ザ・カー・マン
(アドベンチャーズ・イン・モーション・ピクチャーズ)

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02年4月13日(土) マチネ

オーチャードホール

 

演出・振付: マシュー・ボーン  演出助手: スコット・アンブラー, エタ・マーフィー

美術: レズ・ブラザーストン

音楽: テリー・デイヴィス, ロジオン・シチェドリン「カルメン組曲」 

照明デザイン: クリス・デイビー

音響デザイン: マット・マッケンジー

音楽監督: ブレット・モーリス

指揮: ベン・ポープ  演奏:東京フィルハーモニー室内合奏団

 

IN HARMONY

ディノ・アルファノ: スコット・アンブラー

ラナ(ディノの妻): ベリンダ・リー・チャップマン

リタ(ラナの妹): ヘザー・ヘイベンス

アンジェロ(リタの恋人): アーサー・ピタ

ルカ(流れ者): パウロ・カダウ

Mechanics and Friends

ロッコ:ニール・ペンリントン, メルセデス:ヴィッキー・エヴァンス, ブルーノ:アンドリュー・コルベット, モニカ:友谷真実, “ホット”ロッド:アダムス・ガルブレイス, ジーナ:ナネット・キンケード, ヴィト:サイモン・ウェイクフィールド, デロリス:シェルビー・ウィリアムズ, マルコ:リチャード・ウィンサー,サンドラ:ジェンマ・ペイン, チャド:ベン・ディクソン, ディアク:スティーブン・バークレイ・ホワイト, チャック(警官):スティーブン・バークレイ・ホワイト

THE CLUB

シャーリー(クラブのオーナー):シェルビー・ウィリアムズ, ビートニク:カンパニー

CABARET ACT

ヴァージニア:ヘザー・エイベンス, エリック:スコット・アンブラー, ホセ:スティーブン・バークレイ・ホワイト 

THE COUNTRY JAIL

デクスター(刑務所看守):スティーブン・バークレイ・ホワイト, 囚人: カンパニー

 

アダム・クーパー主演『白鳥の湖』で一躍名を上げたマシュー・ボーンのカンパニーの初来日。「もしカルメンが男だったら・・・」というコンセプトの作品ということでしたが・・・

 

客先が明るい中,舞台では自動車修理工場の場面が始まります。普通に動く(働く)ダンサーたち・・・全員が舞台の前方に不規則に)並んで,客席の明かりが落ち,音楽が始って,ほんとうの開幕。おなじみの「カルメン組曲」に乗せて,ダンスが始まります。
奥の事務所の中にはネクタイ姿のディノ(工場主)。オドオドとアンジェロが入ってきて,皆にいじめられ,ディノからも高圧的に当たられていること,でも,リタ(ディノの妻ラナの妹)とは恋仲のことなどがわかります。ラナが太った中年の夫に嫌気が差し,若い工員たちとの戯れを楽しんでいることも。

この冒頭のダンスシーンだけで,主要な登場人物の関係と物語の舞台である町工場の工員たちの荒っぽくて猥雑な雰囲気,熱い夏,アメリカの田舎町の雰囲気を表現している巧みさに感心しました。
バレエばかり見ている目には,もう少し身体を伸ばして踊ったほうがきれいなのにー,とか女の子たちがけっこうふっくらしているなー,とか気になることもあるけれど,それはこちらの心得違いですね。見ているうちに気にならなくなったし,特にヘイベンス(リタ)がややぽっちゃりタイプなのは,気立てのいい娘らしさの表現になっているものね。対照的にチャップマン(ラナ)はバレリーナ体型。動きもキレて,それがエキセントリックに見えて,とてもいいです。(しかも,バストはけっこう豊か)

事務所の2階は工員たちのシャワールーム。腰のあたりは見えないけれど,観客サービスも抜かりはないようで・・・それどころか,アンジェロへの嫌がらせとして,わざわざ舞台に下りてきて,タオルの前を開けて見せたりして。客席に背中を向けてだったのが惜しまれます。(笑)

仕事を終えて着替えた工員たちはガールフレンドたちとバー(というかパブというかカフェというか・・・)でまた一踊り。ディノは外出し,流れ者のルカが現れます。ルカはハバネラに合わせて踊り,ラナとの間でなにやら怪しい雰囲気が・・・。(私はこのルカ(カダウ)はあまり気に入りませんでした。セックスアピールが足りない気がしたし,「異質な者」の感じも薄かったようで,なぜラナが彼に惹かれていくのか説得力が足りないような・・・。)
ルカは戻ってきたディノに雇ってほしいと申し入れ,二人は事務所の中へ入ります。アンジェロが工員たちに小突かれているところにルカが割って入り,アンジェロをかばう・・・二つ目の恋・・・。(こちらは恋に落ちる事情が非常にわかりやすいですね。)

働き始めたルカに,アンジェロが弟子入り(?)。ケンカの方法を学んだりするほほえましいシーンがあったりして,そして,ラナとルカはついに事務所の2階のディナの家で抱き合って・・・
たしかこのシーンだったと思うのですが,何組ものカップルが舞台に現れて愛の営みの踊りがありました。
ラナとルカの欲情の象徴的な表現なのでしょうか?
とゆーよーなことよりも!!! カップルの中に男性どうしの組み合わせが1組混ざっていたので(@o@)となってしまいました。凝ってますねー。面白いなー♪

さて,二人がコトに及んだその直後,ディノが帰宅。あわてて窓から伝い下りたルカの目の前には,時間稼ぎのためになかなかドアを開けない妻に業を煮やして下に戻ってきたディノ。いや,今ボクシングの練習していたからこんな格好なんです,とごまかすルカ。わはは。ありがちなシーンですが,笑わせていただきました〜。

そして,ルカという人はこの道にマメなんですね,この晩別な人とも情事を持っていました。セットの車(修理工場ですからね)がなんだか揺れているなー,と思ったら,あらら,ルカが,続いてアンジェロがズボンのベルトを締めながらご登場・・・。

夜が明けて一人舞台下手に残りうっとりと恋の喜びと愛される陶酔に浸るアンジェロ。ピタがすごくいい♪・・・そして,ココの音楽が上手いです。アロンソ版ではホセが恋を踊るソロ,プティ版では愛のパ・ド・ドゥの場面に使われていた曲で,甘い美しさと言っていいと思うのですが,すごい皮肉。
というのは・・・ピタの全身の表情を見ているとものすごく甘美な音楽に聞こえるの。今まで見たこの音楽への振付の中で一番すてきじゃないかしら(踊りというよりは演技だけれど)なんて思ってうっとりしていたら,上手からは,ラナがやっぱり嬉しそうに,満ち足りた表情で登場するのよ。あらま。音楽はやっぱり清々しくて美しいから・・・怖いですよねー。

さて,事情は不明ですが,舞台の上ではパーティーが開催されました。(工員の誰かが婚約か結婚したのかもしれません) 当時は貴重品であったろうカメラなど持ち出して采配を振るうディノですが,ラナの態度に不審を抱き,彼女に暴力を・・・止めようとするリタを庇おうとしたアンジェロはディノに手を上げてしまい,工場をクビに・・・。走り去るアンジェロ・・・リタがとりなそうとしますが,ディノは聞く耳を持ちません。

その後,いろいろあって(←記憶不確か),家の前で激しく抱き合うラナとルカはディノに現場を抑えられてしまいます。あまりといえばあまりに無用心ではないでしょーか。不倫する上での常識というものが欠けていますねえ,この二人は。
で,ディノとルカの争いになって,結局ルカとラナはディノを殺してしまいます。事前に読んだバレエ雑誌やプログラムによると「共謀して殺した」みたいに読めるけれど,なーんだ,ハズミで殺しただけなんじゃない。ちょっと拍子抜け。いや,ルカはカルメンなのだろうから,もっと「魅力的な悪役」というか「常識的な善悪など超越した存在」なのだろうなー,と期待していたのに,これでは,なんというか・・・頭の足りない間男みたいだわ。(笑)

と思ったら,ほんとに頭が足りないみたいですねえ,この人・・・。
実はまだ息があったディノが通りかかったアンジェロに助けを求めているところに,凶器のスパナを片手に走り出てきたりするのよ。(とどめを刺そうと追ってきたというよりは,自分のしたことに錯乱して走り回っているように見える)

同じく事前の知識では「ディノ殺しの罪をアンジェロになすりつける」ということでしたが,これも事務所の金庫を開けて強盗にあったかのように見せかける等ラナの必死の努力によるもので(この辺りの演出の切迫感見事♪),ルカはなーーんにも働いてはいないのね。看板に偽りありなんじゃないのぉ。(怒)
ま,自分では何もしないのに,周りがかき乱されるのが「ファム・ファタール男性版」たる所以なのかもしれないけれど,ううむ・・・これではカルメンではないよなー,と不満に思ううちに,警官が到着してアンジェロが逮捕されて1幕は終わりました。
うう・・・恋人に裏切られたわけでさえないなんて,アンジェロがかわいそう・・・。(涙)

 

2幕は,ディノの財産を手にして,クラブで遊興にむけるルカとラナのシーンから・・・。いやはや,罪の意識に苛まれたりして,ルカはますます情けない男になっていました。いや,それはそれで当然のコトかもしれませんが,でもねー・・・。
うーん,結局,カルメンではなくソロル的な「魔性の男」なのね,この人は。抗えない魅力があるというよりは,なんだってこんな男に惚れるんだか・・・とハタで見ていると不思議なのに,なぜか女に(この場合,男にも)恵まれる,というタイプなんでしょうねえ。
血だらけのディノの亡霊が現れて,ルカと踊るシーンが不気味かつユーモラスで見応えがありました。アンブラー見事♪

なお,クラブで意味不明のモダンダンスがあったのですが,どうやらマーサ・グラハムのパロディーらしいです。そう聞いてもどこがグラハム風だったのかよく分からない私・・・ということもあるのですが,日本で今上演するのにグラハムって適切なのかなー? と思いました。
まあ,アメリカのクラブだからグラハムなのでしょうが,もし私が招聘元だったら,(同時に日本公演中の)ベジャールのパロディーに替えるようにボーンに提案したけどなー。(笑)

一方のアンジェロは,刑務所で悲惨な生活を送っています。
その苦しみを表す手錠につながれてのソロは,うーん,これは,ちょっと物足りなかったかな。ピタのアンジェロは,全体としてとてもよかったとは思うのですが,このダンスはもうちょっと踊れるダンサーに・・・って,アダム・クーパーみたいなバレエダンサーを期待してはいかんということですかね?
続いて面会に来たリタと話すうちにこちらにもディノの亡霊が現れ,錯乱・・・暴力的になってしまって,リタは涙しながら帰っていく。リタっていいコよねえ。これは間違いなくミカエラだなー,と切なくて暖かい気持ちになるのでした。

そして,独房に戻されたアンジェロは看守にレイプされるのですが・・・正直言って,期待していたほど衝撃的ではなかったです。「あら,これだけ?」なんて思ってしまった・・・。(←いったい何を期待していたのか??)
さて,次は,プログラムによると「看守の拳銃を奪って脱獄」ということで,何か非常に積極的(?)な印象を受けるのですが,これもルカ+ラナのディノ殺し同様偶然の要素が強かったようで,看守を振り払ったら打ち所が悪くて死んでしまったような印象。いや,看守殺しだからむしろ重大事ですし,その後看守の上着と帽子で変装し,拳銃を奪って脱獄するわけなので,そのとおりではあるのですが・・・この辺りで,事前に予習するのがいいんだか悪いんだか・・・という気分に段々なってきました。おおまかな人間関係を知っておく程度のほうがよかったかもしれないですねえ。(でも,私は必ず始まる前にプログラムを読む習慣だしなー)

その後,二人の間にディノ殺しの暗い影が差すのを何とかしようとラナは努力するがルカはなんともしょうがないとか,リタのもとに脱獄したアンジェロが現れるとか,工員たちは暴走族のようなコトをやっているといったようなシーンがあって,アンジェロがラナを拳銃で脅しつつ登場。

ルカとアンジェロの殴り合いになって,アンジェロはかつての弱虫の彼ではない。(ルカもかつての男っぽい彼ではないのかも) 勝ったのはアンジェロ。しかし,最後の瞬間,アンジェロはルカに接吻を・・・
というコトにプログラムではなっているのですが,ううむ・・・イマイチと言いましょうか,「最後の瞬間=アンジェロがルカを殺せる瞬間」というまでの切迫感とかアンジェロのそれでも抑えがたい恋情までは感じられなかったです。演出のせいなのか,二人の演技のせいなのか,予習によるこちらの期待しすぎなのか・・・?

ルカはアンジェロの銃を奪い彼を狙います。銃声・・・倒れたのはルカ,撃ったのはラナ・・・。
ラナはルカに嫌気が差していたのでしょうねえ。最初は夫にもほかの覇気のない工員たちにもない男性的魅力に惹かれたのでしょうが,結局,情けない男だったんだもんね,そりゃイヤになっちゃうよねー。(だからといって殺すか?という気もしないではないが・・・)

ルカは男たちによって舞台の外へと運び出され,リタは放心状態のアンジェロとラナを優しく椅子へすわらせます。スコップを手に戻ってきた男たちがリタに向かって頷き,ルカの死体を始末して町は彼が現れる前の状態に戻っただけ・・・ということを暗示します。頷いたリタが,落ち着き払って,シャッターについた血をかいがいしく拭き取るシーンで舞台は終わりました。
きゃー,コワイ。そういう血腥いコトに全く縁のなさそうだった「ミカエラ」リタが・・・うーん,これは意表を突かれたわ・・・。最後の最後まで仕掛けてくれちゃって,ボーンってすごい・・・と感嘆しました。
ただ,あの・・・アンジェロは最初は冤罪だったからそれは置いておくとしても,看守殺しと脱獄のほうはどう始末をつけるのでしょうかね???

 

全体としては,バレエやダンスの公演というよりは,歌(と台詞)のないミュージカルの趣。期待したほど刺激的ではなかったけれど,わかりやすくスピーディーな演出で,楽しめる公演でした。
客席の入りはちょっと淋しかったけれど,公演数の多さからすると,立派なものかもしれません。(劇団四季その他のミュージカルの動員力からすると,ちょっと解せないような気もするけれど,バレエ公演と比べれば立派なものですものね。)

(02.5.5)

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