベジャール  音楽:クロード・ドビュッシー

カンパニーの女性全員

色とりどりのタイツとタンクトップの女性ダンサーが舞台全体に広がって,軽やかに踊るモダンバレエ。

よかったです。
音楽と明るいけれど揺れ動く照明(←うまく説明できない・・・)の効果もあって,妖精か人魚の戯れのように見えました。
最後,突然舞台中央に何かが落下したかのようなリアクションを全員が見せて,暗転・・・。

 

牧神の午後

振付:モーリス・ベジャール  音楽:クロード・ドビュッシー

オクタヴィオ・スタンリー

拍手の中舞台が明るくなると,ダンサーたちは照明が消えたときと同じポーズで立っており,舞台中央には,白いサポーター姿の若い男性が横たわっている・・・うーん,そうか,『プレリュード』は水浴びするニンフたちだったのね♪ と感心。

が,女性が全員両袖に去り,始まったソロは,なんとういうか極めて性的な動きを含む振付で・・・ううむ・・・私はダメでした。
一つには,スタンリーにあまり魅力がなかったせいもあったのかも。物語なり雰囲気なりを作り出せないから,性的な動きだけが突出してしまって,それが気になる・・・と言えばいいでしょうか。

最後,『プレリュード』の女性ダンサーの一人が舞台に入ってきて,二人が互いに手を伸ばしあって,暗転して終わりました。

 

愛と死

振付:モーリス・ベジャール  音楽:グスタフ・マーラー

ジル・ロマン, クリスティーヌ・ブラン

マーラーの歌曲(あるいは交響曲か?)に乗せて踊られるパ・ド・ドゥ。

雷鳴。静寂の中,小鳥のさえずり。無音の中,6人の奇妙な箱男の移動。上手から,ナチス風(?)の制服の男に首に巻きついた縄を引かれて,粗末な服(囚人服?)のロマンが登場。
下手まで歩いてきて,制服の男がドイツ語で演説。(「自由」と「戦争」という単語だけが聞き取れました。)ロマンが激しい勢いで首の縄を外して地面に叩きつけます。制服の男がそれを咎めないのはなぜであろうか?・・・と不審に思ううちに,下手から粗末なコートを着たブラン登場。コートを脱ぐと白のユニタード・・・ううむ,私はこのタイプの衣装はあまり得手ではありません。ブランは,この系列の衣装が多いのよねえ。似合っているからそうなるのでしょうが・・・。

さて,ここからが本編で,音楽が始まり,二人のパ・ド・ドゥが続きます。ベジャ−ル的と申しましょうか,哲学的というか思索的な感じの踊りで,タイトルから推測するに,死を感じつつ愛を踊っているということなのでしょうか。

で・・・すみません,少々飽きました。(私,ベジャールの振付ってそんなに好きじゃないんでしょうね,結局・・・)

最後,ロマンは突如として死を迎えます。とりすがるブラン・・・。
そうか,毒薬かなにかを既に与えてあって死ぬことは決まっていたから,縄を外しても獄吏(?)は慌てず騒がずだったのね,きっと。(←ほんとかなー?)

 

ゲーテ・パリジェンヌ

振付:モーリス・ベジャール
音楽:ジャック・オッフェンバック  オーケストレーション:マニュエル・ローゼンタール
衣裳:ティエリー・ボスケ

ビム:古川和則  オッフェンバック:首藤康之  ナポレオン三世:後藤和雄
友人:後藤晴雄,高橋竜太,平野玲,藤本豊,高野一起,中島周
東京バレエ団

「ゲーテ・パリジェンヌ」は,10年以上前にシュツットガルト・バレエで見たことがあります。想像の世界の中で夢見ながらバレエを学んでいた若き日のベジャール(ビム)を描く自伝的作品で,今回は後半部分の上演ということでした。

東京バレエ団総登場という趣の物量作戦で,少人数での作品が続く公演全体の中で変化をつける意味ではよかったかもしれませんが,「ベジャールのカンパニーを見にきたのに関係ない人たちが出てきた」という印象は否めませんから,公演の雰囲気を壊したという見方もできるでしょう。

友人の一人で,腰に白いトレーナーを巻いた衣裳の方(名前わからず)の宙返りが見事で,踊りもキレがよく,目を引かれました。小柄なので,バレエよりジャニーズ事務所に入ったほうがよかったかもー。(余計なお世話で失礼ですかね?)

 

東京ジェスチャー 《中村歌右衛門へのオマージュ》

振付・演出:モーリス・ベジャール
音楽:J.S.バッハ, A.ヴィヴァルディ(アリ・クリストフェリによる編曲)
ピアノ:イリア・ショコリによるオリジナル楽曲
衣裳:アンリ・ダヴィラ  
照明:クレマン・ケロル

小林十市

ジュリアン・ファヴロー,オクタヴィオ・スタンリー,デニス・ヴァスケ,マーティン・ヴェデル,スターン・カバール=ロエ
那須野圭右

六代目中村歌右衛門へのオマージュとして創作された世界初演作品。
一言で言えば,ベテランでほっそりとして,(おそらく)このバレエ団で一番技術的に上手な小林十市と若くて大柄な男性ダンサー5人を見せることによって,「日本の美」とか「芸の力」が浮き彫りになる・・・といった感じの作品でしたが,いやー,ベジャールは名人ですねー。

舞台は,ちょっと妙な柝の音から始まります。
ん?と思うと,上手の端に黒い服を着たベジャールが立っていて,長い棒を床の上の板に打ち付けているのでした。ははー,自らご登場か,と感心しながらちょっと笑ってしまいましたが,やっぱり,あれは拍子木の音のつもりなのでしょうかねえ?

舞台中央には,黒の稽古着の小林十市。美しいテクニックで歯切れのいい踊りを見せますが,その踊りは,直前の東京バレエ団のダンサーたちと共通する感じがあって,ううむ,と唸る。
それは「日本人の踊りは淡白」という感想で・・・私は日本人ダンサーのこういう一般的特徴は品がいいので好きですが,ベジャール・バレエの公演の中では,それは「身体から発する情感の乏しさ」に感じられないでもない。

次に,奥の5枚の黒い板(片面は鏡)が回って,黒いゴージャスなドレスに身を包んだ男性ダンサー5人が登場。
たぶんこのカンパニーの若手のきれいどころ(笑)なのでしょうが,皆大柄な上に,日ごろ王子などを踊っていないせいもあってか,一言で言えば武骨。これに比べると,小林の小柄で中性的な感じ(=前の場で「淡白」に見えたところ)は,繊細な品のよさに見えてくる。
なるほど,そういうことかー。

再度のソロや白(肌色だったかも?)のタンクトップとタイツ姿になった5人との一場などが続く中で,小道具の手鏡が持ち出されたり(男と女は鏡の両面?),ベジャールの持っていた棒がバレエのレッスンのバーになったり(本物の拍子木では,バー・レッスンはできないな,たしかに),たぶん小林=歌右衛門の芸の修行が表現されているのでしょう。
最初はただの「歯切れのいい踊り」だったのが,段々と人間的な表現になっていくのが見事で,そうか,最初に「?」と見えたのはこのためだったのね,ベジャールはうまいなー,と感嘆。(さらに深読みすれば,この直前の作品が東バの「ゲーテ・・・」だったというのも,最初の印象を強めるためだったのかも・・・考えすぎかしらね?)

大詰め近く,舞台中央に黒い板が登場し,小林の姿はその後ろに隠れます。
ちなみに,黒子役で終始那須野圭右が登場していましたが,この場は,上手のベジャールのところで彼がバー・レッスンをする短いソロ(?)。日本人という個性があるから起用されたわけでしょうから,なんだか安易な気もするキャスティングですが,彼もほっそりして少年らしいので,あたかも歌右衛門の弟子であるかのように見え,なかなかよかったです。

さて,黒い板が取り去られて,シンプルな黒いドレスを身にまとった小林=歌右衛門が観客の前に現れます。
うーん・・・この衣裳自体は,最初の5人のドレスほど豪華でなく見えて物足りなかったですが,それだからこそ,芸があれば衣裳になんぞ頼らなくてもいいのだ,5人に比べて格段に優雅で女らしいではないか,という感じが強まるとも言えましょう。
後方からは,タイツのみの姿で5人が3度目の登場。小林=歌右衛門は,彼らに次々にエスコートされながら踊るのですが,楚々としながらあでやかな雰囲気が素晴らしいです〜♪ 私は歌右衛門丈についてあれこれ言えるほど歌舞伎を見ているわけではないですが,気品のある「究極のお姫様」というイメージを持っているので,「そうそう,これよね〜」と喜んでしまいました。
また,身体の使い方(特に手)は,かなり歌舞伎(日本舞踊?)を意識したもののように見えましたが,バレエの動きと調和しているのに感心。(東京「ジェスチャー」はコレなのかな?)

うん,いい作品でした。
邦楽やキモノを持ち出さないで,一人の日本人ダンサーの個性を素材に普遍的な「女形」を表現したベジャールと小林十市の「芸」に拍手を送ります。
ただし,白塗りのメイクには「???」。ヨーロッパで上演するときには観客の理解のために(?)必要かもしれませんが,ここは日本ですからねー。普通にきれいに男性のメイクをしたほうがよかったのではないですかね?

 

第2部

エルトン−ベルク

振付:モーリス・ベジャール
音楽:オルバン・ベルク, エルトン・ジョン
照明:クレマン・ケロル

カルリーヌ・マリオン, オクタヴィオ・スタンリー, ステファン・ブルス
アラン・ファリエリ

下手の奥に額があって,その後ろでファリエリが踊る。前のほうでは,他の3人が踊る。ベルクの音楽で重苦しい雰囲気で,あまり面白くなかったです。

続いて,全く同じ振付で,エルトン・ジョンの軽いポップスに乗せて踊る・・・さわやかな雰囲気の踊りに見えて,楽しめました。(最後,ファリエリが額から前に出てくるところだけが違ったかな。)

ははー,そーゆーもんですかー。(感心)
バレエにおける音楽の重要性がわかったというか,振付の非重要性がわかったというか・・・。あはは,いや,まさかそういう意図ではないんだろうけどー???

 

チーク

彫刻:マルタ・バン
振付:モーリス・ベジャール
音楽:ジェリー・マリガン, ティト・プェンテ
パーカッション:「シテョーパーカッション」ティエリー・ホクテイター,ジャン=ブルーノ・メイヤー

カトリーヌ・ズアナバール,  ジュリアン・ファヴロー

舞台中央の台の上に恐竜の頭蓋骨を平たくしたような木造彫刻。この彫刻を中心に,リズムを中心としたアフリカっぽく聞こえる音楽で踊られるデュエット。

細くて筋肉質でアフリカ系のズアナバールと筋骨隆々とした金髪のファヴローの組み合わせが面白かったです。
ズアナバールの柔軟性には驚嘆。表現全体としては,巫女のような感じを受けました。
ファヴローが華のあるダンサーであることも,ここに至ってようやく納得。(笑)
「若者と死」みたいに女にとりつかれた若い男なのかなー,などと思って見ていたのですが,ラスト,愛の高まりかと思いきや,彼女を彫刻の口の中に挟んで,遁走したので仰天しました。
で,ズアナバールの悲鳴か嘲笑かわからないような声が響き渡って終わる・・・ううむ・・・・謎だ。どういうストーリーの作品だったのであろうか??(ストーリーを求める私がいかんのか?)

 

ブレルとバルバラ

振付:モーリス・ベジャール
音楽:「リュミエール」よりの抜粋,ジャック・ブレルとバルバラのシャンソン

ジル・ロマン, エリザベット・ロス
カンパニー全員

ううむ・・・かなり飽きました。音楽がシャンソンなのが悪かったのかもしれません。(なじみがないし,例えばカンツォーネみたいに朗々と歌い上げるモノのほうが好き。)
最後のほうはけっこう大人数が出てきたので,楽しめましたが,途中はかなり中だるみして,他のコトを考えたりしてしまいました。(すみません・・・)

スリットの入った黒いドレスのロスの存在感がすばらしかったです。
ロマンは,そりゃもちろんうまいですよ,という感じかな。
ブランはまたユニタードで登場。(いや,似合っていますけどー。)
ドメニコ・ルヴレが再び胸の毛を見せてくれたのが嬉しかったですわ〜。彼って,すごく瞑想的,思索的な風貌に見えるのに身体は危険な香りのセクシュアリティーを発している感じで,そのアンバランスがすてきだわ♪♪

ところで,なぜ小林十市がうちかけ姿で登場して和風(歌右衛門風?)の動きをするのかが,非常に不審でした。
公演全体を歌右衛門丈へのオマージュにしたかったということなら,「東京ジェスチャー」を最後にすればよかったのでは? まあ,最後はカンパニー全員登場する作品,というかロマンが活躍する作品にしないとすわりが悪いからそれは無理なんでしょうけれど,だからといってここでなぜ?? 唐突というか強引というか・・・なにか意味があるのでしょうが,私には理解しかねましたわ。

 

というわけで,全体としては,私にとっては「それなりに」程度の公演だったのでした。

(02.4.28)

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